今後の話
私たちは、バンクシア家の地下を荒らすだけ荒らした後、スッキリした感じで城へと戻った。
「ではラズ、そなたたちは予定通り、休みを満喫するがよい。次に顔を合わせる時には、フェザールの集落訪問の日程を伝える。予定は空けておくようにな」
「は、はい…っ」
少しだけ緊張度合いがマシになってきている感じで、クランとお別れができるくらいにはなっていた。
だって、なんか…。
気のせいかもしれないけど、この人、ほんのちょっとだけ、子煩悩というか…親バカじゃない?
そう思ったら、少しだけ平気になってきた。
ユウたちみたいに、どっかが残念な感じって、安心する。
別にそういう人が好きとかいう性癖はないはずなんだけど…!!!
欠点みたいなものがある人って、人間味を感じて、ちょっと安心する。
「本当に、この量の魔石を貰ってしまっても構わぬのだな?」
クランは、手にした麻袋を一度見て、確認するようにフィカスの方に目を移した。
「ああ。魔族勇者からの贈り物だ。大事に使ってやってくれ」
「ハイド殿、感謝する」
クランは、ハイドにきっちりと頭を下げた。
ハイドは、それに対してどうすればいいかわからないようで、何も返せずにいた。
「しかし此度のトウキシで、ラズがフェザールよりも少しは頑丈であることが窺えて、安堵した。あれならば、ユウ殿たちと旅をするというのも不可能ではなさそうだ」
「ええ…? 俺からすりゃツナはかなり虚弱なんだが、フェザールってそんなにヤバいのか?」
「うむ。フェザールが臆病だというのは、何も性格上だけの話ではない。一定以上の衝撃を受けただけで、『死んだふり』をするような種族上の性質があってな。例えば今日、ユウ殿がラズを攫った場面などは、かなり肝を冷やした場面だ」
「げっ、フェザールってあれだけでアウトなのか!? うわああ、ツナが混血でよかった…!!」
ユウが、今知った事実に冷や冷やしている。
私の方は、なんだか納得してしまった。
それでちょっと衝撃を受けたり、頭にタンコブができたくらいで気絶とかしてたのか…。
「ではな、ラズ。壮健でな」
クランは、転送陣の発動を見送ってくれた。
「あ…はい、父さまも、あまり根を詰めないように、手抜きですよ、手抜き!」
クランはその言葉に、何とも言えないような表情を返していた。
地上に戻ると、転送陣に乗ったまま、全員でどっと息を吐いた。
「あーーっ、つっかれた…!! クランは遊ぶのも全力っつーかなんつーか…。前から思ってたけど、結構不器用だよなー。もうちょっと肩の力を抜きゃいいのにさ。昔のマグみたいだ」
まだボロボロの格好をしているユウは、ぐーっと伸びをする。
「思った以上に消耗をした感じは否めないが、まあ、楽しんでいたようだから、よしとしよう。あれでストレス発散になってくれるといいんだが」
フィカスの言葉に、ハイドは訝し気だ。
「魔法王のあれは楽しんでいたのか…? どうにも無表情だから、ぼくにはよくわからないな。一番からかい甲斐のないタイプだぜ。やっぱりぼくは、ナっちゃんの泣き顔が一番かなァ」
「泣いたら泣いたで困るくせにな……」
マグは生ぬるい目でハイドを見る。
ハイドは不機嫌な顔でマグを見返すと、「疲れたから寝る」と、久しぶりに私の影に入って行った。
「なんだ、ハイド、もう少し俺と話していけばいいのにな…。勝者の自慢話を聞く準備は万全だったというのに」
フィカスは残念そうだ。
「フィカスって、ホントにハイドのこと好きだよね?」
私が思わず言うと、フィカスは「なんだナっちゃん、妬いてくれたのか?」と、いつも通りな感じだ。
「まあ、好きか嫌いかで言うと、愛しいレベルだがな。日々、ナっちゃんたちによって牙が抜かれていくところが溜まらん。あとどのくらいですべての牙が抜けるのか、楽しみで仕方がないぞ。俺の手でも骨抜きにしてやれたなら…と思うと、ぞくぞくする」
そう言ってフィカスは舌なめずりする。
「……ツナがフィカスのことを・変態と言っていた意味が・ここにきてわかってきたな……」
マグが半眼でフィカスを眺めている。
私はハイドのことを、かつてドSで性格悪いって思ってたんだけど、ここにきてフィカスがナンバーワンな気配がしてきた。
ユウもちょっと引いてる。
まあ、ちょっと愛情表現が歪なだけだと思うんだけど…。
「ぷいぃっ、ボクの活躍、ちゃんと目に焼き付けましたか?」
