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13話、ガレフの森3



「…いい匂い。 ……なんだろう?」



倒れる様に寝た美希は安易テントから匂いに誘われる様に起きて出た。

匂いの元は、カイルの前から湯気が出ておりそれを掻き混ぜている、近付いて見るとシメジと椎茸に見えるキノコと、緑色のこの森から取れる山菜らしき物が入った白っぽいスープを炊いていた。



「おはようございます、ミキ様。 良くお休みになられましたか?」



座っている場所の後ろに面しているテントの方から美希らしき気配が近付いて来たのを感じたカイルは、振り返り笑顔で美希に挨拶をした。



「おはようございます、気分はいいですよ。 足は痛いですが……それにしても美味しそうですね」



同じ様に笑顔で挨拶をし、1日の殆どを歩いて過ごした為足に筋肉痛がきており体はまだ重いが美味しそうな食事を前に明るい気分にはなっていた。

カイルの隣に座って、もう少しで出来上がります、と言う言葉に従って待っているとベルクが美希達の視線側から歩いて来きて



「………我の食べるぶんもあるだろか?」



どうやらベルクもこの美味しそうな匂いに釣られて来た様だった。



「ベルクさん、おはようございます。 見張り…でしたっけ?お疲れ様です」


「おはようございます、ベルク様。 お口に合うかは分かりませんが…作らせて頂いております。」



そして少し待つと、黒い鍋から木の丸皿にスープをよそって美希には手渡しで、ベルクにはどうしましょう?と聞くと前で良いとの事で地面に伏せをしている顔の前に置いた。

そのまま元いた所に座ったカイルは何故か自分のは入れず鍋の火加減を調整している。

日本感覚の美希は全員揃って食べるが当たり前である為不思議と思っていたが、ベルクも伏せて待っているのを見てそこは変わらないのかな、と思い、早く食べたいと言う気持ちを抑えカイルに


「カイルさんは召し上がらないんですか?」


「いえ。 私は残ればそれを頂こうと思っておりますので、どうぞお召し上がり下さい。」



聞くと笑顔でさも当たり前の様に言ってくるカイル。これは親心的な物が強いのか、それとも呪われ子としてこれまでの習わしなのか汲み取れない美希はカイルの目を見つめて笑顔で



「みんなで食べましょうよ? その方が美味しいですし、それに……火加減くらいなら私にも食べながら出来ますし、ね?」


「……我も同感だな。 食事を囲み皆で頂く、それだけで信頼が生まれる事もある。 それに冒険者は身体が資本だ、今食わぬなら我が無理矢理にでもねじ込んでやろう。」



美希の優しい言葉の後に、ベルクの肯定が入り更に脅しチックなことばまで飛んできた為、それでも大丈夫ですと言いそうになったカイルは言葉を飲み込み一言、わかりました、と告げると器にスープをよそい匙を手に持った。


美希が手を合わせ、頂きます、と口にすると不思議に思いながらもカイルも一度器を膝に置き真似をして頂きますと言い、ベルクは知っている様で手を合わせられ無いが目を閉じて軽く頭を下げて同じ食前の言葉を告げ食べ始めた。



「……美味しい…。 カイルさん、これ凄く美味しいですよ!」



スープを一口啜ると、乳を使われているのが分かる濃厚な味わいが舌を満たし、キノコや山菜のが出る旨味が草独特の苦味を感じる事無く伝わり、片栗粉か小麦粉が使われているのであろう、柔らかなとろみが喉をゆっくりと通って行く。2日ぶりのまともな食事に美希は頬が自然と緩くなりカイルを褒めた。



「…確かに旨いな。 我と其奴(ミキ)だけで此処に来て居たと考えると頭が痛くなる、我の目に狂いわ無かったわ」



ハハハッ、っと笑うベルクを見てそれは聞いてねぇよ、と毒突く美希だが確かにベルクと2人で此処に来て居たとすると考えれば考える程絶望しか無い、その点はベルクに感謝をと思いそこで思い出した、ベルクに全て聞かれていると。

チラッと見ると鋭い視線が来たので、気にせず食事を食べる事にした。



「…ありがとうございます。 その…この程度で宜しければいつでも作れますので…」



カイルは2人の言葉を聞いて内心もっと美味いご飯食べていたであろう、と思ったが素直に嬉しいと言う思いもあり、笑顔で感謝を伝えた。

一口飲んで見ると、確かによく出来ていた。 村全員の食事を小さい頃から作り、自分の食事も作っていた為料理は得意になっていたのだ。

美味しい食事を作れると言う自覚は無くとも、2人に喜んで貰えるだけでやっていて良かったと思えたカイルであった。






食事を終え、野宿のセットをリュックに仕舞うと歩みを進めた。


相変わらずここ狼が現れるなり何体来てもカイルの独壇場でスパスパと倒していき、足を止める事なく進んでいた。






歩き駆け(ウォースキップ)”と言う初級の移動速度上昇魔法をベルクが使い進行速度を上げ、ベルクのそろそろ休むぞと声が掛かれば、安易テントで野宿をしカイルによるガレフの森で取れる美味しい森の恵み晩御飯と朝御飯を食べ移動する、これを3日続けている時





「……囲まれましたね。前は私が、申し訳ありませんが背後はお願いします。」



カイルの向いている前方に炎狼1体と狼4体。その後ろで向かい合っている美希とベルクの前方に炎狼2体、狼7体。

この状況に慌てているのは美希だけである、カイルは2人の実力が確実に緑石であるBランク以上の凄腕と思っており一切の不安が無い。ベルクは世界ランク5本の指に入る程の怪物で、最高クラスの暗色。シルバークラスが何百何千群れようと止まっている蚊の如く一捻りで潰せる為焦りなど一切ない。 だが美希は未だに攻撃魔法を使う決心がつか無い。

