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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
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これからのロードマップ



 パサリと地面に降り立つと、魔法王の姿はなかった。


「ぷいぃいっ、ツナさんツナさん、ボクをぎゅっとしてくれていいんですよ!」


 アンタローが、待てましたとばかりに、ぴょーんと腕の中に飛んでくる。


「アンタロー! お疲れ様、魔力の粒、いっぱいだすの、大変じゃなかった?」


「ぷいぷいっ、少し疲れましたが、みなさんはボクが居ないと何もできませんからねっ、これもパーティーリーダーの務めです!」


 アンタローはキリッとした顔をして、私は笑いながら、腕の中のアンタローの頭を撫でた。

 アンタローは気持ちよさそうに目を細め、すりすりと私の手に額を押し付けてくる。


「ねえ、あの人は…?」


 そうしながら、つい、聞いてしまう。

 フィカスが、小屋の方を見る。


「ああ、魔法王か。少し休むと言っていた。無理もない、あれだけ消耗していて、さらにユウとマグの呪いも解いたのだからな」


「……」


 私も、つられるように小屋の方を見た。

 まだ、向き合い方がわからないから、ほっとしてしまう。


「魔法王は、これからどうするって言ってた…?」


 だけど、やっぱり、どうしても気になってしまうらしい。

 気が付けば、フィカスにそう聞いていた。


「反転の呪いをかけたのは、第二王妃で間違いないらしい。帰ったら反逆者として、親子ともども、すぐに投獄する予定だそうだ」


「親子って…兄さまと、姉さまも…?」


「ああ、そっちは王女暗殺の疑いで、だな。ルグレイごとナっちゃんを殺そうとしていたんだ、当然だろう。ルグレイと俺の証言を、先程まで伝えていた」


「……そう」


 なんだか、もやもやする。

 ルグレイを利用したのは許せないけど…許せないけど、殺したいほど憎いわけではない。


「だが、ここからは大変だろうな。呪いのことを民に伝えると言っていたが、虐げられていた臣民からすると、都合のいい嘘のようにしか思えないだろう。今までとは真逆の政策に舵きりをしたいようだが、まあ…このままでは茨の道だろうな。少し会話をしたが、ジェルミナールゆかりの者とは思えないほど、かなりの人道主義者のようだ。その分、反転をしていたのだから、酷いことになっていたのだろう。他人事ながら…何とかならないものかと、つい思ってしまうな」


「……そう…だね。あの人が悪いわけじゃ、ないものね」


「ああ。何よりも質が悪いのは、記憶が残っていることだろうな。そして、その時はそれが正しいことだと思っていた。今後、彼はかなり長い間、苦しむことになるだろう」


 私は、うつむいた。


「ツナさん、元気がないのですか? ボクをもっと撫でると、気持ちが休まりますよ!」


 撫でて欲しいだけのアンタローが、ぐりぐりと額を押し付けてくる。

 私はその仕草を見ていると、むずむずとしてきた。


「わたしも、ぐりぐりしたい!」


 ぽーんとアンタローをボールのように高く投げると、アンタローはキャッキャと弾んだ声を上げた。


 私はそのままアンタローを放ったまま、マグに向かってタッと突進していく。

 アンタローは、「ボクがどれくらい弾むのか見たいのですね! 屋根より高く弾みますよ! ほーらほら!」と、その場でテンテンとゴムまりごっこを始めた。


「マグ! 呪いが解けて、よかった!」


「ツナ……」


 マグは慣れた様子で私を抱きとめた。

 私はぐりぐりと、マグの腕に、額を擦り付ける。

 はーー、落ち着く…。


「ツナ、次は俺だろ!」


 ユウが片手を差し出してきたので、私はユウにもぐりぐりと額を擦り付けてマーキングを続ける。


「ユウ、決断してくれて、ありがとね…すごく嬉しい…!!」


「…そうか。ツナが喜ぶんだったら、それでいいかな」


 ユウは、困ったような顔で笑った。


「ほらナっちゃん、次は俺だろう」


 フィカスが片手を差し出してくる。


「フィカス! さっきね、フィカスの夢を見たんだよ! ナイスミドルになってたよ!」


 私はフィカスの腕にもぐりぐりしながら、どさくさでそう言った。


「年老いた俺を見てきたということか…? どう反応すればいいんだ、複雑すぎるぞ。ナっちゃんは夢の中でも、一筋縄ではいかんな…。どうせならもっと俺が喜びそうな夢を見てくれ」


