第12話、ガレフの森2
ガレフの森を歩き出会うたびにカイルの剣の錆になる狼の魔物達、途中10体もの狼に襲われても傷1つ無く倒すカイルを見て美希はブロンズからシルバーになるだけで魔物ってそんな強くなるんだろうか…と疑問を抱いていた。
そして出会った炎狼1体、土佐犬の様に大きな体だが見た目は狼。 違うのはその名の通り狼の体毛が炎の揺らめきの様に風も無く揺れており色もオレンジに近い赤、見ているだけで…と言うより実際気温が高くなっているのを美希は感じていた。
「…ミキ様申し訳ございません。炎狼は火の魔法と属性特技を有しておりますので、私では厳しい相手ですので……力無く思いますが援護をお願いいたします。」
美希達より前に出て盾と剣を構え、真剣な表情で炎狼に向き合うカイルだが、攻撃的な魔法を使う魔物と相性の悪いカイルは1人でも勝てる見込みがあるが厳しい戦いになると思い美希にそう伝えた。
(ベルクさんが倒すって言ってたのあれですよね? ほら来ましたよ)
(…経験を積む方が良いだろう、こいつは金になるしな。……補助に回れ、魔法耐性と属性耐性系の治癒術を使って出来れば魔法攻撃、出来ぬのなら回復と障壁を張れば良い。)
(……………。…やるだけ、やって見ます。)
心で美希はここに来る前にベルクが任せろと言っていたのを覚えていたので伝えるも、ここはやらせるかと考えたベルクは美希にアドバイスをして戦って見ろと伝えた。
「…”耐炎の守り、魔除けの光、我等が友に仇なす災厄より堅牢なる守壁にて護り慈しむはエレファスの御心”!
獄炎の守り手、魔導断ち、永遠の灯」
詠唱を終え術が発動すると、全てを灰にしてしまうであろう赤黒く煮えたぎる炎、死霊が叫ぶとき周囲に色が出るのであればこんな色だろうと思ってしまう程、紫の憎悪の色、真っ暗で一切の灯が無い場所で見つけた優しく心が暖かくなり涙が零れ落ちてしまう気持ちにさせる美しい光。
この3つが順番に美希達3人の周囲に一瞬現れてすぐに体に憑依する様に入っていった。
カイルは美希の詠唱から強力な守護系魔法だと分かり安心してそれを受け穏やかな気持ちと勝てる絶対的な自信を抱き炎狼と向き合っていた。
ベルクは術の効果を確認するとこんな雑魚相手に…と思い溜め息をついていた。
美希は自分が使ったにも関わらず叫びはしなかったものの前者2つが恐ろし過ぎてその場にへ垂れ込んでしまい、最後の光を見てここ天国かな…と涙を流しながら目を開けていると光が消えカイルの背中が目線の先に、やや後ろからベルクの呆れる様な視線を感じ、自分が使った魔法だ…と気付き涙を拭って何事も無かったかの様に立ち上がった。
(…獄炎の守り手はその名の通り地獄の炎だろうが火と付くもの全てから身を守る魔法だ。 故に魔導断ちは必要ないだろ…。
魔法を極めた者が使う魔導すら打ち消す守護魔法だぞ? 火しか使えん炎狼にはどちらか使えばそれだけでただの犬だ。
極め付けに永遠の灯だと? お前は何と戦うつもりでいるんだ?
物理的な攻撃のほぼ全てを吸収し、吸収した分mpとhpを回復させる最上級魔法だ。 ここの何処にそれ程の敵がいるかいってみろ)
(…いっぱい強そうなの掛けたほうがいのかなって………、ごめんなさい。 今後気を付けます。)
(……………いくらmpが多く、時間と共に回復すると言えど使える残量が決まっている消費物だ。 どんな雑魚が敵であろうと、どんな奴の傷を癒そうと必要以上の力を使うな!
手加減や情けをかけろなどとは言わん。だがな、力に傲る者はゴミと変わらん、強き者は誰であろうとそれぞれの戦いにおいて無駄な事はせん。 分かったな?)
美希はベルクに怒られごめんなさいとしか言えなかった。
怒られる事など記憶にある中では親にも1度しか無く、バイト先ではミスをしようと持ち前の美しさと普段真面目にやっているのもあり一度たりとも怒られた事が無いのだ。
それがここに来てベルクに何度も怒られる美希は自分がこの世界に適応していなく全然駄目なのだと理解していた為とても落ち込んでしまったいた。
「……来ます!」
カイルの言葉を聞くなり炎狼は美希がギリギリ目で捉えられる速度でカイルに前足の爪で襲い掛かっていた。
4、5回聞こえた鉄と鉄がぶつかる音が聞こえ、炎狼はカイルから離れ威嚇をしながら睨み付けておりまたカイルも剣のみで爪による攻撃を捌ききり剣と盾を構えていた。
(………え? 3数字上がるだけでこんなに早くなるですか?)
ギリギリ目に捉えられる程の速度で一瞬の攻防繰り広げられていたのを見ていた美希にとって先程までの狼達は例えるなら鼠で、今戦って居るのは猫である。
レベル1で戦える雑魚から1レベルで中ボスを省いていきなり30や40レベルの本命ボスと戦って居るのかな?と思うほど差がある様に感じていたのでベルクに尋ねると
(…ん? あぁ、そうか分からんか。 ふむ……説明が難しいが、ブロンズの敵をFランクの白が余裕を持って倒せるのに対して、シルバーはEランクの黄かつ4のブロンズを1人で倒せる者達が20人合同パーティーで4割弱の確率で倒せるかどうか…と言う程違うのだよ。
跳鼠と言うブロンズ4で攻撃されても指で軽く押された程度の威力しか無いが、速さは目の前に居る炎狼と同程度なんだがな。
それを狩りに行き、体と目に覚えさせるのがシルバーを狩りに行くまでの冒険者的セオリーらしいぞ。)
(………冒険者さんって苦労されてるんですねー。 ゴールドとか私から見たら瞬間移動したくらいの速度じゃ無いんですか?)
