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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
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意外な刺客



「昼寝をするぞ」


 地上に出て、物資を魔道車に移し、モタモタと昼食を終えると、フィカスが突然言い出した。


 私たちが反応をする前に、フィカスはつらつらと畳みかけるように話し始める。


「俺は、そこそこ情の薄い方だと思っていたのだがな。今回は少しダメージがでかいようだ。気分転換をしたい。昼寝だ。付き合え。ルグレイは元気だろう、見張りをやれ。時間は3時間程度でいい」


 私たちは、何とも言えない顔でフィカスを見る。

 しかし、誰も反論をしなかった。

 確かに私も、ルンルン気分で旅を続ける気にはなれなかった。


「何だったら、子守歌でも奏でようか?」


 シークが言い出すと、マグが首を振る。


「いや……シークも寝ていないだろう……ちゃんと休んだ方がいい……起きてから予定を聞かせてくれ。……今は、誰の別れの挨拶も聞きたくはないからな」


 マグの言葉に、シークは少しだけ困ったような顔をした。

 何か言いたそうにしているように感じたが、結局何も言わずに、シークはとんがり帽子を深くかぶりなおすと、湖の傍に生えている木の傍へと移動し、寄り掛かった。

 寝る姿勢になっているので、了承したということだろう。

 シークは、喋る時は凄くしゃべるのに、そうでないときは全く喋らなくなる。

 ひょっとしたら、かなりの気分屋なのかもしれない。


「ルグレイ」


 マグは、懐中時計をルグレイへと放り投げる。

 ルグレイは、危なげなく受け止めた。


「承りました、今から約3時間ですね」


「ぷいぃっ、ボクは眠くないので、後輩と遊んであげます!」


 難しい話の間に寝ていたアンタローが、元気にルグレイの頭の上を飛び跳ねる。


「ダメですよアンタロー様、静かになさらないと、皆様が眠れません」


「あ、いいよルグレイ、アンタローと話してあげて? わたし、誰かの話し声がする方が、なんだか安心できるから」


「…そうだな、俺もそうだ」


 ようやくユウが喋って、私はほっとした。

 ユウは、何かを考えこむように、ずっと黙っていたからだ。

 私はちょっと嬉しくなって、一所懸命ユウに話しかける。


「外で、お昼間に寝るのって、ちょっと、新鮮だね!」


「そうか? ツナはすぐ疲れるから、俺の背中とかで何かと昼寝してたじゃんか、もう忘れたのか?」


 ユウが、からかうように言ってきた。

 そういえばそうだった、と、私はしてやられた気分になる。


「そ、それは、そうだけど…! 焚火もなくて、みんなでって意味で…!」


「こらツナ……興奮すると眠れなくなるぞ……ユウもだ」


 マグに叱られてしまった。

 フィカスは、魔道車のタイヤに寄り掛かるようにして、さっさと眠りについている。

 ゴーグルをつけているので、アイマスク代わりになるのだろうか。すぐに寝息を立てた。


 目の下にクマがあるマグも、片手を枕にするようにして、ごろっと草地の上に横になった。

 ユウもすぐにそれに続こうとして、ふと思い出したように私を手招く。


「ツナ、ブレスレット、返すよ」


 ユウは、左手首に巻かれた、首輪のブレスレットを外し始める。

 私は這うようにして草地を移動し、ユウに左手を差し出した。

 ユウはマグほど器用ではないが、私よりは早い動きで、ブレスレットを外し、また私の腕につけてくれた。


「ありがと。…おかえり」


