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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
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戦いの余韻



 私たちは、冒険のために、7日間のお休みを取っていた。

 しかし、クルーザーでの移動を含めて3日ですべてが終わったので、4日目は地上の屋敷でのんびりと過ごすことにした。


 ティライトは、リビングで刀の手入れをしながら、戦いを思い出すようにため息をついた。


「あれが、“魔物”か……」


「また思い出しているのか。よほど気に入ったんだな」


 フィカスは、マグとルグレイと一緒に床に座って、綺麗に清めた魔石の山を選り分けながらそう言った。

 なんでも、細かい等級とかに分けてから、フィカス、私 (というかジェルミナール)、ティライトで山分けをしたいらしい。

 さすがに何百年も放置されていた島だけあって、蓄積されていた魔石の量は半端なかった。

 マグとルグレイは、せっせとそのお手伝いをしている。


 私とユウとアンタローは、そういう細かい作業に向いていないので、ティライトとハイドと一緒に寛がせてもらっている。


「気に入ったというわけではないが…。切り結んだ時に、“罪悪感”が来ない相手と戦ったのは初めてだったのでな。全力を出せる事の快感はあった」


「罪悪…感…?」


 ユウが、きょとんとしながら繰り返した。


「ああ。例えばユーレタイド。俺はお前を気に入っている。お前は気持ちのいいやつだし、手合わせの喜びを分かち合える“友”だ。そんなお前とぶつかり合うのはとても楽しいが、反面、怪我をさせたくない、と思う気持ちも同時に存在する。全てにおいてお前を上回りたいのに、そのことがどこか後ろ暗い」


 うわあ、ティライトって本当にまともな人なんだなあ。

 私は感動しているが、ユウは戸惑っているようだった。


 そうか、ユウには、相手を傷つけることに対して、ためらいが持てないからだ。

 急いでティライトにちゃんとした相槌を打つユウに、私は胸が痛んだ。

 前に、雪の国フリメールで、ユウは「普通の人間のように振る舞うこともできる」と言っていた。

 それって、自分が異常者だと言っているようなものだ。

 そして、私はそんなユウにかける言葉を持っていないのが、なんだかもどかしい。


 しかしティライトはマイペースなので、そんなユウに微塵も気づかずに、話を続ける。


「魔物…というか、話が通じないヤツが相手というのは、そういったことを気にせずに戦えた。そして俺は、自分の“蛮行”を美しく飾り立てずに、思い出にすることができる。いい経験をさせて貰った。これからも時間があれば地上の見学をしたいくらいだが…それができないのが残念だ」


「えっ、どういうこと? ティライトが望むなら、一緒に行動とかするよ?」


 私が思わず言うと、ティライトは首を振る。


「最初は乗り気ではなかったが、俺はなんだかんだで、今の責任ある5代表の立場を、他の誰にも渡したくはないと思っている。ここからは、責務に集中をする。そうでないと、せっかく姫さんが考えてくれた“新時代”を切り開けないからな。いつか、自分が納得いくまで突き詰めることができたら、その時はまた、ナツナたちの旅に同行させてくれ」


 そう言って、ティライトは、暖かな眼差しを向けてきた。


「それまでは、交換ノートで我慢をしよう」


「あっ、あれ続けるんだね?」


「当然だ。“関係”を断ちたいわけではないからな」


「関係って…あんまり調子に乗るなよ。お前とナっちゃんはどんな関係だっていうのさ? まったく、ポっと出のクセに図々しいよなァ、ぼくがナっちゃんの隣に居てやるために、どれだけ苦労したと思っているのさ?」


