表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
外伝 どのページにもない話
154/159

フィカスの話



 ナっちゃんは、よくわからない。



 あの日、雪国の宿で再会した時。

 あまりにも寂しそうに笑う姿を見た瞬間、気が付けばゴーグルを外していた。

 意味は伝わらなかった。

 半分はよかったと思ったし、半分は残念だと思った。


 あんな風に、衝動的に、後先も考えず、何かを手元に置いておきたいと思ったのは、初めてだった。

 初めて過ぎて、気持ちを持て余す。

 これは、どうすればいいのか。


 おそらく、ナっちゃんの方も、俺に対しては、よくわからない、という気持ちを抱いていると思う。

 それはそうだろう。

 たまに衝動的に引き寄せた後、我に返ったように、やんわりと距離を取ることを、俺は繰り返してきたのだから。

 俺がナっちゃんの立場だったとしても、一体相手が何をやりたいのかと、戸惑っていただろう。

 しかし、他の接し方がよくわからない。


 いや、わかっていることは、ひとつある。

 ルグレイが、ずるい、ということだ。


 アイツがさらっとナっちゃんに触りまくっているのを、見逃してやる気はない。

 ナっちゃんは、普段から特に何も考えずに行動をするタイプだ。

 だから、手を広げられると、特に何も考えずに、そこに納まりに行く。

 昔からそうなのか、とルグレイに聞いたところ、「とんでもない!」という返事が返ってきた。

 「昔はほとんど触れてきませんでしたから、その分を取り戻すくらいの気持ちで、今はたくさん触るようにしているんです」と言いながら、にこにこと笑っていた。


 くそっ、ずるいやつだ。

 いや、こんな風に考える俺も、思春期かと突っ込みたくなる。

 何万と居る国民には対応できるのに、たった一人の女にはどうしてこんなにも対応できないのか。

 俺は何でもソツなくこなすし、王の道を行くことに迷いはない。

 この世に苦手とするものなどないはずなのに、何故こうなるのか。


 心を落ち着けるために、アンタローを撫でてやる。

 ナっちゃんがアンタローと風呂に入っていると知った時は衝撃だった。

 ナっちゃんはアンタローに構いすぎだ。

 不公平すら感じる。

 ………。

 今、アンタローの匂いを嗅げば、ナっちゃんの残り香が香るのだろうか?


 変態じゃないか!

 おかしい、こんなはずじゃなかった。

 そもそも俺のイメージと違いすぎる。

 俺はフィカスラータ・ニヴォゼ。

 王であるこの俺が、このような些末なことに心を砕くこと自体、そもそも間違っている。


 大体、何故ナっちゃんなんだ?

 ナっちゃんは言動が計り知れない、ただの変な女じゃないか。

 ハイドの方が可愛げがある、と思う時もあるくらいなのに。

 ただ、自分から危ない方向へ突っ込んでいくところがあるからな。

 目が離せないだけだ。


 ナっちゃんは、儚く見える時もあれば、誰よりも豪胆に見える時もある。

 しばらく付き合ってみて、やっとそのからくりが判明した。

 ナっちゃんは、俺たちが傍にいるから、強く居られるのだ…と。

 思えば、ハイドを助けた時も、ルグレイの兄に打ち勝った時も、自分のために戦ったわけではなかった。

 そして、俺たちの支えがあるからこそ、その山を乗り越えることができる。


 ナっちゃんのことは、よくマグと話し合う。

 ナっちゃんは長い幽閉生活で、他者からほとんど必要とされなかった自己に対する認識が薄く、そのために存在理由を他者に求める傾向があるのではないか、という結論になった。


 つまり、俺たちが居なければ、ナっちゃんはとうの昔に折れていた、ということだ。

 本来は、臆病で虚弱なフェザールの娘に過ぎないのだから。

 そんな娘を、放っておけるわけがない。

 いつも傍で支えてやりたい、と思ってしまうのは、自然な成り行きだ。

 そう、俺はフィカスラータ・ニヴォゼ。

 こういった事情を知っていて、放っておくことは、俺の王道に反する。


 ………。

 ラズベリー・ニヴォゼ、ならそんなに不自然はないような気がするな。

 ナツナ・ニヴォゼも、耳慣れてくれば案外いけそうではある。

 ……思春期か!!!?

 ダメだな、空き時間があると、このようなことにばかり思考が割かれているような気がする。

 嘆かわしいことだ。

 やはり俺は、考える暇がないほど忙しくしているほうが性に合っているらしい。


 そもそも、この気持ちはナっちゃんにだけ注がれているのかどうかも怪しい。

 ユウもマグもアンタローもルグレイもハイドも、正直可愛くて仕方がないからな。

 ユウは危なっかしい。

 マグは頼れる。

 アンタローは撫でたい。

 ルグレイは、もうちょっと肩の力を抜けばいい。

 ハイドは、一人になりたがるところが心配だ。

 全員、毎日ドロドロに甘やかしてやりたいし、俺のすべてをかけて守ってやりたい。


 おそらく俺は、このニヴォゼ王室では、異端なのだろうと思う。

 あの父に、ここまで胸の内に溢れてくる愛情があるとも思えない。

 ティランだって、自分の気持ちを上手にコントロールしているように見える。

 きっと持て余すほどの情が、行き場を見つけて喜んでいるだけのことだ。


 今までの俺は、羅針盤のない船のようなものだったように思う。

 良く言えばどこにだって行けるが、悪く言えばどこにも行けない。

 だが、ついに、向かうべき場所を見つけることができた。

 それだけだ。

 そうだ、何も特別なことではない。



 ナっちゃんは、よくわからない。

 わからないから気になるし、手元に置いておきたい。

 それだけのことだ。

 …たぶん。…きっと。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