ユウの話
ツナは怖い。
たぶん、うっかり足が当たって、蹴るような形になったとしても、ツナは大怪我をする。
ツナがまだ小さいときに、そう気づいた時の怖さといったらなかった。
俺はガサツな方だと思う。
だけど、それに気づいて以来、気をつけて生活するようになった。
俺は、すぐに頭がカーっとなって、怒ってしまうタイプだ。
ツナ自身に対して、声を荒げたことはない。
だけど、ツナは肩を跳ね上げて、この世の終わりが来たかのような表情で怯える。
自分は、あまり物事を深刻にとらえない方だと思う。
だけど、ツナに関しては…。
本当は、俺が傍に居ない方がいいんじゃないかと、思い悩むときがある。
でも、どうしても、離れられない。
また、あの夢を見た。
自分が別の誰かの人生をなぞる夢。
この夢を見るときは、自分がユーレタイドだと認識できなくなる。
何年もかけて、呪いが、俺から俺を奪っていくように感じる。
本当に歪んだ呪いだ。
ガバリと跳ね起きる。
朝だ。
汗をびっしょりとかいていた。
さっきまで、あんなに鮮明な夢を見ていたと思っていたのに、今はもう、ぐにゃぐにゃとした何かを見ていた、という認識しか持てない。
自分は…なんだったっけ。
ふと周囲を見渡すと、周りでは誰かが寝ている。
マグと…ツナだ。
それから、アンタロー。
それを認識した瞬間に、自分はユーレタイドだと思い出す。
この寝顔に、何回救われてきただろう。
ルケーチは、平和な村だった。
小さい村でもあるので、盗みなんて絶対に起こらない。
すぐに足がつくからだ。
だけど、俺の母親は、出かける時に家に鍵をかける。
「犯罪っていうのは、させないことが大事なんだよ。お前だって、テーブルの上に『食べちゃダメ』と書かれたメモとジャーキーが乗っていたら、つまみ食いをしたくなる誘惑にかられるだろう? そんな風に、鍵がかかっていない家、なんてものがあったら、誘惑されてしまう人が出てしまうからね。防犯というものは、相手のためにもなるんだよ」
そう言って、何度も鍵がかかっているかの確認をしてから出て行く。
「あれって変だよなー、なんで3回も4回も確認するんだろうな? 1回で事足りるのに」
一度、マグに、世間話のようにそう言ったことがある。
「それは、確認行為……というものだ。ひどいものになると……強迫性障害……という症状で呼ばれることがある。強迫観念を覚えるんだそうだ……」
「へええ…」
マグは、いつもどこでそういう言葉を覚えてくるんだろう、っていうくらい、色々なことを知っていて、面白い。
聞いたらすぐ答えてくれるから、歩く辞書みたいなやつだと思っている。
「けどそれって、ビクついてるってことだよな、ダッセーの!」
ガキの頃の俺は、そう言ってそれを笑い飛ばした。
左手で、ペタペタと顔を触る。
自分は、ユーレタイドだ。
これは……。
これは、確認行為、じゃないのだろうか?
毎日毎日、失われていない自分を確認する。
ツナとマグを通して、自分が自分であることに安心する。
ツナが3年間の眠りについたとき、マグを見ているのが辛かった。
日に日に衰弱していくのが心配だった…というのは、半分の理由だ。
もう半分は、マグの必死さが辛かった。
俺はひょっとして、薄情なんじゃないか…と思ったからだ。
起こってしまったことは仕方がない。
ツナが目を覚ました時に、万全の状態になるための行動をするだけだ、と、俺は割り切れていた。
俺には、悲しい、がわからないから、こんな風に思うのだろうか?
そう思うと、マグを優しく注意することなんてできなかった。
ほとんどケンカになりかけたくらいの乱暴さで、マグにきちんと休養を取るようにと言っていた。
俺は、まだまだガキだった。
たぶん、マグがいつも通りだったら、そもそも俺を怒らせるような真似を、マグはやらないのに。
それも、自分のためじゃなく、俺のために。
やっぱりツナの傍にいるのは、マグがいい。
何度もそう思うのだが、離れられない。
ツナは怖い。
脆すぎて怖い。
だけど、本当に脆いのは、どちらなんだろうか。
それに気づいたとき、自嘲気味に笑った。
ツナから離れられないのは、呪いのせいなんだろうか。
じゃあ、もし、呪いが解けて、それでもツナから離れられないと思っていたら?
…その時は、何かがわかる気がする。
ただの、勘だけど。




