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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
終章 昨日、今日、そして明日
146/159

世界の終わり



「ぷいぃっ、今、テルミドールが、消滅しました」


 ………。

 テルミドールは、ユウとマグと一緒に、初めて訪れた街だ。


 私以外の全員が、ハテナを浮かべてアンタローを見ている。

 「どういう意味だ?」とか、「それが何だっていうのさ?」とか、アンタローは質問攻めにあっている。


 私は、頭の中が真っ白になっていた。


 どうして?

 だって、ここから、フェザールの集落に行ったり、ユウとマグの故郷を訪れたり…。

 そうだ、結局ヴァントーゼとか、まだ行ってないんだよね。

 ボイセンお爺さまに会いに行ったりとか…。

 まだまだ、まだまだまだ、行くところがたくさんあるよ。


 そうだ、それでも足りなければ、たくさん、ストーリー考えるよ!

 敵だって、怖いけど、必要なら、いっぱい、いっぱい…!!


 表面上では物凄くたくさんそういう考え事をしながら、だけど、心の底の方では、気づいていた。

 途中で書くのをやめるって、そういうことだ。

 たくさんの物語を、最後まで導くことができない。

 いろんなことが、物が、放り出される。


「時間切れ、なんですっ」


 アンタローは、マイペースに、告げるべきことを告げていく。

 マグは、首をかしいだ。


「時間切れ……?」


「はい。ボクはたった今、自分の役目を、思い出しました。ボクの役割は、案内役、だったんです」


 みんな、困惑の方が濃くて、相槌も返せず、アンタローの言葉を聞いている。


「ボクを生み出した、創造神アルフリート様は、こう言われました。『今、この世界には、創造神が二人いるという、未曽有の危機が訪れている』と」


「!」


 創造神、アルフリート。

 そうか、私は、世界設定を作る時、創造神をも作り出していた。

 じゃあ、ページを戻していたのは、そのアルフリートという人…?


「この世界は、ここまでなんです。ここから先は、ありません。ですから、アルフリート様は、いつもいつも、最初に戻して、最初から、何度も何度も繰り返してきていました。ですが、この周回だけは、いつもと違いました。創造神が、二人いるのです。アルフリート様は。正しい道筋から外れないように、ボクを創り出し、配置しました」


 アンタローは、ぴょこんと跳ねた。


「ボクは神々しいキラキラなので、道行く人の半数以上は、きっと光属性の精霊だなって思うに違いありません! ですが、ボクに属性はありません。属性のない精霊は、本当は、この世界には存在しないのです。神の書に、そう書いてありますから。ボクは、本当は、居ない子なんです」


「そんな……」


 そんな、と呟きながら、私には一つだけ、思い当たる節がある。

 アンタローの名前がわからなかったとき。

 あの時私は、アンタローの名前の書かれたページを、魔法で読んだ。

 その時、出てきた文字は、『粒漏れ餡太郎』と書かれた、達筆な文字だった。

 私は、絵も下手だが、字も下手だ。

 あれは、私の字じゃない。


「結局、二人目の創造神は、この世界を、何度か、正しい道筋から外れたものに変えてしまいました。ですから、この世界は、バラバラに壊れてしまう、という結末を迎えることになりました」


 アンタローがそう言うと、アンタローの背後に、翼の彫刻を施された、白い扉が、スーっと浮かび上がってきた。


「ですが、大丈夫です! アルフリート様は、やり直しのチャンスをちゃんと用意してくれましたっ。破壊の後に、創造が始まるんですっ。この扉を開けたら、みんなでまた一緒に暮らせる、幸せな世界が用意されています。ですから、ツナさんをこの扉に案内するのが、ボクの役割なんです! ボクはまた、ご一緒できますよ!」