アンタローは、マイペースにルグレイの頭の上で、自慢げにそればかり言っている。
ルグレイは嫌な顔一つせず、「はい」とか「もちろんです」と律儀に返事をしている。
この二人はこの二人で、良いコンビだなあ。
「……ツナ、本当なら今から晩飯の下準備を始めるところだが・少し話がある。みんなも……付き合ってくれるか?」
珍しく、マグがそんなことを言うものだから、私たちは驚きが先に来てしまった。
ルグレイは、「すぐにお茶を淹れてまいります!」と言って屋敷にダッシュしていく。
私たちは、先にリビングで、マグを囲むようにして、話を待つことにした。
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人数分のお茶を淹れたルグレイが席に着くと、マグは、一度全員の顔を見渡した。
「……改めて話すのも妙な感じだが。……次の冒険地の話だ。フロレアルという話だったが……」
マグが妙に言いづらそうにしているので、フィカスが助け舟を出すように、相槌を打つ。
「どこか、行きたいところがあると言うことか?」
「……ああ。オレは一度・自分の故郷に帰るべきだと思っている」
「!」
ユウが、驚きに目を見開いて、マグを凝視している。
マグは淡々と続ける。
「ルグレイが・自分の家族と決着をつけた頃から・オレは少しずつ・そうすべきなんじゃないかという思いが来ていた……」
ルグレイは、いきなり自分の名前が出るとは思ってなかったようで、静かに驚いていた。
「それに加えて・ツナもきちんと・自分の過去に向き合っていった……。別に、倣うべきだと思っているわけじゃない。ただ、キッカケ……を与えられたような・気持ちにはなった」
……私は、自分のことでいっぱいいっぱいで、マグがそんな風に思っていたなんて、気づきもしなかった。
家族失格だ…と、胸が痛んだ。
「まだ見ぬ大地への希望もあったが・結果的には・村から逃げ出すような気持ちもあったからな。今こそ向き合う時なんじゃないかと・オレは思った。そして、胸を張って・ツナたちの隣に居たい。……が、ユウはそれに付き合う必要はない。あくまで・オレの気持ちだ」
マグは、寝耳に水という表情のユウに視線を向けた。
ユウは、しばらく黙り込んだ後、首を振った。
「…いや、俺も行くよ。正直、怖い気持ちはある。多分、いろんな事が変わってるだろうからな。ヘレボラスさんは呪いでもう居なくなってて、俺とマグには、たぶん、弟か妹ができてる。そんで…。当たり前の話だけど、俺が居なくても、あの村は平然と時を重ねている。ただ…。このまま村に行かずに一生を過ごすのは、…違うと思う」
ユウは、一言一言を噛み締めるように言った。
「それに…。今なら、みんな一緒に来てくれるんだろ? だったら怖いだとか、カッコ悪いこと言ってらんねーよな。へへっ」
すぐにユウは、いつもの笑顔を取り戻す。
「ユウ様はお強いのですね。かっこ悪いと言いながら、わざわざ怖いと思っていることを口に出すなんて。恥ずかしながら、私にはできません。プライドが邪魔をしてしまって…。家族のことも、ギリギリまで隠してしまいましたし。私もその素直さを見習いたいものです」
ルグレイが、しみじみと感想を述べる。
「そうか? いいように取りすぎだろ」
ユウはそう言って笑った。
マグは、ユウを見て一度小さく笑みを浮かべた後、すぐにマジメな顔になる。
「だが…。ルケーチ村は・新しいことを嫌う。それ相応の理由を持って行かないと・受け入れてはもらえない。オレは両親に・大事な仲間ができた近況を・伝えることを理由にするつもりだったが……。クランに協力を求める必要はあるかもしれない」
「父さまに…?」
私が聞き返すと、マグは難しい顔で頷いた。
「ああ。『村人の呪いを解けるヤツを連れて来た』……という理由ならば・ツナたちを邪険に扱う者は一人もいないだろう」
「…なるほどな。もとより歓迎を受けるとは思っていなかったが、俺は王族だし、ナっちゃんとルグレイはジェルミナール人だからな…。万が一を考えると、そうなるか」
フィカスは腕を組んで悩んでいる。
(あのさ、白髪。それってあんまりじゃない?)
いきなり、頭の中に、ハイドの言葉が響いた。
全員が反応しているということは、みんなにも聞こえているのだろう。
「ハイド……どういう意味だ?」
(呪いのエキスパートであるこのぼくを飛び越えて、どうして魔法王に行くのさ?)
