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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第一章 小学生編
11/159

1万の価値(下)

「はああああ? ネタバレとかありえないんですケドーー! チョベリバ、なんでわかったワケ? 新人類かっちゅーの!」


 不意打ちを狙おうとしていたのだろう。

 後ろの馬車の方から、また違う女の人の声がした。

 振り向くとそこには、馬車の幌の上に座るアムラーが居る。


「チッ……!」


 咄嗟にマグが舌打ちをし、アムラーの方に銃口を向けた。

 ユウとマグとで私を挟むようにして、背中を預けあっている状態だ。


「おねえちゃん、その女の子めちゃんこ厄介なんですケド~! マジブルー入るわぁ。もう先にヤっちゃったほうが世界平和の訪れみたいな~↑↑」


 シノラーの言葉に、アムラーが妖艶に笑う。


「マジウケる、いいよ、アタシらに歯向う気をなくす方法なら、いくらでもあるし~? アタシは駒斬 薔薇。あんたたち三人まとめて、アタシのペットにしてあげる!」


 こまぎれ、ばら!

 やっぱりね!!やっぱり二人組だった!

 モモ肉ときたらバラ肉だもんね!?

 私の考えてることくらい、私にはお見通しだよ!(そりゃそうだ)


 …いや待って、姉妹みたいなのになんで名字が違うの??

 名前から考えるからそういうことになるんだよ!!

 って、そんなことはどうでもいいや、今大事なのは、ここから先がどうなるのか、全然覚えてないってこと…!!


「とりあえずユウは落ち着け……突進は論外だ……先に動けば隙ができる……相手の出方を待て」


 マグが私を気にしながらそう告げる。


「………」


 ユウは唸り声をあげるだけで、殺気立った雰囲気が収まることはなかった。

 その時、二人の魔女は同時に手を掲げる。


「おいで、カセトリ!」

「おいで、ヨッカブイ!」


   ズボオオオオオオッ!


 地面の中から、藁を被ったカサ小僧みたいな無数の人間大の泥人形が出てきた。

 ほとんど藁で、手足だけが人間の形をしている。

 全員が、ユウとマグの方を見た。


 もう一方の地面からは、シュロ皮を頭にかぶった集団の泥人形が出てくる。

 ズタ袋を持っているのと、鐘を持っている者が居て、全員が私の方を見た。


 こ、これは!?


「「行けっ!」」


 魔女の命令に従って、泥人形がのたのたと動き始める。


 最初に動いたのはやはりユウで、踏み込みと同時、大上段に構えた剣を振り下ろ―――


「ダメーーーーーー!?」


 振り下ろそうとしているところを、私はユウにしがみついて邪魔をした。


「っ、ツナ、どうした、邪魔するな!」


 ユウが乱暴に私を振り払おうとする。

 しかし私は涙目で必死に食い下がる。


 それ、神事!!!!

 そうは見えないだろうけど、たしかどっかの県の神事!!

 そんな神聖なものに切りかかるのは倫理上いかがなものか!!?

 なんてものを書くんだ、私は不謹慎という言葉を知っていたのかな!!?


 マグも私の行動を図りかねて、戸惑いながら銃を撃とうかどうか逡巡を続けている。


「たしかに……襲ってくるにしては、動きが変か……? まるで攻撃を……誘っているような」


「ちょっとーー、また見破られたんですケド~! ぶっちゃけありえない~!」


「その土人形にはせっかく攻撃反射の魔法をかけてあげてたのに~!」


「な…!?」


 反射と聞いて、泥人形を真っ二つにしようとしていたユウは血相を変える。


「なるほど……魔女の使う魔法は……えげつない……ツナ、助かった……」


 いや今のは偶然なんですけどね!?


 その時、動揺のすき間を縫って、シュロ皮頭が私をズタ袋に詰め込もうと、わらわらと掴んできた。

 私は横からかっさらわれるように、二人から引きはがされてしまう。


「あ……!」


「ツナッ!」


 ユウが剣を捨て、即座に格闘スタイルに切り替える。


   ドッ!


 私を掴んでいた泥人形たちが、ユウのタックルで突き飛ばされただけで、数体まとめて尻もちをついた。


「ぐっ…!!」


 その衝撃が返ったのだろう、彼は胸を抑えながら、一瞬ふらついた姿勢でなんとか私を取り戻す。


「思い通りにならないってマジむかつくんですケド! もう許さない、ちちんぷいぷいーー!」


 急にアムラーの方が王道の魔法を唱え、手の平から紫色した光の蝶の群れを出した。

 それらが光線のように、バランスを崩したユウに向けて飛んでいく。


「犬っころに、なっちゃえーーっ」



「………ッ!!!」


   ザッ!


