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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
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最強の呪文



「アンタロー、魔力を!」


「ぷいぃいいっ!!(もろもろ、もろもろっ)(きりっと粒漏れ)」


 私は、そのささやかな砂の山に向け、手をかざす。

 みんな、息を呑んで、私の様子を見守っていた。


「大丈夫、大丈夫、大丈夫、うまく行く、だって、わたしには、最強の呪文があるから!」


 ほとんど自分に言い聞かせるような乱暴さで、言葉を吐く。

 私は、世界中のどんな言葉よりも、気持ちが落ち着く呪文を唱えた。


「ユーレタイド、マグシラン、フィカスラータ、ルグレイ、アンタロー、…ハイドランジア!」


 カッ、と、まばゆい光が辺りを照らす。

 私自身、自分の手の平からの光で、何も見えなかった。

 だけど、それでいい。

 私は、これから起こる現象を、認識してはダメなのだから。


「回復魔法は怖いけど!!…時間を戻す魔法なら、できるから!!」


 うっすらと、大きな砂時計が、この場に浮かび上がった。

 砂の落ち切った砂時計。

 その砂が、一粒一粒、上側に逆巻いていく。

 これが私の中で、一番、イメージしやすい形だ。


「戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ…!!!!」


 戻れ、戻れ、と、頭の中で念じていたつもりだが、いつの間にか口から出ていた。


 ハイドが塵になることが変えられないのなら。

 そこからを、変えるしかない!!


 だけど、この砂時計の砂の重さたるや…!!!!

 一粒一粒が、何トン単位の鉄球のようにすら感じる。

 これをすべて上に戻すなんて、気の遠くなる作業だった。


「戻れ、戻れ、戻れ!!」


 私の声じゃない音が聞こえた。

 ルグレイだ。


「戻れ、戻れ、戻れ!!」


 ユウが続いた。


「戻れ、戻れ、戻れ!!」


 フィカスもマグも、どんどんと続いていく。


「ぷいぃいいっ!!(もろもろ、もろもろっ)(きりっと粒漏れ)」


 ……力が沸いてくる!!!!


 いける、これなら!!!


 唱和が合唱めいた広がりを持って辺りに満ちて、まばゆい光は世界から私たちを、隠すように覆っていく。


 それが、5分だったのか、30分だったのか、はたまた1時間だったのか。

 全然わからなくなって久しいな…という頃に。

 砂時計の砂は、すべて上側に戻っていった。


 そして、私は、どうなったかを確認する暇もなく、魔力切れで意識を失った。



-------------------------------------------



 どのくらい眠っていたのだろうか。


 よくわからないが、時折、目を覚ましていた気がする。

 ぼんやりと、どこかの方向を眺めて、それで終わり。

 アンタローも、傍でぐったりしているな、くらいの認識を得た後。

 また気が付いたら寝ていた。


 それを、何度か繰り返した気がする。




「ざっけんなよ!!」


 誰かの荒い声で、ふと目を覚ました。


「今更…!!! 今更、呪いを解いて、どうしろってんだよ!!! 俺はもう、シキの時も、ユウツーの時も、泣けなかったんだぞ!!! おせーんだよ、今更……!!」


 ユウだ。

 ユウが、誰かに、怒ってる…?

 シキ…? 誰だろう……。


 目線だけを動かす。


 あ…。父さまだ…。

 マグも居る…。


「だが、その歪な呪いでは、あと10年も体が持つまい」


 10年……。


「じゃあ……もう、ヘレボラスさんは……」


 マグが呆けたような声を出し、ユウはハッとしたように、こぶしを握り締め、うつむいた。

 そうだ。シキは、ユウたちの故郷にいた、ヘレボラスさんが飼っていた犬の名前……。


「しかし……この呪いでもたらされた……力があるからこそ……ツナを守れてきた……部分が大きい……手放せない」


 マグが会話を繋げる。


「余を誰と心得るか。必要な線を残し、害となる不要な線を消せばいい。あとは、そなたらの心次第だ。決断せよ」


「何を、偉そうに…!!! いい加減にしろよ! その心をないがしろにしてきたのは、テメーらジェルミナールじゃねえのかよ!! もう、いい、もういい、話にならねえ。俺はいいから、マグの呪いを解いてやってくれ」


