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ナインカウント  作者: 森崎緩
番外編
201/205

社内報ラブストーリー

 社内報の内容を決める、課内会議でのことだった。

「来月の特集は『社内報ラブストーリー』で行こうと思うんだ」

 小野口課長の一声に、私より早く東間さんが吹いた。

「課長のタイトルセンス、ユニークですよね」

「えっ、どうして笑うの東間さん」

 おかしそうに笑われて、小野口課長はきょとんとしている。

 私も吹き出しこそしなかったけど、この直球のセンスにはいつもやられている。ご自分で気づいていない感じがまた面白い。

「ラブといっても、いろんな形の愛があるからね」

 気を取り直したらしい小野口課長が続ける。

「もちろん家族愛、夫婦愛でもいいし、もっと広義の意味合いでもいい。趣味や嗜好品にまで広げて投稿を募集すれば、それなりに集まるんじゃないかな」


 社内報の特集記事は箸休め的な、肩の力が抜けたものが多い。

 特に近年の聞き込み調査で、社内報を休憩中の話題として用いる社員も多かったこと、社員の意外な一面を引き出す記事に人気が集中していたことなどが判明し、社内報は交流ツールとしての活路を見い出し始めているところだ。

 イントラネットに移行して以降、伸び悩んでいた閲覧数も最近はぼちぼち回復しているらしく、広報課員としても毎月の会議には熱が入る。

 この度の『社内報ラブストーリー』は、果たして楽しんでもらえる記事にできるだろうか。


「愛に溢れたスナップを集めて、華やかな誌面にできたらいいよね」

 小野口課長は今回の企画に自信があるようだ。

「そうですね。大々的に告知して、写真を募集しましょう」

 ようやく笑いを収めた東間さんがそう言って、私に向き直る。

「じゃあ園田ちゃん、告知の方はお願いするね」

「お任せください!」

 上司と先輩が張り切っている。これは私も頑張らないといけない。

 今回もいろんな人に読んでもらえる記事にできたらいいな。そう思いながら、私は写真の募集告知を出した。


 ラブストーリーの『ラブ』を広義の意味合いで訴えたからか、写真の集まりはさほど悪くなかった。

 ありがたいことに、締め切りまでにそれなりの量の応募があった。これなら問題なく特集記事を組める。

 と、思っていたんだけど――。


「あれ……」

 いざ割付、とラップトップに向かってみれば、記事に隙間ができてしまう事実に気がついた。

 原因は募集した写真の解像度だ。携帯電話で撮影するのが当たり前になってしまった現在、個々の機種及び設定によって写真の解像度はまちまちだ。あまりサイズが大きいとメールで送れないからという理由で解像度を落とす人もいるようで、そうなると引き伸ばして載せるわけにはいかなくなる。ジャギーが生じてしまうからだ。

 以前の『あの時君は若かった』の時みたいに、古いスナップ写真ともなればデータ取り込んで貼るだけだし、画質が劣っても問題にする人はそういない。だけど画像データとなると迂闊に劣化させられないし、扱いが難しい。

「おお……一億総スマホ時代の弊害がここに……!」

 私が画像の編集に四苦八苦していれば、

「園田ちゃん、唸ってるけど大丈夫?」

 東間さんがラップトップの画面を覗き込みながら声をかけてきた。

「大丈夫じゃないかもです……」

「あらら。私に何か手伝えることある?」

「解像度の低い画像をジャギらせずに拡大する方法を知りたいです」

「それは誰だって知りたい夢の技術だよね」

 全くです。ましてポートレートとなれば小手先の画像編集ではどうにもならない。

「どうして画像大きくしたいの?」

「割付けてみたらちょっと隙間できちゃったんですよね」

「隙間ってどのくらい?」

「もう一枚載っけられるくらいには」

「なら、載っけちゃえばいいんじゃない?」

「そうなんですけど、今から再募集して間に合うかどうか」


 東間さんは簡単に言ってのけたけど、告知して募集して反応があるまで待っている余裕はさすがにない。そもそもこれ以上の応募があるのかさえわからないのに。

 あとは以前みたいに一本釣りでお願いしちゃうか。石田さん辺りに。


「園田ちゃん」

 思案に暮れる私の肩を、東間さんはその時ぽんと叩いた。

「この企画のタイトルを思い出して。『ラブストーリー』だよ」

「それが、どうかしたんですか?」

「ラブと言えば、新婚さんの園田ちゃんがぴったりだと思わない?」

「ええ!?」

 予想外のご指名に、私は思わず席を立つ。

 私を見つめる東間さんは、眼鏡の奥の瞳をきらりと光らせた。

「結婚式の写真あるでしょう? あれ載せちゃったら」

「い、いやちょっとそれは……。既に一回載ってますし」

 三月に挙げた式の後、社内報の隅っこに写真を載せられた――もとい、載せていただいていた。

 自分で自分の寿記事を書くことくらい恥ずかしいことはなかった。

「更にもう一度っていうのは、さすがに。ほら、社員の皆さんも食傷しちゃうんじゃないですか。また安井夫妻かよ、みたいな……」

「ううん、そんなことない」

 東間さんはにこにこしながらご自分のデジカメを取り出して、

「何ならここに画像あるから。よかったあ、偶然持ってて!」

「ちょっ! 東間さん何で持ってるんですか!」

「こんなのもあるよ。園田ちゃんと安井課長の、伝説の一分四十七秒――」

「わー! これは駄目! こんなの載せるなんて駄目です!」


 やばいぞこれは。大ピンチだ。

 こうなったら意地でも記事を埋める写真を持ってこないと、私と巡くんの恥ずかしい写真が社内報に載ってしまう!

 さて、誰にお願いしよう?

今回のお話は結末が四つに分岐します。

園田が誰に依頼するかで展開こそ異なりますが、どれもハッピーエンドです。

よろしければお付き合いください。

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