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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
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ティランの悩み



 みんなが買い出しの荷物を片付けると、いったんリビングで今後のことを話そうということになった。


 テーブルを囲むように配置されたソファーで、ハイドは仰向けに寝転がるような姿勢で、ソファーを丸々一つ占領している。

 足を肘置きに投げ出して、どこからか取り出したリュートを、手慰みにいじっている。


「そういえばハイドって、楽器を弾けたんだね」


 私が隣のソファーからハイドの方を窺うと、ハイドは「当然だろ」と鼻を鳴らした。


「ぼくは天才だからな。一人で過ごすことが多かったし、これくらいは弾けるさ。人間はがちゃがちゃした騒音ばかり生み出すかと思えば、こういったものも作るからな。つくづくカオスな種族だよ。…ああ、時間さえあれば上手に弾けるようになる、なんて勘違いするんじゃないぜ、ナっちゃん。ナっちゃんのあのオカリナが上達する未来なんて、流石のぼくも想像できない」


「もうっ、ハイドはすぐにそういうこと言う…!」


 私がちょっと怒ったように睨みつけても、ハイドは涼しい顔だ。

 そんな私たちを、みんな温かい目で見守ってくれている。


「そういや、特になんも考えずにいつも通りに食材を買ってきちまったんだが、ハイドって俺らと同じもんを食うって認識でいいんだよな?」


 ユウが、確認するようにハイドを見ると、ハイドはめんどくさそうに答える。


「なんだよ赤毛、お前も悪魔は人間の生き血しか飲まない…なんて言い出すわけ? 安心しろよ、雑食さ。ぼく個人の嗜好としては、ナっちゃんと同じく、果物を食べて過ごしてきたけれどね」


「だああっ、お前さ、前半の部分は必要なかっただろ…!? つっかかってくんなよ、可愛げがねーな!」


「お生憎様、ぼくは野郎に可愛がられてやる趣味はないんだよ。まったく、自分の思い通りにならないからって文句を言うなんて、集団生活をやっていく気はあるのかい?」


「こいつ…!」


 ユウが何かを言う前に、いきなりルグレイが立ち上がって、ずいっとハイドの方に身を乗り出した。


「ということは、ハイド様、一緒に暮らす決意をされたのですね! 嬉しいです、ハイド様がいらっしゃれば、一体どれほど心強いか…!」


「…っ!?」


 ハイドが驚きで弦をひっかいて、リュートから変な音がした。


「それは…まあ。ナっちゃんがどうしてもって言うからな、仕方なく一緒に居てやるんだよ。けれど、赤毛がぼくを追い出すなら、今のうちなんじゃない? まだ全員の情が移る前に…さ」


