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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
14/159

誰にもわからない戦い(下)

「帰るかツナ、日も暮れてきた」


 ……………は?


 一瞬何が起こったのかわからず、まだぎこちない表情のままのユウを、茫然と見る。


 さっきの音……。


 ページを戻された?

 えっ、なんでなんで!?


 焦る私の前で、ユウはゆっくりと立ち上がり、何事もなかったかのように、うーんと伸びをしている。


 何かを間違えた?

 喋り方…かな?

 ううん、それはないはず。

 こっそりと何度か検証してみたのだが、「誰が見ても明らかにネイティブであるとわかるくらいスラスラと流暢に喋った」ぐらいの判定でもないと、特に引っかからない。

 なんちゃってカタコト弁でOKという結論を下せるくらい、ほとんどザルと言っていい。

 そもそも面倒くさがりの私がそんな細かい判定を設定するわけがない。

 まあこの世界の基準を設定しているのが誰なのかは知らないんだけど…。


 ということは、別の要因?

 でもおかしいな……。

 この辺まで来ると、小学生の私が書く文章のクセというか、やり口というか、そういうのは大体わかってきている。

 どうとでも取れるような、大雑把な文章というイメージだ。

 ……確認してみよう。


 こっそりと指を組み、ぐっと念じる。

 この場面の文章……出て来い!


 パッと、やはり前よりは数段スムーズに浮かんでくる。


========================================


 みなとまちメッシドールにたどりついたナツナたちは、すう日の間、かんこうをたのしんだ。


 さいごに、たのしみにとっておいた海を見にいく。


========================================


 ………ッ


 目を開けると、危惧していた眠気は来ず、クラっとくる程度で終わった。


 やっぱり大雑把だ。今の感じだと、まだ最初の一行のところだよね、ここ。


 全然ページを戻される要素はないのに、どういうことなんだろう?



「ツナ、疲れてるのか、大丈夫か?」


 立てるか? と手を差し出してくるユウの手を握り、私は決意する。

 もう一度やってみよう。


「あのね、みせたいものがあるの!」



 先ほどよりも気を付けた言葉選びをしてみながら、私はユウに同じことを伝えた。


 ユウは同じような反応をして、最後に真剣な顔でこちらを見てくる。



「……ツナ」




   <・・・・・パラ・・・・・>




「帰るかツナ、日も暮れてきた」



 ……………。


 この物語の中でユウは、今私が伝えたことを、知ってはいけない……?

 だから戻される?

 そんな残酷なことって、あるのだろうか?


 それじゃあ、例えば何かの間違いでユウが死ぬようなストーリーが書かれていれば、私はそれに従うしかないということ?



「ツナ? どうした、ぼーっとして」


「あ、な、なんでもない……」


「そうか? ならいいんだが……今日はお互い、楽しい夢が見られるといいな」


 そう言ってポンポンと、ユウは私の頭を撫でてくる。


 夢…。


 その時、私は初めてゾっとした。


 そういえば私はこの世界に来てから、魔女に見せられた以外の夢を見たことがない。

 あんなに寝たのに?


 私は原文に書かれてないと、夢も見られない生き物になってしまったということ?


 いや、この世界自体が私の夢なら、きっとそれは当たり前だ。夢の中の夢なんてナンセンスだし。

 思考を振り払うように頭を振って、私はユウにしがみついた。



「ユウ、あのね、みせたいものがあるの!」



---------------------------------------------------------



 そこから私は躍起になって、何度も何度もユウに同じことを伝え続けた。

 そして何度も何度も戻される。



「帰るかツナ、日も暮れてきた」


 何度目かのその言葉を聞いて、私は自分の目に涙が溜まっていくのを感じた。


 もう、あきらめるしかないのだろうか?

 たぶん、ユウは私が何も言わなくても、自力で立ち直れる人だ。

 だから、今無理をして伝えなくてもいいはずだ…と、何度も頭をよぎった言葉がまた蘇る。


「そだね……かえろうか」


 私はスカートを払って立ち上がる。

 ユウは片手を差し出してきた。

 私はその手の平を、じっと見つめる。


 …いや、ちがう!

 ユウが自力で立ち直れることと、私がユウのために何かしたいと思うことは、まったく別の問題だ!

 それにここで日和ったら、もし本当にいつか誰かが死ぬような場面が来た時に、諦め癖がついてしまう気がする。


「ユウ、ちょっとまってて、かんがえごとを、たくさんしたい!」


 宣言をするように大声で言う。

 ユウは不思議そうな顔をしたが、「わかった」と頷いてくれた。


 考えろ考えろ、絶対抜け道はあるはずだ!

 

 そもそも私は、抜け道を探すのが得意なはずだ。

 原稿用紙5枚の読書感想文の宿題が出たときには、句読点や改行を多用して行数を稼ぎ、漢字の自由書き取りの宿題が出たときには、漢数字とか簡単な漢字ばっかりでノート一冊を埋めてきた。

 まあその後先生にこっぴどく叱られたけどね!

 でも、そういう性格の私のことを、私が一番理解しているはず。


 まだこの世界が何なのかはわからないけど、これが私の夢の中だと仮定して、そんな楽な方向へ行きたがる私が、そもそもどうしてページを戻すのだろうか?

 後の方でストーリーの食い違いが出るのを避けるため?

 まさか!

 そんな先の方まで見据える頭は私にはないはずだ。

 私はもっと刹那的で、行き当たりばったりのはず。


 …リアル思考で考えるから行き詰まるのかな。

 ちょっと、ゲーム脳的な考え方をしてみようか。

 基本的にゲームは、決められたプログラム以外の挙動が起こると、バグが発生する。

 バグを防ぐために、ページを戻す?

