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10話、ガレフの森へ



食堂から出て宿を出ると、村人達が仕事をしながら此方をチラチラと見ていたが、ベルクが1つ睨みを効かせると誰1人として美希達を見るものはいなくなった。

そしてベルクが先頭に立って足を進めていると、カイルらしき人影と若い男達の姿が見えた。



「…あ! カイッッッいったいな!!、なにすんねん!?」



カイルに呼びかけ様と声を上げようとする美希の膝にベルクが右足で軽く殴ってその呼び掛けを止めると、その場にロープで反対側から足を引っ張られる勢いで横向きに倒れてしまった美希は身体を起こしながらベルクを睨み、キツイ口調で言うと



「……声を下げろ。 そして見て聞いていろ、これから始まる事を、な。」



そう言って美希の抗議を気にも止めないベルクは視線をカイルのいる方へ向け、風の魔法を使って美希に向かうの声が聞こえる様に、更に美希の目に風と水の合成魔法を使って見えやすく、2つの強化魔法を無詠唱で使って聴力と視力を上げた。



「…皆様には途轍もない程のご恩を頂き同時に多大なご迷惑をお掛け致しました。 恩を返さずに申し訳ありませんが、私は美希様達と共に旅にグッ……」


「おい、誰が喋れっつたよ?テメェ見てーなゴミが喋んじゃねーよ!!」

「つか、聖女様の名前出したんじゃねーよ!」

「オラオラオラぁァ!!」

「なぁ、腕と足折ろうぜ?」



カイルは若い男達6人に丁寧な言葉で別れを告げようとしている様であったが、言い切る前に男達がカイルの腹を、顔を、足を、殴り、蹴りそしてまた殴りのまるで集団リンチをしていたのだった。



「………ひどい。 …な、なんであんな事を…」



それを離れた場所で見て聞いていた美希は顔を顰め、祈る様に手を組んで小さく呟いた



「……目を逸らすなよ? あれが呪われ子と言うものだ。 先も言ったが…その目で見て、その耳で声を聞け。 これが…今からお前が生きる世界だ。」



ベルクは美希にあえてこれを見せたのだ。

この世界には呪われ子がいる様に当然の奴隷もいる。 ベルクはこれから嫌でも目にするであろう事を経験させる為にカイルを使って、手を出さずにただ美希の傍に座って語り掛けた。



「……なんで誰も助けへんの?………ベルクさん行ってよ!! ベルクさんが行ったらそれで…」

「我は手を出さん、近寄りもせん。 助けたいならお前が行け、他人に頼るな。 …何より助けるだけの力も、この村での地位もお前にはあるのだぞ?」


美希のすがる様な言葉にベルクはそれを遮って一蹴し、自力で助けろと言った。

ベルクには考えがこの時あった。

それは、美希が自分で問題に立ち向かえる者かどうかを測る事、そして魔物と戦えぬなら人とはどうだろうか…と。

そして美希がベルクを睨み付け導き出した答えは



「……ベルクさん、貴方の言葉は正しいですがあえて言っておきます。 最低ですね、と。」



そう言い放つと美希はカイルのもとへ一直線に走った。



「なんかっ、早いっ…魔法わっ…えーと……[癒しの風は汝を包む、癒風(ピューレ)]!! ……カイルさーーーん!!! 大丈夫ですかーー!?」



走りながら下級治癒魔法の癒風を対象をカイル1人に向けて発動させると、威力がおかしい美希の下級治癒魔法は”下級”と言う言葉が嘘の様にカイルの体を包む様にそよ風が見えるのならこんな色だろう、と思う様なの美しい薄緑色の光を放ち一瞬にしてカイルに起きていた筈の痛みも傷も綺麗に消し去り、更にはその光がカイルへの新たな暴力を防いでいた。

魔法を行使した美希はこれでもかと言わん大声でまだ距離があるカイルに呼び掛けた。



「……痛みが…消えた…?……この美しい輝きが傷を癒して俺を守ってくれているのか…?

…ぁ! ミキ様!? …つまりこれは、ミキ様の治癒術………やはり、とんでも無いお方だったんだ…。」



倒れて次から次へと来る暴力に堪える為にカイルは目を瞑っていた。 柔らかく心地の良い風が吹いたと思えば、全身の痛みが無くなり、終わったのかなと思い目を開けて見れば美しい緑の微かに光る輝きがカイルを包み、男達の暴力を防いでいた。

ムキになってより一層の攻撃を加えるも全く効かず、風によって優しく押し返される。

男達にしてみてもカイルにしてみても不思議な現象に、「なんなんだよこれは!!?」「クソッッ!!!」と男達が口々に苛立ちを吐き出すと答えはすぐに聞こえて来た。

カイルは声の聞こえた方へ目を向け、走って来る美希の治癒魔法の力に小さく呟き、男達は美希を見て硬直してしまっていた。



「……はぁ、はぁ………ふぅーっ。

えー………、すみませんが、カイルさんから離れて今すぐ立ち去って下さいませんか? カイルさんはこれから私達と旅にでます、つまり……えっと、彼は私達の仲間です。 これ以上危害を加えるつもりなら、私は………私はテイマーとして、私の従者(ベルク)に”1つ言葉( 命令)を伝えます”。 …返事は?」



男達の元にたどり着いた美希は息を整えると、笑顔でこう言った。

テイマーと名がこの村に知れてる以上、その力は従者の行使。 即ちあの虎が敵意を向けて襲い掛かってくるのだ。

美希の言葉に青ざめた表情で「申し訳ありませんでしたー」と叫びながら6人の男達は走り去って行った。



「……ミキ様、貴女には言っておりませんでした…私は呪われ子です。 ですので貴女様がお手を煩わす事は…」

「関係ありませんね、もし本当に呪いに掛かっているのなら、そんなもの私が一発で解きます!