「馬鹿言うなよ、追い出す気なら、そもそも入れねーっつの」


 ユウは、ちょっとむくれながら、ソファーに深く身を沈め、足を組む。


「ぷいぃいっ、今の変な音、もう一度やってみてください!」


 ユウの頭の上から、アンタローがぴょーんとテーブルの上に乗ってきた。

 興味津々にハイドの手元を見ている。

 ハイドは、戸惑いがちにアンタローを見返す。


「……いやだよ。弦が痛む。あっち行けよ、精霊」


「ハイドさんハイドさん、ボクは粒漏れ餡太郎ですよ! ツナさんがつけてくれた名前です!」


「…それは、シークの時に聞いた」


 ハイドは、どうでもよさそうに返事をするだけだ。


 アンタローは、「まだかな? まだかな?」という視線をハイドの手元に向けて、わくわくと音が鳴るのを待っている。


「おい、精霊、気が散るだろ。あっち行けって、…弾いてやるから…」


「ぷいぷいっ、おやおや、まったくハイドさんってば、人の名前も覚えられないのですか? アンタローですよ、アンタロー!」


 アンタローは、「おやおや」「おやおや」と言い続けながら、シュッ、シュッと反復横跳びを始めた。


「……っ」


 そろそろハイドの中の何かが切れそうと察した私は、慌てて別の話題を探してさっと周りを見渡した。

 黙々と武器の手入れをしているマグに目が留まる。


「マグ、それ! ……あれ? いつもの剣じゃないよね…?」


 完全にちょっとした話題探しのつもりだったのだが、いつもの銀のダガーではないことに気づいた。


「ああ。銀のダガーも・銀の弾丸も・もう必要なくなったからな……。売り払って・趣味に合致したものを購入した」


 マグの返答に目を見開いて驚いていたのは、私ではなく、ハイドだ。

 マグはそれに気づいているのかいないのか、陶然とした目を、新しい剣に向けている。


「これはクリスナーガという剣だ。美しいだろう…。曲線もいいが・特にこの表面の刃紋が最高でな……」


 マグはまた、とうとうと語り始めたが、私はそれよりも、むずむずとしている口元を無理やり引き締めようとするハイドが気になって仕方がなかった。

 …嬉しいのかな?


「おい! 今後の予定を話すんじゃないのかよ…!!」


 いきなりハイドが大きな声を上げて、まだまだ続きそうなマグの武器語りを遮った。


「ああ、そうだったな、すっかり忘れてたぜ。新年までの一ヵ月を、どう過ごそうかって話をしようとしたんだった。ツナが天界に上がるわけだし、それまでにやっておくことがあるんだったら、ってさ」


「まったく、何も考えずに勢いだけで喋るから忘れるんだぜ? とっとと話せよ、聞いてやるからさ。ちなみに、ぼくはナっちゃんの影の中に潜んでいてやるから、イザって時も安心していろよな」


 ユウの言葉に、ハイドは相変わらずの調子で返した。

 すると、ルグレイがまた、感極まったような声を上げる。


「ハイド様、ありがとございます! 我々は男ですから、やはりどうしても身辺警護をするにも限界がある場面がありますからね。ハイド様にそうしていただけるなら、どれほど安心できるでしょう…!」


「……馬鹿じゃないの? 魔族相手に安心するなんてさ…ここは、警戒するところだろ…」


 ハイドは目線を手元に落とし、少しアップテンポの曲を弾き始めた。

 曲調を聞く限りでは、ハイドはちょっと喜んでいるように感じるのだが、気のせいだろうか。


 ユウは、ハイドのそういう感じに、もう慣れたようだった。

 ちょっとだけ、困ったやつだな、というように笑う。

 ハイドの方が長生きをしているはずなのだが、そういう表情をするユウは、少しだけハイドよりもお兄さんに見えた。


「ああ、ちなみに、やっておくことってのは、今のうちにやりたいことを聞いてるってだけの話じゃなくってさ。マグが、用意しておいた方がいいものがないか…についてを話し合った方がいいって言うんだよ」


「あ…そうだね。ルグレイ、天界ってどういう感じなの?」


 我ながらふわっとした質問をしてしまった。

 しかしルグレイは嫌な顔一つせず、答えようとした、その時。


 ザザ、とテーブルの端に置いてあった通信機が音を立てた。


 マグは、武器を手入れしていた手を止め、クリスナーガを鞘に納めると、迷いなく通信機に手を伸ばし、何らかの操作をした。

 そして、その紙コップのようなものに話しかける。


「どうした、フィカス。早かったな」


「…ああ、マグか。いや、この距離でもちゃんと作動するかどうかのテストをしたくてな。クリアに聞こえるとは言い難いが、問題はなさそうだな」


 少し雑音にまみれたフィカスの声がする。

 アンタローが、物凄く驚いた顔で、「フィカスさん、どこですか!?」と家の中をぴょこぴょこ探しに行った。


 ……。

 なんだろう、この、ザザっていうノイズ…。

 どこか…どこかで聞いたことがあるような気がする。

 どこでだっけ…そう遠くない記憶の中で聞いたような気がするんだけど…思い出せない。

 うーーん。

 まあ、思い出せないということは、大したことじゃないということなんだろう。


「すげえ、マジで遠くに居ても会話できるんだな、これ!」


 ユウが興味津々に立ち上がり、マグの後ろからソファーを覗き込む。


「その声は、ユウか。思ったよりも声は拾えるんだな。ずっと話していたいが、まずは用件を言おう」


「なんだ?」


 フィカスの言葉に、マグが短く返す。

 ワンテンポ遅れて、またフィカスが話し始めた。


「ティランの元気がない。それを見て、マグがティランと面談したがっていたことを思い出してな、伝えておいた。明日、宮殿の方へ来られるか?」


「おお、そういやそういう話だったな、すっかり忘れてたぜ」


 ちょいちょいユウが口を挟んできて、マグが邪魔そうにしている。


「やはりそうか……。構わない。どういう段取りで・居ればいい?」


「明日の昼に、魔道車で迎えに行く。せっかくだから、全員で会ってやって欲しい。俺が聞いても話してくれなくてな。ナっちゃんたちの顔を見れば、アイツも話しやすいだろう」