 ハイドはいつものように、空中に見えないソファーがあるかのように寝そべって、ふわふわしている。


「ハイドは最初から素直に友達になろうって言えばよかったのに…っ!」


 私が文句を言っても、ハイドはつーんとそっぽを向いている。

 ティライトも、マイペースに刀の手入れをしていて、特に反応をする気はないようだ。

 ついでなので、私は気になっていることをハイドに聞くことにした。


「…ねえ、ハイド」


「なに、ナっちゃん」


「ハイドは、わたしのこと、恨んでないの? だって、ジェルミナールの、末裔なんだよ?」


 その問いに反応したのは、ユウとマグだ。

 二人とも、ハイドがどんな反応をするかが気になるように、ハイドを見上げた。


「…相変わらずナっちゃんはトロいよなァ、そんなこと、とっくの昔に解決している話だっていうのにさ。もうずっと前に、ぼくの中では答えが出ているよ」


 ハイドは、頭の後ろで腕を組むようにして、天井の木目を見上げている。

 私は、ドキドキしながら、ハイドの言葉の続きを待った。


「…ぼくから、ルエリアとの未来を奪ったのは、ジェルミナールだ。けれど、ぼくに大事な友達をくれたのも、ジェルミナールだ。だから、もう、いいんだよ」


「………」


 私は、ぎゅっと胸を押さえて、目を合わせようともしないハイドを見上げる。

 胸がいっぱいになって、何も言えない。


 意外なことに、言葉を続けたのは、ティライトだった。


「さすが魔族勇者だな、いいことを言う。俺も、同じ意見だ。父から武人の座を奪ったのは、姫さん、あなたの父だ。だが、あなたの父がいなければ、あなたとの出会いもなかった。俺は、王座に着くものが誰に代わろうとも、5代表として“全力”を尽くすことを誓おう」


 ティライトを見ると、とても晴れやかな顔をしていた。


「……ありがとう」


 私は、それだけを言うのが、精一杯だった。

 ユウとマグも、何か思うところがあるらしく、じっと黙っていた。


「ぷいぃいっ、ツナさんツナさん、ボクをぎゅっとさせてあげますよ!」


 その隙をついて、アンタローがテーブルの上から、私の腕の中へ飛び込んできた。


「アンタロー…よしよし」


「ツナさんツナさん、今日の晩御飯は、ピジャがいいですっ」


「ええっ、アンタロー、ピジャが気に入ってたの?」


「ぷいぷいっ、前は、出来立てを口に入れて、死ぬかと思いましたっ、リベンジですよ! 餡リベンジです!」


「けどさ、開拓村の名物になりそうなんだろ? もう家で食うよりもあっちで食ったほうがよくねーか?」


 ユウがそう言って、私もそういえばそうだったなと思い出した。


「確かに、開拓村にもあるけど、餡リベンジしたいっていうのなら、作ってもいいかな~」


「ぷいぃっ、楽しみですっ。次はピジャのチーズを、伸ばしながら食べますよっ!」


「よし、ならば俺がピジャを持っていてやろう」


「ぷいいいっ!」


 アンタローに甘いフィカスが嬉しそうに答えた。


「なんだ、姫さんが手ずから飯を作ったりすることもあるのか?」


 話に加わってきたティライトの方に目を向ける。


「わたし、力仕事ができないから、せめてそういうところでは役に立ちたくって。でもね、作るのが遅くって、晩御飯だけだったり、お菓子とか作ったり、息抜きみたいにしてるくらいで、あんまり本格的な料理って感じじゃないんだよ!」


「ああ、そういえば、初めて会った会議で、クッキーを御馳走して貰ったな。姫さんがその細い指で捏ねた生地と思うと、もう少しきちんと味わっておけばよかったか」


「もうっティライト、フィカスみたいなこと言わないでよ…!!」


 指で捏ねたのはマグだという事実は黙っておいたほうがよさそうだ。


「待てナっちゃん、どうしてそこで俺の名が出てくる…? そんなことを言った覚えは一度もないぞ?」


「あ、ごめんごめん、そうだよね」


 もう私の頭の中で、変態なセリフ=フィカスで方程式が出来上がってしまっている。

 ティライトは、刀の手入れが終わったようで、カチリと鞘に納刀した。


「ならば、すぐに天界に帰るつもりだったが、晩飯を頂いてからにするか」


「えっ、ティライト、明日ものんびりしないの?」


 ティライトは、私の言葉に少し笑った。


「そうか、のんびりするのが好きか。あなたはあの父親と正反対なんだな。俺は、いち早く、あなたの父親から一目置かれる存在になるつもりだ。それが俺の“復讐”であり、生き方だと決めた。俺にはもう、のんびりと過ごす暇などない。留守中、父に任せた公務も気になるしな」


