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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
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第6地区の行く末



 小学生の頃、憧れていたお姫様は、何やっても褒められそう、とか、ちやほやして貰えそう、とかの、ふわっとしたイメージで、綺麗なドレスとか、豪華なお食事とか、そういうのよりも、褒められさえすればなんでもいいなーとか思っていた。

 しかし私に待ち受けていたのは、「心臓を抉り出せやぁ!」とかいう、容赦ない試練だった。


 いや、現実ならわかる。

 現実なら、王族とか、偉い家柄の人とか、絶対大変って思う。

 しかしこれは、フィクションではないのか。

 なんか…想像してたのと、話が違うって思っても、仕方がない…よね?

 もうちょっと、お花畑な話でも、いいんだよ…?


 その日は、やたらそういうことを思いまくる夢を見た。




 私が体調を崩したことで、クランは、今日は地上に帰らずに過ごすことを提案してきた。

 しかし、私はともかく、ユウたちの寝るところとか、お風呂とかが用意できないということで、晩御飯を頂いたら、フィカスの魔力を使って、地上に戻ることになった。

 最初はルグレイが魔力を使うと言っていたのだが、ルグレイはまだ不慣れな身体コントロールに魔力を消費していて無理だろうという話になったからだ。

 前から思っていたんだけど、フィカスって、細かい気遣いができる人だよね。


 帰る前に、使用人と料理長を呼び出して、持ってきた物資を使って、明日は早朝から大量のパンを捏ねて貰うことになった。

 小麦粉と、ドライフルーツ、そしてナッツ類を、ユウたちに王宮の台所へと運び込んでもらう。

 そして、私がこっそり作っておいた、ドライイースト生成魔法で出した魔法の粉を、大きな瓶に詰めて渡す。

 これを使ってくださいと添えて。

 これで、明日私が王宮に上がった時には、発酵済みのパン種がたくさん台所にある状態になるはずだ。


 クランの話では、貧民街…ではなく、開拓村には、大きな共同の竈を一つ、作っておいたらしい。

 共同の調理場もあるそうで、炊き出しのスープもそこで作ろうという段取りになった。

 騎士団長のキツリフネには、運び込むための人手を用意してもらう手はずとなっている。

 たぶん、これから一週間くらいは、この流れが日課になる。


 地上の屋敷に戻ると、今度は小道具作りだ。

 私がやるよりも、マグの方が器用なので、結局私はソファーで休ませてもらいながら、指示をするだけの人になってしまった。

 次に天界へ上げるための食料も、小分けにして庭に並べておく必要がある。

 フィカスは、早速会議の時に商売をしてきたらしく、黒天号に乗って、ニヴォゼの宮殿に色々と取りに戻っていった。

 「次は黒天ではなく、魔道車で来る必要があるな」、とぼやいていた。


 私はみんなが見ていないうちに、こっそりと、コンソメ顆粒生成魔法を使って、明日に備えておく。

 この調味料魔法は、24時間くらい具現化できればいいかな…いや、念のため48時間かな…とか、色々と思考錯誤して、瓶に詰めていく。

 なんだかんだいって、こういう地味でしょうもないことに創造魔法を使うのが一番好きかもしれないなあ、私。


 みんな大忙しで、一日が終わった。

 私は楽をさせて貰っていた割に、ティライトに剣を突き付けられたことがよほどショックだったらしく、先ほどの、弱音のような夢を見た…ということらしい。


 最初にこの世界に来た時は、夢なんて見なかったはずなのに。

 最近、夢を見るようになってきている気がする。

 私は、どんどん、この小説の世界に馴染んでいっているのだろうか…?

 …いや、今はそんなことを考えている暇はない。

 とにかく目の前のことをやっていこう。



 朝、目が覚めると、マグのチェックが入る。

 熱がぶり返したりはしていなかった。

 なので、ジェルミナール二日目は、開拓村で、開拓作業だ!

 よーし、頑張るぞ!



