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夢小説が、殺しにくる!?  作者: ササユリ ナツナ
第三章 高校生編
101/159

機械大国リュヴィオーゼ(上)



 私は湖に向かって仁王立ちする。


 魔法のイメージは、既にある。


 移動はルグレイに任せられるから、私たちを包み込むような、あぶくを用意すればいいのだと思う。

 …あ、でも、ただでさえ水の中なのに、足元がぶよぶよして覚束ない感じだと、ちょっと怖いかも。

 考え直そう。


 きっちりとイメージしないと失敗してしまうことが分かっているので、しっかりとイメージしなおす。

 やっぱり、乗り物的なものだったら、足元がしっかりするよね。

 で、何があるかわからないから、三日間くらい実体化できる量の魔力を注いで…。


 …よし、決めた!


 私は目を閉じて、手の平を上に向けるようにして、気持ちが落ち着く呪文を唱える。


「―――七色のリボン、ビオラの音色、水槽のクラゲ、森の中のブランコ!」


 願いや祈りにこそ力があり、言葉には何の意味もない。

 私はただ、頭の中に浮かんだイメージに、出て来い、と気合のようなものを込めて、ノックをするだけだ。


 次に目を開けると、私の目の前には、湖に浮かぶ、大きな大きな半透明の二枚貝が、口を開けて待っていた。

 これだけ大きなものを出したのに、覚悟していたほど疲労がない。

 やっぱり料理魔法とかいう、日常生活でくだらない魔法を使いまくっていたから、私の魔力量は格段にアップしていたようだ。

 継続は力なりということだろうか。

 ありがとう、カツオダシ生成魔法とか!