「必要ない。ユウが解かないなら、オレも解かない」


「マグ、何言ってんだよ!」


「ユウ……お前にはわからないだろうが……オレ一人残っても……何の意味もないんだ……」


 ユウが、怒ってる…。

 私も、会話に、加わりたい…。

 だって、大事な話だもの。

 なのに、ダメだ、全然体が動かない。

 ねむ…い…。



-------------------------------------------



 そんなやり取りを見てしまったせいなのだろうか。

 私は、変な夢を見た。



 私は、高い、高い、塔を、ずっと、ずっと、登っていた。

 片手には、籐で編まれた籠を持って。

 階段を上がると、合間合間に、そこそこ広いフロアがある。

 そこでは休憩を取ったりできるリビングキッチンがあった。

 そんな景色が、何階も、何階も続いていく。


 ある時、私がリビングキッチンで休憩をしていると、上の階から降りてきた誰かと、ばったり出くわした。


「ナっちゃんじゃないか」


 そう言われて目をやった相手は、砂色の髪に、黒いコートスタイルの、壮年の男性だった。


「フィカス…?」


 トレードマークのゴーグルは着けておらず、紅玉のような三白眼が、懐かしむように細まった。


「ああ、そうだ。懐かしいな、昔のままの姿だ。ナっちゃんはまだこの塔を登っている途中か。俺も年を取るわけだ」


「うん、紅茶に、塔のてっぺんの星砂糖をいれて飲みたくて。フィカスは、帰り道なんだね。どんな願い事をしてきたの?」


「おいおい、無粋なことを聞くなよ。ナっちゃんのように可愛らしい願い事じゃないことだけは、確かだな。ルグレイにも、さっき会ってきたぞ」


「あ、そうなんだ? だったら、わたしはそのうち、ユウとマグにも会えそうだね」


 そう言うと、フィカスは表情を翳らせた。


「そうか。今のナっちゃんは、ユウとマグが居た場所に居るのか。俺はもう、アイツらには会えない。まだ30代だったのにな…。あれほど惜しい人材をなくしたのは、俺の人生で1・2を争う悔恨だ」


「え……」


 そうだ、ユウとマグは、呪いで…。

 今まで、そんなこと、考えたこともなかった。

 遠い未来のことだろうし、ひょっとしたらなんとかなるかもと、どこかで他人事のように思っていた。


 だけど、そういうことなのだ。

 このままいけば、待っているのは、この未来なんだ。

 寿命のことを知る前は、呪いもユウとマグの一部だからと、受け入れようと努力してきた。

 だけど、そういうことなのだ。


「だから、またアイツらに会えるように、願いをかけてきた。俺はこの塔を降りた瞬間から、また、あの10年間を駆け抜ける。何度も何度も、あの黄金のような日々を。もう、未来に行けなくてもいい。王位は譲ったし、やるべきことは、すべてやってきたからな。だから、ナっちゃん。俺はこう言おう。『また会おう』と」


 フィカスは走り出した。

 階段を降りるのをもどかしいとでも思ったのだろうか。

 フィカスは、勢いに任せ、窓から身を乗り出し、飛び降りた。


 私は…。

 私は、籐の籠を捨てた。

 反転して、階段を駆け下りる。


 こんなことをしている場合じゃなかった!

 ユウと、マグに、会わなくちゃ!

 それで、たくさん話して、たくさん伝えて、悔いの残らないように、一緒に生きようって、言わなくちゃ!!

