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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
142/159

全力トウキシ



 私たちは、調査が終わって今は立ち入り禁止区域のバンクシア家の地下に来て、騎士チームと盗賊チームで対峙をしている。


<騎士チーム>

 ・ユウ

 ・マグ

 ・ルグレイ

 ・フィカス


<盗賊チーム>

 ・私

 ・ハイド

 ・クラン

 ・アンタロー



 「騎士チームがあまりにも強すぎる」と私は主張したが、フィカスに「クジに偏りが出るのが遊びの醍醐味だ」とか言われて、取り合ってもらえなかった。

 しかも、組み分けを決める前に、ハイドの瞬間移動だけは禁じ手とされている。

 うぐぐ、仕方ないとはいえ、不利すぎる…!


「……よし、これで準備はできたな」


 マグが、床に四角く区切るようにテープを張っていき、満足げにそう呟いた。

 あれは牢屋ゾーンらしい。

 しかも、そのゾーンには救急箱が置かれている。

 怪我したら自分で処理をしろと言うことなんだろうか、怖すぎる…。


「よし、それでは、制限時間は30分だ。その間、盗賊側が逃げ切ることができれば、盗賊の勝ち。すべてつかまえれば、騎士の勝ちだ。騎士はタッチをして、盗賊を牢屋まで連行する。連行する間に盗賊が抵抗をするのはありだ。今から、お互いに10分間の作戦会議を始める」


 フィカスがちゃきちゃきと仕切って、私たちは各チームごとに輪になって相談を始める。


 私とハイドとクランとアンタローは、顔を付き合わせた。

 私はまだちょっとクランと視線を合わせられないが、勝負事なので、何とか緊張せずにいる。


「そもそも、精霊はルールを把握できているわけ?」


 ハイドは既にふわふわ浮きながら、ぽやっとしているアンタローに目を向けて、不安げだ。


「ぷいぷいっ、失礼ですねハイドさんっ。ボクは流しの盗賊ですよ! ツナさんを助けますよ!」


「アンタローの中では、わたしが捕まる前提なんだね…!?」


 一応、その言葉を聞く限りでは、ルールを把握できているようだ。


「ふむ…。だが、我々の不安点は、やはりラズだろう。ラズよ、そなたは攻撃には参加せず、逃げに集中しておくがいい」


 クランはどっしりとした声でそう言う。

 私は、「はい…」というしかない。


「ま、ぼくも高みの見物を決め込むつもりだけれどね。魔法王、ちゃんとナっちゃんにいいところを見せろよな、あはっ」


 ハイドは、空中で胡坐をかきながら、完全に他人事だ。


「やるからには勝ちたいよね…!」


 私の負けず嫌い精神が、メラメラと燃えている。

 しかし、ハイドは首を振った。


「けれど、相手チームのバランスの良さが異常だからなァ。司令塔のゴーグル、白髪と来て、身体能力の高い赤毛と騎士だろ?」


「十中八九、何らかの作戦を組んでくるであろうな。何、ねじ伏せればよい。フィカス殿とルグレイが防御魔法で手一杯になれば、道も見えよう」


 うわーー、流石クラン、頼りになる…!

 って、口に出せたらいいんだけど、なんだか気恥ずかしくて無理だ。

 そう思うと、ティランとフィカスは、お互いへの想いをきちんと口に出せる関係で、凄いことだよなあ。

 同じ王室なのに、えらい違いだ。


「アンタロー、一人で逃げ切れる? わたしが抱えて飛ぼうか?」


「ナっちゃん、そいつは愚策だぜ。相手に一気に2点も取られる結果になったら、目も当てられない」


 ハイドが釘を刺してきた。

 アンタローも、「平気ですっ」とやる気を見せている。


 そんな感じで、全然作戦タイムって感じじゃなかったけど、話し合いは終わった。

 このチームで力を合わせるのって、難しいよね…。

 ハイドもクランもワンマンだし、アンタローはマイペースだもんね…


 ユウたちの方をちらっと見ると、フィカスとマグが喋って、ユウとルグレイがうんうんと頷いている。

 うわあ、作戦立ってそう…!!


 まあいいや、やるっきゃないよね!!


 私たちは、一足先に試合開始線のところまで歩きだす。

 すぐにユウたちが、対面に立った。


「ようハイド、捕まる準備はできてるか?」


「一度もぼくに勝ったことがないくせに、よく言うぜ赤毛、手を抜いてやるから安心していろよ?」


「そんなこと言って、負けた時の言い訳にされちゃかなわねーな」


 ユウとハイドが火花を散らしている。

 すごい、ライバルっぽい、盛り上がる演出…!!