「そっか…。じゃあ、お別れの挨拶、しなきゃね」


 うすうす気づいてはいたが、私はたぶん、数日一緒に過ごすだけで、ある程度の情が移ってしまうようだ。

 たぶん、小さい頃に、あまり人と関わってこなかったからだろう。

 一人でいることを極度に恐れるし、常にだれかの傍に居たい。


 しかしまあ、ティライトと共同生活をしたいとまでは思わないな…。

 なんとなく、どこかがすれ違っている気がしているので、疲れそうだ…。


「あはっ、そこで『自分も頑張ろう』って意見が出ないところが、ナっちゃんだよなァ」


 ハイドが、からかうように言葉を降らせてきた。


「あのねハイド、こういうのは、メリハリが大事なんだよっ。わたしは、休むとこはちゃんと休むんです!」


 それっぽい理屈を並べるも、ハイドは私の怠け心を見透かしているようで、「はいはい、そういうことにしておいてやるよ」と、くすくす笑った。


「ほらツナ……休ませてやりたいところだが・晩飯を作るなら・今からやらないとツナは間に合わない……行くぞ」


 マグは、選り分ける作業を終えて立ち上がる。

 私も、「はーい」と言いながら立ち上がった。

 フィカスが言葉を続ける。


「ルグレイ、倉庫にある麻袋を持ってきてくれ。今からきちんと分ける。ティライト、発つのは明日の朝か?」


「いや、食事を頂いたらすぐに出る」


「わかった。それまでには終えておこう」


 ルグレイは急いで倉庫に向かって走って行った。

 ユウは、ちょっと名残惜しそうだ。


「ちぇっ、明日の朝にしてくれたら、一回くらいお前と手合わせできたのになー」


「そう言うな。お互い、魔物との戦闘の“余韻”を味わう時間も必要だろう」


 話を弾ませている二人を残して、私はマグとキッチンへ行く。

 道中で、色々と思い返してみる。

 なんだかんだで、…楽しかった…かな。



-------------------------------------------



「ここまででいい。帰り方は、見ていて覚えた」


 庭にある転送陣の上で、ティライトはそう言った。


「あ…じゃあ、ここでお別れなんだね」


 思ったよりもずっと淡泊なお別れになりそうだ。

 お別れと言っても、別にここから会えなくなるわけじゃないんだろうけど…。


「おー、んじゃ、握手だな、握手!」


 ユウはからっとした笑顔を浮かべながら、ティライトに手を差し出す。

 ティライトは、少しだけ驚いたように瞬きをすると、ぐっとその手を掴んだ。

 そして、フィカスやマグにも手を差し出して、「世話になった」と握手を続けていく。

 ルグレイはしぶしぶそれに応じ、ハイドは宙に浮いたまま、知らん振りだ。

 アンタローは、「ボクもやります!」と言って、ユウの頭の上から、ティライトに向けてダイブしていった。

 ティライトは、握手するにも手が無いアンタローをどうしていいかわからず、キャッチした後、静かにユウの頭の上にアンタローを戻した。

 しかしアンタローは、ぷいぷいと満足げだ。


 そして、私の番になった。

 私はいそいそと手を差し出すが、ティライトは何故かぴくりともしない。

 ティライトは悔し気に目をそらした。


「…すまない、ナツナ。武人が女性に触れることは叶わないと、俺は幼い頃より父から教えを受けている」


「えっ、そうだったの? 本格的だねえ」


 それならばと、手を下ろす。

 しかし、ユウがきょとんとした声を出した。


「けどさ、ティライトの父ちゃんが母ちゃんに触ったから、ティライトが生まれたんじゃねーのか?」


「!!!!!!!」


 その時のティライトの表情と言ったら、言い表せないほどの衝撃を受けているようだった。


