18話 飯田知人の動転
「真鈴ちゃんがッ・・・真鈴ちゃんが帰ってきてないんだッ・・・!!!」
優しい月の光が外からぼーっと照らす涼しい三日目の深夜一時。
しかし知人の身体には軽く寒気が走る。
「おいおいそれッ・・・先生には報告したか?」
「いや、あの酔いつぶれ先生は宛にならない。美鈴も明石さんと一緒に熟睡中だ・・・!!西京くんはゲームルームでそのまま寝落ちしてるし・・今の宛はぼっしーだけだ・・!」
「・・・どうしていないって気づいた?」
「夕食の時にいなかったろ?あの時は疲れで考えられなかったけど、夜中トイレに行くときに真鈴ちゃんの寝言が聞こえなかったんだ・・・!!それで中を覗いたら案の定いなくてだな・・・」
・・・真鈴ちゃんの部屋って麗加達の部屋だぞ?勝手に覗いたのか・・・?
しかも判断基準が寝言って・・・
「いつも俺んちに泊まりに来るとき、必ずと言っていいほど隣の部屋なのに寝言が聞こえるんだよ。でも今日はそれがない・・・」
・・・判断基準はどうあれ、今は確かに一大事だ。
さすがに寝ている美鈴達を起こして事情を説明するわけにもいかない。性格上、余計に場の混乱を招くだろう。
「・・・とりあえず警察には連絡したか?ってかこの家の中にいるっていう選択肢はないのか?」
「家にはいない。さっき探してもいなかった。おそらく外だと思って警察には連絡したけど・・・」
「ここは人里から遠くて森に囲まれた場所だから到着は遅れるかもな。じゃあそれまでは俺達で探すしかないか。」
「・・悪いなぼっしー、こんな時に助かる。」
「いやいや片岡は悪くないだろ。しかもそんなことよりまず見つけ出さないと。周りの森は結構深いから下手したら遭難だってこともありえる・・・」
知人達はすぐに着替えて準備、充電100%のスマホと懐中電灯・ここらへんのマップを用意して一回のメイドさん達がいるところへ。
「樺山さん、夜遅くにすみません。ちょっと聞きたいことがありまして・・・」
「はい?どうなさいましたか?」
幸いメイドの樺山さんは起きていたようだ。しかし今起きている人はこの樺山さんだけだ。
「真鈴ちゃん知りませんか?まだ部屋には戻ってきていないようで・・・」
「真鈴さんですか?そういえば確か朝、外の方に出かけていくのを見ましたね・・・まさかその後帰ってきてないのですか!?」
「まだわかりませんが、おそらくそうだと思います。探索手伝ってもらえますか?」
「はい、もちろんです!しかし今居るメイドは私含めて3人です。お嬢さまたちも起こされるなどはなさらないのですか?」
「はい、まぁ・・・余計に場が混乱すると思いまして・・・」
「・・・確かにこういった場合のお嬢様は過度の心配状態になりまるで使えませんから、確かに懸命な判断です。」
うわ、言い方ッ・・・
「とりあえずお願いします。俺達は先に出て探してますので!」
この森は光の届きにくい箇所が多い、というのもこの木々たちは大変な成長を見せ、平均して18メートルという長木ぞろい。よって夜の森の視界は最悪である。
懐中電灯とスマホのライト機能が数少ない頼りだ。
しかしそんな森でもGPS機能が普通に使える、なので知人達はそれぞれの場所を把握することが出来る。しかしあまり使い過ぎると電池を無駄に消耗するのであまり使うことはないだろう。
とにかく今は真鈴ちゃんを見つけ出すことが優先事項だ。
知人と片岡は、それぞれ二手に分かれて探索を始めている。
一応何かあった時のために、連絡用の電池まで消耗しないように配慮を欠かせない。
「・・・しかし本当にこの森は深いな。ライトが無かったら先が見えん・・・」
こんな暗い森の中でライトも何も持たずにいるということは、相当な恐怖に立ち会っていることなのだろう。小学5年生にとってこの出来事は、ちとハードルが高い。
特にこんな暑い夏になると、森の中ではヤバい毒持ちの虫や最悪マムシに遭遇したりなんてこともある。
さすがにマムシは知人たちにもかなり危ない。仕方ないので暑いのを我慢して長袖長ズボンを着用している。
「私達メイドも今から探索を始めます。何かございましたら報告をお願いします。」
探索から10分程して、メイドさん達も探索を開始したようだ。知人達のスマホにそのような連絡が入った。
この森は扇状に伸びていて、知人と片岡は両端から攻めている。メイドさん達の位置をGPSで確認すると、知人たちの動きを把握しているのか、二人とは別の場所でそれぞれ探索を始めている。
しかしこの状況下で長時間の探索は、探しているこちらも身にもリスクがある。
そう、熱中症だ。
生憎水分まで持っていくという考えは浮かんでこなかった。
~~~
あれから小1時間が経ち、時刻は午前2時過ぎを迎える。
しかしまだ真鈴ちゃんの姿を発見したものはいない。結構連絡は取り合っているが、その内誰からも『見つけた』という連絡がこないということはそういうことなのだろう。ラインのグループチャットが目まぐるしく通知音を繰り返しているのっで、おそらく麗加や美鈴たちも気づいているはず。
(はぁはぁ・・・さすがに水は持ってくるべきだったな)
知人にもとうとう『のどの渇き』が襲ってきた。段々と判断力を奪い、ひどくなると脱水症状まで起こし最悪死に至るケースも。
そろそろ見つけ出さないといけない。
・・・いや、待て?
