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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
終章 昨日、今日、そして明日
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違わない物語



 私は、九死に一生を得たらしい。


 臨死体験とかした気がする。


 記憶も一瞬混乱していて、私は自分が17歳だと思っていたくらいだ。

 左手を見ると、手首には入院患者用の識別バーコードが巻かれている。

 ……。

 なにか、もっと、別のものが、ここに巻かれていたような気がするんだけど、それも思い出せない。


 お医者さんが、あばらの3本くらいにヒビが入ってるとか、胃の洗浄をしたとかどうのと説明してくれるのだが、私は痛い話がめちゃくちゃ苦手なので、半分くらい聞き流してしまった。


 しかし、入院着に着替えている時、胸のあたりにうっすらと、赤い、四角いような跡があって、(なんだろうこれ?)と、じっと眺めてしまった。


 ちょうど血圧を測りに来た看護師さんがそれを見て、説明をしてくれた。


「心肺蘇生が必要と判断されて、救急車の中で電気ショックを受けたらしいですよ」


 電気…。

 その言葉を聞いて、なぜか、ぱっと牢屋のような鉄格子のある光景が、脳裏に浮かんだ。

 どうしてなのか、そこは、船の中だな、と思った。


「…ああ! それで、牢屋の中で電気刑を受けた夢を見たんですね!」


 私がそう言うと、看護師さんはちょっと笑った。


「刑を受けたのなら、罪は雪がれましたね」


「! そうですね…!!」


 たまに、こういう、ステキなことを言う人って、居るよね。

 印象深いのは、図書カードを使って、本屋で買い物をした時。

 本の値段と、カードの残高の値段が、ぴったり一致したことがあった。


「すごい、初めて見ました、今日は絶対いいことありますね!」


 そう言って、店員のおばさんは笑ってくれた。

 こういう、ステキなことをぱっと言える人になりたいなあ、と心底思ったものだ。


 いやあ、一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなってよかった。

 目が覚めた直後は、全員麻酔の影響か何かなのか、全然意味がわからないままに虹色の漢文が周囲に漂っているのが見えて、こりゃヤバいなと思ったものだ…。



 数日後、私が助けた(?)小学生の子のお母さんが、菓子折りを持ってきてくれた。

 私は、「ありがとうございます、ですがもう忘れてください」と真剣にお願いした。

 だって、かっこ悪すぎる…。

 これで私もスムーズに無事だったらよかったのに…!!

 いや、私以外の人が同じ感じだったら、絶対もう警視総監賞とか授与されてくださいよとか思う。

 でも私は、一日も早く忘れたい。

 死に場所を求めて、その子を利用しようとした罪悪感もある。

 未遂に終わってよかったけど…。


 スマホの情報を精査されたのか、救急車によって運び込まれたのは、私が受診している病院だった。

 そして、当然のように、検査結果は悪かった。


 ところが、お医者さんは、驚くべきことを言った。


「これ以上悪くなったとしても、いい薬が出てきています。2年前に出た新薬なので、かなりの慎重投与が必要なんですけどね」


 治療薬ではなく、対処療法とはいえ、私の難病は、10年前は、薬のくの字もなかった。

 医学の進歩は日進月歩というのは本当らしい。

 そういえば、昔の資料では、無菌室にはモノを一切持ち込んではダメって書いてあったから、かなり覚悟していたんだけど、最近は感染のメカニズムがわかってきたからということで、ゲームとかを持って入ってもよくなっていたんだよね。

 すごいなあ、医学…。


 その日の夜、何とはなしにネットをいじってみたら、なんと、どこかの大学の研究チームが、海外のチームと一緒に、私の難病の原因物質を発見した、という記事があった。

 原因がわかったばかりで、治療薬ができるかどうかの話は全く書いていなかったが、それでも、なんだろう…そういうことなんだな、と、思った。

 生きるって、そういうことなんだ。

 昨日までこの世になかったものが、今日出てくる。

 そういうことなんだ。


 ……。


 死ななくて、よかった。


 …なぜか、泣きたくなった。



-------------------------------------------



「ただいまーー」


 一人暮らしをしていると、独り言が多くなるというが、私は無理やり独り言をいうことにしている。

 使わないでいると、衰えるっていうし。


 やっと経過が良くなったので、私は退院して、普通の生活に戻ることになった。


 まだ長いこと住んでいるわけではないが、なんとなく、居場所に返ってくるのは落ち着く。


 荷物を置いて、着替えて、座って、一段落。

 冷蔵庫の中身を確認しなきゃ、とか、今日はゴミを出す日だっけ?とか。

 やらなきゃいけないことを一つ一つ確認して立ち上がった。


 頭の中は、やらなきゃいけないことの一つ目を意識しているはずなのに、何かが頭にひっかかる。

 