「…創造魔法とは、いつ見てもすごいな。仕組みがわからんところが特に」


 フィカスはそう言いながら、何の疑いもなく、口を開けた貝殻の上に乗りこんでいく。

 普通もうちょっと、ためらいとかがあると思うのに。

 なんだか、その迷いのない行為自体が、信頼をしていると暗に言われているようで、私はなんとなくむず痒い気持ちになった。


 シークを除いて、みんなぞろぞろと乗り込んでいく。

 私も乗り込んで、残ったシークを振り返る。

 シークはしばらく戸惑っていたようだったが、水底のリュヴィオーゼをちらりと見ると、意を決して、パっと飛び乗ってきた。


「じゃーん。ここに開閉スイッチがあります!」


 全員乗ったのを確認すると、二枚貝の、上下に引っ付いている接合部分のところにあるボタンを、バシっと手の平で押した。

 すると、ウイーンと、半透明な二枚貝が閉じていく。


「メルヘンチックかと思えば、機能的なんだな…。まあ、ナっちゃんらしいというか…」


 フィカスは何とも言えない顔をしている。


「ぷいぃいっ、今の、ボクもやりたいです! ボタン押したいです!」


「馬鹿やめろ!? 水中でやったら死ぬだろ!?」


 ぴょいーんとボタンに向けて飛び込んでいくアンタローを、ユウが空中で慌ててキャッチした。


「これは、すぐにでも出発した方がよさそうですね。では行きます」


 アンタローの様子を見たルグレイが、急いで集中を始める。

 すると、すぐに、ボコボコ、ボコリと貝殻が水の中に沈んでいった。

 まるで、水自身が、通り道を開けてくれているかのような沈み方だった。


 しばらくの間、ルグレイは眉間にしわを寄せて、慣れない操作に苦心しているようだったが、ようやくコツを掴んできたのか、少しだけスムーズに貝殻が動き出した。

 半透明なので、水の中の景色が見えて、綺麗だ。


「…はい、これならいけそうです。みなさん、黙ってくださってありがとうございます、もう大丈夫です」


 みんなで固唾を飲んでルグレイを見守っていたが、一斉に安堵の息を吐いた。


「水の中をこうした角度から……見られる日が来るとはな……魚が居ないのが残念だ……」


 マグが、水面の方を見上げながら言った。

 水中から見上げる水面って、私も好きなんだよね、わかる。


「そういうものだと思っていたが、確かに魚が居ないんだな。綺麗すぎる水に魚は住まないとは聞いたことがあるが、何らかの関係があるのだろうな」


 フィカスが考え事をするように唸っている。


「しかし美しい光景だね。これだけでも歌が一本書けそうなのに、まだまだ先があるなんて、こんなに幸せでいいのだろうかと不安になるくらいだよ」


 シークはリュートを鳴らそうとして、しかし水の中の音に集中したいのか、指を動かすのをやめ、耳をそばだてている。


「みなさんすみません、現地で何かあったとしても、私は魔力を保存しておきたいですね。思ったよりも消費が大きいです」


 ルグレイの自己申告に、ユウが大きく頷いた。


「ああ、ハナからそのつもりだって! いざって時はアンタローも居るしな、あんまり節約とか考えずに、ルグレイの負担のないようにしろよな」


「ぷいぷいっ、任せてください、後輩の面倒を見るのは先輩の役割ですからね!」


 アンタローはすっかりルグレイの先輩気取りだ。

 ルグレイは、「ありがとうございます」と笑った。


 進んで行くにつれ、ゴボゴボと、まるで呼吸をするかのように、貝殻を空気の泡がかすめていく。


 ゆっくりとした移動だったが、ほどなくして、目の前に街が見えてきた。

 水底に沈んだ都市を、私たちを包んだ貝殻は、ふわふわと移動していく。


「なんだか、切ない光景だね…」


 公園をふんわりと横切りながら、私はつい口にした。

 お昼過ぎの太陽の下で。

 誰も居ない公園に、私たちの影だけが横切っていく。


「そうだな……もう動かないものは……切なく映るな……」


 マグも頷いた。


「なんか、一つだけ、でかい建物があるな」


 ユウはマイペースに目を眇めて、街の中を見ている。

 そうか、ユウは悲しい気持ちの居場所がわからないから、切ない…もないのかな。


「行ってみましょうか」


 ルグレイは、その方角を見定めると、また集中を始める。

 ゴボリと貝殻は、その大きな建物に向かって、進路を変えていった。


「…位置からして、街の中心部だな。研究棟か何かである可能性が高いだろう」


 フィカスが冷静に分析しながら、ゴーグルの横のボタンをいじっていく。


「…なんだ? 魔力反応があるな。まさか、まだ動いている施設があるのか?」


 フィカスの言葉に、サっと場に緊張が走った。


「だとすれば、エネルギー源は、光だろうね。研究者なら、天然のエネルギーに注目しないわけがないからね。それなら、今日まで稼働しているものがあっても不思議じゃないだろうね」


 シークが、空を見上げながら言った。

 なるほど、太陽光発電、みたいなものかな?

 さすが、長寿のエルフは視点が博識な感じだ。


 そうこうしているうちに、建物の前にたどり着いた。

 目の前に、大きな扉がある。


「こういうのって、いつも思うんだが、巨人が使ってるのか? ってなるよな。なんででかい建物って、扉も無駄にでかいんだろうな」


 ユウの質問に、マグが口を開く。


「搬入口も……兼ねているからだ……特に研究目的の施設なら……大きな機材を運び込んだり……外に出したりする機会が多い。ユウは拠点を持ったばかりだから……ピンとこないのだろうが……家具とかもな……扉が大きい方が楽だ」