 アンタローは、もう一度、ぴょこんと跳ねた。

 ぴょんぴょんぴょん、と右に3歩。

 ぴょんぴょんぴょん、と左に3歩。


 …まるで、何か、悩んでいるようだった。

 だけど、私たちは、この場で何か喋る言葉を、何も持っていなかった。

 談義するべきこともない。

 戸惑いとともに、いきなり突き付けられたことを、懸命に飲み込もうとしていた。


 やがて、アンタローは、怖がるようにぎゅっと目をつむって、プルプルと震え始めた。

 そして、何かを言いたそうに、二度、三度と口を開く。

 もろろっ、と魔力の粒がこぼれた。


 何度かそれを繰り返した後、アンタローは、意を決して、私を見上げる。


「でもそれは、表向きのことなんです! 本当は、ツナさんは、選べるんです! 『みんなと過ごせる幸せな生活』か、『残酷な真実』かの、どちらか一方を、選ぶことができるんです!」


「え……?」


 その瞬間。


   ビシイ―――ッ!!


 いきなり空に亀裂が走った。


 亀裂の入った空は、世界の端っこのような、真っ暗な空間をのぞかせている。

 本当に、世界が終わるかのような光景だった。


   ビシャアアアアアンッ!!!


 そして、何の前触れもなく、空から雷が落ちた。


「アンタロー!!!」


 ユウが、脊髄反射のように飛び出していた。


 私が目を向けた時には、ユウはアンタローを抱えて前転していて、服の端は焦げていた。

 アンタローが先程まで居た場所には、容赦なく、雷が落ちた跡がある。


 アンタローは、ユウの腕の中で、プルプルと震えていた。


「まさか、アンタローを狙ったのか…?」


 フィカスが、茫然と空を見上げている。


「そんな…! そんな、超常的な存在に、どう対抗すれば…!? いえ、そもそも、対抗…するべきことなのでしょうか…?」


 ルグレイも混乱しているようだ。


「ど、どういうこと? アンタローを消そうとしたの?」


「ツナ、落ち着け……」


 マグは、こんな時でも冷静で、優しく私の肩に手を置いた。


「オレにはこう見えた。アンタローが都合の悪いことを言い出したから・制裁を加えようとした……とな」


「同感だね。けれどそうなると、ナっちゃんに『残酷な真実』の存在を知られたくなかったってことになる。字面はひどく選びたくないものに感じるけれど……。くそっ、まさか、神が相手になる日が来るとはな」


 ハイドが、空を睨みながら、舌打ちをした。


「そ、それは、違いますっ、アルフリート様は、優しい方ですっ。ツナさんに怖いことが降りかからないように、安らぎの未来を用意したいだけなんですっ」


 アンタローは、プルプルしながらそう言った。


 ユウは、考え込むような顔を続けたまま、腕の中の震えるアンタローに、優しく声をかけた。


「…なあ、アンタロー。どんなことがあっても俺が守るから、聞かせてくれ。その『残酷な真実』をツナが選んだとしたら、どういう段取りになるんだ…?」


「ぷ、ぷいい…っ。ボクの力で、時間稼ぎをしますっ。ツナさんと、あと2人だけ、その時間稼ぎの空間に送れますっ」


 アンタローの返答は、要領を得ない印象でしかない内容だった。


「ま、待って! 2人だけって…それじゃ、わたしがそっちを選んだら、みんなと一緒に居る時間は、過ごせなくなってしまうってことだよね? だったら、あの白い扉の方を選ぶに決まってるよ!! お別れなんてしたくないよ!!」


 シンと場が静まりかえった。

 無理もない、だって、誰も、何が起こってるか、把握できていないのだから。


 空を雷雲が覆い始めた。

 雷が落ちた後に雲が広がるなんて、まるであべこべだ。


「あの白い扉を選んだら、また、みんなで、冒険ができるってことだよね? わたし、離れたくないよ! あ…また最初からだったら、離れることになっちゃうのかな…。で、でもでも、強くてニューゲームみたいなものだし! 今度は、間違えないよ! そうだ、この先の展開だって、作ってみせるよ! だってわたし、創造魔法が使えるんだもの!! 次は、もっともっと魔力を育てて、それで、それで…!!」


