11話、ガレフの森1
「…うわぁー、すっごい森って感出てる! 携帯あったら写真撮りたいレベルだよー」
日本で言う朝9時ごろにガレフの森の前に着いた美希は、日本では足を運ばなければ見られない青々とした森を見て感嘆の声を上げていた。
「…あの、ミキ様? けいたいやしゃしんとは一体何なのでしょうか? それにこの程度の森でしたら冒険者の美希様なら見飽きるほど…」
「カイルよ、此奴は海を渡って来たと言っただろう? そこは森が少なく様々な道具があるのだよ。
それに、この大陸に来た以上ここの冒険者登録をして身分証明であるランクカードが必要だからな。」
美希の言うカイルには不可解な言葉に質問と謎の感動に対して意見をしようとして、ベルクが遮り美希の代わりに説明をした。
(…おい。気を付けろ、まだ此奴に言うには早い。 この世界で電気を使った道具は本当に数が少ないのだ。 それに、そんな高度な技術はこの世界には無い。)
(…えーっと、なんでこの世界に無いのに写真も携帯も知ってるんで……あぁ、前に聞いた勇者さんからですかね?)
カイルが「なるほど」と納得してるうちにベルクは心で美希に伝え、美希の疑問には軽く頷いてそれを肯定した。
「さて、では装備だな。 カイル、盾と剣を持て来ているな? …それを身に付けろ。
それとミキ、お前はローブを着ろ。 その辺で着替えて来い。」
ベルクの指示でカイル鉄の剣と皮の盾を、美希は少し霞んだ白いローブを離れた所にあった大きい岩の後ろで着替えた。
「……あの、これフード被らなくても良いですよね?」
戻って来た美希はフードを被るのが気に食わないらしく、戻って来るなりベルクに尋ねると、頷いた。
装備を整え、ガレフの森へ足を踏み入れた美希達は、5分程してさっそく狼の魔物に遭遇した。
「………うわぁ、凄い凶暴そう…。」
小汚い毛並みの4匹の狼は、中型犬程の大きさだが目が赤く血走っており、唸りながら鋭い牙を剥き出しながら涎を垂らしていた。
初めて魔物と対峙した美希は小声でそう呟いた。
「……カイルよ、彼奴らはお前1人に任せる。 補助が必要なら此奴に任せる、わかったな?」
「…分かりました、お任せ下さい。」
「カイルさん、ファイトです!」
ベルクの指示で盾と剣を構え前へ出たカイル。 4匹の狼達と睨み合いを少し続けると、1匹の狼が痺れを切らしカイルへ襲い掛かった。
それを皮切りに3匹もカイルへ向かう。
最初に来た狼がカイルへ噛み付こうと口を開け飛び掛かると、カイルは開いた口の両端に剣を横薙ぎに振り抜くと最初に飛び掛かって来た狼はその切断面から上下に別れてカイルの横に落ちた。
次に来る狼は首を斬られ、3匹目は顎に蹴りを喰らわされ真上に飛んだところ腹に一閃、4匹目に至っては飛び掛かって来た所を剣の柄で耳の下の付け根に一打受け、反対側へ吹っ飛んで動かなくなっていた。
「…この程度でしたらお手を煩わせる事も無いですね」
振り返り美希に笑みを向けたカイル、それに対して美希は苦笑いをした。
狼が襲いかかって来てから10秒も掛からず4匹の狼を屠る……この世界の人はみんなこんなに強いのだろうか、てか血飛沫一切かかって無いとか何……と言う疑問と狼の鮮血が足の前まで飛んで来ておりさっさと離れたいと言う2つの思いを抱いていた。
「……………え、と。 カイルさん凄く強いのですねー、私驚きましたよ」
「いえミキ様、今相手にした狼達はランクで言うと2か3ですのでブロンズ階級の魔物でございます。… この大陸の魔物にお詳しく無いようですので、ミキ様が来られた大陸のギルド情報が違うかもしれませんので…、差し出がましく思いますが簡単にご説明致しましょうか?」
「それはとても助かりま……うわぉ、消えたよ…。 ぁ、ごめんなさい、是非お願いします。」
美希はカイルを取り敢えずと言う思いで褒めると、カイルは軽い運動にすらならなかったと思わせる話し方をし、そして戸惑い気味に美希に伝えた。
美希は説明を喜んで聞こうと思った所で、目の端に映っていた倒れた狼がフワッと白い煙の様に蒸発しコルドと言う硬貨を落としていたのに驚いた。
すると斜め後ろからベルクと思われる鋭い視線を感じ、急ぎ取り作った笑顔で説明をして欲しいと軽く頭を下げて言った。
「………か、畏まりました。 ……では、まず階級の説明をさせて頂きます。 1〜4の数字を付けられた魔物をブロンズ、あるいは銅色と呼びます。 次に5〜7迄をシルバー又は銀色。 8〜10をゴールド又は金色。 11〜13をプラチナ又は白色。 14をエメラルド又は翠色。 15をスカーレッド又は緋色。 16を超えるであろう魔物をブラック又は暗色。 と、魔物を色や数字で表しております。」
カイルの説明に美希はなるほどー、と相槌を打ちながら聞いていた
「次に冒険者のランクについてです。 全7段評価で白石、黄石、水石、青石、緑石、黒石、蒼石とございます。 まず冒険者ランク1、Fランクと呼ばれる白石は主に1〜3の銅色の魔物を倒せる者達です。銅色の4を倒せる様になるとランク2、Eランクと呼ばれます。順当に上がり15の緋色を倒せた者ををランクマスター、Sランクとなっております。
