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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
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ユウツー



 夜になると、今度は月明かりが、透明な天井から射しこんでくる。


 私たちは、入り口の大広間まで戻り、月明かりの下で、晩御飯を食べている。

 今は身内しかいないので、私は翼を出して、月明かりの魔力を溜め込んでいるところだ。

 水と空気がきっちりと分かれているラインの傍に居るので、水族館でご飯を食べている気分になる。


 シークは相変わらず研究室の奥の部屋で、ご飯などそっちのけで、夢中になって音を探している。

 ユウとユウツーはパっと食べ終わって、二人で組手をしようと言い出して、ちょっと離れたところでじゃれ合っている。


 私とルグレイとマグとフィカスとアンタローは、のんびりと保存食を食べながら、二人のユウたちの方を眺めていた。


「今までナっちゃんがブレスレットをつけている分には、特に何とも思わなかったが。ユウが付けていると、リンリンうるさくて仕方がないな」


「ユウ様はよく動かれますからね」


 フィカスの言葉に、ルグレイが微笑まし気に、組手をしているユウの方を見ている。


「ぷいぷいっ、ボクの予想では…赤い髪の方が勝ちますねっ」


「両方赤毛だが……?」


 マグはなんだかんだで、だいたい律義にアンタローの言葉を拾いに行っている。


「ユウツー、ホントにここに残るのかな…」


「さすがにユウが二人も居ると……落ち着いた旅はできない……ツナ、別れは寂しいだろうが……我慢してくれ」


 私の呟きに、マグが応じた。

 フィカスも言葉を続ける。


「だが、ユウと同じ顔と性格なのが、どうにも…胸に来るな。こんな寂しい場所で一人きりにさせたくないという気持ちは、俺にもある。まあ、本人はもう、寂しいとは思っていないようだが。ユウツーが選んだ選択なら、尊重するべきなんだろうな」


「ン……。シークとも、これでお別れになりそうだね」


 私の言葉に、フィカスは、残念そうに息を吐いた。


「シークに関しては、ぜひ欲しい人材なのだがな。アナライズの才能など、世界中を探してもそうは見つかるまい。勧誘をしたいところだが、エルフは人間嫌いだというし、難しいだろうな…実に惜しい」


「でもシークって、そんなに人間が嫌いそうには見えないよね?」


 思わず言うと、ルグレイも頷いた。


「そうですね、淡々とされていますので、奥の方まで感情を読むことはできませんが、今のところ、不快感をあらわにされたことはないように見受けられます」


 マグが、少し考えこむ。


「ツナも……シークのことが気に入っているようだしな……ダメもとで誘ってみてはどうだ……フィカス」


「えっ、わたし、シークのこと、気に入ってるの?」


 きょとんとしてしまった。


「気づいていないのか……? ツナが初対面で敬語を使わなかった相手は……オレが見てきた中では……セージくらいだ」


「何を言う、俺もナっちゃんとは最初から仲が良かったぞ」


 なぜかフィカスが張り合ってくる。

 マグは、半眼でフィカスを見た。


「誘拐魔に……敬語を使う必要がどこにある……?」


 そういえば、フィカスとの初対面ってそれどころじゃなかったなあ、懐かしい。

 そして、確かにセージのことは、なんだか愛嬌のある優しいおじさんな感じで、好ましく思っていた。

 ティムくんと話した時は、マグは居なかったもんね。


 しかし、言われて気づいたけど、確かに私はシークには敬語を使っていない。

 なんだか、シークに敬語って、違う…という感じがするのだ。

 すごく感覚的なもので、うまく言えないんだけど…。

 ……。

 改めて考え直してみても、やっぱり、違う、という感じがする。

 なぜなのかは、わからないが…初めて会った気がしない、というか。


「ひょっとすると、フェザールとエルフは仲がいいのかもしれませんね。両種族とも、見目麗しい顔立ちが多いですし、争いを嫌うなど、共通点が多いのかもしれません」


 ルグレイが、にこにこしながらそう言った。

 そうなのかな?

 そうなのかも?