「クラン、花を持たせてやりたいが、俺もこのチームを勝利に導いてやりたいのでな、恨むなよ」


「フィカス殿、いらぬ気づかいだ。このような遊びをするのは初めてのため、余も個人的に心が躍っておる。全力を尽くさせていただこう」


 フィカスとクランも、挨拶してる…!!


「ぷいぷいっ、ルグレイさん、後輩と言えど、手は抜きませんよっ」


「アンタロー様、お手柔らかにお願いしますね。胸を借りるつもりで、頑張ります!」


「ぷいぃっ、ボクの胸って、どこですかね…?」


 アンタローまで!?

 こ、これは、私もライバル関係を作らねば!!


「マグ…っ!」


「ツナ……危ないと思ったら・ちゃんと助けを呼ぶんだぞ? 無茶もダメだ。今回はオレが助けてはやれないが……ちゃんとチームを頼るんだぞ?」


「あ、うん…っ」


「我慢も禁物だ。ちょっとでも異常を感じたらすぐに言え……『タイム』と言えば・みんな合わせてくれるからな」


「ン……、ありがとう……」


 なんだか、ほのぼのした感じで終わってしまった。

 おかしいな、こんなはずでは…。


「よし、では始めるぞ。今から30分だ。よーい…スタート!」


 フィカスが、号令を出した。



-------------------------------------------



   バサッ!


 号令と同時に、私は翼を広げて飛び上がった。

 さすが、巨大なドラゴンを封じ込めていた空間だけあって、天井はかなり高い。

 隣を見ると、ハイドも飛び上がっていた。


 ルグレイはアンタローに突進していたが、逃げ出すと思っていたアンタローは、逆にルグレイと入れ替わるようにチョロチョロと前進したため、ルグレイの思惑とは逆に、すれ違っていた。


 ユウとフィカスは、私やハイドには目もくれず、一番手強いとされるクランに襲い掛かっていた。

 しかし、私が驚いたのはそこではなかった。

 マグが、クランを中心に円を描くように移動しながら、なんと、銃を構えていた。


 そこまでやるの!?


「父さま、後ろです!」


 私は慌てて注意を飛ばした。

 が、クランは「わかっておる」と冷静に述べると、微動だにせず、王笏の杖底で、トンと床をたたいた。


   ―――ズシンッ!


 実際に、そういう音がしたわけではなかった。

 しかし、騎士チームは、何か重たいものが肩に乗ったかのような動きで、床に膝をついている。

 フィカスとルグレイは何とか動けるようだが、ユウとマグは地に伏せている。

 例の、魔力が飽和するほど場の魔力密度を上げる、というやり方だ。

 確かに、私もアンタローもハイドも、あの攻撃って全然影響を受けないんだよね。


「くっ……!!」


 しかしマグは、それが来ることがわかっていたかのように、なんとか両手で銃を持ち、そして、引き金に指をかけた。


   ポンッ!


 ビールの栓抜きのような音が響いた。

 なんと、マグが持っていた銃は、ゴム弾の入ったオモチャの銃だった。

 おもちゃと言っても、当たったら痛そうだ。

 ゴム弾は、真っすぐにクランの後方へと飛んでいく。

 よかった、そこまでガチな刃傷沙汰にはならなさそうだ。


 そして、挟み込むように、フィカスが鎖鞭を、クランの足元へと振るう。


「ハルー・ドルシィ」


 クランは難なくシールド呪文を唱えると、クランの周囲を囲むように、球状のシールドが張られ、マグとフィカスの攻撃ははじき返された。


「アーベルス・イスケスト!」


   パキパキパキッ!


 ルグレイが呪文を唱えると、ルグレイが望んだ範囲の床に、氷が張って行った。

 かなり氷の範囲は広い。

 しかしクランの方に向かった氷は、同じくシールドに阻まれて、意味をなさなかった。

 クランは、意図が分からず、訝しげな顔をしている。


「……ぉぉおおおおおっりゃあああああっ!!」


 いきなりユウが、気合と共に立ち上がる。

 そして、足元に張られた氷を滑るように、思い切り移動を始めた。

 なんだろうと思って見ると、ユウは、クランではなく、なぜかマグの方へ、真っすぐに突進していっている。


   シャアアアアアッ!