 階段は長く、息も上がる。

 だけど、私の足取りは、鈍らなかった。

 いつまでも、いつまでも。



-------------------------------------------



「…ナ、……ツナ…どうした、泣くなんて。嫌な夢でも見たのか?」


 目を開けると、ユウが、私を揺さぶっているところだった。


「ユウ!!」


 私はがばっと起き上がると、ユウにしがみつく。

 ユウは慌てて、私を受け止めた。


「わっと…!?」


「ユウ、ユウ…!!」


「なんだよ、俺がどっか行く夢でも見たってのか? ははっ、寂しがりだなあ、ツナは」


 ユウは、ぽんぽんと私の頭をたたくと、ゆっくりと背中を撫で始めた。


「よしよし、もう大丈夫だぜ。いろいろあったからな、そりゃ怖い夢だって見るだろ。普通のことだぜ、普通のこと」


「ン……」


 優しい口調で言われると、だんだんと落ち着きを取り戻してきた。

 ゆっくりと体を離し、辺りを見渡す。


「ここって…?」


 そこは、見たこともない場所だった。

 緑色のふかふかしたカーペットが敷き詰められていて、私は苔のようなお布団で寝ていたようだ。

 壁も全て緑色で、まるで植物でできているような部屋だった。

 よく見ると、部屋のあちこちに、今は抜け殻の苔布団が散らばっている。


「ああ、それがさ。あの後、騒ぎを窺いに来たトランペッターと偶然会って…ここは、今あづさが拠点にしてる、紅葉樹林なんだ。んで、俺らの消耗を見て、植物ででっかい小屋を作ってくれたんだよ」


「みんなは? あ、それより……」


 ハイドのことを聞こうとして、でも、聞くのがちょっと怖くなって、言葉が途切れた。

 ユウは、うつむいている私を気遣うように、少しだけ言葉を探す。


「…そうだな。先に外に出るか。ツナは丸2日くらい、ずっと寝てて、起きたとき一人じゃ寂しいだろうからって、みんなで交代で傍に居たんだ。まあ、俺はつい、起こしちまったわけだけど…。ほら、ちゃんと掴まれよ」


 ユウはそう言いながら、慣れた様子で私を抱き上げた。

 そのまま、小屋の扉を開け、外に出る。


「うわあ…!!」


 真っ赤に染まった葉っぱたちが、風に遊んでいる光景が、まず目に飛び込んできた。

 風流、の一言に尽きる光景だ。


「ツナ、起きたのか」

「ぷいぃいっ、ツナさん、相変わらず、おねぼうさんですねっ」


 木に寄り掛かり、アンタローを頭に乗せて木彫り細工をしていたマグが、顔を上げて、ユウと私に目を止める。

 その言葉に反応して、固まって話していた3人の人影も、私たちの方を見た。


 ルグレイと、フィカスと、それから……魔法王だ。


 私は、ちょっとだけ、緊張した。


「ナっちゃん、ゆっくり休めたか?」


「ナツナ様、よかった…! 話し声で起こしてしまったら申し訳ないですからね、みんなで外で待っていたんです」


 フィカスとルグレイが矢継ぎ早に話しかけてきてくれた。

 魔法王は、気まずげに視線をそらしている。


「ありがと、もうすっかり、元気だよ!」


 笑顔を向けると、みんな、ほっとしてくれた。

 ユウは、切り株の上に座らせるように、私を下ろすと、自分はその隣の地べたに座った。


「かくいう俺たちも、ようやく体調が戻ってきたところだ。あづさに会えたのは僥倖という他なかったな。おかげで、ゆっくりと休めたのだから」


 フィカスの言葉に周囲を見渡すも、今はあづさもトランペッターも、姿は見えない。

 ルグレイがそれを察したのか、言葉を添える。


「あづさ様は、私たちがゆっくりと休めるように、場を譲ってくださいました。しかしまだまだ私たちの魔力は回復しておらず、もうしばらく逗留させてもらう予定となっております」


「そ…か…」


 なんとなく、私も魔法王から視線を外しながら、返事をした。


「あの…ハイドは?」


 思ったよりも、さらっと聞けた。

 怖い気持ちはあるけど、なんとなく、うまく行った…という確信がある。

 ユウは、ため息をつきながら、ガシガシと頭を掻いた。


「あいつ、怪我をする前まで戻ったからな、もう元気に悪態をつくのなんの! アイツはちょっと怪我でもして、しおらしくなってるくらいがちょうどいいんじゃねえかって、心底思ったね」


