表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

15話、関所にてオーク戦1



関所に向かっている人数は約150人、そのうち60人程はアレーラ村に住んで居た村人達で、60人程が村にいた者や偶々近くにいた冒険者たちでほとんどがEランク、Cランクパーティが3組、Bランクパーティーが1組、残りが巡回をしていた兵士30程と言った構成である。

走りながらの中何故この様な情報が入るかと言うと、美希を抱えて走るカイルに並走して走る兵士達の副隊長さんが親切に状況を説明してくれているのだ。

関所までこのペースで行けば15分もかから無いらしいのだが、視線を下に下げるとどんどん疲労が増え顔色が悪くなっていく美希がいる。

そんな中聞くのは心を痛めるがカイルは



「…ミキ様、お聞きになられていましたでしょうか? ……お許し下さいミキ様、どの位持ちそうでしょうか?」


「…はぁ、はぁ………行けるところまで頑張ります。 す、スクロールを使ってる筈なのに物凄いしんどいです。」



正直今すぐにでもやめてしまいたい程に辛い、だが今辞めると被害が大きくなってしまうかも知れない。

残りmpは1万を切っている。

虚偽の発言をするだけの力が残ってはいるものの、走ってスタミナが尽きる様な感覚ではなく、風邪の時などに熱が出て体の力が無くなって行く感覚に似ている、それも凄い勢いで。

考え無しに使ってしまった事を今更後悔する美希、しかし戦えない人が多くいる以上誤った選択では無かった……と結論を付け、魔法の維持に集中する事にした。


今走っている人々の想いは一つ、AまたはSランク並みの冒険者がいる、そしてこの美しい魔法の輝きをこんな時ではなく眺めていたかったと。

危機が迫る中でも天の川(ディプマ・ウル・ラース)と言う魔法は人々の心を魅了した。



「あ…あの、失礼ですがやはり貴女がこの魔法を?」



壮年の生真面目そうな男、もとい先程親切に現状を教えてくれた副隊長が尋ねてきた。



「………スクロールを使っています。 …もう、余り持ちそうにありませんが…。」


スクロールや魔道書、魔法石といった魔法を使えない人あるいはmp切れを起こした時の為の護身用にとmpを使わずに魔法を行使する道具で、

その中でもmpを使って使うスクロールなどは緋色以上の魔物からしか取れない最上級品と言うのが一般的な知識である。

そんな代物をわざわざ村一つが襲われていたからと言って使う様な者は話に聞く勇者か途轍も無い善人かただの馬鹿だけ、

そんな感情を抱いた副隊長は美希に不審な目を向けた。



「……助かったのは素直に感謝致します。 ……ですが、その様な高価な代物を何故あの村の為に?」



走りながら普通に話す事に凄いな、と美希は思うも副隊長の顔を見て疑われてるなーっと感じた。



「えー…アルフレッド・カイドライウスと言う方をご存知ですか?」


「アルフレッ…!!? ま、まさか貴女様がかの有名な御息女様なのです…!?」

「いえ、ただの友人です。 何かあったら使いなさいと言われて待たされた物なのですが……私には使いこなせ無い力みたいです。」



アルフレッド・カイドライウス。

彼は平民出身でありながらランクマスター、Sランクへと上り詰めた冒険者で、

類稀な剣技の才を持ち、現在は旅に出たまま行方は知られておらず、生死の確認はさていないここ5年前迄は実在した伝説人物である。

何故そんな人物を美希が知っているかと言うと、ベルクと20年来の知り合いらしく、スクロール関連で言い逃れが出来そうに無いときは名前を使えと言われていた為、ここでありがたく使わせて貰っていたのだ。

何故副隊長が御息女であるのか驚いたかそれは、クルーラー・カイドライウスと言う名のアルフレッドの3人いる娘の1人で、己の拳と治癒術で現在Aランクまで上り詰め、今最もSランクに近いと巷で話題の才女だったからだ。

が、美希は娘の情報を知らないので冷静に即答で答えた。



「んんっ! 失礼、取り乱しました。 …ですがアルフレッド様とご友人とは……さぞやご高名なぉ…」

「いいえ、今回は冒険者登録をしようと王国に向かっている田舎娘でして……はっきり言いますと私あのオーク一体すら倒せないかと…」


「……左様ですか。 しかし貴重なスクロールをこんな所で使ってしまったよろし…」

「大丈夫です。 冒険者になってからは自分の力で頑張りたいので、身に余る物を人の役に立たれたのなら嬉しい限りです。」


「……いえ、しかし貴女が使ったスクロールを売れば…」

「貰い物を売るなんで私には出来ません。 まだお話し有りますか? …すみませんが、集中したいです。」


「こ、これは失礼しました。 もう少しです頑張りましょう。」



名前すら知らない副隊長さんの話を悪いとは思いながらも全て即答で返し、深く追求されない為に話を切り上げた。

偶然チラリと目が合ったカイルさんの顔はよく分からない顔をしていたが、スルーする事にした。







大きな木製の門の左右にこれまた頑丈そうな石で出来た2つの見張り台。

最早関所ってより砦の門じゃ無いだろうか…と思ってしまう程の立派な関所の真ん前まで美希達は着いた。



「おい!! 今すぐ門を開けてくれ!! オークの群れが迫って来てるんだ!!!」



先程話していた副隊長が一歩前に踏み出し大声で叫ぶもすぐに返答があることも無く、見張り台にいた兵士らしき人が後ろを振り返り誰かと話し、少し時間が経ってから困惑気味、と言った表情で