 反論の隙間を与えないように、必死にまくし立てる。

 縋り付くような物言いになってしまった。


 みんな、じっと白い扉の方を見る。


 それぞれが、思い思いの時間を思考に費やした後、…ユウだけが、首を振った。


「…ダメだ」


 私は、驚いてユウを見た。


「昨日から、ずっと考えてた。俺は、何か、探し物をしてた気がする。まだ、見つけてない。そんで、それは、あの扉の向こうには、無い…気がする」


「気がするって…!!! そんな不確かなことが、みんなと一緒に居る時間よりも、大事なことなの!?」


「……大事だ」


 ユウの表情は、真剣だった。


「大事に決まってる。だって、この中で、それを覚えてるのは、俺だけみたいだからな。みんな頭いいし、考え事もたくさんあって、だから忘れちまったんじゃねーかな。俺は単純だし、頭を使うことは苦手だから、ずっと、心の奥の方に、残ってた。俺が生まれた理由は、それを見つけるためにあるんじゃねーかなって、そう思う」


「ユウ…?」


 ユウが、わからない。

 ここにきて、こんなにも…。


 ユウとは、この世界のシステムの外で交流してきた気さえしているのに。

 手紙を渡した時と、果物ナイフで刺した時の、2回。

 あの交流が、どれだけ私の救いになっていたか…。

 なのに、今、ユウのことがわからない。


 私は、困ったようにマグを見た。


 マグは、同じように困ったような顔をして、首を振った。


「ツナ。オレはずっと言ってきていたな。『いつか自分で超えるべき壁がある』・『ツナの傍にずっと居られるわけじゃない』・『いつか自分一人で決めたり・立ち向かわなければならない時が来る』……。今が、その時だ」


「どうして…!!」


 マグに突き放されたような気持ちになって、ショックで責めるような言い方をしてしまった。


「理由は、ツナが、ツナであり、オレが、オレだからだ。ツナは、よく言えば素直だが・悪く言えば流されやすい。オレは、ツナがその扉を開けるようにも・開けないようにも・誘導することができてしまう。だから、何も言ってはいけないんだ……」


 マグは、こぶしを握り締めた。

 ルグレイが、すっと前に出る。


「姫様…。おれも、姫様が選ぶべきことだと思います。そして、どちらを選ばれても、文句はありません。おれは、あなたの騎士なのですから。どこまでも、お供します。いえ、お供できなくなっても、心は一緒です。初めて姫様に出会った、あの日から。おれはずっと、姫様と繋がっています」


「ルグレイ…」


 私は、救いを求めるように、フィカスの方を見た。

 フィカスは、頭を掻く。


「…俺にとって大事なのは、それがナっちゃんのためになるかどうかという、その一点だけだ。だが、どちらがナっちゃんのためになるのかは、ナっちゃん本人にしかわからない。誰も、誰かの代わりになれないのだから。酷な話だが、決めるのは、ナっちゃんだ。まあ、本音を言わせてもらうなら、……代わってやりたいよ。アンタを困らせる全てから、守ってやりたい。だが、できない。だからせめて、ナっちゃんがどちらを選んでも、必ず受け入れることだけは、約束しよう」