「……そうだな。オレ一人では・変に緊張をさせる可能性が高い」


 マグは、フィカスの方からは見えないのに、頷いている。

 あるある、電話の時って、私もお辞儀とかしちゃうよ。


「ついでだから今後の予定も詰めておきたい。明日はハイドも連れて夕食まで滞在するといい」


「そうか。今からその話をする予定だったが・それならばフィカスも交えて・話をしておいた方がよさそうだな……」


「おいおい、冷たいな、俺抜きで話し合うつもりだったのか? いいか、明日だぞ、明日。用件は以上だ。じゃあな」


 いきなりブツッと通信が切れた。

 フィカスは相変わらず、多忙なようだ。


「ちょっと、なんでぼくが行くって決定しているわけ? あのゴーグル、世の中は自分の思い通りに動くと勘違いしているんじゃないだろうな…」


「なんだよハイド、行かないのか?」


 ユウが、きょとんとハイドを見ると、ハイドはぶすくれた表情をする。


「……話し合いをするって言うんだから、行くしかないだろ。ま、ナっちゃんの影に潜る練習もしておきたいしな。そういう意味でも、付き合ってやるよ」


 ルグレイと私は、にこにことハイドを見てしまう。


 ここからは、ハイドが一緒に居る生活なんだ…。

 まだ実感はわかないけど、すぐに当たり前になるのかな。

 だったらいいなあ。



-------------------------------------------



 しかしその後は、なかなかハイドに顔を合わせる機会がないまま、次の日になってしまった。

 急に、「ナっちゃんの影は居心地がいいから」とかなんとか言い出して、すっかり引きこもってしまったのだ。

 やはり、いきなりみんなと距離を詰めるのは難しかったらしい。

 それとも、迂闊に憎まれ口をたたいて相手を不快にさせるのを避けたのだろうか?

 ルグレイは残念そうにしていたが、「気長にやっていきましょう」という結論になって、そのまま日常生活を続けていく。




 そして私たちは今、ティランと一緒にテーブルを囲み、ちょっとしたティータイムを過ごしている。


「みなさん、ご無沙汰しておりました。お元気そうで何よりです。わざわざお越しいただいて申し訳ありません、なかなかここから動けない身でして…」


 フィカスが気を利かせて部屋を去ると、ティランが挨拶を始めた。

 確かに、フィカスが言っていた通り、元気がない…というか、声に覇気がない。

 あまり眠っていないのだろうか、顔色も悪いようだ。


「それで、マグさんが僕に話があるということでしたよね?」


 ティランがマグを窺う。

 私は、アンタローが迂闊に飛び出さないように、しっかりと持つ係だ。

 マグの方を見ると、いつもと同じ表情なので、何を考えているのかはわからなかった。


「……どう切り出したものか・多少悩むような・繊細な話なのだがな……」


 マグは、ぽつりぽつりと、慎重に話し始めた。

 その前置きに、ティランはちょっと緊張しているようだ。


「……いや、緊張をさせる目的ではないから・結論を先に言おう。もし、オレの予想通りのことを・ティランが考えていた場合・オレは、ティランを……褒めに来た。よくやったと、言いに来た……」


 ティランが、急に表情をこわばらせた。

 私たちは、マグが言っていることがよくわからず、ハテナマークを浮かべる。


「この結論を念頭に・質問をさせてくれ。ティラン……お前は……。……。フィカスが旅に出ている間・フィカスから王位を簒奪し・フィカスを追放する予定だった。……違うか?」