 なんとなく、それで納得することにした。




 食事を終えると、明朝の出発準備だ。

 フィカスの指示で、奥の部屋から物資が運ばれてくる。

 貝殻の乗り物に、物資が入り切るかどうかの検証が行われたり、ある程度の取捨選択を余儀なくされたりと、フィカスとマグは、あーでもないこーでもないと討論を交わしている。

 重さについては、どんなに貝殻が重くなっても、ルグレイが絶対に地上に運んでみせるという意思を示した。

 二人は夜を徹して研究資料にも目を通したいということで、私たちは先に眠りにつくことにした。


「というか、別に出発は三日後とか、そういうのでもいいんだよ…?」


 徹夜をしそうなフィカスとマグに言うと、二人は首を振る。

 ユウツーと、これ以上別れ難くなる状況になるのは避けたいらしい。

 そう聞くと、私としては、黙るしかない。

 だって、既にもう、ちょっと離れ難くなっているのだから。

 ユウだって、もうユウツーにべったりで、二人でまたどっかに行ってしまっている。


 仕方なく、私とルグレイとアンタローで、口の開いた貝殻の中に入り、固まって眠りにつくことになった。


「そう、ボクですよ……」


 ぷいぷいと寝言を言うアンタローを見て、ルグレイと二人で笑い合い、寝転がった。


 水の中で眠るようで、不思議な感覚だった。



-------------------------------------------



 翌朝になると、出発準備が着々と進む。

 シークと合流しそうなので、私は翼を仕舞って、アンタローがみんなの邪魔をしないように、久しぶりにお腹を押したりして、アンタローと一緒に遊んでいる。


 私は立ち上がって、床の上に居るアンタローの真上に、お菓子を持った両手を掲げる。


「ほらアンタロー、右にあるのが砂糖のまぶされたビスケット、左にあるのが、干し芋スティックだよ! どっちか片方だけあげるよ、どっちを選ぶかな~?」


「ぷ、ぷいぃいっ…!!」


 アンタローは、困ったような汗をぴょぴょっと出しながら、床の上を跳ねて、右にうろうろ、左にうろうろして、目まぐるしく視線を動かしている。


 ふふふ、困ってる困ってる。


「あ、ユウさぼってら! 言ーってやろ言ってやろ、マーグーに言ってやろ!」


「ちょっ、やめろよ、ちげーよ! 俺が運んだら壊しそうだから触らねーようにしてんだよ!!」


 隣ではユウとユウツーが、今日もわちゃわちゃやっている。

 確かにこれは、マグの言う通り、落ち着いた旅はできそうにないなあ…。



 そうこうしているうちに、フィカスとマグが選び抜いた物資を貝殻の中に運び込み、シークもやってきて、みんなで貝殻の中に入る段階になった。

 物資と言っても、運びやすくするために、麻袋に詰め直したチェルキーストーンがほとんどを占めている気がする。

 唯一、この場に残るユウツーだけが、外側に居る。


「ユウツー、この貝殻の口が閉じたら、水の中に押し出してもらっていい?」


「ああ、そっかそっか、そういう役目が必要だよな、お安い御用だ!」


 私の言葉に、ユウツーはからっとした笑顔で、快諾をしてくれた。

 フィカスが、心配そうにルグレイを見る。


「ルグレイ、魔力は大丈夫か? 念のため、アンタローを付けた方がいい」


「大丈夫です、貝殻の中に空気がありますので、ほとんど浮力任せにすればいいだけですからね。ですが、アンタロー様が居てくださると、心強いです」


「ぷいぃっ、お任せください! 後輩のために、たくさん粒を漏らしますよ!」


 アンタローは大張り切りで、ぷいぷいとルグレイの頭の上に登っていく。


「それよりも、フィカス様もマグ様もユウ様もシーク様も、あまり睡眠をとられた様子がありませんが……皆さんの方は、体調はいかがなのでしょうか?」


 ルグレイも私も、そこが不安だった。


「徹夜と言っても……全員楽しいことばかりしていたからな……むしろナチュラルハイになっている程度だ」


 マグはいつもの調子でそう言うので、ハイなのかどうかはいまいち伝わってこなかった。


「ただまあ、魔物に襲われたりしたら、若干やべーかもな。ユウツーと話すのは楽しかったから、全然後悔はしてねーけど」


「悪い悪い、俺も楽しかったんで、無理させちまったなー。けど、さすがに魔物なんてもう居ないだろ。ってことで、みんな元気でなって、気楽に言うことにするぜ!」


 ユウの言葉に、ユウツーが返した。

 そして、ユウツーは、意を決したように、ユウの方を見る。


「なあ、ユウ。ユウは嫌かもしれねーけど、俺、ずっとこの姿のままで居ていいか? 鏡の中に戻っちまったら、この姿はリセットされるんだ。けど、せっかくツナが教えてくれた自我も、なんでか、一緒にリセットされちまいそうな気がして、怖いんだ」