-------------------------------------------



 パンの焼けるいい匂いが、辺りに広がる。

 干し肉と乾燥豆のコンソメスープも、大鍋となるとかなりの力仕事が必要で、ユウは額に汗しながら、大きなお玉で中身をかき混ぜてくれている。

 キツリフネが連れて来た騎士見習いの人たちには、手順ややり方を覚えてもらうために、見学をして貰っている。

 クランが教えてくれた共同キッチンは、屋根があるだけの、屋外にあった。

 そのため、匂いを嗅ぎつけて、住民たちが、わらわらとやってくる。


 小学生の時、両親が共働きで帰りが遅かったので、私は、常に飢えていた。

 そのため、台所にあった、きな粉や片栗粉、そして歯磨き粉を舐めて、飢えを散らして誤魔化してきた。(成長してからのことだが、歯磨き粉を食べると、中毒になったり、健康を脅かしたりすることがあると知った)

 カツオブシがあった時は、一番の御馳走に感じた。

 少しでもお腹に入れておかないと、その後に待っている、お習字やピアノなどのお稽古事で体が持たないから、必死に台所を漁った記憶がある。

 なので、お腹空いたなー、つらいなー、という、わびしい気持ちは、それなりにわかっているつもりだ。

 だから、一人でもお腹空いたなーって人が減ると、かなりの自己満足で嬉しい。


 ここの住民たちは、変な言い方になるが…配給を受け慣れているように見える。

 こちらが指示しなくても、自分の木のお椀を持ってきて、行儀よく、列を作って並んでいく。

 お椀を持っていない人には、新しいお椀にスープを注いで渡す。

 そして、ドライフルーツのパンか、木の実の入ったパンかを選んでもらう。


 キツリフネが教えてくれたのだが、私は上座でイスに座っているだけでいいらしい。

 ジューンがよく、そうしていたそうだ。

 とりあえず、いつもと違うことをして警戒をされては困るので、私はアンタローを膝に置き、前例に従うことにした。


 そして私の隣には、マグが昨日作った小道具を持って、じっと立っている。

 小道具とは、文字の書かれた看板だ。

 『この文字が読める人は、食事を済ませ次第、集会所に来てください。今後についての大事なお話があります』と書いてある。


 うまく行くかどうかわからないが、これについては向こうから動いてもらうしかないので、こうするしかなかった。

 これで、文字の読み書きができ、なおかつこちらに不信・不満を持っていない人が集まってくれるはずだ。

 まあ、別に不満を持っている人が来ても頑張るけど…!

 集会所には、先にキツリフネに待機して貰っている。


 「ほら、零すなよ」「ああ、婆ちゃん、熱いから気をつけてな?」と、ユウはお椀にスープを注ぐたびに、にこやかに住民に話しかけている。

 パンを配るフィカスは、「落とさないようにな」とか「焼きたてだぞ」と、いつもの調子だ。

 ルグレイはパン窯に張り付いて、見習い騎士たちに、パンの焼き方を指導している。


 スープとパンが余ったら、私たちのお昼御飯になる予定だったのだが、これは…余りそうにない。

 なぜなら、たまに2ループをして並んでいる人もいるからだ。

 私はすることがないので、じっと人の顔を見ているから、「あ、さっきの人だ」とわかる。

 しかし、そういうことをする人は、その場で食べずに、家の方に持って帰って行っているところを見ると、たぶん、体調を崩して動けない人の代わりに配給を受けているのだろう。