「!!!?」


 私もユウもルグレイも、驚きに声を失った。


 ティランは、悪いことをした子供のように、うつむいて、膝の上でぎゅっと拳を握りしめていた。


「……その反応。やはり、そうだったか。だが、やらなかったんだな。だから、褒めに来た……」


「……はい」


 ティランの声は、絞り出すような細さだった。


「そして、すまなかった……。ギリギリになるまで・気づいてやれなくて。もっと早く気付けていれば・相談に乗ることもできたのにな……」


 マグは、同じような調子で、ぽつぽつと続けた。

 ティランは驚いたように顔を上げて、首を振った。


「いえ、マグさんのせいではありません!」


「ちょちょちょ、どういうことだよ…! マグ、一から説明してくれよ!」


 二人の間だけで続いていきそうな話に、ユウが無理やり割り込んだ。

 私も気になっていたので、ユウの言葉に頷いて、マグを見る。

 マグは、一度ティランの様子を見ると、その方が気持ちが落ち着くと判断したのだろう、ユウに向けて話し始めた。


「以前から、フィカスがあまりにも・オレを大臣に誘ってくるからな……。つい、暇なとき・試しにティランの気持ちになって・いろいろと考えてみた」


「何を?」


「ユウ、お前がフィカスで、オレがティランだったら……という、妄想だ。つまり、こうだ。ユウがオレに、包み隠さず・気持ちを伝え続ける。『早く王の仕事を片付けて・冒険に行きたい』・『貴族の相手なんてせずに・外に出たい』・『ここを乗り切れば・冒険に出られる』……」


「あ……」


 私はつい、声を漏らしてしまった。

 そうか、フィカスのやっていたことは、そうなるのか。

 フィカスはティランに、そういう形で、心から甘えていたんだ。

 だけど、ティランがそれを、甘えだと受け止めるとは限らない。

 そして、膝の上のアンタローは眠りについた。


「オレは、たぶん、こうする。ユウから王位を簒奪し・国外へと追放する……。そうすれば、ユウは、何のシガラミもない場所で・自由に生きていける。……人生を、謳歌できる」


「お前…それを俺に相談もなしにやるのかよ!」


 ユウが怒って、ティランがびくっと肩を揺らした。


「あ……ち、違うんだティラン、今のは、マグに怒ったんで…!」


 ユウが、しどろもどろに言い訳をする。


「ですが、ティラン様は思いとどまってくださったわけですよね、でしたら、そのように元気をなくされる必要なんてありませんよ…!」


 ルグレイの言葉に、ティランは首を振った。


「違うんです! 僕は、結局、兄さんと離れたくなくて…。兄さんに傍に居て貰いたいから、その計画を諦めたんです。どちらが兄さんの為になるか、わかっていたのに…! 結局、自分のことばかりで…!」


 そうか、それで自分を責めて、元気がなくなっていたってことなんだ…。

 ようやく事情が呑み込めた。

 呑み込めたのだが、どうすればいいのか、わからない。

 だが、マグは静かに話し続ける。


「だから、褒めに来た……。ティラン、フィカスはどう足掻いても・王の器だ。それを、外野の気遣いで奪い取るなど・やるべきではない。オレとしても、王のフィカスを見続けられないのは・不本意だ。……思いとどまってくれて・よかった。ニヴォゼには・思い入れもある。この平穏が続いてくれて・本当に良かった……」


「……っ」


 ティランは、うつむいたまま、ぼろっと涙をこぼした。


「僕は…きっと、僕は、おかしいんです。僕の父は厳しく、揺るがない人で、きっとこんな風に、思いつめたり、情に流されたりもしなかった。きっと、僕だけが、この王家の中で、おかしいんです。そんな風に、思い始めたら、どうしても……止まらなくて…!! 結局、兄さんにも心配をかけてしまいました」


「そんな! おかしいなんてことないよ、ティランがフィカスのことを大好きなのは、わたしたちはもちろん、フィカス自身も知ってることだよ! だから、ティランがフィカスのことを思って悩んでいたことを、誰も責めないよ…!!」


「……、……はい…っ」


 そこから、ティランは涙をこらえようと必死に俯いていた。

 ユウは、少しだけ安心したように、息を吐いた。


「ティラン、次からはさ、ちょっとした悩みでも、俺らのことを呼びだしてくれればいいからな。考えてみりゃ、王族なんて気軽に相談できる相手も居ないよな、俺らもちょっと迂闊だったわ。もうちょっと、ウゼーって思われるくらい、ティランに会いに行きゃよかったなー」