 マグが、ユウを庇うように立ち、その光線を受けた。

 バシィーッ! と電気が走るような音が響き渡る。


「や、やだ、マグっ、マグーーーッ!」


 まぶしい光の中で、私は叫び声をあげた。

 傍らのユウの、信じられないものを見たような、息を飲む音が耳に届いた。


「なんで………」


 なんで庇った、という意味なのだろう。

 私は彼らの約束を知っている。


「アハハハハッ、だから言ったっしょ、後悔させてやるって! 超アゲアゲ~! バカが見る~ブタのケツ~↑↑ あ、もう犬のケツかな~?」


「でも落ち込まないで、ここからですカラ~? 残った二人で土下座して1万差し出せば元に戻してあげるって~、アハハハッ!」


 魔女たちの笑い声と共に、眩しさが収まっていく。

 紫の煙が晴れたそこには………マグが立っていた。どこにも変わった部分はない。


「……?」


 本人ですら、よくわかっていないというように自分の身体を見ている。


「ど、どういうこと!? 意味不明すぎて超MMなんですケド!?」


「あっ、おねえちゃん、コイツ…!! 妙な気配がすると思ったら、もう別の呪いを受けてるじゃん!」


「なんですって!?」


 魔女たちの言葉に、マグは合点がいったように、「ああ」と、マフラーの上から喉をおさえながら呟いた。


「オレもユウも……他の呪いは上書きされない……ということか」


「マグっ!」


 私はどっと安堵して、泣きそうになりながら駆け寄った。

 マグは私の腰を引き寄せ、後ろに隠すようにしてから魔女たちに向き直る。


「逃げるべきだろうが……馬車を放ってはおけないか……どうするか……おいユウ……呆けてる場合じゃ……ないだろう」


「あ、ああ…」


 ユウはハっと我に返ると、マグの傍に来る。

 まだ蠢いている泥人形を警戒するように、牽制のための拳を握りしめた。


「ヤダヤダ、もうコイツラ予定外すぎ! おねえちゃん、帰ろうよ~」


 シノラーの方が、すがるようにアムラーの方を見た、その時だった。


「ぷいいぃいい~」


 馬車の床に転がっていたアンタローが、ぴょこんと出てくる。


「ぷいぷいっ、いい夢を見ました……おやみなさん、どうされたんですか?」


「「「アンタロー!?」」」


「「あづさ!?」」


 私たちと、魔女たちの声がハモる。


「!?(もろもろ、もろもろっ)」


 アンタローはびっくりして、口から粒を出している。


 あづさ?


「違うよおねえちゃん、この子はあづさじゃなくて、別の種類みたい。ウケるわ~」


「な……アンタたち、精霊に選ばれてたってワケ? それならそうと早く言ってよね!」


「精霊?」

「アンタローのことか……?」

「まものじゃなかった?」


 いまいち精霊という神秘的な単語がしっくりこないので、私たちは三人で首をかしげていた。


「ぷいぃ~?」


 当の本人も首をかしげていた。


 魔女たちがサっと手を振ると、泥人形の群れは地面に還り、その場に充満していた緊張感が、ゆるゆると霧散していく。


「その様子だと、生まれたばかりみたいね。ケド精霊は悪しき心を持った人間には決して頭を垂れませんし? そういうコトなら今回は見逃してアゲル。めんどいし、もう通っていいわ~」


 見逃すというよりも、飽きたからやめる、という雰囲気で、二人の魔女は姿を薄れさせていった。


「なっ、おい、逃げるのか!!?」


 ユウはまだ怒りの残滓がくすぶっているようで、声を荒げて追いかけようとした。


「ユウ、やめろ……時間がない……街に急ぐぞ」


 マグが馬車の方を示す。

 ちょうど、商人と御者が、ウーンと唸りながら目を覚ましたところだった。


 ユウは釈然としない様子で下唇を噛んでいたが、すぐに思考を振り払うように頭を振り、捨てた剣を拾いながら馬車へと乗り込んでいく。


「おっちゃん、魔女は追い払った、すぐに馬車を出してくれ!」


 ユウの後姿を見て、マグは一安心、という様子だ。

 すぐにこちらに目を向ける。


「ツナ、疲れただろう……あとは寝てていいから」


「うん……。でも、もうちょっと、ユウとマグのブジなところ、みていたい」


 マグは一度瞬きをして、困ったような顔をする。

 しかし特に反対はせず、私の頭を一度撫でて、一緒に馬車へと戻ってくれた。

 御者の合図とともに、馬車が無事に走り出す。


 あードキドキした!

 いろんな意味でドキドキした、でも本当にみんな無事でよかった。

 私は役に立てただろうか。

 等々、いろいろな考えが浮かんでは消え、興奮冷めやらぬ私に、商人が何度もお礼を言ってくる。


「いやはや、おかげさまで無事に娘の誕生日を祝えそうですよ! 護衛代は要らないということでしたが、やはり心苦しい、せめてナツナお嬢さんに贈り物だけでもさせてくれませんか?」


 私は保護者たちの顔を窺うと、二人ともまだ疲労の残る顔で頷いてくれた。


「それはよかった! ナツナお嬢さん、これがワタシの扱う商品なんですが、何か一つ、気に入ったものを持って行ってください。差し上げますよ」


「うわーー……!」


 商人が、慣れた手つきで広げた布地の上に品物を並べていく。

 宝石やアクセサリ、おもちゃや人形、スノードームにオルゴール。

 武器や防具もあるのだろうが、きっと、奥さんや娘さんが喜ぶものを多く取り扱っているのだろう。

 少しだけ悩んだが、私はすんなりとその中の一つに手を伸ばした。


「手鏡ですか、いやぁ、さすが女の子ですなあ! そして慎ましい、もっと高い品でもよろしいのに!」


「これが、ほしいです」


 私がにこにこすると、商人は嬉しそうに目を細めた。

 たぶん私に、娘さんの姿を重ねているのだろう。


「すまない……手鏡は思いつかなかった……」


 元の位置に戻ると、私の冒険用具を手配してくれる係のマグが言う。


「ううん、このポシェットも、かわいくて、すきだよ」


「他にも欲しいものがあれば……ちゃんと言え」


「えー、マグはすぐ、ろうひ、するから…」


「ぷいいぃい~、ぷいぷいっ!」


「そうだマグシランさん、特別報酬として1万エーンを出しましょうか!?」


 行きがけと同じような賑やかさを取り戻してきた馬車の中で、ユウだけは外の景色を眺めたまま、じっと押し黙っていた。




<つづく>



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