「あ、そっかそっか、言われてみりゃそうだな、すげー納得した」


「しかし、どうやって開けましょうか…。内開きだったら、このまま押し込めば入れそうですが、外開きだったらアウトですね。ユウ様にでも潜ってもらわないと」


 ルグレイが、途方に暮れるような顔で、扉を見上げている。


「ルグレイ、そういう時は、まず試してみてから考えることだ。行くがいい」


 フィカスは腕を組んで、偉そうに言っている。

 しかしこういう時にどっしりと構えられると、ちょっと安心できる。

 フィカスはそういうこともわかっているのだろうか。


「そうですね。では行きます…!」


   ―――ゴツン。


 半透明の二枚貝が、ノックをするように、扉にぶつかった。

 ルグレイの調節が上手なのか、覚悟していたほどは、振動が来ないと感じた。

 しかしマグは、「ツナ、念のため掴まれ」と、私に手を差し出してきたので、遠慮なく腕にしがみつかせてもらう。


   ギギ、ギギギ…


 くぐもった音が、水中に響く。

 扉はあっさりと内開きになっていった。

 あまり抵抗が感じられないということは、中も水で満ちている…ということなのだろう。


 はたして、その通りだった。


 開いた扉の中へと、二枚貝が入り込んでいく。

 中は大広間になっており、そして水で満ちて……いや、満ちていない。


 正確に言えば、半分くらいは浸水していた。

 しかし、ニヴォゼ王国の大気調節フィールドみたいな感じで、あるラインから、くっきりと、ドーム状に空気が存在していた。

 おそらくこれが、先程フィカスが感じていた、魔力反応ということだろう。

 建物の中は暗いかと思っていたが、天井が透明で、陽の光が入る仕組みになっていた。

 なんだか、水族館みたいで綺麗だ。


「これは…。なるほど、研究施設なのは間違いなさそうだな。普通は爆発や有毒ガスが発生した時、被害を外の街に広げないために、こういったフィールドを張るのだが。どうやら、外からの水害を防御する役割になってしまったようだ。…ということは……」


「ツナ、少し覚悟をしておけ……この先にはおそらく……白骨死体が転がっている……可能性が高い」


 フィカスの言葉をマグが継ぐ。

 そうか、そうなると、出るに出られなくなった人が、当然いただろう…。


「わ、わかった。教えてくれて、ありがとう」


 ポロン、とリュートの一音が響いた。


「その際には、祈りの歌でも奏でるよ。神官の祈りほどの効果があるかは、はなはだ疑問ではあるけれどね。っと、危ない危ない、つい一曲弾きそうになってしまうね。まだ何があるかもわからないのにね」


 シークは自嘲のような笑みを浮かべた。


「では、進んでみますね」


 ルグレイは、ゆっくりと、防御フィールドに向けて、水流を動かした。

 私たちを乗せた二枚貝は、フィールドを抜けると、ゴトンと着地を決め込む。


「ぷいぃいっ、スイッチオンです!」


 アンタローが待っていましたとばかりに、ユウの腕の中からビョーンと飛び出して、開閉スイッチをバシッと押しに行った。


「ちょっ、こら! まだ安全な空気かどうか、うわやりやがった!!?」


 ユウの慌て声とともに、ウイーンと貝殻が開いていった。


「……大丈夫そうだな……」


 最初に口を開いたのは、マグだった。

 私たちは、どっと息を吐く。


「まあ、結果的には話が早くて助かったと、フォローしておくか」


 フィカスはちょっとアンタロー贔屓なようだ。

 ユウは、「俺がやったらぜってー怒ってたクセに…!」と悔しそうだ。

 フィカスはきびきびと指示を出しはじめる。


「とりあえず、行けるところまで行ってみるか。先頭は俺とユウ。ルグレイとシークは一番後ろだ。ナっちゃんはマグと一緒に間に挟まれ」


「ぷいぃいっ、ではリーダーのボクは、先頭の頭上に輝く後光の役割をしてあげます!」


 アンタローが、ぴょいーんとフィカスの頭の上に乗りに行った。

 フィカスは「よしよし」とアンタローを可愛がっている。


「ツナ、念のため……オレの腕には掴まったままで居ろ……」


「う、うん、わかった」


 私は気合を込めて、マグの腕にしがみつく。

 シークもルグレイも、好奇心よりも驚きが勝っているのか、言葉少なに周囲を見渡していた。


「研究施設なら、大体は造りがわかる。おそらく、周囲をグルっと研究者たちの個人的な研究室が占めていて、中央に大がかりな施設があると考えられる。手っ取り早く調査を進めるなら、このまま真っすぐに中央に向けて歩いて行くのがいいな」


 フィカスの言葉に、内部構造を想像してみる。

 地図記号で言うと、警察署のマークみたいな造りなのかな?


「そうだな……元気のあるうちに……何かありそうなところから行くのがいいだろう……中央に賛成だ」


 マグの鶴の一声で、私たちはフィカスとユウの後ろをぞろぞろと歩き出す。


「これって、何百年も前の空気なのかなって思ってたけど、普通に観葉植物があるね、光合成してくれてたのかな」


 私は興味深げに廊下を見渡す。

 機械大国という話だったが、建物の中はそこまでメカメカしくはなかった。


「研究施設という話なら……空気は循環させているだろうしな……クリーンエネルギーの使い方が上手い……という印象だ……研究内容もそっちの分野が多いのかもしれないな」


 マグが応える。

 先頭を行くユウは、リラックスをしているようだった。


「なんつーか、天井が透明って、いいな。天井が高いだけですげー落ち着くし」


「そうだな。今回だけは、ユウに落ち着きを担当して貰うべきなのかもしれん。俺は先程から、胸が震えて仕方がないからな。周辺地域に散在する研究施設から、遺物を発掘するとはわけが違う。あのリュヴィオーゼに、ついに足を踏み入れられるとは……」