 フィカスは変な顔をしている。


「ナツナ様、次は私ですね」


 ルグレイは両手を広げてきたので、私はその胴体に飛び込んだ。

 胸にぐりぐりと額を押し付ける。


「ルグレイ! あのね、…あの人と、話してみようと思うの。怖いから、一緒についてきてくれる…?」


「それは、もちろんです!」


「おー、それだったら俺も行くよ。つか、みんなで行こうぜ。その方がツナも安心だろ?」


 ユウが、ポンポン弾むアンタローを拾いながらそう言った。

 色々と満たされた私はちょっと、変なテンションになっている。


「ありがとう…! マグ、マグ、わたし、本当に、好きにしていい…? 何してもいい…?」


 ページが戻る前にした話だし、全然文脈も何もない話で、マグは一瞬きょとんとしたが、すぐにふっと笑った。


「ああ…。ツナが何をしようとも・オレは傍でフォローしよう」


「うん…! じゃあ、行くね!」


 私は、勢いが衰えないうちに、そのまま小屋の扉を開け、中へと入っていく。

 魔法王は、壁に背を預けるように座り、瞑想のように目を閉じていた。


 私たちが戻ってきたのを察知すると、魔法王はうっすらと目を開ける。


 ようやく、私と、目が合った。


 魔法王も覚悟を決めたのだろうか、ゆっくりと立ち上がる。

 その人の前に、私も立った。


 改めて見ると、ブルーとジューンの父親だけあって、すらっと背が高い。

 なぜ私がこんなにチビなのか、わからないほどだ。


 私は、意を決して、息を吸った。


「はじめまして、ナツナ殿」「お初にお目にかかります、魔法王様」


 ほぼ同時に喋って、内容もかぶっている。

 考えていたことは、同じだったようだ。

 情を残さないようにするための、他人行儀さ。

 こんなところで、親子だなと感じたくはなかったのに。

 私たちは、驚いた様にお互いの視線を合わせた。


 みんな、固唾を飲んで、私たちのやり取りを見守ってくれている。


「……。失敬。名乗りが遅れたようだ。余の名はクランベリー・ジェルミナール。クランと呼ぶことを許そう」


「では、お言葉に甘えさせていただきます、クラン様。この度は、わたしの大事なユウとマグを救っていただいて、感謝の言葉もありません」


「当然のことをしたまで。そなたたちには詫びのしようがないほどの煩わしさを与えたことと思う。ルグレイと、フィカス殿には許しを頂けたが、ナツナ殿にはどうすればよいか。望みがあるなら、告げるがいい。余の力の限りを尽くして、それを叶えることを約束しよう」


 魔法王は…いや、クランは、とても尊大な人だった。

 頭を下げたという姿など、まるで想像できない。

 これも、フィカスが前に言っていた、上に立つものが取るにふさわしい態度だということなのだろうか。


「では、ひとつだけ、分不相応なことは承知の上で、大きな願い事があるのです。お耳汚しではございますが、具申を許していただけますでしょうか」


「よい。許す」


「では。新年が来ると同時に、わたしへと一時的に王位を譲っていただくことは可能でしょうか?」


「な……」


 場の誰もが、絶句した。


「クラン様の今のお立場を鑑みるに、それが最も理にかなったやり方になるのではないかと思われます。それは、民の不信を、新王への期待で逸らすことです。わたしを支持する民が増えれば、推薦を理由にすんなりとクラン様に王位を返還できますし、わたしを支持しない民が多ければ、これもクラン様の王位がまた望まれることになるでしょう」


 クランは、驚きに瞳を揺らして、私を見ている。


「しかしご安心ください。もしわたしに王位を譲っていただけるのなら、わたしを支持しない民の方が、増える目算です。なぜなら、わたしは貧民にばかり寄り添った政策しか、行う予定はありません。ですから、貴族階級はわたしを疎んじるでしょう。逆に言えば、クラン様が真に望む、貧民層への支援を、わたし一人の失策として押し付けてしまえば、クラン様のお立場が揺らぐこともないでしょう」


「…そなたは、自分が何を言っているのか、わかっておるのか?」


「端的に言えば、わたしを利用してくださいと、そう申し上げております。幸い、わたしは天界での地位も名誉も興味がありません。傷つく名もない身です。使い捨てるにはうってつけの梯子となるでしょう。実際、これ以上の策がありましょうか? クラン様、今は内乱が収まったばかりで、国が揺らいでいるのではありませんか? 1日でも決断が遅れると、何人の民が命を落とすことになりましょう?」


「それは……」


 クランは、ぐっと喉を詰まらせた。


「クラン様。わたしには、とてもねじけた友人が一人、いるのです。彼ならきっとこう言ってくれるでしょう。『成りあがるためじゃなく、失墜のための王位なんて、なんて面白いんだろう』と、きっと笑ってくれるでしょう。わたしは彼に、次に会った時に、そういった笑い話をしてあげたいのです。どうか、この愚かな願いを、叶えていただけないでしょうか?」


「…そなたは、わかっておらぬ。人から疎まれる可能性があるということは、命を狙われる可能性でもあるということ。それが貴族社会ならば、なおさらだ。その覚悟があるというのか?」


「これが、純粋に他人のために、ということでしたら、覚悟を持つのは難しいでしょう。ですが幸い、このことは、自分のためでしかありません。わたしは、みんなと一緒に、これからも地上で旅を続けていきたいのです。それなのに、頭上が騒がしく、何時落ちてくるかもしれないと知って、どうして落ち着いていられるでしょう? わたしを突き動かすものは、エゴイスティックな衝動に他なりません」