 もしそうなら、この街の絆は、かなり深いのではないだろうか。

 だとすると、今回の作戦は、うまく行くかもしれない。


 2回並んでも怒られないことを悟った子供たちは、隠しもせずに「2回目です!」とユウに言いながらお椀を差し出してくる。

 ユウも私も、ついニコニコしてしまった。


「いいけど、初回だけだからな? 今回だけは、多めに作ってきてるからさ」


 ユウはにこやかに釘をさすと、その子はちょっと恥ずかしそうにしながら、それでも嬉しそうにお礼を言って去って行った。


「ぷいぷいっ、ツナさんツナさん、ボクも並んでみたいですっ」


 アンタローが、小声でこそっと意地汚いことを言ってくる。


「アンタロー、今は我慢したほうが、あとでご飯がもっとおいしくなるよ?」


 私もこそっと小声で返した。

 アンタローは、しゃきっとして、「あとで食べますっ」とやる気を出している。


「ぷいぃいっ、ツナさんツナさん、いいことを思いつきました!」


 アンタローは暇なのか、今日はやたら話しかけてくる。


「ボクが、ここで巨大化をして差し上げます! そうしたら、おしりから出るホットケーキも、大きくなりますよ?」


「えっ、そのホットケーキは、どういう目的で出す予定なの?」


「あの子供達に食べさせてあげます!(キリッ)」


「おしりって言ってる時点でアウトかな~」


 見習い騎士たちは、遠くのほうから、王族の私にキラキラした目を向けてくるが、まさか尻の話をしているとは夢にも思うまい。

 そんなしょうもない会話をしている間に、スープ鍋は空っぽになり、私たちは集会所に移動することになった。

 見習い騎士たちは、午後の配給準備を任されて、大鍋を持っていったん王宮に戻っていく。


 集会所に人が集まってるかどうかが、最初の賭けだった。



-------------------------------------------



 衣食足りて礼節を知る、という言葉があるが、クランが最初に手掛けたのは、一番時間がかかりそうな、住からだった。

 食料の配給をしつつ、住が足りれば、衣につながるということなのかもしれない。

 結果的に、私たちはそこを省いて行動ができるので、大助かりだ。


 第6地区は、おかげでまだ新しい住居がたくさんある。

 集団に対するフォローという形で街づくりは進められており、先程の共同キッチンをはじめとして、お湯を引いての共同浴場、孤児院、集合住宅、そして集会所など、大きい箱を点々と置いてあるような街だった。

 新しいため、思ったほど汚くはなかった。


 驚いたことに、天界では、木材の家はなく、すべてが煉瓦や石造りだ。

 というのも、木材がかなりの貴重品だからだそうだ。

 確かに、広い地上と違って、限られた面積にしか木は生えない。


 ジェルミナールの大地は、日本で言うと、都道府県のうちの一県が、丸ごと浮遊しているくらいの大きさで、その大地の3分の1の面積が街だった。

 ゆえに、6つに分けられた一つ一つの地区は、市町村くらいの大きさがある。


 ジェルミナールは、天空王国を名乗って何百年も経つ。

 資源というものは、育つよりも、消費される方が早いことを考えると、かなり枯渇しているのではないだろうか。

 木材は貴重品のため、フェザールの住む天空樹を剪定した枝を買い取る取引をしているくらいらしい。

 つまり、植物紙もかなりの貴重品なのだ。

 そのため、私たちはまず、植物紙を地上から大量に持って来ることにした。

 フィカスはこれで一儲けする予定らしいが、今日の所は、会議で大量に使う予定だ。




 集会所は、ほとんど使われた形跡がないくらい、新しかった。

 それはそうだろう、食べることもままならない生活で、何を話し合えというのだろうか。


 そして、集会所の扉を開けて、私は驚いた。

 思った以上に、人が集まっていた。

 テーブルや椅子はない、座って話し合うスタイルの集会所で、第6地区の人たちは、団子になっている。


 ちなみにユウは、「ちょっとチビどもと一緒に遊んでくらあ! このボール借りるぜ!」と言って、アンタローを連れて、子供たちのところへ行ってしまった。

 なので、私、マグ、フィカス、ルグレイで、上段の、ステージ状になっている席に着く。

 キツリフネは、出入り口近くで、じっと佇んでいた。


「本日はわざわざお集まりいただき、感謝申し上げます。わたしは、ラズベリー・ジェルミナールと申します。王位を継ぐことになりましたので、まずはご挨拶に伺いました」


「挨拶…? 王族がわざわざ…?」


 頭を下げる私に、第6地区の人々は、ざわついた。


「手短に申し上げますと、わたしの目標は、この第6地区をどうにかすることです。父が、諸事情で、道半ばのまま頓挫してしまいましたので、わたしがそれを引き継ぐことになりました。もちろん、不信や不満はあると思います。おそらく、今回のことも、また気まぐれのように途中放棄するのではないかという疑念も、甘んじて受け入れるつもりです」


 何か攻撃的なことを言われるかと覚悟していたが、とりあえず反論はなかった。


「しかし、わたしの目的のためには、まず皆さんにご協力していただけることが、第一の関門となっております。もし、協力をしていただけるなら、今後は衣食住に困らない生活を約束してみせます。ひとまずは、こちらの質疑に答えていただけると大変助かるのですが、いかがでしょうか?」