(”萎縮”や”高速移動”、”速度補助”と言う中級者、上級移動技や魔法を使う冒険者も魔物も居るからな、今で見えるか見え無いかならそうなるやも知れん。
…助言をしてやるとすれば、見えぬ速さを点で捉えるより線で捉え線で予測する事が重要だ。
……つまりだ、しっかりとその目で見て、敵の力量や攻撃手段を確かめ、癖や移動先を見極める。 この3点が出来ていれば自ずと見えぬ程の速さだろうが戦える。)
ベルクからの有難い教えを受け美希は分かる様で分から無かった為、首を傾げるもなるほどーっとベルクに返事を返した。
速度補助は強化魔法の一種で、下級魔法上位の魔法を使える者であれば大抵の魔法使いが使える魔法の為実は美希もベルクも使えるのだが……ベルクは使えば鍛錬にならぬと思い使わず、美希はペルセポネーの加護の力で効果が跳ね上がるので酔いやアキレス腱切れるくない?などと思いビビって使えずにいる。
ガキンッッ、バキッ、バァン!
と気付けば炎狼とカイルの接近の攻防の音が聞こえて来た。
左から来る爪を剣で弾き、右から来る爪を盾で弾いたり力を抜いて反らしたり、時折来る回転しての尻尾の凪を上体を反らして避けたり、と言う攻防がレースカーの試合を見ているような速度で目まぐるしく展開されており、美希はあまり見え無いが目が離せ無いでいた。
炎狼の爪を盾で弾いたり後一瞬の隙をカイルは一歩踏み出して剣を下から切り上げ、炎狼の左肩辺りから鮮血が噴き出し、ガウッっと呻きを上げ距離を取った。
炎狼は自身の周囲に20cm程の魔法の火の玉を3つ出現させカイルに向けて放つ。
バキュン!と音がすると、その場を動かずに立っていたカイルに当たるはずだった火の玉は姿を消していた。
「……魔法が消えるとは…。 み、ミキ様…一体どの様な魔法をお使いになられたのですか?」
魔法が消えて困惑しているのだろうか、炎狼は止まってしまっており、炎狼と同じ様困惑しているが視線だけは外さずカイルは美希に問いかけた
「…え? …えーっ、とぉ……魔導断ちと言う敵意のある攻撃魔法を打ち消す守護魔法です……よ?」
美希が素直に使った魔法の能力を言うとカイルはいくら炎狼が動いていないとは言え戦闘中にも関わらず
体ごと振り返り驚いた顔で美希を見ると
「カイルよ、此奴の言っていることは事実だ。 この世の中には魔法を打ち消す魔法や特技なども打ち消す魔法も存在しておる。
…他言は無用、分かっているな?」
「………む、無論にございます!! …え、っと。
魔法が効かないのであれば怖くありませんね、すぐに倒して参ります。」
ベルクがどうしよう…と戸惑っているであろう美希に代わりカイルに説明した。
本来はゴールドの魔物以上を倒せる者でもごく僅かしか魔法などを打ち消す力があると知らず、詠唱中に止められなかった場合魔法が発動すれば広範囲攻撃などは必中であると言う知識が常識な為に、カイルは酷く混乱してしまった。
だが、ベルクから口止めを約束されはっ!っとして慌てて何度も頷き絶対に言わないと心に誓うと、炎狼に体を向け、魔法が来ないのであれば特技など大したことは無いと判断し、手負いの炎狼に向けて駆ける。
美希から見て魔法が来ないと分かったカイルは本当に強く、何で初めからそう行かないんだろうか?と思う程圧倒的で
炎狼から攻撃が来れば盾で受け止めるのでは無く、そのままカウンターで盾殴るは足で蹴るは剣で斬るは、攻撃しなくとも回避の難しいであろう太刀筋で容赦無く斬りまくり最後は首を貫かれて炎狼は倒れた。
(……ベルクさん、魔法使ってくるだけでそんなに違うんですか? 戦い方…変わりすぎてて分かりません。)
美希は心でベルクに問い掛けると
(…あぁ、お前や我の様な魔法に耐性強い者だと……ふむ、先程炎狼が使った火の玉をお前が受ければ少し暖かい風が吹いた程度だろうが、耐性の無い者や低い者が喰らえば体が燃える程の熱と衝突した爆風で吹き飛ぶだろうな。
それ程迄に差があるのだ。)
(……何と無く分かりましたけど、いくらなんでも私あんなのにあたりたく無いですよ!?)
ベルクから説明を受けた美香は理解はしたが、幾ら効果が薄いとは言え燃え上がる火の玉が凄い勢いで飛んで来るのだからそれだけで恐怖をだろう、と。
それから炎狼から出たコルドとベルクが攻撃していないのに何故か落ちた揺らめく様な炎狼の毛皮を拾った。
ベルク曰く、テイマーである美希が何かしらの魔法なりでアクシデントを起こすだけで少し落ちやすくなるらしい。美希は意味不明っとベルクに言い首を傾げるも、
端的に今回は運が良かっただけ、とベルクに言われ美希も納得した。
それから暫く歩き、ちらほら出て来る狼をカイルが瞬殺するのを繰り返し、日が落ち薄暗くなった辺りで荷物からテントを出してベルクが警護するとの事で休まず歩いた為疲れ果てた食事もせずに美希はすぐに眠り、そんなに疲れていないカイルは食べれる野草やキノコ、木の実を探し朝ごはんの仕込みをして自身も何も食べず眠りについた。