「……。例えばそなたに父が居るとして。そなたがそのような立場に晒されることを、良しとするだろうか?」


「そうですね。わたしの育ての親は、ユウとマグですから、聞いてみることにいたします。ユウ、マグ、いいかな?」


 二人を振り返ると、ユウは、いつものようにからっと笑った。


「すげー楽しそうじゃん、王族ごっことか! 俺、付き人の毒見係な! 毒見ってかっこいいよな!」


「そ、そう…?」


 ユウのセンスは独特なので、時々よくわからなくなる。

 しかし、王族嫌いだったユウが、こんなことを言うようになるなんて…ちょっと感慨深い。

 マグを窺うと、マグは難しい顔をしている。


「ツナがどうしてもやりたいことなら・オレはフォローをするだけだ。世話係をやろう」


「私はもちろん、護衛騎士をやり続けます! 王位も一時的にということですし、何より地上という逃げ場があるのが強みですね。これなら私も安心です」


 ルグレイも乗り気のようだ。

 フィカスは腕を組んで悩んでいる。


「まあ…止めるかどうか、難しい所だが…。ジェルミナールの状況には興味がある。俺も行こう。ナっちゃんが言い出したら聞かないということは、しかと思い知っているからな」


「く……」


 クランは、苦しそうに眉間にしわを寄せた。


「…いいだろう。大恩ある身にて、恩人の願いには報いねばならぬ。では新年…一月後に、リュヴィオーゼ跡地に迎えに来よう」


「ダメです。通いで王政をやりたいので、いったんうちに来て、わたしたちの家に転送ポイントを作ってください」


「通い…だと………」


 クランは、眉間を揉むようにして、なんとかその言葉を理解しようとしている。


 なんだか、私、この人には強気に行けるなあ。

 なんでだろう?

 …甘えてるってことなのかな?

 まさかね。


「ついでなので、わたしが引き継げるようなシナリオも詰めておきましょう。そうですね…わたしは離宮に居たのを、クラン様が呼び戻してきた、という設定でいかがでしょう? クラン様は呪いをかけられている間、国を思う心も反転していたため、ジェルミナールを天空にとどめる魔力の供給を怠っていたのです。正気を取り戻したクラン様は急いで魔力を注ぎ込み、事なきを得ることができたのですが、呪いの影響もあって、政を行う気力と体力が尽きてしまわれました」


「そして、現在王位継承権を持つ娘が立ったというわけか。面白いな」


 フィカスは小さく笑った。


 なぜ私がここまでスラスラ喋れるかと言うと、ハッキリ言って、ナチュラルハイだからだ。

 だってーー、ユウとマグの呪いもひとまずは安心だし、ハイドとも仲良くなれたし。

 そして物凄い怖い目に合ったけど、何とか切り抜けて今に至るという、その反動が、私の気分を最高に盛り上げてくれていた。


 これは、後になって、なんであの時あんなこと言っちゃったんだろ、って思うやつだ。

 ごめん、未来の私!

 でも今凄く気分がいいんだよーー。

 やってやるぜ、王族ごっこ!


「では、今後は、そなたたちの住処まで戻り、そこに転送用の陣を描いて、新年までに諸々の準備を行えばよいわけか。善処しよう」


 流石というかなんというか、私の無茶苦茶な意見ですら、クランはきちんと整理している。


「ついでに第三王妃様との間に、わたしの弟を二人ほど、もうけておいてください。そうすればわたしは、安心して国を去れますからね」


「………」


 クランは、頭痛に耐えるような表情をしている。


「まあ、よかろう。時が来れば、一時的に余はナツナ殿の配下となるわけだが、事情が事情だけに、多少は親子ごっこにも付き合ってもらうことになろう。そのつもりで居るように」


「かしこまりました。クラン様、お加減はいかがですか?」


 私の問いに、クランはこめかみを押さえていた手を下ろす。


「形容しがたい頭痛が来ていること以外は、すこぶる壮健だ。とはいえ、魔力の回復が追い付かぬでな。せめて本日はゆっくりと体を休める必要がある。みなもそうであろう?」


「はい、陛下。ですが、何かご用向きのほどありましたら、遠慮なくお申し付けください」


 ルグレイが申し出るが、クランは片手で制するような所作をしただけだ。


「少し、休む」


 そう言うと、ことっと背を壁に凭れるように座り込み、電池が切れたように目を閉じた。

 片手には、支えにするように、杖を持ったままだ。


「さて、俺も魔力を回復しておきたい。ユウ、マグ、見張りを頼んでもいいか?」


「おっけー、任せとけって! ルグレイもちゃんと寝るんだぞ」


 ユウがそう言うと、ルグレイは「ありがとうございます」と、嬉しげに笑った。

 マグは、私を手招きする。


「ツナ、来い。何も食べていないだろう。外に梨や柿を溜め込んであるからな・剥いてやる」


「はーい」


 私はスキップでもしそうな気分で、マグの後に続いて小屋を出る。

 扉を閉めるときに、一度だけ、眠りにつくクランの方を振り向いた。

 うつむいているので、寝顔は見えない。

 見たいような、見たくないような。

 なんだか、変な気分だった。




<つづく>



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