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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
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モンスター・テラリウム(2)



 プランクドンについていく途中で、草原の向こうに、巨大な二足歩行の牛、つまり、明らかにミノタウロスだろうモンスターが居るのが見えた。

 ティライトたちは身構えたが、一向に襲ってくる気配がない。

 私は意見を窺うように、宙に浮かぶハイドを見上げると、ハイドはコメカミに指を当てて、集中するようなそぶりを見せた。


(あれは、草食だからな。ウォーキングウィードを食べて生きているから、基本的に二足歩行の生き物は襲わないんだ)


 いきなりハイドの声が頭の中に響いた。

 ユウたちも「うおっ!?」といきなり驚いているから、あっちの方にも聞こえているのだろう。

 ハイドは、いつの間にか、念話を実用化させていたようだ。

 そうか、二手に分かれているし、大声を出したら認識阻害の魔法が切れてしまうから、こうして話をした方が早いと考えたのだろう。


(おっと、その様子だと、ちゃんと聞こえているみたいだね? 残念ながらこれは一方通行だから、会話はできないし、まだ完成途中だから、一度に全員に話す、みたいなやり方しかできない。けれど、この島の仕組みを説明する分には、こうした方が楽だろうから、付き合えよな)


 ハイドは、魔法がうまく行ったことに満足げだ。

 フィカスは一度こっちを見ると、OKサインを出して頷いた。

 そして、オークの死体を運ぶプランクドンたちを追うように、また歩き出す。


(あいつらは確か、ジャージーミノタウロスか、クロゲワミノタウロスか、マツザカミノタウロスのどれかだな)


 流石にマツザカミノタウロスに噴いた。

 食用に適したミノタウロスってどういう発想だよ!!!?

 これは、絶対に戦うのは阻止しないと…!!

 万が一食おうぜって話になったら、ユウの好物がハンバーグからミノタウロスになっちゃう…!


 ミノタウロスの方を見ると、どこか遠くの方角を見ながら、もっしゃもっしゃとウォーキングウィードがはみ出た口を動かしている。

 反芻してる……。

 あんな温厚なミノタウロスなんているんだね…。


「不思議な島だな……。魔物たちの共存というか・共生が叶っているとは」


 マグが興味深そうにつぶやいた。


 プランクドンたちの巣は森の中らしく、だんだんと森が近づいてきた。


(森か…。森はちょっと不味いな。手強い奴は大体森に棲んでいるからな。視界も悪い)


 ハイドは、少し表情を曇らせた。


 フィカスたちは一旦足を止めて、何かを話しあっている。

 しかし途中で、勘のいいユウが鋭く声を上げ、森の方へと向き直る。


「来るぞ!!」


 ザザザザザザッ、ザンッ!!


 プランクドンたちに運ばれていたオークの一匹が、衝撃と共に宙へと飛んだ。

 いや、よく見ると、何かが横取りをするかのように、オークの死骸を抱えて森から跳ね飛んだ。

 大きな猿だ。

 しかし、お猿さんだよ~っていう感じじゃない。

 「ポロリもあるよ!(斬首)」っていう感じのタイプだ。

 要するに、すごく目つきが悪くて、怖い。


(アサシンエイプだ! 二足歩行のものなら何でも食べる。単独行動を好むが、気をつけろよ、手強いぜ?)


 アサシンエイプは着地をしてすぐ、保管するようにオークを背後に隠すと、ティライトたちを獲物と認め、ゆっくりと臨戦態勢を取る。

 石を削って加工する知性があるらしく、石のナイフを構えている。


 ティライトは、先程のオークの時と同様に、前に出た。

 しかし今度は、「手を出すな」と言っているから驚きだ。


 あの戦い方で、サシで勝負とか、大丈夫なの…!?


「危なかったら手を出すからな!」


 と、ユウも心配そうにティライトの背に声をかけた。


「できれば魔法は使いたくなかったが…。俺も相手の力量を測れないほど“愚か”ではない。俺のすべてをもって当たらせてもらう」


 ティライトは、2戦目にして全力を出し切る気らしい。

 スラリと刀を抜き放ち、突き付けるようにして、アサシンエイプと対峙する。


「破落戸と武人のコンソート、我が姫にささげよう」


「ギイイッ!」


 ティライトが言い終わるか終わらないかのタイミングで、アサシンエイプは威嚇のような声を上げて、ティライトへと襲い掛かった。


   パチンッ。


 ティライトは、表情一つ変えず、左手の指を鳴らした。

 同時に、襲い来るアサシンエイプの顔の傍で、小さな光が、バチンとはじけた。


「ギッ!?」


 アサシンエイプが、その小さな衝撃に気を取られた時には、既にティライトの斬撃が、腹の横を通り過ぎていた。

 ティライトは、ただすれ違っただけのような動きで、アサシンエイプの腹を撫で斬る。


「へえ、うまいね。魔法っていう機構を、完全に斬撃を相手に入れるための補助にしている。初撃は面食らうだろうね」


 ハイドは、空中に腰かけるような姿勢のまま、のんびりと戦闘を眺めていた。

 ティライトは、ゆらりとした動きで、通りすぎたアサシンエイプを振り返る。


   ガチィンッ!!