無論、冒険者ギルドに討伐の証を持って報告しなければなりません。 そして、この森にいる狼の魔物はあっても3、基本は2でございます。 炎狼は5、蒼狼は9…と言ったところでしょう。」
1〜3を白、4〜6を黄、7〜9を水、10〜12を青、13を緑、14を黒、15を蒼と階級の魔物を倒し報告するとランクが上がる。
ガレフの森は初心者に優しい狩場だと追加で教えて貰った。
「なるほどー。 ……カイルさんはどの階級まで倒せるんですか?」
ランク2の狼を余裕で倒せるカイルの実力を純粋に気になったため聞いてみた。
「そうですね………。 私1人でですと…冒険者登録はしておりませんのではっきりとは分かりませんが、魔法を多様に使う魔物であれば5、魔法を使わないのであれば6……頑張れば7といった所だと思います。」
「…な、なるほどー。 …頼りにしてますね!」
聞いて見たものの、どんな魔物がいて冒険者のランクのそれぞれの実力が分からない為適当に頷き、はぐらかせる為に頼りにしてると言った。
(…基本1人でシルバーを倒せるのなら冒険者として一人前だ。 ブロンズからシルバーに変われば魔物の強さはかなり上がる、お前とペアならゴールドを倒せるだろうが……場数が全く無いお前がいきなりそんなゴールドの魔物と戦えばカイルは死ぬだろうな)
カイルが美希に「頑張ります」と言った後、ベルクはよく分かってい無いだろうと思い美希の心に喋りかけた。
(…って言われてもまだ全然わかん無いですよ。 てかベルクさんはその階級?だと何処なんですか?)
ベルクの親切な教えてを聞いてもいまいち分から無い美希はふとベルクの階級を知りたくなり聞いて見た
(……ふむ、討伐依頼を聞く限り我はブラックらしいぞ。 ついでに教えてやると、お前が召喚で喚んだグリフォンはゴールド、ドラゴニアスはスカーレッドの中でも限りなくブラックに近いと言った所だろうな。)
(………私が戦えるようになる必要ありますか?)
(お前は馬鹿なのか? 従えているお前が従わされている奴等に一瞬で消される雑魚など話にならん。この世界ではな、女子供だろうが羊飼いだろうが皆そこそこ戦える。 …攻撃だけが強さでは無いのだから、お前はお前が出来る戦い方を覚えればいいだけの話だ。)
美希はベルクに勝手に伝わるのも忘れて思った、この世界の最上位クラスの階級が2体もいるなら全部丸投げでよく無いか、と…だがベルクの言葉に美希はなんでこんな事思ったのだろうかと思い知らされた。
考えれば美希には回復や防御といった魔法が使える、カイルやこれから出会うかもしれ無い友達や知り合いを戦わなくても逃げる時間稼ぎや、怪我や病気から救うのもまた”戦い”なのだと。
頑張ります、とベルクに伝えると
「…ミキ様? コルドを集めて参りました。 全部で52コルドでした。」
狼達が落とした硬貨をカイルは拾い集めており、美希に差し出した。
「すごーい、ザ・赤とザ・青って感じの色してるー! ぁ……失礼しました、拾って来てくれてありがとうございます
責任を持って保管しますね!」
カイルの手の平にある絵の具の様な赤い硬貨と青い硬貨に驚き声を上げた美希だが、我を取り戻し一礼してから受け取りローブの腰に巻いている黒いベルトの様な紐に括り付けてある小ぶりの巾着袋に入れた。
「…………。 …ミキ様? ラルフ国に入る際個人証明をでき無いものには50コルド、その者がテイマーである場合は従者1に対して30コルドが必要となっております。 そして冒険者登録は男は300コルド、女は250コルド、テイマーは従者1に対して100コルド登録料に必要でございます。………ここで780コルド、更に街中にいるのであれば宿を取らなければなりませんので、最低でも1000、余裕をもって1500コルドは必要かと思います。」
「…後948又は1448コルド……狼は4匹居たから1体約13コルド、最低73、最大は112匹も倒さ無いとダメ…と。
めっちゃ大変じゃ無いですか?」
さらっと計算して2人に尋ねた美希、カイルは「え?」と声を出して驚きベルクは「ほぅ…」と目を細めた。
「……あの。………私変な事言いましたか? え、まさか計算間違えてます?………いやあってますよね?」
「…………私ではすみませんが分かりません。」
「我も数字は余り使わん。 が、その自信は当たっているのだろうな。」
美希はベルクから心で数字を解く者は少ないと聞かされた。
数学を学んでいる者はとても少なく幼稚園児と同等かそれ以下の計算以外は、商人や貴族、城に仕える者や学者、好きで学ぶ変わり者しか出来無いと。
カイルは本当に凄い人だと感動し分から無いと謝りながらも尊敬の眼差しを向け、ベルクは笑みを浮かべて美希を見ていた。
「……ぁ、すみません。 私数学好きなんですよ、取り敢えず80体くらいを目処にお金を稼ぎましょう!」
苦笑いをしてカイル様か用に適当に数学好きと言って、ラルフ国に行くまでの討伐目標を伝えて歩き始めた。