17話 天才が何を言っているか分からない件
さて、今日は合宿二日目。Eスポーツ部合宿の朝は早い。
まず6時に起床、そして朝起きてからは軽い運動のため家周辺をウォーキング。長時間ゲームをする体力をつけるためだという。さすがeスポーツ部の合宿、ゲームをやるだけにここまでするとは・・・
まぁ真鈴ちゃんはそのまま寝かせておいたけどね、だって彼女大会出場しないもん。
運動後は明石家メイドさんたちによる豪華な朝食・・・ではなく、自分たちによる完全自炊。メイドさん達は極少数を残して本家の方へ帰っていった。
しかしここで問題が発生する。
というのもこのeスポーツ部の部員たち、なんと二人を残して料理が大の苦手である。まぁその二人というのは分かるだろう、麗加と美鈴である。
まぁ予想は出来てたけどやっぱりさとちゃん先生は戦力外だったね。
ということで現在それ以外の全員は、昨日の夕食のテーブル上で待機中。
「お前まで作れないなんて驚きだな片岡。」
「まぁね、苦手というより料理をほとんどしたことないんだ。でも美鈴がいるから大丈夫かな?」
おぉっと、もう奥さん扱いですか?
「・・・」ハァ
「ど、どうしたんですか先生?」
「はぁ~・・・相手の宛もなくて肌も劣化開始、おまけに料理も作れない27歳なんて・・・もうお嫁にいけない・・・」ズーン
「・・・」
「・・・」
「・・・」ピコピコ
「お姉ちゃん料理まだ~?」<<(もうちょっと待っててまーちゃん)
く、空気が重いッ・・・
「・・・ま、まぁ大丈夫じゃないっすか?そのうち見つかるかもしれないっすよ!?」
片岡、定番のフォロー
「そッ、そうだよな片岡ッ!!まだまだこれからだよな!!私は27歳なのに何て弱気になってんだ・・・!!」
そして立ち直るもの(今日は)早い先生。
「・・・まぁさとちゃんの場合早くたばこやめればいいのにね~」ピコピコ
そして意味の分からない変なフォロー。
まぁこんな感じで待機時間は過ぎていき・・・
「「出来た(わ)よ!!」」
全員分の朝ご飯が出来たようだ。それぞれのごはんを二人が順に相手のテーブルの前に置いていく。
「(ビーフストロガノフ)・・・へぇ~麗加、こんなすげーものまで作れるのか・・・!!」
「(美鈴特製オムライス)な、なぁ美鈴・・・最近オムライス多くないか?俺んち来た時も夕食オムライスだったろ・・・」
「(カロリーメイトチョコレート味)・・・・・」ピコピコ
「(美鈴特製お子様ランチ)あーハンバーグ入ってる!!やったー!!」
「(納豆とサラダ)これで今日から私も美肌に・・・!!!」
それぞれに応じてメニューを変えている所を見ると相当な手間がかかってるのだろう、これは素直に凄い。
まぁしかしカロリーメイトはどうかと思うけどな・・・
「そッそれは西京くんがそれでいいっていうから・・・」
お、早速心読み発動ですか?
「な、なぁ美鈴・・・もしかしてこれずっとオムライスなのか?」
「なに?文句あるの?」
「いえないです」
あそこはあそこでもう夫婦みたいな雰囲気醸し出しました
「これで美肌にこれで美肌にこれで美肌に・・・フフフ!!!」ブツブツ
こ、こえ~!!!なんかこえ~~!!!
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
朝食後はゲームルームにて練習開始。
各々がテーマを自分で掲げ、それにそって課題に取り組んでいく。全体的なノルマや課題はあえて設けない。
それぞれで浮かんだ問題点を自分で消化して次に進める、それがこのeスポーツ部の方針だ。
というわけでこの飯田知人、今回は先制攻撃を重点的に練習中。
以前美鈴と初めて戦った時に吸収しようと思っていた美鈴の先制攻撃動作、これは様子見に結構な時間を取られている知人にとって強力なスキルになり得る。
「・・・」ピコピコ
・・・やはり難しい、先制攻撃をするとやはり返り討ちにあってしまう。
「あれ?ぼっしーそれってすずのプレイじゃない?」
「あぁ、美鈴と一戦やった時の先生攻撃を習得したくてな・・・邪魔じゃなかったら教えてくれるか?」
「うんいいよ!!ちょっと見てて・・・」
美鈴はコントローラを持つと
「こうやってババババッってやってビューン!!ってやるとシュババってなるからあとはドカンバキュンってするだけ!!」
「へぇ~なるほど、そういうことね・・・」
・・・いや分からん
天才はよく感覚で教えてくるという都市伝説があるが、どうやら今回はそちらの方かもしれない。
この機械工学とプログラムの天才ちゃんは、明らかに感覚主義だろう。
「・・・すまんがもうちょっと詳しく教えてくれえるか?ちょっと分からん。」
「え?え~っと・・・それは・・・う~ん・・・」
そして理論的な説明が出来ない、これも天才によくある特徴(都市伝説)の一つだ。
ってか工学系の天才なら理論的なことも必要じゃないのか?