 氷での勢いもあって、ユウの速さは物凄かった。

 このままでは、間違いなくマグにぶつかってしまう。

 そう思ってハラハラしていると、いきなりハイドが焦ったような声を出した。


「ナっちゃん、逃げるんだ!」


「え??」


 なんで? と思ってハイドの居る方を見た。

 その瞬間、マグが、手の平を組んで、ジャンプ台になっていることに気づいた。


「……あ、ああっ!?」


 慌ててバサバサと翼を上下させ、あわあわと方向転換をしようとした。

 その時には、ユウは、マグの手を踏み台にして、物凄い勢いでジャンプして―――。

 そして、私の目の前にいた。


「うあっ!?」

「おっしゃ人質ゲットーーー!!!」


 ほとんど体当たりのような勢いで、ユウは私を掻っ攫うようにして腕に抱いた。


「ラズ―――ッ!  オルティ・イズーチカ!」


「!」


 フィカスが咄嗟にシャムシールを抜いて、天井に向けて放り投げた。


   バシィイーーーッ!!


 クランの放った雷は、避雷針になったそのシャムシールに向けて落ちていった。


「小癪!」


 が、クランの攻撃は、その一度だけではなかった。


   バリバリバリバチバチバチイッ!!!


 辺りがまばゆくなるほどの雷が、クランを中心に、全方位に放たれた。


「やべっ、ルグレイ、パス!」


 ユウは、着地の前に、私を思い切り放り投げる。


「ひゃああああっ!?」


 見ると、ルグレイはいつの間にか牢屋ゾーンに移動しており、どさっと私を受け止めた。


「うっぎゃあああああっ!!?」


 そして、後ろの方から、ユウの断末魔が聞こえた。

 どうやら、空中で雷を避けられず、思い切りヒットしてしまったらしい。


 ルグレイの腕の中でユウの方を見ると、完全に痺れ切っているユウが、変な格好で倒れていた。

 クランは、満足げに目を細めた。


「安心するがよい。出力は押さえてある。……まずは一人目か」


「くっ……!!」


 マグはフィカスの後ろに移動していて、フィカスはシールドを張ってやり過ごしていたらしい。


「さ、姫様、大人しくしていてくださいね」


 ルグレイは、私を優しく牢屋ゾーンに置いた。

 どうやら、見張り役らしい。


「ぷ、ぷいいっ…!!」


 アンタローがチョロチョロしながら、私を遠巻きに見ている。


「なるほどな。余を狙っていると見せかけて、本命はラズであったか。騎士風情が見事なものだ、まんまと罠にはまってしまったな」


「ツナは目の前のことに集中すると・なかなか周りに目が向かない。クランを心配する心を利用させてもらった……」


 クランの言葉に、マグが淡々と説明をする。

 しかし、フィカスはため息をつく。


「だが、思った以上に動揺はないようだな」


「いかにも。余がそなたたちを打ち倒し、助け出せばよいだけのこと。地獄の業火に立ち向かう準備をせよ。応じねば―――死が約束されよう」


 …なんか、クランがめちゃくちゃ怒っているように見えるのは気のせいだろうか…?


「ランシャード・ウェアガン」


 クランの周囲に、不可視の空気の球が無数に浮き上がる。


   ガガガガガガッ!!


 クランが腕を一振りすると同時、物凄い勢いで、空気の球がフィカスとマグの方に突っ込んでいった。


「さてまずは、ちょこざいなシールドをはがすことから始めねばな…?」


 そこから、ガチな魔法戦が始まった。

 …大丈夫かな、フィカスとマグ…。

 というか、ケイドロって、泥棒側が逃げ回る遊びだったような…?

 ガンガンに攻撃を仕掛ける泥棒って破天荒過ぎない?


「姫様、申し訳ありません、本当は逃がして差し上げたいのですが…姫様は囮役としては最適だと言われまして…」


 ルグレイが、申し訳なさそうに謝ってきたので、ガンガンうるさい音を立てている魔法戦よりも、ルグレイの方に目を向ける。


「ううん、ルグレイ、仕方ないよ、勝負だもんね…! アンタロー、こっちに来ちゃダメだからね! 逃げ切れば勝ちなんだから!」


 ぴょぴょっと汗を出しながらこちらを窺っているアンタローへ、私は急いで言葉を投げた。

 でもアンタローは、どうしてもこちらが気になるらしく、距離を取るでもなく、てんてんと横移動をしているだけだ。

 うーん、囮役に最適って、こういうことか…!

