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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
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しばしの別れ



 魔道車の中は、寿司詰め状態だった。


 運転席にフィカス、助手席には荷物が詰んであって、座れる場所は後部座席しかない。

 あの時シークが投げつけてきたチェルキーストーンはごく一部だったようで、まだ潤沢に麻袋の中にはそれが詰まっている。

 なんだか、爆弾と一緒に車に乗っているようで、若干ソワソワする。


 苦肉の策で、私はマグの膝の上に座らせてもらい、隣にルグレイ、隣にクランといった順で座っている。

 ユウはと言うと、マグのアイデアで、ロープを括り付けた予備タイヤの上に座らせて、魔道車でソリのように引きずっていくことになった。


「やべーーこれ、超楽しい!!」


 ユウは大はしゃぎだ。


 フィカスの頭の上に居るアンタローは、魔力の粒を吐きながら、前ではなく、なぜか後ろを向いている。

 正しく言うと、後ろというよりも、ユウをガン見している。

 アンタローはユウを、物凄く羨ましそうな目で見ている。

 だけど、アンタローは魔力の粒をフィカスに提供しなければならない。

 そのジレンマでアンタローは、眉間にちょっとしわが寄っている。


 運転席の真後ろは、クランが座っているので、クランは自分を通り越していくアンタローの視線に、物凄く居づらそうにして、必死に耐えている。


「地上は底知れぬな…。このような珍妙な生き物が存在するとは…」


「陛下、耐えてください…! 私が付いております…!」


 ルグレイが必死にフォローしている。


「なあ、そいえばさあ!」


 何も気づいていないユウが、能天気な声を飛ばしてきた。


「昨日の話、俺らの天界での役割は決まったけど、フィカスはどうするんだ?」


 ユウは、よっぽど王族ごっこが楽しみなのだろう、まだそんなことが気になっていたらしい。

 フィカスは前を見て運転しながら答える。


「そうだな。付き人が二名、騎士が一名、となれば、俺は婚約者の役割でいけるだろう」


「「なんだと?」」


 なぜか、クランとマグの声がハモった。


「もちろん、冗談だが。だがこちらとしては、王族と関わることを必死に回避させてきたにも関わらず、そこの娘は自ら突進していったんだからな。少しくらい、拗ねてもいいだろう。まったく…人の気も知らずにな」


「う…。ごめんね、フィカス」


「この貸しをいつか、倍にして返してくれればそれでいい」


 フィカスが、つーんとしながら言った。

 そういう状態のフィカスがとても珍しかったので、私はバレないように、こっそりと笑ってしまう。


「俺は姫お抱えの商人という設定で行こう。通いで行けるということだしな。ニヴォゼから珍しい商品を売りまくって、一儲けでもさせてもらおうか。あのジェルミナールから金を搾り取れるかと思うと、ぞくぞくするな…」


 フィカスは、薄暗い笑みを浮かべている。


 先日の死闘が嘘のように、旅は順調だった。



-------------------------------------------



 夜が来る前に、野営の準備だ。

 クランは、何をしていいかわからないようで、物凄く手持無沙汰そうに、岩に凭れるように座ったまま、動かない。


「なあ、魔法王って、あらゆる魔法を使いこなせるから、魔法王なのか?」


 薪を拾ってきたユウが、クランの隣に腰かけて、興味津々に話しかけている。

 昨日からそうだが、ユウは結構、クランに自分から話しかけに行く。

 ルグレイは、最初はハラハラしていたが、今ではにこにこしながら、ほのぼのとその様子を見守っている。

 クランはまだ、ため口で話しかけられることに慣れていないらしく、いつも戸惑った反応を置くようなワンテンポが発生していた。


「…そう考えて貰えれば、よい」


「じゃあさ、どの魔法が一番すげー魔法だと思ってるんだ?」


 今までにされたことのない質問だったのだろう。

 クランはユウから目をそらし、真剣に考えるような視線で、自分の中の言葉を探っている。


「……存在魔法だ」


「存在魔法?」


 みんな、キャンプの準備をしながら、さりげなくユウたちの話に興味を示している。

 私も、魔力の粒を提供し終えてぐったりしているアンタローを撫でながら、じっとクランの方を見た。


「『この世に生まれ出で、存在することができる魔法』のことだ。余やそなたが、こうして話をしている、ということも、存在魔法の一環と言える。いかに魔法王と言えど、これに干渉する方法は、あまり持ってはおらぬ」


「あまり…ってことは、何個かはあるのか?」


「ある。例えば、余がそなたを殺すような蛮行を行うことは、存在を消す、という意味での干渉となる。しかし、それは万人が持っている可能性であり、余だけが持つ方法ではない。余のみが関与してきたことと言えば、妻を娶り、子を得たことくらいであろう。しかし、その子に対する言葉での干渉の仕方は、未だ定理不明としか言いようがない」