 私は微笑んで、ちょんちょんと鈴をつついて、チリチリと鳴らした。

 ユウは少しだけ笑うと、なぜか私の頭をくしゃりと撫でた後、すぐに草地の上に横になる。


 私も移動するのが面倒だったので、ユウの隣で、ころっと丸まるようにして、横になった。

 もはや地べたで寝るのはお手の物だ。


「ぷいぷいっ、ルグレイさんルグレイさん、許可が下りたので、しりとり、できますよっ」


「しりとりの許可が下りた記憶はないのですが…。すみませんアンタロー様、ナツナ様に言われたのですが、私はしりとりが下手なようです」


「では、ボール遊びを教えてあげます!」


 気候は秋だが、お昼間なのでまだ暖かい。

 晴れた空の下で、キャッキャとはしゃぐアンタローの声と、ルグレイの優しい声が響くのを聞いているうちに、私は段々と眠くなってきた。


 水底に居るユウツーは、今頃どうしているだろうか。

 エネルギーが切れるのは何時なのだろう。

 今、同じ太陽を見上げているのだろうか。

 ほんの少しだけ、みんなにバレないように泣いて、それから眠りについた。



-------------------------------------------



「ナツナ様、ナツナ様」


「ン……」


 ほんの一瞬寝ただけ、という感覚なのに、ルグレイが起こしに来た。

 目を擦りながらゆっくりと上体を起こすと、周りに居た皆も、まだ眠そうにしている。


「もう…時間きたの…?」


「はい。皆様、よほどお疲れだったのですね。起こして回るのは、今が二週目ですよ。シーク様は眠っていらっしゃらなかったようで、すぐに返事をしてくださいましたが」


 ルグレイは、微笑まし気な視線を向けてくる。


「だがまあ…幾分かは、スッキリしたな。昼寝など久しぶりにやったぞ」


 フィカスが、感慨深げに空を仰いでいる。


「まだ昼間なのが……妙な感じだ……得をした気分になるな……」


 マグはまだ目が半開きだ。

 ユウは、座ったまま、ぐーっと伸びをしている。


「…で、なんだっけ? これからの予定を決めるんだっけ」


「ぷいぷいっ、ユウさんユウさん、呼びましたか? ボクですよっ」


 アンタローが、ユウの膝に乗りに行く。


「いや、呼んでねーけど…」


 そう言いながらも、ユウは膝に乗ってきたアンタローを条件反射で撫でている。

 アンタローはハートを飛ばしながら、ユウの手にぐりぐりと額を押し付けている。

 状況の分かっていないアンタローなりに、ユウツーとの別れに何かしら思うところがあったのかもしれない。


「しかし、そうだな。これからを考えなければならない。シーク、どうだ、ニヴォゼに来ないか? 俺にはそれなりの立場があってな。見返りはできうる限り、希望に添えるぞ」


 フィカスが直球でシークを勧誘している。

 シークは、木に寄り掛かった姿勢のまま、とんがり帽子を少し持ち上げて、フィカスを見る。


「私は漂泊の身。一週間程度なら、お招きに応じることもやぶさかではないけれど…そういう意味ではないのだよね?」


「ああ。シークは察しがいいからな、おおよその見当はついているだろう。時々意見を窺いに行ける位置にさえ居てくれるのなら、歓迎を約束しよう」


「……急ぎかい?」


「いや。返事は好きな時でいい。100年後だと困るが」


 フィカスの返答に、シークはくすくすと笑った。

 昨日見たばかりだというのに、なんだかその反応が、久しぶりに見える。


「お互いに情が移らないうちに離れるのが、一番だと思っていたけれど…。そうだね、君たちと共に居ると、新しい音が浮かんできそうだからね。あと1日だけ、一緒に行動させてくれないかな。その間に、フィカス君への返事を決めるよ」