 フィカスの声は、確かにいつもよりも弾んでいた。

 しかし王族のサガなのか、無理して感情を抑えつけているようだった。

 私たちは、そんなフィカスの様子を、なんだか微笑ましげに見守ってしまう。


 今のところ、白骨死体はない。


 やがて、廊下の先が見えてきた。

 意外なことに、扉はない。


 そのまま進むと、ホールのようなところに出た。

 他の廊下と繋がっているのか、出入り口は3つある。

 ドーム状の天井からは、変わらず太陽の光が差し込んでいるが、中央には、何かの装置がそびえたっていた。

 ちょっと大聖堂のような厳かな空気を感じる。


「これは…ニヴォゼにもある、フィールド発生装置だな」


「えっ、ニヴォゼにも同じものが?」


 私がきょとんとすると、フィカスが面白そうに笑った。


「どうして町の中心に、時計塔なんてものがあると思う? あれは、この装置のカモフラージュだ。国民は知らないがな」


「! そうだったんだ…!!」


「大きなガラスの筒がありますね。まさか生物でも入っていたのでしょうか?」


 ルグレイが、周囲を見渡しながら言った。

 見ると、確かに、管のようなものが繋がれた、大きなガラスの筒があちこちにある。

 傍にはテーブルと、研究資料のようなものが散在していて、まさに実験施設という感じだ。


「……魔物の研究でもしていたんだろうな……確かに弱点が分かれば……効率的に殲滅できるだろう」


 マグが資料を見ながら言った。


「だとすれば、おこがましいことこの上ないね」


 珍しく、シークが不快な表情をしている。

 エルフには、人造物は相いれないということだろうか?