「馬鹿な……俺は“橋の下”から拾われていた……?」


「いや、そっちじゃないだろう……」


 マグが冷静に突っ込む。


「例えというか、心構えのようなものだろう。親の教えというのは、そういうものだ。つまり、握手くらいは許されるだろう」


 フィカスが、面白くてたまらないというような雰囲気を出しながら、ティライトを元気づける。


「あ…じゃあ、する…?」


 私は、降ろしていた手を上げて、またティライトへと差し出した。


 ティライトは、茫然とした顔で、しばし私の手を見つめた。

 やがて片手を上げるが、どうしてもそこから動かない。


 そして、かーっと顔を赤くすると、また私の手から目をそらした。


「無理だ…! 急には、生き方を変えられない…!」


 私はその様子に、なんだか親近感を感じた。

 わかる、わかるよ、ティライト。

 いざクランと親子していいよってなっても、できないよね…!

 意識しすぎちゃって、無理だよね…!!

 でも、そんな状態でどうやって私の小指をゲットするつもりだったの?

 切り離すのは別に何とも思わないってことかな…?


 私は、静かに手を下ろして、優しく声をかける。


「ティライト、焦らずに、ゆっくりやって行こう…?」


「あ、ああ…そうだな。いつか、この気持ちを克服した暁には、ナツナの体を余すところなく吟味させてくれ」


「もうっティライト、フィカスみたいなこと言わないでよ…!!」


「ナっちゃんが俺のことをどう思っているかが、よーーくわかった」


 私は、「ごめんごめん」とフィカスを宥める。


「ではな、ナツナ。達者で暮らせよ」


 ティライトは、マイペースにそう述べると、パアっと転送陣を輝かせ、姿を消した。

 あっさりしたお別れだった。


「行っちまったなー…」


 ユウが呟くと、ハイドは空中に浮いたまま、くすくす笑った。


「ねえナっちゃん、王には道化が付きものじゃない? アイツ、素質あるぜ、飼ってみたらどう?」


「もーー、ハイドはすぐに憎まれ口をたたくんだから…」


 私は腰に手を当てて、ハイドを軽くにらみつける。


「ツナ……ティライトをどう思った?」


 意外なことに、いきなりマグがそう切り出してきた。

 驚いてマグの方を見ると、心配そうにこちらをじっと見ている。


「えっ、どうって……」


「俺も気になるな。ナっちゃん、思うままに言ってみてくれ」


 フィカスも、いつになく真剣だ。

 ルグレイもユウも、じっと見守ってきている。

 これは、真剣に答えなければならない流れのようだ。


 ティライト…。

 いい人だな、と思ったのは、間違いないんだけど…。

 あの残念さは一体どこから来るのか、私も自分の中の気持ちを整理してみる必要があるようだ。


 うーーーん…。

 ………。

 あ、わかった!!


「すっごい、ナルシストだよね!!」


 マグとフィカスが崩れ落ちた。

 よく見ると、笑っている。

 そういえば、マグは私がいきなり辛辣になるのに弱いんだったっけ。

 しかしフィカスは何だろう…?

 意外に笑い上戸だったのかな。


 ユウとルグレイとハイドは、安心しているようだ。

 そうか、ひょっとして、私がティライトと一緒に行動したいって言い出すと思ったのかな。

 ティライトはちょっと難易度が高いなあ、たまに見るくらいがいいなあ。


 そうは思っているのだが、まだなんとなく、先程までティライトの居た転送陣をじっと見てしまう。

 私はきっと、誰かとのお別れに弱いのだろう。

 天界とは違う、地上の風が通り抜けた。




<つづく>



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