 ほんと、フィカスとマグは読んでくるなあ…。


「しかし、クラン様のあのご様子を見る限り、劣勢はこちらの方ですね…まさかあそこまでお怒りになられるとは…」


 ルグレイは、遠い目をしながら、本気でやりあっているクランの方を見ている。


「うう、わたしなんて、開始5分もたたずに捕まったのに…」


「仕方がありませんよ、ユウ様とマグ様のコンビネーションは、見事としか言いようがありませんでしたからね。私ではああは行きませんでした。私としては、姫様をいち早く安全圏にお連れすることができましたので、安心しています」


 ルグレイは、照れたように頬を染めて笑った。

 しかし改めて、私は自分がいかにザコかを思い知らされたようで、若干複雑だ。


   もも…


 ……ん?


   ももも、もももも…


 この、「も」としか聞こえない音は、聞き覚えがある。

 まさか!!!?


 アンタローの方をバッと振り向くと、アンタローは格段にふっくらしていて、せっせと巨大化をしているところだった。


「なっ!!? あ、アンタロー様が、すくすくとお育ちに!!?」


 ルグレイがメチャクチャびっくりしている。

 そうか、そういえば、ルグレイはあれを見るの初めてだったっけ。


「ぷいぃいいいい、牢屋にぃいいい、触ればいいんですよねえぇええええ??」


「ルグレイ、氷に閉じ込めろ!」


 フィカスが鋭く声を飛ばした。

 ルグレイはハッとして、アンタローの方に両手をかざす。


「ラシーバ・ミュズコーリ!」


   パキパキパキッ!!


 氷の槍が、まるで部屋の仕切りのように生えてきた。

 いまや天井につくくらい大きくなっていっているアンタローの体は、その氷の壁に阻まれてしまった。


「ぷ、ぷいぃっ、つめたいですっ」


「こ、これは…タッチした後、どう連行すれば…!!!?」


 ルグレイが、部屋にみっしり詰まっていくアンタローに絶望している。


 ………。

 待って、あれを見るのが初めてな人って、ハイドとクランもそうじゃなかったっけ?