 そう言って、ユウはいつものからっとした笑顔で笑いかけた。

 ティランは、何かに救われたかのように、その笑顔を見ている。


「…いえ。おかげさまで、とても、胸の内が楽になりました。ありがとうございます。しかも、ユウさんはファッションショーのモデルも引き受けてくださるそうで…」


「いや!? どさくさに紛れて何言ってんだよ!?」


「ふふふ、冗談ですよ、冗談。すみません、嬉しくて…」


 ティランは、手の甲で涙をぬぐう。

 少し元気が出て来たみたいで、私もほっとした。


「ティラン、ごめんね、フィカスが外に出たい出たいって言ってたのも、わたしたちのせいみたいなものだし…」


「いえ、そんな。…そうですね、こうなると、お互いに謝り倒してしまう流れになるのは、当然ですよね。もうお互いに、開き直ることにしましょうか」


 ティランは、私よりも、よっぽど気持ちの切り替えが上手な、強い人だった。

 体が弱かったって言ってたし、フィカスとティランの間で勝手に周りが派閥を作っていたわけだし、たぶん、そういうことが上手になってしまうくらい、幼い頃から辛いことを乗り越えてきたんだろうな…。


「そうですよね、今日は、わざわざマグさんが僕のことを褒めに来てくださったんですから、僕も自分のことを、よくやったと、褒めてみることにします。僕は、僕にしかできない方法で、これからも兄さんが自由に世界を飛び回れるように、補助をし続けます」


 ティランは、自分の言葉に頷くように、二度、三度と頷いている。

 私はなんだか、そういう姿勢に、少し感動してしまった。


「ティランって、すごいよね…」


 思わず、と言った風に、つい口に出してしまった。

 ティランは「何がですか?」と首をかしげる。


「あのね、わたしの好きな考え方に、『楽観論は思考で決まり、悲観論は気持ちで決まる』っていうのがあるの。確かに、前向きな気持ちでいるのって、気合が必要で、後ろ向きな気持ちって、その時の気分で流されるように出てくることがあるなーって。だから、今ティランが出した結論は、すごく、難しいことで、理知的だなって…。わたしはね、なかなか、そういうのが、できない部分もあるから…なんだろ? 尊敬した!」


 物凄く散らかった言葉になってしまったが、ティランは驚いたような顔で瞬きをして、真剣に聞き入れてくれたようだ。

 そしてティランは、ふっと笑顔になった。


「なんだか、自分が生きていく上で、仕方なく、そして当たり前に習得したものを褒められるなんて、変な気持ちになりますね。ありがとうございます、ナっちゃんさん。そう言ってもらえると、少しだけ、自分を誇れるような気がします」


 ティランの白い頬が、少しだけ朱に染まった。

 すぐに気を取り直すように、ティランはルグレイに目を向ける。


「さて、ルグレイさん。ユウさんとマグさんが着る、使用人の服装案についてを、見ていただけないでしょうか? そちらの国でも違和感がないかどうかを検証していただきたいのです」


「…え? …ああ、はい、もう話は行っているということなのですね、わかりました!」


 ルグレイが一瞬ついていけなくなるくらいの話の切り替え方だった。

 私も、なんだかティランは大丈夫なんじゃないかなって思えてきた。

 それとも、ティランなりの気遣いで、そう思わせてくれたのだろうか。


 マグの方をちらりと見ると、まんざらでもないような顔で、紅茶を飲んでいた。

 やっぱりマグは、人の心に寄り添うのが上手なんだなあ…。


 マグのことを誇らしく思うと同時に、ちょっとだけ、マグの気持ちが寄り添う対象が増えたことが、寂しいような…?

 うーん、でも、独り占めは勿体ないよね!

 みんながもっとマグのこと好きになればいいっていうのは、純粋に思うもの。


 みんな、いい所がいっぱいあっていいなあ。

 私も、隣を歩けるように、頑張らないと!

 そう、私は決意だけは一級品なんだ、決意だけは。




<つづく>



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