 『……ノナカ』


 私は、ぱちくりと瞬きをした。

 あれは、誰の声だろう。とても大切な…。

 どこへ行くでもなく、もやもやとした気持ちを抱えたまま、うろうろと所在なさげに部屋を歩く。

 そうしたら、なぜか私は、ダンボールの山の前にたどり着いていた。


 ごそごそと探る。

 10冊の、古いノートが出てきた。

 端っこが色あせているくらい古い。

 一度も読み返したことのない、書くだけ書いてスッキリしていた、小説ノート。

 だけど捨てられずに持ってきてしまった、私の小説。


 何故かはわからないが、私は無性にこれを読み返したくなっていた。

 忙しすぎて、このノートの存在すら忘れていた。

 何の感慨もないはずだ。

 なのに、ページをめくるのに、なんだか、勇気がいる。


 覚悟を決めて、ページを開く。


 うわ、字、汚っ!!


 最初に抱いた感想がそれだった。

 文字の払いとかを意識しすぎて、大袈裟になってて読みにくい、という字だ。


 なのに、読み飛ばせない。

 ぱら、ぱら、と、じっくりページをめくっていく。

 少しずつ、字が上手になって行っている。


 ……?


 読み進めるにつれて、なにか、違う……と感じた。


 何が違うのかはわからない。


 ユウとマグというキャラクターと、ナツナの、3人旅。


 崖の所では、ハイドという魔族の策略で、ユウとマグの二人が、それぞれ崖に掴まって、どちらかを選ばないと落とすぞ、と脅されていた。


 花守あづさという精霊が、フェザールの魔力を感知して、ナツナに接触をしてくる。


 フィカスが仲間になり、ルグレイが仲間になる。

 ハイドは死んでしまった。


 復活したジェルミナリアとの戦いは、あわや全滅するというところへ、クランとキツリフネが助けに入り、なんとか撃退できた。


 ぱらり、ぱらり、とページをめくる。


 フェザールの族長のところに挨拶に行くぞ、というところで、途中で書くのをやめていた。


 ………。


 もう一度、初めから読み返す。


 違う、と感じる。


 あと一人、誰か…居たような気がするのに。

 記憶違いと言ったら、そこまでなんだけど…。


(ボクを形作る『存在魔法』のすべてを使って……)


 頭の中に、そんな言葉が浮かんだ。


 足りない…。

 どうしても、足りない…。

 でも、何が足りないか、わからない…。

 そもそも、誰かが死ぬような話だっただろうか?

 そんな、もどかしい気持ちのまま、一度ノートを閉じようとした。


 と、10冊目のノートの後ろの方のぺージに、たくさん文字が書かれているのを見つける。


 そうか、一時期、設定だけを書き連ねていたんだっけ。


 ざっと目を通していく。


 あるページで、ぴたりとめくる指が止まった。



===========================================


【ニヴォゼのしきたり】


 ニヴォゼの国王は、暗殺を警戒し、影武者を立てやすくするために、顔を隠す風習がある。

 最初はお面などのきちんとしたものだったが、年代を重ねるにつれ、一部分でも隠れていればいい、などに緩和されていった。

 ただ、心を許す、という意味で、素顔を見せることは、求婚行為となる、という風習だけは、絶えず受け継がれている。


―――――――――――


【ルケーチのしきたり】


 ルケーチ村には、カラーアイビーの丘がある。

 そのあまりの美しさから、そこは男女が愛を語り合う場所とされている。

 長い年月をかけて、カラーアイビーで編んだ組み紐を異性に贈ることが、求婚行為として村に伝わるようになったのは、自然な流れであった。


===========================================



 バサッとノートが手から滑り落ちる。


 私は、泣いていた。


 口元に手を当てて、嗚咽をこらえる。


「……なんだ……ちゃんと、モテモテ…だったんじゃない……っ。わかりづら過ぎるよ、この世界…!!!!」


 その場にへたり込んで、泣きじゃくる。

 だけどそれは、この間みたいな、絶望からくる涙じゃなかった。



 恥ずかしさで死んじゃう、と何度思ったかしらない。

 なのに、私を生かしたのは、この世界だった。


 大丈夫、生きていける。

 だって私には、もう、私の中の神様の形が、わかっているから。

 難しいかもしれないが、彼にきちんと顔向けできるような、正しい生き方をしていこう。

 枯れない花のような、永遠の世界。

 頑張って生きたら、きっと、終わりの時に、彼がまた来て、あの世界に導いてくれる未来もあるかもしれない。

 だって、彼の役割は、『案内役』なのだから。

 そう思った。




 次の日、私は、趣味の文房具屋めぐりを、久しぶりにおこなった。


 そして、10冊セットのノートを買ってくる。


 それを何に使うかは、とっくの昔に決まっている。


 違わない、物語を、書こう。


 そして、続きも。


 生涯をかけて、あの世界を守っていこう。




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