「そんなことを言って、ユウ様もホっとしていましたよね?」


「ルグレイ…!」


 ユウが、非難の目をルグレイに向けた。

 ルグレイは、にこにこと笑ったままだ。


「よ…かった…!!」


 口元を押さえて、なんとか泣くのを我慢しようとする。

 しばらく時間がかかった。


「ツナがあれだけ・頑張ったのだからな・上手く行って当然だ……。ハイドも本音を知られて・恥ずかしかったのだろうな・いつも以上に悪態をついていた……。仕組みはわからないが・どうやらツナの魔法で・ハイドの体の時間だけが戻って・精神…つまり、記憶は巻き戻っていないらしい。想いというものは・案外魂に刻まれるものなのかもしれないな。自分が何を言ったか・されたか・理解していたようだ……」


 マグが言葉を添えてくる。


「……?」


 なんだか、マグの喋り方が、いつもよりちょっと、ぎこちない…?

 いや、ぎこちなくない、かな…?


「マグ、どうしたの…?」


 私が不思議そうにしていると、マグは少し困ったように笑って、しゅるりとマフラーを解いた。


「…!?」


 私は、驚いた。


 マグの首元に刻まれた紋様が、目に見えて減っていた。

 あの乱雑な練習書きみたいな、散り散りに乱れた筆文字のような文様が、バラのつぼみに見えるくらいに減っていた。

 もし、これが正しい形だったというのなら、本当に凄まじく歪んだ呪いに進化していたことになる。


「マグ、呪いが…!! どうして!? だって、ユウが、怒って、怒鳴ってて…!!」


「見ていたのか」


 マグは思わずユウに目を向けた。

 ユウは、気まずげに唇を尖らせる。


「ちぇっ、ダセーとこ見られちまった。…そりゃそうだよな、あんな大声出しちまってたんだもんな。ごめんな、ツナ。ツナは、でかい声とか、苦手なのにな」


 私は、ユウがそれに気づいていたことに驚いた。

 いや、そもそも、怒鳴り声が得意な人なんていないような気もするが。


「最初は、ふざけんなよって、断ったんだ。けど…」


「さすがに・王族にあそこまで・頭を下げられてはな……」


 ユウとマグの言葉に、私は驚いて魔法王を見た。

 魔法王は、まだ目を合わせてこない。

 フィカスが言葉を続けてくる。


「俺も驚いたよ。フェザールは寿命が長いんだってな? だから、どうか一日でも長く傍に居てやって欲しい、とな。かくいう俺は、他人に頭を下げたことはない」


 フィカスはなぜか自慢げだ。


「余計なことを言うでない…」


 私にとって、魔法王が今日初めて発した言葉はそれだった。


「ですが、ユウ様とマグ様に受け継がれた力を残そうとすると、喪失という、本質の部分はやはり残ってしまうそうです。少しだけマシになったようで、マグ様は、少しだけ喋るのが早くなられました。ユウ様の変化は、今はわかりませんが」


「二人とも、体調の方は大丈夫?」


 私は、ルグレイの言葉に、はやる気持ちを押さえつつ、冷静を装って、ユウとマグを窺った。


「ああ。嫌な夢も見なくなったしな」


 ユウはそう言って頷いた。


「嫌な夢って…どういうこと?」


 私の問いに、マグが答える。


「……たまにオレではない・オレの夢を見ることがある。たぶん先祖のうちの・誰かの人生だ。年を経るにつれて・その頻度が増えてきていた。あの夢から帰れなくなったら・おそらくそれが・死なのだろう……と、うっすらと・感じていた」


