番外編・10冊目のノート3
【シーク】
本名、シークワーサー。
漂泊の吟遊詩人を名乗る、変わり者のエルフ。
彼が外の世界に出るきっかけとなったのは、妹のように可愛がっていた、幼い従妹の女の子が、魔族に攫われてしまったことだった。
長い旅路は、その子を諦めるための手段でもあった。
彼は、自分の寿命があと100日を切ったと感じた時、森の命の中へ還るために、手近な森へと身を寄せる。
そこで、奇妙な出会いがあった。
もう滅びたと噂されている魔族の少年が、リュートの音色に導かれるように、眠そうに目を擦りながら現れたのだ。
シークは運命的なものを感じ、一時的にその魔族の少年を保護することにした。
その時初めて、シークは自分の中に、魔族への憎しみが存在していないことを知った。
もう魔族は滅びてしまったと言われていることや、迂闊に人間の前に出るべきではないことを、優しくその少年へと伝え、木の実などを採っては、甲斐甲斐しく食事の世話をしてやる。
少年は、別にショックを受けた様子も見られず、ただ何もかもわかっているかのように、諦めたような相槌を返してくるだけだった。
シークが手慰みにリュートを爪弾くと、魔族の少年は、とても興味をひかれたように、じっと手元を見てくる。
「教えようか?」と問うてみるも、「ぼくは天才だからな、見ていれば覚えられるさ」と、つれない返事を返してくるだけ。
そんな奇妙な共同生活を一ヵ月ほど過ごした後、魔族の少年は、尊大にこう告げる。
「お前を、ぼくの友達と思ってやってもいい」と。
しかし寿命の近いシークは、その想いに応えることはできなかった。
シークはやんわりとその申し出を断り、魔族の少年に事情のすべてを告げ、自分のリュートを選別にと贈り、少年の前から姿を消した。
少年は、追ってくることもなく、最後に、諦めたような笑顔を浮かべているだけだった。
シークは、安堵していた。
あの少年が、自分に情を移す前に別れることができてよかった…と。
彼には、これからたくさんの出会いがあるだろう。
自分の存在は、その多くの記憶の底に埋まることができる。
それは、二度と掘り起こされることはないだろう。
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【第一王妃エメリーン】
クランとの出会いは、フェザールの集落の花畑にて。
花冠を作っていると、突然襲ってきた突風に、彼女の軽い体は飛ばされてしまった。
王位を継ぎ、初めてフェザールの集落を訪問していたクランは、物珍し気に散歩をしている途中だった。
風に飛ばされてきたエメリーンを、咄嗟にクランが手を掴んで助ける。
花弁が風に舞い散る中での出会いは、お互いの心を奪う演出には十分すぎるものだった。
フェザールである彼女には、弱い未来視の能力があった。
それは自分で制御できる力ではなく、ある日唐突に、ランダムな未来が見える、といったものだった。
クランと幸せな日々を過ごしていたある日、彼女は自分が死ぬ未来を見てしまった。
しかし、強いように見えて弱い夫を、一人で冷たい王室に残していくことはできない。
どうせ死ぬのであれば…。
それが、子を産むことを希望した、キッカケであった。
たとえそれが、第二王妃の憎しみを買う結果になるのだとしても。
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【ボイセンベリー・ジェルミナール】
クランの父。
ボイセンの代までは、複数の王妃を娶る決まりは廃れており、王位争いを避けるため、子も一人と決めていた。
たとえその子に何か不幸があったとしても、身体コントロールで若さを保つことができる王族は、かなり遅い年齢からも子を成すことが可能だったからだ。
しかしある日、クランが連れて来た花嫁は、フェザールの翼を有していた。
ボイセンに差別意識はなかったが、王家にフェザールの汚れた血が入ることを嫌う貴族たちの存在を案じ、結婚の条件として、魔力の高い家柄の第二王妃を娶ることを突き付けた。
今は地上でのんびりと暮らし、いつか孫の誰かが遊びに来ないものかと、ひそやかに期待している。
王家のゴタゴタは、もちろん知らされていない。
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【ジューンベリー・ジェルミナール】
他者に施しを与えるのが大好き。
そうすると、自分が相手よりも上の者であると実感できるから。
絵を描くのは趣味。
ある日、時間が空いたので、なんとなく、妹に絵本を描いてやった。
絵本と言っても、外の景色の模写のようなもので、ストーリーはない。
その絵本を妹に施してやると、その喜びようと言ったらなかった。