 まるで、相手の動きを読んでいたかのようだった。

 振り向き様に、ティライトへ向けて振るわれていたナイフの一撃を、ティライトは刃で受け止める。

 アサシンエイプが力を込めると、先程つけられた傷口から、緑色の血が噴き出した。

 不意打ちが叶わなかったと察したアサシンエイプは、一旦体制を整えるために、大きく後ろへ飛びずさった。


「フン、“退く”か。武人にはできぬ動きだな」


 ティライトはそれを追いもせずに、また左手の指をパチンと鳴らした。

 しかも、一度ではなく、二度、三度と指を鳴らす。

 そのたびに、ぽつん、ぽつんと、蝋燭のような小さなともしびが、蛍のように空気中をふわふわと漂い始めた。


   ザッ!


 アサシンエイプは、それを警戒し、ティライトの周囲を回るように走り出した。

 それが一周を終えた頃、急にアサシンエイプの動きが変わった。


   ダンッ、ダンッ、ダンッ!


 まだ森の中に入っていないはずなのに、そこがまるで森の中であるかのような動きだった。

 アサシンエイプは、木々を蹴るかのように、空気を蹴って、縦横無尽な動きを始めた。


「あれは……魔法か?」


 マグが、その動きを追いながらつぶやくと、ハイドは頷いた。


「そういうことさ。魔物でも、自分の中にある魔石を利用して、本能的に低級の魔法が使えるヤツが居る。ぼくがアサシンエイプを手強いと評した理由はアレだ。単純に、一瞬空気を固める程度の魔法だけどね。ああいう使い方をされると、ちょっとうざったいよな」


 ハイドは、完全に他人事のようにそれを評した。

 しかしティライトは特に焦った様子も見せず、パチン、パチンと指を鳴らし、蛍火を増やしていった。

 ある程度までそれを増やすと、納刀し、居合の構えを取る。

 目で追いきれないのか、アサシンエイプの動きを見ている様子はない。

 いや、それどころか、目を閉じている。


「ティライト…!!」


 私はもう、ハラハラし通しで、思わず小さく名前を呟いた。


「……そういうことか」


 マグが、何かを察したかのように言葉をこぼした、その瞬間だった。


 私が瞬きをした瞬間、アサシンエイプは、上下が分かれ、真っ二つになっていた。

 軌道を見る限り、ティライトに襲い掛かったようだった。

 断末魔を上げることもなく、ゴロリと胴体が地面を転がる。


「えっ、あ……な、なにが、おこったの?」


 私はびっくりして、二度、三度と瞬きをした。

 アンタローは、血飛沫とかを見てから、相変わらずプルプルと震えて、もろもろと粒をこぼした。


「フン。これが我が父ヴェルタイガ直伝の技、サーチライト・デストロイだ」


 ティライトは、相変わらず、かっこよくポーズを決めている。

 マントがバサバサと風に翻る。


「あの蛍火で・アサシンエイプの動きを誘導したんだ。一度痛い目にあっているからな・避けると踏んだのだろう。一撃が来る方角がわかっていれば・あとはそこに斬撃を置くだけだ。最も、タイミングを計るには・相手の殺気を察知する必要があるが……そのために目をつむっていたんだろうな」


 マグが説明してくれて、私は「へええ」と感銘を受けた。


「いいや、それだけじゃないぜ? あの蛍火には、攻撃力はない。熱源をサーチするっていう、ただそれだけの機能しか持たせていないみたいだね。あれなら、目で追いきれない動きも、感覚で追うことができる。アイツ、結構攻撃的な性格のクセに、意外に補助魔法の使い手だったんだな。そして、戦闘方法も、緻密に計算されている」


 ハイドの説明に、改めてティライトの方を見た。

 ちょうど、刀についた血糊を、一閃して払っているところだった。

 計算で戦うタイプということは、心の赴くままに戦うユウとは、確かに相性が悪そうだ。


 ティライトは、私の視線に気づいて、真っすぐにやってくる。

 私の目の前で立ち止まると、暖かな視線を投げかけてきた。


「ナツナ。どうだった?」


 なんでいちいち私の感想を求める儀式があるの!!!?