「そんな…!!」


 二人とも、ずっとそれに耐えていたというのだろうか。

 そして、これからも耐え続ける気だったんだ。

 力を失わずに、私を守るために。


 せっかく我慢できていたのに、また、泣きそうになってしまった。


「ツナ、そんな顔すんなって。結果的には、有害な部分を解いてもらったわけだけどさ。けど…村を出た頃にはわからなかったことが、今ではわかるんだ。近づいてくる死に対して、背を焼くような焦燥が来ることとか。ツナを残して、この世から居なくなることを回避しようとする気持ちとか。今は…村の大人の気持ちが、少しだけ、わかる気がする。印象が、変わってきたっつうか…。たぶん、今なら、許せるんじゃねーかなって」


「…そっか…!!」


 それがいいことなのかどうかを、他人の私が判断することはできないが、でも、よかったと、そう思った。

 許せることが増えるのは、世界が少しだけ、優しく見えるようになると思っているから。


 ダメだなー、年を取ると涙もろくなるというけど、最近泣いてばかりな気がする。

 まあ、年を取ると言っても、まだ大学2年生なんだけどね。

 今からこれでは、この先思いやられるというか。


 慌てて目元をぬぐうと、私は笑顔でユウとマグに向き直る。


「だったら、いつか、二人の故郷まで旅してみるのも手かもしれないね! あ、でも、ここって、西大陸の、西の端なんだよね? だったら、東の端にある、ユウたちの故郷も近いってことだよね!」


「……?」

「???」


 場の全員が、不思議な顔で私を見てきた。

 私はその反応がよくわからず、一緒にハテナを浮かべる。


「え…だって、世界は丸いから、繋がってるよね?」


 私以外の全員が、責めるような目を魔法王に向けた。

 魔法王は、いたたまれないような表情で、眉間にしわを寄せて、視線に耐えるように目を閉じている。


「まあ…長く幽閉されていたようだからな、そうなるか。ナっちゃん、飛べる体力はあるか?」


 フィカスが、言いづらそうに、私を窺ってきた。


「え…? うん、飛ぶ方が、むしろ楽だよ」


「そうか。ならば、ここから垂直に、高く高く、飛んでみてくれ。気が済んだら、降りてくるといい」


「??? う、うん、わかった…」


 わかったと言いつつ、本当はよくわかっていないが、とりあえず、私は立ち上がる。

 トンと地面を蹴って、ふわりと風を纏うように、飛び上がった。


 バサリ、バサリと、羽ばたきを増やすにつれ、私の体はぐんぐんと空に立ち乗っていく。

 まるで、煙か何かになったかのような気分で、とても気持ちがいい。


 やっぱり、飛ぶって、楽しい!

 あの空の雲の上、空の底の方に、早く羽根で触れてみたい!

 そんな、本能めいた衝動がやってくる。


 雲がすぐ上にあるくらいの位置に来て、下を見ると、もうみんなの姿は豆粒のようだ。

 これで一体、何が分かるんだろう?

 そう思って、辺りを見渡して…私は驚いた。


 西の端から、西を見ると。

 世界が、いきなり、途切れていた。

 海の水が、とうとうと、何もない真っ暗な空間に流れ落ちていく

 世界の端っこは、星空のようにキラキラと真っ暗な断面を覗かせている。


 この世界は、平たかった。

 初めて船旅をしたときに感じた違和感は、これだったのだ。

 水平線が、丸くなくて、平たい。


 その真っ暗な断面を見つめていると、なんだか怖くなってきて、私は両腕を抱くようにして、何かに耐える。

 怖いのに、目が離せない。

 振り払うように反対側に目を向けると、東側には平たい大地が、向こうの方まで存在している。

 広い世界のはずなのに。

 なぜだか、狭く感じた。


 なんだか、私の世界の狭さのようだ。

 フィカスが、気の済むまで、といった理由が、少しわかった。

 怖い気持ちも、むなしさのような気持ちも、色々、ごちゃごちゃと胸の中に去来してきて…。

 その整理がつくまで、私はずっと、空の上から、世界を見ていた。


 上空の風は、少しだけ冷たかった。




<つづく>



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