 思わずクランの方を見ると、アンタローを見て唖然としている。

 すると、いきなりクランの背後にゆらりと立ち上がる人影があった。


「! 父さま、後ろです!」

「今だあああっ!!」


 私の気づきは一歩遅かった。

 ユウが、ガバっとクランの背後にのしかかり、床に向けて抑えつけた。


「なっ…!!? くっ、少し手加減しすぎたか…!!」


「へへっ、悪いな、体の丈夫さには自信があってな…!!!」


 ユウは勝ち誇ったように笑みを浮かべている。

 が、クランも冷静さを失ってはいなかった。


「ならば、連行される前に、次の手を打たせてもらおう。―――クリド・ジェナーン」


「げっ、死角なしかよ…!!! フィカス、マグ、手伝ってくれ!!」


 クランは身体強化の魔法をかけ、ユウの抑えつけを跳ねのけようとしている。

 フィカスとマグは慌てて走り出す。

 よく見ると、フィカスとマグの衣服はボロボロで、二人ともかなり消耗しているように見える。


「!?」


 いきなり、マグが足を止めた。


「マグ、どうした…!?」


 フィカスも釣られるように足を止めてしまい、ユウが「早くしろって!!」とかなり焦っている。


「ルグレイ、戻れ!!」


 マグがいきなり、アンタローにかかりきりのルグレイに声をかけた。

 私を含め、みんながきょとんとする。


「ハイドの姿が無い・認識阻害の魔法だ!」


「あはっ、大正解~! けれど、遅かったね?」


 すぐ耳元で声がして、私は飛び上がるくらいビックリした。


「名にハイドとあるくらいだからね、隠れることは大得意なのさ。お姫様はぼくが攫って行くぜ?」


 ハイドはスーっと姿を現し、私の腰を持って、ふわりと浮き上がった。


「なっ…!? 姫様…!!」


 ルグレイは慌てて助走をつけてジャンプをしたが、ハイドがわざとギリギリ届かないくらいの位置で、「あはっ、残念~!」とルグレイを見下ろした。

 そして、とても楽しそうに、言葉を続ける。


「はい、30分たったぜ!」


 どうやらハイドはわざと時間ギリギリの段階で私を助け出したらしい。


「ぐわああああっ、負けたああーーっ!!」


 ユウが悔しそうに、クランの上から避けた。


「出だしは順調だったのにな…油断してしまったか」


 フィカスも反省点を述べている。


「も、申し訳ありません、私が足を引っ張ってしまいました…!!」


 ルグレイは土下座の勢いだ。


「まあ、個人の能力値が高すぎるからな……盗賊側は」


 マグはどこかで納得しているようだ。

 確かに、私たちは力を合わせたというよりも、ごり押しで勝ったような気がする。

 おかしいな、騎士側が強いと感じていたんだけど…。


 クランはゆっくりと立ち上がり、服についた埃を払った。


「ふむ…。ラズを助け出すのは余でありたかったが…礼を言う、ハイド殿」


「ふふん、当然さ。けれどそれよりも、精霊のあれはどうするのさ」


 私はハイドの腕の中で、慌ててアンタローに叫んだ。


「アンタロー、もう小さくなっていいよ! わたしたちの勝ちだよ!」


   しるるるるる…


 アンタローが見る間に縮んでいく。

 最後に「ポンッ」という音を立てて、元のサイズに戻った。


「ぷいぃいっ、やりましたね、ボクたちのチームワークの勝利ですね!」


 アンタローは絶対チームワークって言いたいだけだ。

 でも、アンタローは前に巨大化した時ほど消耗していないようで、安心した。

 ハイドは私を地上に下ろし、アンタローもぴょこぴょこっと寄ってきて、いったんみんなで集まった。


「初めてやったが、遊びというものはなかなかどうして、面白いものなのだな」


 クランは、感慨深そうに言いながら、万感の思いを込めて、顔を上げた。


「では、次の試合を始めようか」


「……へ?」


 ユウの表情が引きつっている。


「何、手間だろうからな、チーム分けはやり直さずともよい。このままで行こう。余は、あと10回程度は戦える。その間に、ラズに良い所を見せられる機会も来よう」


 マグとフィカスとルグレイは、絶望を浮かべている。


「あはっ、いいね、ぼくもこのチームでなら、あと何回戦っても健闘できそうな気がするなァ」


 全然消耗していないハイドが、サドっ気の強い顔でユウたちに目を向けている。


「……お待ちください、クラン様! 全力トウキシは、その性質故、1日に1回しかできない決まりなのです!」


 ルグレイが慌てたように言葉を足した。

 あの顔は、絶対今考えたルールだ。

 クランは、残念そうに項垂れた。


「そう…か。決まりならば仕方が無かろう」


 さすが、生真面目なクランは、決まり事には従順だった。


「そうそう、それにツナも、今の試合でクランとのわだかまりはもう失せてるって!! な!?」


「え!!?」


 ユウが相変わらず調子のいいことを言ってくる。

 私は抗議の視線を向けたが、ユウはクランにバレないように、こっそりと私に「頼む!」の形に両手を合わせている。


 クランは、期待を込めた視線を、私の方に向けている。


「ラズ……」


 そして、意を決して、私の方に一歩を踏み出してきた。


「……っ!!」


 私はまた、カーっと顔が熱くなるのを感じた。

 何も言えない。

 だけど、確かに、一緒に遊んで、楽しかったはずだ…!!

 ちょっと大人げない感じはあったが…!!

 いや、だいぶ大人げなかったが…!!

 だけど、楽しかったと伝えるなら、今ではないだろうか…!!


 そう思うのに、一歩下がってしまう。

 が、いきなり背中をどんと突き飛ばされた。

 ハイドだ。

 ハイドは、「イライラするなァ」と言いたげに、私の方を見ている。


「ラズ……すまなかった…。余は少し、焦ってしまっていたのかもしれぬ。このようなことで、今までの時間が埋まるはずもないのにな…。そなたをそのように追い詰める気はなかった…」


 ………。

 私は、覚悟を決めた。

 覚悟を決めて、何も言わないことにした。

 そして、何も言わずに、クランの腕に、ぎゅっとしがみつく。

 スリスリと、額をクランの腕に擦り付けた。


 言葉で言い表せないので、体で示すことにした。


 おそるおそる顔を上げると、クランは、とても驚いたような顔をしている。

 そして、懐かしむように、目を細めた。


 ひょっとして、母さまのことを思い出しているのだろうか。


 それから、少しためらうような間をあけた後…。

 おずおずと、私の頭を撫でてきた。


 私はやっぱり、緊張で体をこわばらせてしまい、何も言えずに居た。

 クランも何も言わなかった。

 だけど、初めて、その沈黙を、気まずいものではないと感じた。




<つづく>



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