ただ動物が好きだから攻撃でき無いわけではない、日本人として生まれ育ち、狂犬病を持つ野良犬にも会わず、襲って来た動物もいない。何かに攻撃すると言う行為には嫌悪感すら覚えるのだ。

だが此処でベルクに言われたことを思い出した。 何も攻撃だけが全てじゃ無い、今の自分に何ができるのか、最善の方法探し思考を巡らせる。

……動きを止める。魔物であろうとまだ殺める事に抵抗のある美希が考え着いた結論だった。

そう考えていると



(ふむ…蒼狼(ガレフ)がいないのであれら、我が出る幕では無いな。…おい、危なくなったら手を貸してやるからカイルが向こうを倒すまで…)



ベルクが美希に心で伝えていると



「”耐炎の守り”、獄炎の守り手(バーニングフォートレス)。 …”生ある者は影を背負う。汝の罪深かき歩みを祝福し、此処に死の訪れを待て!”影縛り(イビルバインド)。」



地獄の炎が体に入る演出入りの炎耐性の魔法を3人に発動させ、そしてすぐさま闇魔法である影縛り(イビルバインド)を唱え行使した。

合計炎狼3匹、狼11匹の崖 影を棘のある漆黒の鎖が巻き付いていた。 狼達は苦悶の表情で足はおろか口まで動かす事が出来ずその場で体を動かそうと震わせながら止まっている。



「…ふぅ。 カイルさん、多分魔法も使えないと思うのですが……一応守護魔法も掛けましたし、今ので動きを封じてますのでささっとやっちゃって下さい。」



プルプル震えながら止まっている狼達に心で葛藤しながら、表面には出さずカイルに笑顔で伝える美希。

だが、カイルは異様な何かが起こっている事は分かるが、何が起こったかは分からなかった。



「……あの、ミキ様これは一体……。」


「捕縛魔法だ、対象の動きを止める類の。 ただ、こいつが使ったのはその中でも自分より弱い相手の技能をも封じるものだ。 こいつと対象の魔力の強さが開けば開くほど長くなるが、その間が短ければ短時間になる。 ……分かったな?さっさと仕留めて来い。」



ベルクの説明を聞いてやっと状況を掴めたカイルだが、シルバークラスを含む10体を超える魔物を封殺すると言う離れ業に驚いていた。

一般的な知識として捕縛魔法を専門とする者でも対象が多ければランクが低くても10体を超えると1〜5秒耐えるかどうかと言ったところで、真価を発揮するのは1体の行動を止める事なのだ。数が多ければ多いほど弱まるこの魔法を、美希の魔法は30秒過ぎても解ける気配が無い。 カイルが美希を見てもまだまだ大丈夫、と言う顔をしている。


テイマーでかなりの高ランクであろうベルクを引き連れ、強力過ぎる守護魔法に回復魔法、おまけに規格外の捕縛魔法。 最早伝説に出てくるレベルの実力者であるとカイルは思い、尊敬と共に恐怖を覚えた。

どんな事情で他の大陸から此処に来たのか……ただ向こうに飽きたのかそれとも………だが彼女がとても優しい人だとこの短い期間で感じたので何か大切な用事があるのだろう、と考え恐怖は無くなった。

「では、少々お待ち下さい。」そう告げて、動けない狼達の首を斬り始めた。



(……やれば出来るではないか! だが、人前での闇魔法は控えた方が良い。 ”影縛り”は中級の魔法だ、下級の”歩み止め(ウォークバインド)”と言う初級の魔法を我等以外の者がいる時は使え。 捕縛魔法は本来上級迄なら無属性、下級なら闇属性が一般的だが、”歩み止め”ならば闇属性だが力ある魔法使いがその気になれば使えるのでな。)


(…使い分け面倒だなーぁーー、あ……なるほど、分かりました。 人目につく時は弱いのを使えば良いんですね、気を付けます。)



ベルクからの指導を受け、また忘れて心で愚痴を言って後悔するも生真面目っぽい返事を返す美希だった。



「………炎狼を3体も相手にして無傷で、ただ剣を軽く振るだけで終わってしまうなんて…。 とても貴重な経験をありがとうございます!」



炎狼の毛皮と薄っすら赤い牙がいくつかと大量のコルドをリュックと袋に詰め、コルドの入った美希に差し出しながら目を輝かせてカイルが言ってくる。

あはは、と乾いた笑いでその場を凌ぐ美希であった。






そしてからベルクが見繕って来た場所に向かい安易テントを張り、カイルが調理をしている。

今日は近くにあった川でベルクが何かを使って取ってきた多量の魚をただ焼くものとスープの2種類作るそうで、村から持ってきた木の板と小ぶりのナイフで下ごしらえをしていた。



「……このまま歩き駆け(ウォースキップ)を使い続けて行けば、明日の昼にはガレフの森を抜けれるだろうな。 夜迄にアレーラ村につければ、その次の日関所を抜けて夕方にはラルフ国に着く。」


「長かった様な、短かった様な………。歩き過ぎで私もう結構クタクタですよ。」


「…まだ後2日は歩くんだぞ?弱音を吐くには早いだろ……。」



ベルクから大体の距離を聞き、もう直ぐ着くとただひたすら森を歩いて来た美希は、目的地が近付いて来たと現実味が出て来たため口からふっと出た言葉をベルクが溜息をつき呆れた様に言った。



「………出来ました。ミキ様もお疲れの様ですし、明日の為にも早く食べて寝ましょうか」



本日の魚を料理が作れたカイルは器に取り分けながら2人に言うと、「はい」と「だな」と返事をしカイルが作った料理を食べ、片付けを美希とカイルでして安易テントに入り眠りについた。




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