 ユウは少し驚いた顔をしたが、すぐにからっとした笑いを返した。


「何言ってんだよ、こっちは元からそのつもりで居たのにさ。ユウツー、元気でな!」


「…サンキュー、ユウ! 俺、みんなに会えてよかった!」


 シークは、何かを言う代わりに、唐突にリュートを弾き始めた。

 昨日から作っていた音楽ができたのだろうか。

 なんだか、出だしから物悲しい曲だった。


 ユウツーはその音を聞くと、しばらくして、ハっと何かに気づいたよな顔でシークを見る。


「シーク…ありがとな」


 シークは返事もせずに、ただひたすらに、その物悲しい音楽を奏で続ける。

 まるで、レクイエムのような曲だった。


「じゃあ、名残惜しいけど…ツナ、貝殻を閉じてくれ。ちゃんと押し出すからさ」


 ユウツーが、私を促してくる。


「う、うん…ユウツー、わたし、ユウツーのこと、忘れないからね!」


 私が貝殻開閉スイッチを押しに行くと、半透明の二枚貝が閉じていく間に、みんなは口々に、ユウツーにお別れの言葉をかける。


「達者でな」

「どうか、お元気で!」

「世話になった……」

「ぷいぃっ、また会いましょうね!」


 ユウツーは、何も言わず、とても軽薄な顔で、へらへらと笑った。

 ガシャンと貝殻が閉じると、お互いの空間が隔てられる。

 ユウツーは、私たちを包む大きな二枚貝に手をかけると、思い切り、水の中に押し出した。


「ありがとう……それから、ごめんな」


 貝殻越しに、くぐもったユウツーの声が聞こえた。

 すぐに、ザブンと水の中に入ってしまって、ルグレイは返答よりも先に、水を操ることに集中を始める。


「ごめんって、…なにがだ?」


 ユウは、思わず、と言ったようにそう零したが、誰も返答できなかった。

 全員、どうしてユウツーが謝ったのか、わからなかった。

 ルグレイはコツをつかんだのか、難なく貝殻を水の中に漂わせることができた。

 どんどんと、手を振るユウツーの姿が離れていく。


 貝殻は、研究施設の開いたままの扉を出て、地上へ向けて浮き始める。

 この場には、シークの奏でるレクイエムだけが、満ちていた。


 私たちはまだ、戸惑ったように、ユウツーの残った研究施設の方を見下ろしている。


 やがて、考え事をしていたマグが、口を開いた。


「シーク……ユウツーが何故ああ言ったのか……何か、気づいているんじゃないのか……?」


 ピン、とシークは弦をはじいて、曲を止めた。


「だとしたら?」


「気になるじゃないか、言ってくれ」


「私は趣味が悪くてね。人の秘密を暴きたがる。その手段がマジック・アナライズなわけだけれど。しかし、君たちは私とは違って、本人の許可なく、秘密を暴く趣味はないんじゃないかな」