「宝の山だな…何とかすべて持ち帰る方法はないものか…」


 フィカスは相変わらず唸り声を上げている。


「なあ、こっちに扉があるぜ!」


 全員で、ユウの方に目を向ける。

 すると、変わった模様の入った扉が、壁の中心にあった。


 廊下から十字に繋がっているのかと思っていたが、Tの3本しか廊下がなくて、真ん中の部分に、奥の扉がある、という作りだった。

 扉の大きさは、研究施設の入口ほどのものではなく、普通の大きさのものだ。

 目線の高さに格子窓がはめ込まれて、奥の部屋の中を覗くことができる扉だった。


「!?」


 一番に格子窓から扉の奥を覗きに行ったユウが、バッと飛び上がるように後ずさった。

 そして、大声で叫ぼうとして、思い直すように、声を抑える。


「ゴーレムだ…!!!」


「…!!」


 全員に緊張が走った。


「ツナ、離れていろ……オレが見に行く……こういう時の調査は……俺の役目だ」


 マグが、腕にしがみつく私を、そっと下がらせる。

 全員、固唾を飲んでマグを見守った。


 マグはそろそろと扉に近づいていき、まずはユウと同じように、格子窓から中を覗く。

 その後、精細に扉を点検しはじめた。

 しばらくは扉の模様を見ていたようが、ふとしゃがみ込む。

 マグの視線を追うと、なぜか、扉の前には小さな砂みたいなものが、たくさん落ちていた。


 マグは、しばらく悩んだ後…しゃがみ込んだまま、ゆっくりと、扉の表面を、ささやかな指の動きで撫でた。


   サラサラ、サララ…


 たったそれだけで、扉からは、無数の砂がたくさん落ちていく。

 まるで風化でもしていったようだ。

 マグは立ち上がると、また格子窓から部屋の中を覗き込む。


「シーク、何か弾いてみてくれ……大きな音でいい」


「では、夏の雨の歌を一曲」


 シークは、ポン、と一音、最初の雨の一粒のような音を奏でた。

 そこから、葉を打つような無作為な音の群れ。

 次第に曲は早く大きくなっていき、どしゃぶりのように激しく音をまき散らすと、唐突に曲が終わる。

 本当に、夏の雨のようなリズムだったが、ちゃんと曲として成立していたのは流石だった。


「……どうやら、音を感知して動くゴーレムでは……なさそうだ」


 マグが判断すると同時、私たちはみんなでシークにワッと拍手を送った。

 シークは、帽子を脱いで一礼をする。

 シークが帽子をかぶりなおす間に、マグはユウの方を見る。


「ユウ。さっき後ろに飛んで逃げたのは……何を察知した?」


「ああ、いや、なんつーか…俺がその扉に触っちゃダメな気がしたんだ」


「なるほどな……ユウの勘は当たる……オレの推理で間違いなさそうだ。まず、この扉は……知らずに強い力で触ると……瞬く間に崩れ落ちて……あのゴーレムの目の前に放り出される……侵入者排除の仕掛けだ」


「そうなると、中にある物品もゴーレムに破壊されそうな気もするのですが、中は広いのですか?」


 ルグレイの質問に、マグが一歩扉の前から引いた。


「扉に触りさえしなければ……もう自分の目で見ても……構わない」


 私たちは、順番に部屋の中を覗き込んでいく。

 私は背が足りなくて、なんとか背伸びをして部屋の中を見た。


 確かに広い部屋…というか、広い廊下だった。

 ほとんど小部屋と言っていいほどだ。

 奥にさらに扉があるので、このゴーレムは完全にガーディアンの役割なのだろう。


 しかし、その小部屋が小さく感じられるほどに、ゴーレムは大きかった。

 大きいというか、もはやキツキツに詰まっているレベルだ。

 何も知らずにこんなものの前に放り出されたら、逃げる隙間もなくて潰されてしまっただろう。

 ゴーレムは、あんまりシュっとしたデザインでもなく、単に岩同士をくっつけました、という感じの、無骨なデザインだった。


「なるほど。では次は、私の出番だね」


 唐突にシークがそう言い始めて、私たちは不思議な顔を向ける。

 シークは、涼しげな顔で微笑んだ。


「私は吟遊詩人を名乗っているが、気分でマジック・アナリストを名乗ることもあるんだよ。攻撃魔法は得意ではないんだけどね。そういった分析は得意なんだよ」


「それは頼もしいな、頼めるか?」


 フィカスの言葉に、シークは頷く代わりに扉に手をかざした。

 ポ、ポ、ポ、とシークの周囲に、大きめの虫メガネのレンズのような、平たくて淡い光が数個浮かび上がる。

 その光の一つ一つに意味があるのだろうか、全部色が違って、シークは仔細にそれらを見て、何か考え事をしている。


「…うん、わかったよ。これは、仕掛け扉だね。ある特定の操作をして扉を開けると、中のゴーレムは無力化されるようだよ。スイッチは、扉を開ける、という挙動のようだね。それまでは、何をしてもゴーレムは無反応だろうね。音声認識システムも組み込まれているようだから、普段は合言葉でも言っているのだろうけれど、それを忘れた時のために、扉を開くための、特定の操作を入力する仕掛けが施されているようだね」


 ふむふむと、みんなで頷く。


「その仕掛けで正解を示すと、一定時間は扉が開き、ある一定の時間を過ぎると、この扉は自動で復活するようだよ。つまり、この扉は使い捨てと考えていいね。で、その仕掛けを解くヒントになるメモが、これだね」


 シークは、扉の隣にある石板を示した。

 それ、さっきから気になっていたけど、てっきり部屋の名前か何かが書かれているのかと思って、スルーしていたよ!

 石板には、次のような一文が書かれていた。



===========================================


 其が正しい姿を取るには、△のみが余計であった


===========================================



 そして隣の、格子窓のはめ込まれた、扉の模様は、こうだ。



===========================================


 □□□(3個並んだ四角のマーク)

 △△△(3個並んだ三角のマーク)

 ○○○(3個並んだ丸のマーク)

 ☆☆☆(3個並んだ星のマーク)

 ♡♡♡(3個並んだ、トランプのハートのマーク)

 ♢♢♢(3個並んだ、トランプのダイヤのマーク)


===========================================


 ………。

 えっ、まさか、謎解き!?

 いやでも、一瞬で解けるよね、これ。

 このセキュリティで大丈夫なの…?




<つづく>



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