「…今門を開ける事は出来ない!! ハイト、すまないがもう少し耐えてくれ!!」


「まさか……西門が落ちたのか!?」


「違う! 今しがた入った連絡で追加の冒険者と兵が向かった所で、多数のオークを相手にこの門を開ける事は出来ないのだ!!」


「………わかった。」



ぁ、そこ分かっちゃうんだ。

この会話が始まる前に"天の川"は消えてしまっておりmpもほぼ無いに等しい為言葉を発する事すら難しい状況の為、そう美希は思った。

此方を今にも泣きそうな顔で見てくるカイル、少し周りを見れば、普通声を荒げて暴れ回る人が居てもおかしくない……いや寧ろ後ろから間違い無く刻一刻と迫るオークの大群が居て逃げ道が無いのだから声を荒げ門を叩くのが普通だろう。

そんな事を美希が思っていると近くにいた親子の会話が聞こえて来た



「…おかーさん、私達お終い…かな?」


「……あなただけでもなんとかっっ…! …ごめんなさいね、そうよね…これは"見捨て"確実、ね。」


「………そっか。 おかーさん、今までありがとう! ごめんね? ミカ迷惑いっぱいかけて…わっ」



母親が10歳前後の娘を抱き締めて何度も「ごめんなさい」と泣きながら言っている。

娘も同様に母親に抱き着き泣いている。

いや、よく見れば彼女達だけではなかった。

友達同士や親子、兵士達に冒険者迄もがそう言った感じだった。



「……ミキ様、大丈夫ですか? …その、足音が近づいて来ています。 オーク…だと思います。」


とても心配そうに此方を気にして、そしてまるで死期を悟った様な悲しい声で。




「何故、抵抗しようとしない、のですか?」




「…"見捨て" 、そのままの意味にございます。この関所の門より内は三等市民以上、それより外は見捨てても構わない者達です。 それは冒険者であろうと、兵士であろうと……一度門より外に出れば一等市民以上で無ければこの様な場合、関係なく見捨てられます。」




なるほど。

国に対し有益な者と、国が成り立つ一定以上の民以外はどうでも良い。 そしてそれを皆が納得し了承してる、と。








…………はぁ?








「………ふざけんな…。」



「…すみません、聞こえませんでした。 どうされたのですか?」




「……だから…さ、……ふざけんなっっつてんの!!! それでええわけ無いやん!! カイルさんはそれでほんまにええと思ってんの!?」




美希の呟きを聞き取れず聞き返すと怒気の含まれた大声が返って来てカイルは心底驚いていた。

それに何故美希がこんなにも感情を乱しているのかが分からない。




「み、ミキ様? 落ち着いて下さい。 その、私には何故ミキ様が怒っていらっしゃるのか分かりません。」



怒声を聞いた周りの人達も美希に視線を送り、カイルの言葉に同意し可哀想な物を見る目を向けている。

カイルの返答、そして周囲からくる目線で良く分かった。

呪われ子といい、この危機的状況で無抵抗のまま死のうとする連中といい、それを援護する気さえせず此方を上からただ悲しそうな目を向ける兵士といい…



「…そうですか。 良く分かりました。」



そう言ってカイルの腕から降りると、足元がフラつき地面に倒れた美希をカイルは慌てて支えようとするがそれを美希は片手を上げて辞めさせた。

mpが少しずつだが回復してるのが分かるが、気分的にも肉体的にも殆ど改善されておらず、気合いで立ち上がり

覚束ない足取りで関所と反対に向けて歩き始めた。




皆が一様に美希を見つめる

カイルですら動かずその場でただ立ち尽くし見ているだけ。



逃げて来た人々の最後尾から少し離れた所で足を止めた。

遠目だが、此方に向けて向かってくるオーク達が見える。


……怖い


その光景を見て思った最初の感想だった。

だが、日本で1度死んでる身としては2度目のチャンスを不愉快な思いをしながらも貰ったからには精一杯の事はしたい、と思ってしまう。



だから今美希が取れる最善の方法を取る事にした。



「…私は、何もせず死に逃げるくらいなら、どんな状況下でも足掻きたい……["初めの光よ、我等を守れ"脆き聖壁(ファースト・デフェンス)]

["守護者よ、汝の守らせし紡ぎ手は今ここに"白き羽衣(ホワイト・アップ)]

だって、ただ死を待つ何てさ…せっかく生きてるのに勿体無いよ!!」



薄く光る城壁を模した3m程の高さの壁を美希の少し前から左右に1km程まで展開させ、その上から真っ白なベールが展開させた城壁全てを包み込み、そしてベールが消えると薄く光っていた城壁はその堅牢さを増したかの様に光を増していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