「……? 難しく言ってるけど、ツナとどう話せばいいかわかんねーってことか?」


「……。まあ、そう…受け取ってもらって構わない」


 ユウのその言葉のせいで、一気にクランが人生相談をした、というような流れになってしまった。

 しかしユウは、「ふーん」と相槌を打っただけで終わった。


「なあ、ツナの母ちゃんって、どんな感じだったんだ?」


 そして興味を失ったように次の話に行く。

 マグとフィカスが、「さっきの話はもうちょっと突っ込むべきだろう」みたいな反応をして、がっくりと項垂れた。

 しかし私としては、そこを突っ込まれたら困ったので、次々に興味を変えるユウの態度はありがたかった。


「エメリーンは、不思議な娘だった。余の心の奥まで見透かしてくるような、慈しみを与えてくれたものだ。余は、彼女と出会ったことで、多くを学び、多くを得た。それまでの余は、ただのジェルミナールの歯車のひと欠片でしかなかった。しかし余は、彼女に出会ったことで、『人間』になる方法を、教えて貰った気がしている。それ以降、民草を見る目も、大分に変わった自覚がある」


「へええ、すげー好きだったんだな。なあ、キスとかしたのか? イテッ!」


 いきなりマグに後頭部をはたかれて、ユウは前のめりになった。


「お前な……」


 マグは半眼でユウを睨みつける。

 ユウは頭をさすりながら、マグを見上げた。


「なんだよ…! いいだろ別に、妻子持ちと話したことなんて、そういやなかったなーと思ってさあ」


「ツナが居るんだぞ。あまり刺激が強い話はするな」


 あ、そっちなんだ…。

 マグは相変わらず視点が違った。


「陛下、スープになります」


「ご苦労」


 ルグレイが持ってきた器をクランが受け取り、そこからみんなでお食事タイムとなった。

 クランは基本的に、食事中は喋らない。

 一口一口、大事にスープを口に運ぶ姿は、お育ちがいいという印象の他はなかった。

 こんな野営とか、慣れない生活をして大丈夫なんだろうか…と心配になってくるほどだ。

 しかし、旅の間、クランは文句ひとつ言わず、大体は瞑想をして過ごしていた。


 趣味とか、ないのかな…?


 気になったけど、それを聞くキッカケもなかった。



 寝る前に、私はハイドの行方を聞かなかったことに思い至った。

 生きていてくれたと聞いただけで嬉しかったから、すっかりそこを失念していたのだ。

 屋敷に戻ったら、聞いてみようかな…。

 いつもだったら、フィカスかルグレイに聞くけど…たぶん、ユウとマグは、もうハイドのことを怒っていない気がする。

 試しに、隙間時間にユウかマグに聞いてみようっと。


 そう決意しながら、眠りについた。



 結局旅の間は、特に私とクランの間で会話もないまま、次の日の昼過ぎに、魔道車はニヴォゼにたどり着いた。



-------------------------------------------



「ここが、そなたたちの住まいか」


 クランは杖をつきながら、広さを確かめるように庭に立つ。

 畑の側は使えないので、いつもユウとルグレイが朝稽古をしている側の大地に立つ。


「なるほど、ここならば、陣を展開できよう」


「陛下、魔力の方は、大丈夫なのですか?」


「ああ。旅の間に楽をさせてもらったのでな。多少は魔力を節約せねばなるまいが、この程度なら造作もない」


 ルグレイにそう言って、クランはゆっくりと杖を持ち上げる。

 ポツ、と杖底に、淡い魔力の光がともった。


 そして、威厳あるたたずまいで始めたのは、落書きだ。

 いや、杖底をクレヨンのようにして、魔方陣を描いているのだが、こう…落書きしているようにしか見えない。

 ハッキリいって、すごく地味な作業だ。

 私たちの前に現れた時のように、パーっとやるのかと思っていたので、予想外の光景過ぎた。

 魔力の節約って、こういうこと…?