 フィカスはシークのその言葉を聞いて、マグの方を見る。

 マグは、「よろしく頼む」と頷いた。


「では、移動をすることになったら教えてほしいよ。私はそれまでここで音を探して―――」


 言葉の途中で、シークは跳ねるように立ち上がった。

 私とルグレイとフィカスも、弾かれたように、バッと同じ方向を見る。


 ユウとマグとアンタローは、私たちのいきなりの動きに、かなり驚いた。


「ぷいぃっ、ハエでも居ましたか?」


「なんだ、どうした!?」


 ユウの言葉に、しかし私は答えられなかった。

 初めての感覚だったからだ。

 まるで、見えないヴェールで、肌を撫で上げられたような…。

 不快ではないが、なぜか「見られた」と感じる。


「魔力探査…! しかも今のは、かなり遠くからだね…世界中を覆うほどの範囲だった。だけど、一体だれが…?」


 シークが説明をしてくれた。

 探査…と言われて、妙にしっくりくる説明だと感じた。

 例えるなら、潜水艦のソナーのようなもので、私たちの居場所を探られた…という感覚が、とても近い。

 フィカスが、焦ったように、ゴーグルの横の部分を、ピピピといじる。


「馬鹿な…今の波形は、…ジェルミナールだ!! 全員、この場を離れるぞ! おそらくナっちゃんの位置がバレた!」


「な……!?」


 マグもユウも、焦ったように立ち上がる。

 しかしルグレイは、真っ青な顔をして、茫然と座り込んだままだ。

 私はいきなりの緊張で、冷や汗が出る。


「シーク、お前は別方向に逃げろ! こっちの事情に巻き込むわけにはいかねえ!」


 ユウが、追い払うように腕を振ってシークへ言った。


 だが、シークは、ユウの言葉が聞こえていないかのように、まだ先程と同じ方向を見ている。


「…よせ、下手に動かない方がいい!」


 シークは鋭く、魔道車に乗り込もうとしているフィカスを止めた。


「どういうことだ?」


 フィカスも普段より早口で、シークを振りかえる。


「その乗り物の中に固まると、逆に狙いがつけやすく、直撃を受け、転倒させられるだろう」


「転倒って…どういうことだ? 探られたのは、かなり遠くからじゃねーのか?」


 ユウも焦りながら、シークを責めるような口調になった。


「いいから! 全員迎撃態勢をとって! その方が逃げるよりもはるかに怪我人が少なくなる! 座標を定める気配がした。…相手は、跳ぶ気だ!」


 シークも、すっかり普段の涼しげな様子ではなくなっていた。


「ルグレイ、ルグレイ、どうしちゃったの!」


 私は急いで立ち上がり、茫然としたままのルグレイを揺さぶる。


「く…っ! とにかく、今はシークを信じてみるしかなさそうだな。広い場所へ行くぞ!」


 フィカスは、湖から離れるように走り出す。


 それとほとんど同時のタイミングで、フィカスが走り出そうとした方角に、突如魔方陣が出現した。

 ストーンヘンジの石舞台と同じくらいの大きさだ。


「転送魔法陣…!?」


 フィカスが足を止める。

 ルグレイは、信じられないものを見るように、光り輝くその陣を見つめていた。


「やはり、この魔力の気配は……。陛下……!!! なぜ…! 直々に足を運ばれるなど、考えられない…!!」


 全員、息を呑んでルグレイを見る。


「陛…下…って、…え……?」


 私は、理解が追い付かずに、全然意味なく言葉を繰り返した。


「うそだろ、親玉がいきなり来たってことか!?」


 ユウは剣を抜いて、全員の前に躍り出るようにして構えた。


「シーク、説明をしている暇がない……とにかく、そこの木の後ろに隠れていろ……!」


 マグも、ユウの隣で銃を抜き放つ。


「おいルグレイ、しっかりしろ、ナっちゃんを守るぞ! それともお前はまだジェルミナールのための騎士に戻るつもりか!?」


 フィカスもユウの隣に立ち、茫然としたままのルグレイを叱咤する。


「あ……そう…ですね……おれは……姫様の、騎士です…!!」


 ルグレイはハっと顔を上げて、アンタローを、魔道車の席の方へ、ボールのように放り投げる。


「ぷいぃいいっ!」


 アンタローは、後部座席に、てんてんと跳ねながら着地した。


「アンタロー様はそこに隠れていてください! ナツナ様、私の後ろへ!」


 ルグレイは、マントを広げるようにして、私を庇う。

 しかし、ルグレイの背中は、迷いが伝わってくるように、儚げだった。

 私は、ようやく、頭の中の整理が終わった。


「ルグレイ…。陛下って…。わたしの、父さま…のことだよね…?」


「……、どうして、こんなことに……!!」


 ルグレイは、返事の代わりに、唇を噛んでいる。


「魔法王…か。まさか、伝説の存在に、相まみえる日が来ようとはな」


 フィカスが自嘲気味に笑う。

 その瞬間、魔方陣は一層光り輝いて、中から一人の、背の高い人影が浮かび上がった。


「…!」


 ルグレイ以外は、その若々しさに、まず驚いていた。

 とても、数人の妻や子がいるようには見えない。

 私たちの前には、20代後半くらいにしか見えない男の人が居た。

 これが、魔力持ちの人の、身体コントロールの効果というものなのだろうか。


 私の兄を名乗る、ブルーの髪よりも、少し濃いめの青い髪。

 それをオールバックにしている、氷のように冷たい目をした人だった。

 片手には、身の丈ほどもある、大きな宝石のはめこまれた杖を持っている。

 服装も何もかも、絢爛という言葉がふさわしい恰好をしていた。

 ブルーとジューンと同じように、サークレットをしている。

 刻まれている太陽と弓矢のマークは、ジェルミナールの紋章だろうか。


 転送の光が収まると同時、その人は、ユウたちのことが見えていないかのように、真っすぐに私を見てきた。

 私は、瞳で貫かれたかのような錯覚を覚えて、一歩下がった。


「―――ラズ。やはり生きていたか」


 その目を見た時。

 あの時、私は両親に愛されていると言ったルグレイが、嘘をついたのだと思った。

 その目には、憎しみ以外の感情が、見つからなかった。

 いや、強いて言うなら、一つだけある。

 焼けつくような、殺意だ。




<つづく>



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