 ……。

 ハイドの方を、見た。

 ハイドは、いつも通り、空中に腰かけるような姿勢で、いつも通りの表情をしている。


「ま、後悔しない方でいいんじゃない?」


 ハイドは、それだけを言った。

 それがすべてだと言わんばかりに。


「ぷいっ」


 アンタローが、ユウの腕の中から、また地面に降り立った。


「今、メッシドールが、消滅しました」


 ……。

 ずっと、悩んでばかりは、居られない…ってことだ。


 メッシドールは、港町で、工芸祭りとかがあって…フィカスと初めて出会った場所だ。


 この思い出が消えたわけじゃないのに、それでも何かが消えてしまったように感じる。

 胸が痛い。


 だけど、決めなくちゃダメだ。

 三つ目の選択肢は、どちらも選べないと言うこと。

 私たちは、無に消えてしまうのだろう。

 なんとなく、そう感じる。

 それだけは、避けないといけない。


 ポツン、と雨粒が頬に当たった。

 ニヴォゼには気候調節のフィールドが張られているので、雨は中まで入って来ないはずなのに。

 先程の雷でダメになったのだろうか。

 それとも、もう、世界がめちゃくちゃになって行っているのだろうか。

 サアサアと、雨が降り始める。


「無理だよ…! この中から2人選べってことと同義じゃない…!!」


「いや、その場合、ナっちゃんが選ぶ必要はない。最初から決まっているだろう」


 フィカスが、当然のことのように言った。

 ルグレイも、当たり前のようにうなずく。


「そうですね。大丈夫ですよ、姫様。ユウ様とマグ様との3人旅に、戻るだけです」


「ま、妥当だよね」


 ハイドまで、そう言った。


「………っ、~~~~っ!!」


 私は、いやいやをするように、首を振る。

 動きに合わせて、雨粒が飛び散った。


「みんな、どうして!! どうして、わたしだけワガママなの! みんなも、何か、言ってよ…! ああしたいこうしたいって、言ってよ…! どうしてそんなに大人みたいに受け入れられるの!? 一緒に居られるかどうかは、そんな風に我慢ができるくらい、どうでもいいことだったの!? どうなったって一緒に居たいって思ってるのは、わたしだけなの!?」


 フィカスもルグレイもハイドも、それでも黙っていた。


「今、フリュクティドールが、消滅しました」


 アンタローは淡々と、カウントダウンをするかのように、そう言った。


 フリュクティドール…。

 鉱山を探索して、デューと初めて会った土地。

 ハイドに呪いをかけられて…。


「ツナ」


 ユウに名を呼ばれて、私はビクリと肩を跳ね上げた。

 聞きたくない。ユウの言葉だけは…。


「もういいよ! 選べばいいんだよね! みんな、恨みっこなしだよ…!! また、会おうね…!! ずっとずっと、一緒だからね…!!」


 私は、雨に濡れた顔を上げ、同じく雨に濡れているみんなの顔を見た。

 そして、白い扉に向けて走り出す。

 ユウは、止めに来るかと思ったが、微動だにしなかった。


 終わりたくない。

 終わりにしたくない。

 ずっと、この世界に、居させてほしい!


 走るにつれ、扉が近づいてきた。

 手を伸ばす。

 当たり前のようにドアノブがある。


「―――……、、」


 いきなり、私はピタリと動きをとめた。

 なぜなのかは、わからない。


 あと数センチ、手を伸ばせば、扉を開けられるのに。

 ずっと、ある言葉が、頭の中を駆け巡っていた。


 『後悔しない方でいいんじゃない?』


 ハイド……。


 そういえば、アンタローは、なんて言っていた?


 『二人目の創造神が、シナリオを変えたから、この世界はバラバラになる』……。


 つまり、私が、ハイドの生存を選んだから、こうなった…?


 それじゃあ、私がこの扉を選ぶと言うことは、ハイドを助けた未来を、否定するということ…?


 そして、正しく、ハイドが死ぬ世界を、選び直すということ…?


 私は、ハイドの方を振り返った。

 ハイドは「?」という顔をして、私を見返す。


 …だったら、私は、世界が滅びる結果になってしまったことを、後悔しているということ…?


 まさか!!


 後悔なんて、してるわけがない!


 たとえ世界が滅びるとわかっていたとしても、私は何度だってハイドを助けた。

 だって私は、先のことを考えられるほど、聡明じゃないもの…!!


 でも、じゃあ、どうすればいいの…!!?


 この白い扉は、開けられない。

 だけど、『絶対に選ばない』なんて、確固たる信念を持てるわけでもない。

 だって、みんなと一緒に居たいって気持ちは、全然変わらないのに…!


 ダメだ、このままじゃ、次は、フリメールが…。

 選ばなきゃ…。

 選ばずに、すべてが無に帰すことだけは、避けないと…でも…!


「うっ…、うううううううっ、うあああああ…っ!!」


 絞り出すような、汚い声になってしまった。

 ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしる。


 雨に紛れて、ぼろぼろと涙をこぼした。


 見かねたように、誰かが一歩前に出る。

 顔を上げると、それはフィカスだった。


「……もう、いいだろう。決まりだな。ナっちゃんは、その扉を選ばなかった。アンタロー、頼む」


「ダメ…っ、やめて…っ!!」


 首を振るう。

 だけど、できることは、それだけだった。



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