 …ちょっと近い気がする。

 これを、もっと頭悪くしてみよう。


 AとBという、決められた選択肢があるとして。

 私が、Cというセリフや行動を起こす。

 …ひょっとして、それに対する反応が用意されてない、もしくは用意できないだけ?

 その人の設定の根幹に抵触するような部分だと、余計に反応を用意するのが難しくて、判定が厳しいとか?


 ………


 よし、そうだと仮定するとして、じゃあどうすればいいだろう?

 そもそも、その反応を受けるのは私のはずだ。

 じゃあ、その反応の受け手である、私が居なければどうなる?


 世界五分前仮説を目にしたとき、私はとてもチープな感想を抱いた。

 「これって誰目線なんだろう?」という感想だ。

 だって絶対に観測者みたいな存在が必要な話じゃーんって。


 この夢の世界の観測者が私だとして。

 私が見ていないところでなら、AI的なものが勝手に処理して、何が起きても大勢に影響は出ない…? とかどうかな…?


 よし、わちゃわちゃ考えてしまったけど、これで行こう!

 『私に見えないところで、ユウには私の話を聞いてもらう』、これだ!



「ユウ、かいものに、いきたい!」


 勢いとともにユウに告げると、ユウは多少面食らったようだが、普通に快諾してくれた。


 そこからはページを戻されることもなく、トントン拍子に事が運む。


 私はユウを外に待たせて雑貨屋に入る。

 ポシェットの中にはマグが持たせてくれたお金があり、それでレターセットを買った。


 雑貨屋のカウンターを貸してもらい、さっそく手紙にユウへ伝えたいことを書き込む。


 きちんと封をして、手鏡を添えて、出来上がり!


「ユウ! これあげる!」


 雑貨屋から出るや否や、私はユウに手鏡を添えた手紙を差し出した。

 ユウはきょとんとしながら、反射的にそれを受け取る。


「どうしたんだツナ、目の前にいるのに手紙なんて」


「あのね、これ、おまじない! しんやの、0:00になったら、てがみをよんで! そしたら、げんきでる、おまじない!」


 どうだ、小学生は1:11とか2:22とかに食いつくだろう! という計算も入れておく。


「それでね、てがみの、かんそうを、ぜったい、わたしにつたえちゃダメ! つたえたら、おまじない、きかなくなる!」


「ええ?」


 ユウは最初は困惑していたが、私の伝えたルールを口の中で何度か繰り返して確認すると、少しだけ、いつもの表情に近い笑顔を見せてくれた。


「ありがとな、ツナ。わかった、絶対読むよ」


 そう言ってポンポンと、ユウは私の頭を撫でてくる。


 よし、やるだけやった…!


 しかしこれからマグに大目玉を食らうかと思うと、宿に帰る足取りは非常に鈍くなったのだった。



---------------------------------------------------------



 宿に帰ると、案の定、怒り心頭のマグからデコピンをされた。


「いたっ!?」


「ツナ……これは初回の罰だから……デコピン1回な……次に心配かけたら……2回……どんどん増やすから」


「う……ごめんなさい……」


 涙目で、額を抑えて項垂れる。


「いやマグ、今回悪いのは明らかに俺だろ、怒ってやるなよ…!」


 ユウは私を庇うように立ったが、決まり悪げに、しどろもどろな抗議をしている。

 次にマグは、ユウの頭をチョップするように軽く小突いた。


「イテっ!?」


「ほら、ビービンチョ切った……もう拗ねるのは……終わりな。もう二人きりの……旅じゃない……あんまりツナに……心配かけるな」


「わ、悪かった……」


「俺じゃなくて……ツナには謝ったか?」


「だいじょうぶ、わたしは、もう、あやまってもらったよ…!」


「ぷいぃいい、ではせっかくなので、ボクにも謝ってもらいましょうかっ、ささ、ユウさん? 土下座してください?」


「なんでお前が勝ち誇ってんだよ!?」


「ぷいぷいっ」


 ボール遊びを覚えたアンタローが、自らをボールとしてユウにぶつかっていく。

 ユウはコノヤローと言いながら、アンタローと乱闘を始めた。


「ツナ……世話をかけたな……」


 マグが、ユウを見ながら呟いた。


 この人はどこまで見透かしているんだろう?

 そういえば初日で私がお肉を食べられないことも見抜いたし、それだけ相手のことを見ているということなんだろう。

 やっぱり二人はいいコンビだな、と、改めて思った。



-------------------------------------------



 次の日の朝に目が覚めると、私の枕元にはユウに渡した手鏡が置いてあった。

 返却されてる…。

 ということは、うまくいった?

 ユウはどこかなとキョロキョロすると、朝のランニングを終えた元気な顔が、バターンと勢いよく入ってきた。


「なあ聞いてくれよ、すげーイイコト思いついた! ホットケーキ大食い大会を開こうぜ! アンタローが居りゃ無限に出てくるだろ!? 誰が優勝するかの掛け金とか参加料とかが無料で手に入るんだぜ、これは儲かる!」


「お前……無辜の民にあれを食わせるのか……鬼畜だな」


「ぷいいぃ、ユウさんはボクの腸内フローラの気持ちを考えたことがあるんですかっ? こき使うのではなく、敬うことから始めるのが正しい人間的な付き合いというものですよっ」


「お前人間じゃねーだろ!」


「待て、そもそも……腸内フローラとか言うな……生々しいだろ」


 ………


 ユウは、ちょっと元気がないくらいがよかったかな!




<つづく>




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