(もしかしたら真鈴ちゃんも水を求めて・・・?)
知人は急いで地図を開く。
現在地はGPSより、海から少し離れた森の真ん中。
しかし真鈴ちゃんは、海水はあまり飲めないことを知っている。一日目の海水浴で真鈴ちゃんが誤飲した時、『うへー!!まっず~!!!』と言っていたので、海に出て海水を飲むという選択肢は薄い。
では今度は飲み水を求めて人里の方へ・・・?
しかしここから人里まで徒歩では結構な距離だ。それは真鈴ちゃん自身も自覚している。まだ家には帰ってきていない。
まず森の中にいるとしよう。
では森のどこら辺にいるのか?
RPGゲームで良くある出来事の一つに、『回避移行』という手段があるのをご存知だろうか?
キャラのHPが少なくなり、かつ薬草などの回復手段が限られた場合になると、
プレイヤーは感覚的にモンスターが出にくい草原などのルートを通る傾向のことである。RPG中堅者ならだれもが知っている、モンスターの法則を考慮した作戦だ。
この森は視界最悪、しかし月の明かりが微かに差してくる場所はいくつかある。
地図を見ると、この森にはいくつか外も開けたホールスポットがあるようだ。この地図がハザードマップのような示し方をしていて結構助かる。
知人はスマホのGPSと地図を頼りに、二つの条件を満たしている場所へと急行する。
月明りが比較的差してくる、かつ外が開けて空が見える場所 ―――
そして
「ハァハァ・・・やっと、見つけた・・・!!!」
月明りに照らされながら、切り株に身を倒し
かなり弱った真鈴ちゃんの姿を、知人はついに見つけた。
知人はスマホの画面を開き、すばやく他の捜索隊たちへ報告。
久々に他のラインを見ると、部活のグループチャットには麗加と美鈴(特に麗加)のコメントがかなり多くされていた。その数87件。
確かにこれはあの時起こさなくて正解だったな。
知人はそちらのグループチャットに『大丈夫、もう見つけた。』と送り、そして他の捜索隊に発見の報告。
真鈴ちゃんはかなり弱っていたので、家まで知人は負ぶっていった。
そしてやっと家まで着くと、玄関先で片岡やメイドさん達が知人を待っていた。
「おぉぼっしー!!ナイスだ見つけてくれて!!・・・でも結構弱ってるな・・・!!」
「私達にお任せください!手当ては救急車到着まで持たせます!!」
「お、お願いします・・!!」
「ぼ、ぼっしー・・・!お前もかなり弱ってるじゃないか・・!!」
メイドさんたちは知人の背中から真鈴ちゃんを預かると、すぐに家の中へと入って真鈴ちゃんの看護にあたった。
家の扉を開くと、玄関では麗加と美鈴がずっと待っていたようで
「ま、真鈴ちゃん!!大丈夫!?」
「まーちゃん・・・・!!ゴメンね・・・!!!」グスッ
十分な水分と速吸収に長けたウイダーゼリーなどを可能な範囲で接種させ、そのまましばらく様子を見る。
麗加や美鈴、そしてメイドさん達が見守る中・・・
「んッ・・・うぅ・・・ここは・・・?」
ついに真鈴ちゃんが、目を覚ました。
「まーちゃん!!すずのこと分かる!?お姉ちゃんだよッ!?」
「麗加お姉さんのことも覚えてるかしらッ!?ちゃんと見える!?」
「うん・・・分かるよ・・・二人とも見えるよ・・・」
「「ッ!!・・・・良かったぁ・・・良かったぁ!!」」グスッ
真鈴ちゃんの声を聞いて、大きく安堵の深呼吸をするメイドさんたちの目の前で二人の眼には大粒の涙が。
「今救急車が来ました!早く真鈴ちゃんを運びましょう!」
片岡が救急車到着を告げると、メイドさん達は直ちに担架を持ち上げて救急車の方へ。
途中から救急隊員も合流し、救急車に乗せるとこれまたすぐに安全蘇おうちの取り付けや意識確認など、大量の要件をスピーディに行う。
「ッ!!私もついていきます!たけちゃんも来てッ!!」
「お、おう!!」
二人も救急車に乗ると、救急車は大きなサイレン音を鳴らして走り出した。
「真鈴ちゃん、大丈夫かしら・・・」
「・・・はい、私達が看ていた時には意識回復が出来ていたので、おそらく大事ではないと思います。」
「しかし、今度は知人さんが体調を崩されているみたいで・・・片岡さんが一方で看病なさっていたそうですが・・・」
「えッ!!??」
「はい・・・真鈴さんを見つけた知人さんは、脱水症状に近い状態でここまで彼女を負ぶってきたのです。相当な体力が消耗されているはずです。」
「お嬢様、どうか行って看てもらえますか?」
「当たり前よッ!!すぐ行くわッ!!」
朝日が差し掛かった部屋のベッドの上で、知人は眠っていた。
顔色を見ると結構回復してきていることが分かる。しかし表情は少し険しい。
この森は熱気がこもりやすい性質があるので、熱中症になるなど容易である。そんな環境で迷子を探索していたのだ、それでこの程度の消耗など半分奇跡である。
「あなたが、真鈴ちゃんを・・・」
額には汗が垂れていたので、それも軽く拭ってあげる。
すると、知人の表情が少し和らいだ気がした。
「・・・真鈴ちゃんを、ありがとう・・・・・ ――――
――― 知人くん
そして麗加は、そっと手を握った。
今日は昨日の分の一話分も込みで、計2話を投稿しました。
しかしまだ続きます。