マグは、驚いたように一度瞬きをした。
「協力してくれる……ということか……?」
(ふふん、お前たちのあんなチャチな呪いなんて、ぼくにかかれば解くのは一瞬さ。大した手間じゃない。ぼくに頼れよ。魔法王なんて、部外者だろ?)
ちらっとフィカスを見ると、物凄くぞくぞくした顔をしている。
ハイドが影の中に居てよかった、あんなフィカスを見たらきっと気持ち悪がるだろう。
「でしたら、決まりですね。楽しみです、ユウ様とマグ様が育った土地なんて。やはり人を知るにはルーツから、ですよね」
ルグレイは、にこにこしながらそう言った。
なんだか、ルグレイはいつも通りなので、私たちもいつも通りで行けそうな感じがする。
…わかってて、いつも通りなのかな?
マグは、安堵のため息をつきながら、ソファーに深く凭れる。
「……助かる」
本当に、それだけを言った。
万感の思いを込めたかのような一言だった。
どれほどの覚悟で持ちかけた提案だったのかが伝わってくるようだった。
「マグ…」
思わず名を呼んでしまう。
まだ、全然解決したわけじゃないけど…。
それでも、ちょっと、じーんとしてしまう。
マグは、名を呼ばれたから、というわけではなく、こちらを向いた。
「ツナ…。もう、ツナには本当の保護者……というか、親が出てきたわけだからな。オレも、いつまでもツナの保護者気取りで・いるわけにはいかないのかもしれない」
「え……」
いきなりのことに、サーーっと血の気が引いていった。
前に、クランにも言われた言葉を思い出す。
…別に、マグに嫌われたわけじゃないとか、そういうのはわかる。
頭では、わかる。
だけど、まるで崖から突き落とされたような気分になってしまうのは、何故だろうか。
「お待ちください」
唐突に、ルグレイが珍しく口を挟んできた。
マグは、視線をルグレイに移す。
「マグ様、それではナツナ様が、御自分の意志で冒険者ギルドに行くことを許可されると言うことでしょうか?」
「絶対にダメだ。声をかけられるに決まっている」
「では、お一人で街を歩くのは?」
「却下だ。間違いなく攫われる」
ルグレイはそれを聞くと、にこにこしながら私の方を見た。
「では、今までと何も変わりませんね」
「! ルグレイ…!!」
ルグレイには、私の気持ちは丸わかりのようだった。
一気に、ほっとした。
マグも、それに気づいたのか、慌てたように言葉を足した。
「当然、何かが変わるわけじゃない。いや、変わるのかもしれないが……今はわからない。ただケジメとして・オレの方でそこを認識しなおす必要があっただけだ。ツナ、すまない。不安にさせたか……?」
「ううん、そんなことない…って、言いたいんだけど…。ちょっとだけ、いつか、それぞれに別の道ができて、お別れになることもあるのかなって……。それは、全然、悪いことじゃないんだけど…。まだ、わたしには、さみしくて…」
気持ちを隠し切れずに、うつむいた。
「そん時はそん時だろ。そん時に悩んだらいいことで、今から落ち込むのは勿体ないぜ、ツナ。今は毎日一緒に居るんだからさ」
ユウは、からっとした笑顔を向けてきた。
「ユウ…。…そうだね、ごめん。フィカスに熟女が待っているのだとしても、その時はその時だね」
「待てナっちゃん、どうしてそうなった…?」
フィカスが物申してきた。
「ごめんごめん、なんとなく王族のイメージで」
フィカスは、むすっとしたオーラを出すと、大袈裟にため息をついた。
「まったく、冗談を言う元気があるのなら、大丈夫そうだな。やはりナっちゃんは繊細なのか図太いのか、計り知れん…。だが、舐められっぱなしは性に合わんからな。ナっちゃん、罰として、今日は翼をブラシさせて貰おう」
「ええ!? ま、まって、わたし、今から、晩御飯の準備があるから…っ」
「ならば、終わった後でいいだろう。風呂上がりにな?」
「うぐぐ…!!!」
しまった、調子に乗ってしまった、まさか反撃があるとは…!!
「ぷいぃっ、ではフィカスさん、それまでの間、ボクにブラシをかけても、良いんですよっ」
アンタローが、ぴょーんとフィカスの腕の中に飛び込んでいった。
フィカスは、反射的にアンタローを撫でている。
「よしよし、ならばアンタローは前哨戦だな。せいぜい腕を磨かせてもらうぞ」
「ぷいぷいっ、砥石のごとく、ピカピカに磨いて差し上げますっ!」
マグが、ゆっくりと立ち上がった。
「ほらツナ、ルグレイ、キッチンに行くぞ……」
「はいっ」
「…ううううっ」
私は泣く泣く、晩御飯の準備を始めた。
<つづく>