 第6地区の人たちは、ざわざわと顔を見合わせている。

 すぐに頷きあい、そして代表者であろう中年男性が、座ったまま、ずいっと前に出てきた。

 驚いたことに、よく見ると、その人の髪は淡く光っている。

 魔力持ちの人だ。


「姫様、私はウイキョウと申します。元貴族ですが、父が財政を破綻させ、このような場所に身を落とした次第にございます。…この場に集まった者は、大なり小なり、上の位から、この環境に落とされた者ばかりです。ですから、クラン陛下がここを何とかしようとしていたことも、まるで魔女の呪いを受けたかのようにお人が変わられたことも、多少は存じております。そして、その魔女が先月投獄されたことも」


 そういえば、その辺の話はすっかり聞きそびれていたけど、呪いのことも国民に発表していたのか…。

 その辺りをもう済ませているということは、本当に、私には新しい政策に集中させてくれるつもりなんだなあ。


 ウイキョウは、話を続ける。


「そのうえ、陛下は病床に臥せっておられるとか…おいたわしい。姫様、ご安心ください。色々と言う人もいるでしょうが、かつて陛下のお人柄に触れたことのある私たちは、陛下のお言葉を疑ってはおりません。途中放棄につきましても、なにぶん、事情が事情ですからね、この住環境を整えて頂いたことへの感謝はあれど、憎しみを抱いている者は、この場にはおりません。風をしのげる環境にて、浴場ができたことで、病気になるものが何人減ったことか」


「…では、ご協力をいただけるのでしょうか…?」


「はい。病床のお父君に変わって奮闘なさる姫様を、誰が追い払ったりなどするでしょう? それに加えましても、本日の恵みを受けたことへの、当然の恩返しでもございます。それに姫様からは、ここだけの話、何と申しますか…ジューン様と違い、高圧的なものを感じませんしね」


 …よかった。

 ひとまずは、比較対象になってくれたあの姉のおかげで、第一関門を突破できたようだ。


「第6地区の方々からは、何か絆のようなものを感じるのですが、仲はよろしいのでしょうか?」


「はい、このような環境のため、助け合わないと生きてはいけませんからね。例えば、馴染みにしていたパン屋から売れ残りを貰ったりしてくる者も居れば、酒場の店主と繋がりを持つものなどは、野菜クズを貰ってきたりしながら、日々をつないでいる次第でございます」


「…なるほど、独自のネットワークをお持ちなのですね。では、この街の住民のことも、隅々までよくご存じと思われます。そこで、まず、これを見ていただきたいのです」


 マグが、スっと看板を掲げた。

 そこには、こう書いてある。


『マグシラン、 年齢22、 男、 特技:手先を使う仕事、 希望給:日当5000エーン・ただし30日なら10万エーン、 備考:力仕事もできる』


 第6地区の人たちは、ハテナを浮かべながら、その文字列を眺めている。


 いやあ、この世界に来て初めて10万っていう単位を見た気がするよ、感慨深い。

 私はすかさず説明を被せた。


 これから行う政策で、ジェルミナールの各地区がどうなっていくか。

 それに対して、どれほど人手を必要とされるか。

 経済の輪に、この第6地区を組み込むつもりだということ。

 それらを、じっくりと説明していった。


「ですから、みなさんには、日雇いの派遣業務を行ってもらう形で、やっていただくのがいいのではないかと思っています。そのための、派遣人員リストの制作を、このようにお願いしたいわけです。それを雇い主にお配りする予定なので、同じものを数十部お願いしたいのです」


 と言いながら、マグの持っている看板を示した。

 フィカスが、大量のまっさらな紙束を、ウイキョウへと差し出す。


「さらには、ウイキョウ様には、代表として、第6地区全体の金銭の管理を行っていただきたく思います。つまり、日雇いで発生した金銭は、ひとまずウイキョウ様がすべて管理していってください。この地区の絆を見る限り、稼ぎのない人への差別は行われないものと思われます。それを使って、いずれは日々の食事を自分たちの力で補うところまで行って欲しいのです。ただ、この一ヵ月は、今日のように、わたしの方で食事の保証をいたします」


「……なるほど」


「また、同じように、契約書を大量に作っていただきたいのです。働き手に理不尽な暴言や暴力がなされた場合の罰則なども、そちらで決めていただいて構いません。最終的には、王室の判を押しますので、雇い手もないがしろにはしないでしょう」