 フィカスの言葉に、シークはにべもなく返した。


「本人の許可が必要だってんなら、ここに本人が居るだろ! 言ってくれよ!」


 ユウツーと同じ顔をしたユウが、無茶苦茶な理論を述べている。

 シークは、きょとんとした顔でユウを見た後、困ったように薄く笑う。


「…わかったよ。ただし、私の言うことを一つ聞いてもらう、という条件で、その申し出に応じよう」


「ぜひお願いします。私も気になりますので」


 ルグレイも同意すると、全員が頷いた。

 シークは、やれやれと首を振る。


「……まず、先程の曲は、昨日出来上がったばかりの、レクイエムだよ。そして私には、既にこの世に居ない者達に対して、レクイエムを贈るような趣味はない」


「……?」


 怪訝な顔を浮かべる私たちをよそに、シークは淡々と話を続ける。


「さて、話を変えるよ。魔法生命体とは、一体なんだろうね。私たちの常識の範疇にない存在であることは確かだね。だからこそ、私たちは、それがどういった仕組みで動いているのか、想像もしなかったし、疑問にも思わなかった。だけど、永久に動き続ける生命なんて、本当にあるのかな? 生命体だというのなら、私たちが食事をとるように、何らかの方法で、エネルギーを摂取してしかるべきじゃないかな?」


 アンタローが、ルグレイの頭の上で、すやっと寝始めた。


「さらに話を変えようか。ユウツー君は、ずっとあの姿で居ることを決めたよね。つまりそれは、鏡の中に戻らないと決めた、と同義だ。そして私は、そのタイミングで、レクイエムを贈った。…誰に?」


「まさか……」


 マグが息を呑む。

 シークは話を続ける。


「つまりは、そういうことだね。作曲に行き詰った私が、手慰みに、あの鏡をアナライズした結果、それがわかった。ユウツー君は、あの鏡の中に戻ることで、エネルギーを充電できていたんだよ。だけど、彼は今日からそれをしない。ユウツー君は、自我を抱いたまま、消滅する道を選んだんだね。だから、別れ際、誰の言葉にも返せなかった。『元気で居るよ』『また会おう』なんて、言えるはずがないのだからね」


「だから、謝ったって…?」


 ユウが、呆けたように言った。


「…ルグレイ、戻って! 話し合って、止めないと!」


 私が焦ったように言うと、シークが首を振る。


「私の言うことを一つ聞いてもらう、というのが条件だと言ったよね。『絶対に戻るな』。これがその条件だ」


「そんな…!!!」


 ルグレイが、異議ありとばかりにシークを見るが、シークは揺るがない。


「私にも美学というものがあってね。君たちにも、コダワリとか、そういうものがあるんじゃないかな? 思い当たる節があるのなら、誰にもユウツー君の美学を壊すことは許されない」


「滅びの美学って、なに! 生死がかかったら、また全然違う話だよ…! じゃあシークは、わたしがユウツーと同じ選択をしたら、どう思うの…!」


 ほとんど八つ当たりのようなことを言ってしまった。

 言ってから、なんて馬鹿なことを言ってしまったんだろう、と思う。

 会ったばかりのシークに、どう思うも何もないというのに。


「……、……それ…は……」


 ところが、どうしたことだろう、シークは目に見えて動揺している。

 いつも薄い反応しかしないシークが、そんな表情をするとは思わず、私は物凄く戸惑った。


「いや、ナっちゃん。シークが正しい。自分でも、わかっているだろうがな」


 フィカスが、少しずつ遠くなるリュヴィオーゼの街を見下ろしながら、絞り出すように言った。


「ツナ……シークに当たるのは……ダメだ。……勿論、ユウも」


 マグが、念を押すように言う。

 ユウに目を向けると、ユウは、服の上から、胸を抑えていた。

 呪いの紋様のある場所だ。


「……ごめん、シーク。ユウ……痛むの?」


 私の言葉に、シークは、返事の代わりに、帽子を深くかぶりなおした。


 ユウは、まだ呆けたような表情のままだ。


「あ、ああ、いや、…なんでもない。まあ、こういう時は、さっさと気持ちを切り替えねーとな! 紅葉樹林ってとこも、まだまだ探索できてねーわけだし、ユウツーの分も旅を楽しまねーと損だよな!」


 そう言ってユウは、へらへらと軽薄な顔で笑った。

 私はなんだか、ユウのその反応に、泣きそうになった。

 他のみんなも、沈痛な面持ちを押し隠すようにして、ユウを見る。


 ただ、シークだけは、いつもと同じ、感情の薄い様子で、またリュートを弾き始めた。


 場がレクイエムで満たされる。


 私たちは、ただじっと、今は遠いリュヴィオーゼを、見下ろすしかなかった。


 たった一人生き残った彼の棺としては、それはあまりにも大きすぎた。




<つづく>



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