自分が、妹よりも上だと実感できて、とてもいい気分になれた。
その後、暇な時間に、きちんと絵本の勉強をした。
教訓とすべきストーリーをつけるのがいい、とされているので、いつか妹の縁組みを政略結婚に使う時のために、異性に興味を持たせる意味で、塔に閉じ込められた姫を助けに来る王子の絵本を描いた。
庶民に尽くしても、何の見返りも得られないという教訓を教えるために、青い鳥が、その羽を売って得た金銭で献身を尽くし、息絶えてしまう話を描いた。
ほとんど暇つぶしだったので、与えるだけ与えて、すぐに飽きてしまったが、ほんの少しだけ、それで妹が喜んでくれたらいいな…とは、思っていた。
なぜなら、自分は妹より、10歳もお姉ちゃんなのだから。
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【ブルーベリー・ジェルミナール】
極度の面倒くさがり。
そのため、強い感情を持ったことは一度もない。
自分から動くことをしたがらない彼が、一つだけ積極的にやり続けたことがある。
母エカテリーナや、半身であるジューンが、妹のラズに対して殺意を抱くたびに、「殺してしまうと魔力を搾取できなくなる」「それよりも自分たちが賢く利用する方がいい」と、さりげなくその衝動をそらすことだ。
その殺意が、一時的な感情であることを知っているために、難なくコントロールすることができた。
しかし、どうして自分がそうしたいのかを考えるのも面倒くさいので、何故そんなことをしてきたのかは、未だにわかっていない。
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【プロトタイプ・ジェルミナリア】
其は、抹神に至る過程であり、国一つに匹敵せしものなり。
複数の龍を用いて、造龍を成すも、多くの龍は、ないし、多くのフェザールは、負荷に耐えられず自壊せしめん。
やがて龍とフェザールの魔力均衡に気付きて、平均的な龍卵と想話能力の高い個体を組み合わせることに成功す。
其は、一つの大陸を海に消したのち、崩壊への道を歩むが、時の魔力を用いて、魂以外を固定するものとす。
我が子らよ。もしに備えよ。
我、バンクシア、子らの為に、其を海底へと残すものとする。
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【第二王妃エカテリーナ】
バンクシアの血を、最も色濃く継いだ娘。
たぐいまれなる能力と共にプライドまでも高く、ちょっとした衝突で、一族の者に秘密裏に呪いをかけるなどを行ってきていた。
そのため、もはやバンクシア家に残された血族は、エカテリーナとその二人の子のみとなる。
王室での日々は、王妃に選ばれなかった他の貴族の娘たちからの、嫉妬に当てられるものとなる。
双子が生まれると「畜生腹」と陰口をたたかれ、夫であるクランは第一王妃の元へ通い詰めていく毎日だ。
エカテリーナはプライドをもって、それらに耐えた。
そんな彼女の心の寄りどころは、先祖であるバンクシアが残した、バンクシア文書であった。
プロトタイプ・ジェルミナリア―――。
魂だけが空っぽのドラゴンに思いを馳せると、なぜだか彼女の心は落ち着いた。
完成し、封印された龍よりも、不完全な龍を思うと、救われたような気持ちになった。
しかし、第一王妃が懐妊したと聞き、エカテリーナの心の均衡は崩れる。
エカテリーナにとって、第一王妃は、自分から何もかもを奪って行く存在に見えた。
そこから、彼女の暴走は始まる。
やがて、牢にて、自害に至る前に、エカテリーナが思いを馳せたのは、プロトタイプ・ジェルミナリアという、甘美な存在であった。
暗号を紐解いたバンクシア文書は、暗記をするほどに覚えている。
そして、彼女は迷いなく、バンクシアの秘術を行った。
魂移し<たまうつし>の儀だ。
それが成功したのかどうかは、定かではない。
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【知略の魔王ルエリア】
魔族が好きだとは口が裂けても言えない世界の中で、実はルエリアの人気は、民衆の中でひっそりと高い。
彼について書かれた伝記が非常に多いためだろう。
それもそのはず、それらはすべてルエリア自身が書き記した著書だった。
ある書はユーモラスに、ある書は硬い文章に、と文体と筆跡を変えながら、不自然ではない冊数を、各地の図書館に置いていく。
最も苦労したのは、ナルシズムをいかに出さずにいるか、の一点だったという。
この行為における利点は二つある。
ルエリアは、影武者を立て、魔王にふさわしい凄絶な最期を遂げさせた。
その結末を流布させる意味で、勇者の英雄譚はとても利用しやすいものだった。