 しかし、まさか瞬きしたら終わっていたとも言えない。


「え…と…!! すごかった…!!」


 力説をするように、こぶしを握り締めて言う。

 するとティライトは、今度は満足げに微笑んだ。


「そうか…。いい島だな、気に入った」


 フィカスたちも、ティライトと一緒に戻ってきた。


「いつティライトの動きが止まるかと、冷や冷やはしたがな。倒しきれてよかった」

「やるじゃん、ティライト!」


 フィカスとユウが、口々に健闘をたたえている。

 ティライトはまんざらでもなさそうだ。


「よし、この調子で魔物共を根絶やしにするか」


 この島を気に入ったのではなかったの!!?


「ま、待って…!」


 思わず止めてしまった。


 ティライトは、不思議そうにこちらを見る。


「どうした、ナツナ。何か問題でもあるのか?」


 ストレートに聞かれたので、私もストレートに行くことにした。


「…ハイド、この島って…。ひょっとして、ハイドの知り合いが作った島なんじゃないの?」


 私の言葉に、全員がハイドに注目する。

 ハイドは、少し驚いたようだった。


「…ナっちゃんさ、普段はトロいくせに、こういう時だけ鋭くなるのは何なの? まったく、ナっちゃんは相変わらず手強いぜ…」


 ハイドは、ごまかすような口調で、どこか遠くの方に目を向けた。

 私たちは、追及せずに、ただハイドが喋るのを待った。


「……ま、正解だよ。このモンスター・テラリウムは、ルエリアっていう、ぼくの生物学上の父親が作ったのさ」


「え!?」

「ルエリア!!?」


 私の驚きは、ユウの声にかき消された

 ユウは、ずいっとハイドに詰め寄っていく。


「ルエリアって…あの知略の魔王ルエリアか!?」


 ハイドは、静かに、どこか諦めたような顔で、ユウに頷いた。


「……そういうことさ。どうせ、お前らも…」

「すげえ!! ハイド、魔王の息子だったのか!!」


 被せるように食いついてくるユウに、ハイドはポカンとした顔を向けた。


「すげえ、って…。お前さ、そこはぼくのことを嫌いになる場面だろ?」


「へ? なんでだ? すげーじゃん、何代か前の、伝説の魔王だぜ!? しかも、本に残るくらいの! あれってホントのことだったんだなーってなるだろ、普通!」


「……はああ? 赤毛さ、頭わいているんじゃない?」


 ハイドは、戸惑いがち…といより、引き気味に宙を漂った。


「どういうこと、ハイド、目が覚めたら、お父さんが魔王だったの?」


 私が思わず聞くと、ハイドは、しぶしぶ頷いた。


「…ああ。人間の図書館を覗いて、驚いたぜ。ルエリアは、昔から思索ばかりしていたからな。こんな風に、魔族が残らない未来を予想していたんだろうね。だからきっと、少しでもその未来に抗おうとして、魔王になったんだろう。あの頃は、ジェルミナールさえ潰せば何とかなるって言っていたからな。叶わなかったわけだけれど」


「目が覚めたら…ということは、ハイドはずっと眠らされていたとでもいうのか?」


「…そういうこと。ぼくもあの頃は、か弱い子供だったからな。お前は平和な未来に行け、ってさ」


 フィカスの言葉に、ハイドはなんてことのないように答えた。

 フィカスは、「とんでもないスケールの話だな」と、呟いた。


「…ならば、“根絶やし”など、もってのほかだな。魔石を回収したら、とっとと去るか」


 ティライトが、即座に予定を変えた。

 ハイドは、驚いてティライトを見る。


「……いいのか?」


「いいも何も、親の残した“遺産”だろう。他人が踏み荒らすなど、あっていいわけがない。何百年も先まで残るように配慮されているシステムだ、魔族勇者への“愛”を感じる。俺としては、魔物と戦ってみたいという願いが叶ったわけだしな。目標は果たしたし、魔族勇者には感謝しかない。そもそも、どうして俺たちをここへ案内した?」


「そうですよハイド様! 大事な思い出の場所なんでしょう? 大切なものを守る気持ちに、魔族も人間もありません! もっと声を大にして、ああしろこうしろと、言ってもよかったんですよ!」


 ティライトの言葉に、ルグレイも乗っかる。

 なんていうか、ティライトってこういう感覚は凄くまともなのに、なぜ時々謎の行動をするんだろう?