「しかし、貧民への嫌悪が、そう簡単に無くなるものでしょうか?」


「雇い手が貴族ならばその危険性はありますが、一般層や、ギルドが雇い手ならば、目線は和らぐでしょう。もちろん、こちらでも、第6地区…いえ、開拓村の住民を雇うことに対して補助金などを出す、などを行い、雇われやすくはしていくつもりです。とにかく、この1年は、開拓村の住民に対して、金銭を払うことへの抵抗を無くすことを目標としていきます。習慣化すると、人間は案外慣れますからね。ですから、王室から直接的に、この村にお金が流れるようにはいたしません。かなり遠回りな政策で申し訳ないのですが…」


「いえ、とんでもない。理にかなっているように思います」


「ありがとう存じます。門番にはウイキョウ様の名前で話を通しておきますので、リストができ次第、王宮にお持ちください。あとは、身だしなみですね」


 これは、完全に失念していた。

 普通に考えたら、一張羅を着潰して生きていくしかないのは目に見えていたはずなのに、それどころではなかった私は、完全にそこを見逃していた。

 元貴族というウイキョウですら、擦り切れて汚れた服を着ている。


 私が困っている気配を察したのか、フィカスが口を出してきた。


「姫様。それならば、商人である私に多少のアテがございます」


「本当ですか? では、頼らせていただきますね」


「はい。ウイキョウ様、流石に一人一人に合うサイズをご用意するのは至難なため、大量の衣服を、この集会場に積んで置き、そこから一人一人に選んでもらう、という流れでよろしいでしょうか?」


 フィカスが、ゴーグル越しの目線をウイキョウに向ける。


「それはもちろんです、こちらにはありがたい話ばかりで、大変助かります」


 ウイキョウはフィカスに頭を下げた。


「では、そういうことで、いったん話は纏まったと判断させていただきますね。さて、この派遣制度についてですが…。おそらく、持つのはこの1年が限界でしょう」


 ウイキョウが、不思議そうな目を向けてきた。


「1年が経ち、街の発展も一段落着く頃を想像してみてください。一般層の働き手より、皆さんは安く雇える上に、王室から補助金も出るとあれば、雇用は開拓村に集中していく未来が待っているでしょう。そうなると、競合相手として一般層から恨まれてしまう可能性が出てきます。それはお互いに避けておきたいことと存じます」


「それは…確かに」


「ですから、この1年の間に、この開拓村を観光地か何かにでもできればいいなとは思っているのですが…その辺りは、まだ思いついてはおりません。ひとまずはこの派遣業務を時間稼ぎとして、おいおいやっていけたらいいなと思っております」


「かしこまりました。では、私どもが行うことは、ひとまずはリストの作成ということになりますね」


「はい、そうなります。ただ、開拓村の人数を把握しておきたいという部分もありますので、できれば全員の名を書き連ねていただけると、大変助かります。子供と老人、そして怪我人は、簡単に雇えない額、または雇用不可での明記をお願いいたします。ただ、怪我人の方も、ひょっとしたら治験などの雇われ方をする未来も出てくるかもしれませんので、一応働く意欲があるかどうかのチェックはお願いします。大変な作業となりますが…」


「いえ、これからを思えば、それは大した手間ではありませんし、文字が書ける者はここにこんなに居ますからね。ありがとうございます、姫様。久しぶりに、未来に向けての希望が見えてきた気がします」


「それなら喜ばしいのですが…。料理ができる方や、子供に文字を教えられる方などは、開拓村の中で確保しておいてくださいね」


「ああ、そうですね。ある程度資金が溜まれば、この村の中で雇用の輪を作ることも可能ですからね」


「そういうことになります。こちらとしても、料理のためにずっと騎士を派遣してはおけませんからね。…では、こちらからは、以上となります。お付き合いいただき、ありがとうございました」


 よし…これでたぶん、なんとかなったと思う。

 急ピッチで進めた割には、そこそこうまく行きそうな気配がして、一安心だ。

 …クランの治世の恩恵があったから、うまく行ったのかな?


 あーー、靴を脱いで寝っ転がりたい!


 私は「では…」と言って、そそくさと立ち上がった。

 そこからは、自室に帰ることばっかりを考えていた。


 ルグレイはそれに気づいたのか、「あとちょっとの辛抱ですよ」と言って笑っていた。

 恥ずかしかったが、なんとなく報われた気持ちになった。




<つづく>




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