事実、この世の誰も、魔王の死を疑わずにいた。
二点目は、後世に伝わりやすいこと。
すべては未来に居る、ある人物に向けて書かれたメッセージであった。
晩年は、ある島の研究施設で過ごしたという。
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【モンスター・テラリウム】
▼プランクドン
半透明の生き物、拳くらいの大きさが中心で、大きいと仔犬くらいのものもいる。
獣や虫の死骸を食べて暮らしている。
複数の種類があり、プランクドンは総称。
▼ウォーキングウィード
足の生えた草。
足は根っこのように見え、スイスイと移動する。
日ざしの良い場所に集まって身を寄せ合って生きている。
水場にも表れる。
草の根っこに顔があり、顔の下に足がある。
つぶらな瞳を持っている。
▼シュリンプフィッシュ
エビの様な足がウロコの間から6本生えた魚。
足が生えていること以外は魚。
大きさは犬猫くらい。
プランクドンが主食
▼キャドッグ
犬と猫を足したような顔つきで、牙を持つ。
足が速く、狩猟が得意。
シュリンプフィッシュを好んで食べる。
人を食ったような動きをするし、ついでのように人を食べる。
▼アリゲーク
強靭な前足を持つ、固いうろこを持った蛇のような生き物。
口はワニのように大きく開き、かみついた後に丸呑みする。
足が速く、長い体を巻き付けて相手を絞め殺した後に呑み込むこともある。
▼グレートシュードテラノーバ
線虫の一種でミミズくらいの大きさ。
シュリンプフィッシュやアリゲークなど、ウロコを持つものの体に寄生する。
▼グレートピグレフィー
線虫の一種でミミズ程度の大きさ。
▼ステッピングクレオソート
背の低い木で黄色い花を咲かせる。
葉はやや厚めの蒲鉾状の形をしている。
ウォーキングウィード同様歩く。
独特な匂いが、シュードテラノーバやピグレフィーにとっては致命的。
シュリンプフィッシュがステッピングクレオソートの近くにいるときは、寄生されているときである。
木の肌を傷つけると出る樹液を動物たちは好んで舐める。
すると、寄生虫たちは死ぬ。
▼ボンビングクレオソート
ステッピングクレオソートのような見た目だが、
黄色い木の実を付けるのが特長。
似たような匂いを持ち、寄生された動物たちを引き寄せる。
動物たちが気を許した頃に、木の実を落とすと、木の実は途端にはじけ、動物を溶かす樹液をまき散らす。
浴びた動物は溶ける。その溶けた液体を糧としている。
▼ジャージーミノタウロス
ウォーキングウィードが主食。
▼クロゲワミノタウロス
ウォーキングウィードが主食。
ステピングクレオソートも食べる。
▼ブラックオーク
キャドッグやシュリンプフィッシュを食べる。
好戦的な種族。
▼グラトニーホーン
二本足で立つ、大きな毛むくじゃらで、足にはウロコがある。体の半分ほどまで開いた口が特長。
1本の鋭利な角を持ち、その角で相手を貫き、大口で食べる。
大口の上あごと下あごには、無数の歯が生えており、ひと噛みで相手の自由を奪う。
ふた噛みで相手の命を奪う。
島のすべてを食べる。
島において最強の生き物だが、プランクドンが苦手で、あれを踏むとバランスを保てず、頭を打って死ぬ。
そしてプランクドンに喰われる。
▼飛びペンギン
ペンギンの背中に羽根が生えている。
羽根だったはずの手は、手のように使われている。
主食はボンビングクレオソートの実。
まだはじける前の若い実は、栄養満点である。
▼ガーディアン・マンティス
葉緑体を有する、巨大なカマキリ。
島の生き物は口にせず、光合成をし続けている。
蓄えた力は、島の外から飛来する生き物に向けられる。
渡り鳥や泳ぎ渡った生き物、植物の種や漂着した人間、外敵すべてを斬り殺す。
獰猛な生き物。
▼アサシンエイプ
ジャージーミノタウロスやブラックオークといった二足歩行の生き物を主に主食としている。
石を削り、加工することでナイフのようなものを作る。
ナイフを握り、木の上から飛来し、首を切り裂いて仕留めた後、獲物を集落に持ち去る。
二足歩行ならば何でも食べる。
つまり、人すらもターゲット。
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【ゴンゾメル・パメル】
天界風邪と呼ばれる、ジェルミナールにだけある、ちょっとした病。
発見者の名前はゴンゾメル。
パメルとネルリの二種類の症状がある。
しりとりでパっと出てくる程度には有名。
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【精霊】
精霊は、必ず属性を持っている。
属性のない精霊は、存在しない。