 ハイドは、ずっと戸惑っているようだった。

 やがて、うつむきがちに、小さな声で喋り始める。


「……ここには、何度か、来ようと思っていた。だけど、怖くて、できなかった。だって、あれからもう、何百年も経っているんだぜ? もし、何も残っていなかったらどうしようかと思うと、一人で確かめに来ることができなかった。ルエリアが編んだテラリウムだ、絶対にきちんとした形で残っているはずだ、とは思っていたけれど…できなかった。お前たちは、ぼくに利用されたんだよ」


「ハイド…」


 ぽつぽつと話されるハイドの本音に、私は泣きそうになった。

 内容もそうだけど、何より、ハイドが、みんなの居る前で、本音を出したことに、純粋に胸を打たれた。

 それほどまでに心を痛めているのだろうかと、心配になった部分もある。


「わざわざ悪い言葉を使うのはよせ……。利用と言いながら・テラリウムが踏み荒らされたとしても・止める気はなかったのだろう?」


 マグが優しく声をかける。


「それは…。別に、そうなったらなったで、それがこの島の終わりの時かと思うだけだ。終わりが来るのは、自然なことだ。魔族だって、ぼくで最後なんだから」


 ハイドは、またぽつぽつと返事をした。

 フィカスが、おもむろに、ハイドへと地面を示す。


「ハイド、ちょっと降りて来い」


「……?」


 ハイドは訝し気にフィカスを見たが、そのまま素直に、フィカスの前の地面に降り立った。

 フィカスの方が背が高いので、フィカスを見上げる形になる。


「いいか、ハイド。お前は俺たちに、仲間の大事なものを壊すような、ならず者の破壊者と同じことをさせるところだったんだぞ。本当に相手を大事に思うなら、どちらかが我慢するような関係にするべきじゃない」


 フィカスは優しくハイドを叱る。

 二人の身長差は10センチくらいのはずなのだが、なんだか今は、ハイドの方がずっと子供のように見える。


「…大事に思うって、…自惚れるなよ。別にぼくは、お前たちの仲間でも何でもない…」


 ハイドが言い終わらないうちに、フィカスはぐしゃぐしゃと、ハイドの頭を撫でた。


「わっ、な、なにするんだよ!?」


「唐突に撫でたくなっただけだ。許せ」


 フィカスは、悪びれずに言う。

 ハイドは、警戒するように、フィカスから離れた。


「まったく…ゴーグル、お前、でかい図体して、精霊とやることが一緒って、恥ずかしくないわけ? ナっちゃん、あとでまた、ぼくにブラシをかけろよな!」


「…うん、わかった!」

「ぷいぃっ、ハイドさん! アンタローですよっ! 粒漏れ餡太郎! まったく照れ屋さんなんですからっ!」


 思わず、みんなで笑い声をあげた。


 そうしている間に、プランクドンたちが、またピンピン跳ねながら、アサシンエイプと、オークの死骸に集まってくる。


「ハイド……道中で・この島の仕組みについて・教えて貰ってもいいか? 丁寧に組まれた生態系だ・とても興味深い」


 マグの言葉に、ハイドはちょっと驚いたような顔をしたが、すぐに、牙を見せて笑った。


「いいぜ、みっちり講義してやるよ。ただ、赤毛は聞かない方がいいんじゃないか? 途中で寝られたら困るだろ?」


「ったく、お前ってホント俺にだけ当たりが強いよな!」


 ユウは、わざと大袈裟に憤慨している。


「それよりも、魔族勇者、俺たちにも“認識阻害”の魔法とやらをかけてくれ。ここからは戦わない方がいいだろうしな」


 ティライトはマイペースに話を進めている。

 ハイドは、フィカスから距離を取るように、また宙に浮きあがり、口の中で手早く呪文を唱えて、ティライトに言われた通りにした。

 そして、プランクドンたちについていくように、先頭を行く。


「いいか、まず、あのプランクドンたちが、最底辺で、数もたくさんいる。プランクドンを食べるのは、シュリンプフィッシュだ。シュリンプフィッシュを食べるのは、オークたちだな。オークたちを食べるのは、アサシンエイプ。これが、第一類だ。次に、ウォーキングウィードをはじめとする二類があって、それを食べるのはミノタウロス系。それとは別に、寄生虫が居て、それに寄生されたものは、森のボンビングクレオソートに自ら食われに行く仕組みになっていて……」


「…???」


 私とユウは、途中からハイドの説明についていけなくなった。

 だけど、「うんうん」とか、「なるほどー」と相槌は打っていく。


 マグとフィカスとルグレイは、とても興味深そうにしていた。

 ティライトは無言で、何を考えているのかはわからない。

 ひとまずは、平穏な移動となった。




<つづく>



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