 そうか、なんとなく、この世界の魔法のことが分かってきたかもしれない。

 例えば、7という数字を魔法だとして。

 そこにたどり着くまでに、1~6の工程を必要とする。

 それは、呪文であったり、陣であったりと様々で。

 そこの工程をすっ飛ばすにつれ、必要な魔力量が上がるのではないだろうか。

 だから、一個一個を丁寧にやって行けば、魔力の節約になる。


「そなたたちが思っている以上に時間がかかろう、中に入って休んでいるがいい」


 クランは真剣なまなざしで地面に落書きを増やしていきながら、何気なくこちらを気遣ってくる。


「えーー、面白いし、俺は見てたいな」


 ユウが言うと、みんなも同意した。


「…ならば、好きにせよ」


 ユウはてっきり退屈がるかと思ったが、魔法という、自分の生活圏にない文化に、実は興味津々なんだろう。


「ぷいぃいっ、ボクもお手伝い、できますよ!」


 アンタローが、ぴょこんとフィカスの頭の上で跳ねた。

 「気持ちだけ頂こう」と、クランは控えめにお断りしている。


 しかし、こうして見ると、魔方陣というものは、幾何学的な感じなんだなあ、と私も若干興味を持った。

 図のような、絵のような、芸術のような。

 その緻密な平面を作り出していくクランの横顔は、職人のようだった。

 私はその時初めて、魔法って、綺麗なんだなあ…と思った。

 ただの、便利な力ってだけじゃないんだなあ。


「素晴らしいです、まさか陛下の編まれる陣を直々に見られる日が来るなんて…!」


 ルグレイは、クランの集中を妨げないように小声で、感動の声を上げている。


「他国の機密を見ているようだ…この魔法は、ニヴォゼにはないな」


 フィカスはちょっとうずうずしているようだ。

 たぶん、本当は描き写したいのだろう。

 マグは、生み出される線の緻密さに、感心しきりだった。


 そこからなんと、30分以上の時間が過ぎた。


「…よし。これでいけるであろう。だが、新年が来るまでは、余の魔力以外に反応しないよう、ロックをさせて貰おうか。準備が整うまでは、行き来があることを避けたいのでな」


「かしこまりました」


 クランが私に目を向けながら言うので、仕方なく私が答えた。


「ルグレイ、ナツナ殿の衣服を一着、預かろう。サイズがわかりやすいものがいい」


「はっ、少々お待ちください、今お持ちします!」


 バタバタと屋敷の中に駆け込むルグレイを見送ると、私はハテナを浮かべてクランを見る。


「新年までに、新王にふさわしいドレスを用意しよう。これも侮られぬための策だ、断ることは許されぬ」


「……承知いたしました」


 内心ではめんどくさいなと思ったが、流石に普段着はダメなんだろうなと思い直す。

 クランは、仕切り直すように、トンと杖で地面をたたいた。

 そして一歩、私に近づいてくる。


 私は、何事だろうかとクランをじっと見上げる。

 クランは、目をそらさずに、私をじっと見つめ返した。


「では、しばしの別れになるが…」


 そこで、言葉が千切れた。

 クランは何かを言いたそうにしている。


 が、そこから5分くらい、お互いに黙り込んだ。

 沈黙の時間が5分って、かなりきつい。

 というか、気まずい。


 仕方なく、私から口を開こうとしたときだ。


「…面差しが、母に似て来たな」


 不意に、クランがぽつりと、そう述べた。


 いきなりそんなことを言われて、私は何も返せなくなった。

 私の頬に、クランの手がそっと添えられる。


 クランの手は、緊張しているせいなのか、物凄く冷たくなっていた。

 しかし、なぜか私は、その感触を、全然不快に思わなかった。


 一瞬、この手を握ってみようか、とも思う。

 そうすれば、この人が何を考えているかを、私は正しく理解ができる。

 だけど、なんだか卑怯な気がして、どうしてもそのまま動けなかった。


 クランは、もう一度口を開こうとして…結局やめた。

 屋敷の扉が開いてルグレイが出てきたと同時に、私に触れていた手を下ろす。


 ルグレイから私の服を受け取ったクランは、優雅な動きで杖をつきながら、魔方陣の中心へと歩き出した。


 そして、ユウたちを振り返る。


「今更、どの口が…と思われるかもしれぬが。娘のことを、どうか頼む」


 クランは、深々と頭を下げた。


 ユウたちは少し驚いたようだが、「任された!」と言って、からっと笑った。


 私は茫然とその光景を見ていて、一歩も動けないし、何も言えない。

 どうすればいいのか、わからなかった。


「ではな」


 クランが、陣をノックするように、杖底でトンと叩いた。

 パ、と光り出す魔法陣。


 行ってしまう。

 …どうしよう。


 私の中に、何か、焦るような気持ちがあって、だけど、それをどう出せばいいか、どう表現すればいいかがわからない。


「ナっちゃん」


 気が付けば隣にフィカスが立っていて、私の背中を押すように、トンと叩いた。


 私は驚いたようにフィカスを見上げる。

 フィカスは、静かに頷いた。


 そうか。フィカスには、もう、お父さんと挨拶ができる機会は、永遠に訪れないんだ。


 ………。


「……父さま!」


 私は、数歩駆け出した。

 魔方陣に、つま先が当たるか当たらないかのところで、立ち止まる。


 クランは、驚きに目を見開いて、こちらを見ていた。


「…どうか、ご自愛くださいね!」


 自分でも、どういう表情をしているのか、把握ができない。

 ひどくぎこちない笑顔だったかもしれない。

 お腹のところで、ぎゅっと手の指を組んで、握りしめた。


 光の中に消える間際で、クランはささやかな笑顔を浮かべていた。


 それまでも何度か会話をしたはずだったのに。

 私はなぜか、初めてクランと話をしたな、という感覚に包まれていた。


 しばらくじっと、消えていく魔方陣の光の中心を見つめる。

 喉の奥が、まだ、もどかしかった。




<つづく>



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