「・・・ぼっしーどうかしたの?」
「まぁ美鈴の言ってることがほとんど分かんなくてな・・・」
「そうなの?じゃあ俺が通訳してあげようか?」
「え?」
というわけで、
「こうやってババババってやって・・・
「・・キャラを開始と同時に相手に方へ高速スライドして・・・
「その後ビューン!!ってやると・・・
「・・そうすると相手が衝動反撃してくるからそれを秒単位で回避フリックすると・・
「シュババってやるから・・・
「・・相手はキャラを見失い一瞬の硬直が発生するから・・・
「あとはドカンバキュンするだけ!!」
「・・その隙に頭部→両脚の順に攻撃すればゲームを8割支配できるよ。」
あんな擬音語にここまでの意味が内包されていたとは・・・
いや、普通の人はここまで完璧に通訳など出来ないはずだが。
「どう?分かった?」
・・・しかし片岡が翻訳してくれたおかげで、美鈴がやっていた秒単位の操作の詳細が見えてきた。後は順応するだけ。
「まぁそこそこな、片岡さんきゅーな。」
それからも課題つぶしタイムはしばらく続き・・・
「よし、あとは明日だなってもう外暗いぞッ!?」
気づけば時間は夜を回っていた。よって部員全員は朝ご飯以降何も食べていない。
そのことに気づいた途端、急に知人のお腹は悲鳴を上げた。
~~~!!!!!!~~~!!!!
「・・・ぼっしーくんうるさいわよ。」
「仕方ないだろ・・・」
「でも確かに食事はとらないといけなかったわね、いくらゲームとはいえ三食食べて健康を維持しないと元も子もないわ。」
プロゲーマーの殆どは身体の健康維持のために規則正しい生活を欠かさない。
ゲーマーにとって『健康体』というのは、一度失うと取り戻すのが困難を極める貴重な財産かつゲーム勝利の手段媒体となる。
「すずちゃん大丈夫?そろそろご飯作りに行くわよ。」
「ん、は~い。」
「美鈴頼むからせめてオムライス以外にしてくれ・・・もう美鈴オムライス4日目だし・・」
「はいは~い」
時計を見ると時はすでに午後6時半を過ぎたところだ。
想えば知人達は今日一日で約10時間ほどゲームをしていたことにある。これが夏休み大半ッスクと思うと、やはり合宿前に宿題を全て終わらせることは正解だったかもしれない。
そして10時間ぶりとなる本日二回目の食事は、
「(カレーライス)結構時間短かったな・・・でこの出来かよ。」
「(デミグラスソースオムライス)美鈴・・・朝と同じではないがこれも立派なおむr ―――
「たけちゃん何か言った?」
「いえなんでも」
「(カロリーメイトチョコレート味)・・・」(不在)
「(なし)」
快司のヤツは未だにゲームルームでゲームプレイ中、アイツの集中力と言ったら軽く半日は持つ程だ。宿題という最大のカセが消えた今の快司は、それはそれはもうゲームに熱中していて飯のことなど頭にない。まぁ快司はゲーム中にカロリーメイト食ってたから、一応食事は済ませてると考えておこう。
さとちゃん先生はあの後部屋に戻り、ゲームしながら酒グビグビ。今は酔いつぶれて寝ているそうだ。
もう美肌諦めたのか?麗加がテーブルに裂きイカ見つけたらしいぞ?
正直あまり思考がまわっていない部員たちは夕食も静かに過ごし、その後はフロやら歯磨きやら短時間で済ませ、そして就寝に入る ―――
「おいぼっしー・・・ぼっしー起きろッ・・・」
「・・・ん、どしたかたおか・・・」
もう朝か・・・?
と思って目を覚ますと、外にはそれはそれは綺麗なお月さまが。月の優しい光がぼんやりと海に映っていて、少し幻想的な景色を醸し出す。
「・・・どうした?まだ夜中の・・・1時だぞ?」
目をこすりながら片岡を見ると、その表情からは疲れではなくまるで一大事にでも遭遇したかのような慌てたものだった。
「おい・・・マジでどうした・・・!?」
片岡は慌てた口調でこう答えた。
「真鈴ちゃんがッ・・・真鈴ちゃんが帰ってきてないんだッ・・・!!!」
続きは本日夕方5時に投稿予定です。
ということで、まだまだ続きます。