……多分、これでも結構凄い治癒魔法使えるんですよ? さっ、立って下さい。」



悲しそうな笑顔で言うカイルに、言い終える前に割って入り笑顔でこう告げる美希は手を差し出した。

その手を、震えながら恐る恐る伸ばした手でカイルがそっとその上に乗せると美希はその手優しく握り立つ様に促した。



「……えっと、痛い所とかありますか? あるなら治しますので言ってくださ………え?、大丈夫ですか!? どっかそんなに痛いですかっ!!?」



立ち上がったカイルに美希は怪我の心配をして聞こうとして背の高いカイルを見上げると涙を流していたのだ。

美希にすればこんなデカイ男が泣いていたらそんなに痛い重症を負っているのかとびっくりし慌ててしまう。

しかしカイルは


「………申し訳ございません。 どこも痛くありません、大丈夫です。 ミキ様……助けて頂きありがとうございます、私は貴女様をこの命尽きるまで守らせて頂きます。」



生まれてこの方親切にされた事の無いカイルには、美希の取った行動も、言動も彼を感動させるには十分過ぎたのだ。

親はカイルを生んでから何方も弄ばれて目の前で殺され、残ったカイルも幼少期からこれまで、犬以下の存在として扱われていた彼には、そんな存在ながらも生かしてくれていた村を救い、さらにはそんな自分を救ってくれた美希はカイルにとっては天使や神の様な存在として感謝した。


「…………えっと。 … なにこれ、なんか怖い……。

…まぁ、怪我が無いのなら良かったです。 でもカイルさん、自分の命を1番に考えて下さいね? 別に私は守られるだけの人間にはなりたくありませんから。」



カイルの生い立ちや過去など知らない美希は、「そんな大変な思いしたんかなー、つかこんなんでそんなん言うとかチョロ無い?」など内心で思いながらも、最初は戸惑いながらも、自分の意思を伝えた。



「……ミキ様…。 畏まりました、何もできないこんな私ですが…ミキ様のお言葉を守り、その上でお力添えできうる範囲でやらせて頂きます。」



そんな美希へカイルは片膝をついて跪き、頭を下げながら真剣に伝えた。

それを見た美希はこれは何言っても無理だな、と考えて



「……えっと、立って下さい。ぁー…ありがとうございます。

と、言うわけで! さっさとガレフの森?とか言う所に行きましょう! …準備はカイルさんがして下さってるって聞きましたので、もう行けるんですよね?」



カイルに立って貰った美希は感謝を伝え、そして話題を変える為にベルクからカイルに用意させてると聞いていた旅準備について聞いた。



「礼を言うのは私の方なのですが………。

…ぁ、はい。 準備は出来ております。 すぐに旅立てる様に……こちらがその荷物です。」



美希は気付いて居なかったが、カイルの後ろには登山家が背負う様な大きなリュックが2つ荷物がパンパンになって置いてあった。

カイルはその2つの荷物を片手ずつ持ち美希の前に現物を見せた。



「………多く無いですか? 私、重さにもよりますが持てる自信…………あ! ベルクさんの背中に乗せればいぃ…」

「我は持たんよ。 持ってやっても良いが、片方だけだ。」

「きゃっ! ビックリした!」 「…わっ!? す、すみません」



音も気配もなく美希の後方から歩きながら言葉を遮って声を掛けたベルクに、美希とカイルは驚き2人してベルクを見た。



「…いきなり来るのやめてくれません? 心臓に悪いです」


「…ふん。 それにしてもミキよ、我は我に頼らず助けろと言った筈だがお前は理解して居たのか?」



鼻で笑って躱すと、男達に美希が脅しに使った言葉を聞いて居たベルクは問い掛けた



「……いいえ、私は”テイマー”です。 ベルクさんは私の力で助けろって言いましたよね? ですから、ベルクさんは私の力……で、合ってますよね?」


「………。 …まぁ、良かろう。 確かに我はお前の力だ、それは間違いではない…

だが、我とて常にお前の近くに入れるとは言い切れん。 従者を使わず戦える術を付けろ。」



美希の正論にベルクは呆れた様にそれを認めた。

それに付け加え、主人が死ねばベルクは制約が解除される代わりに代償として力を一部削がれる為、美希個人で人間と戦う力を身に付けて欲しいとキツめ伝えた。



「…………が、頑張ります。」



キツイ口調と怖い顔に気圧され、ビビりながら美希は答えた。



「…ぁ、あの! 準備は出来ておりますので、ミキ様のご要望通りガレフの森へ向かいませんか?」



その会話を切りに3分程の沈黙が流れ、その空気を変える為カイルが切り出した。



「…だな。 こんな所で時間を費やすのも無駄だしな。」


「……ですね、美味しいご飯が食べたいので早く行きましょう!」



こうしてガレフの森へと向かって進んで行く3人

荷物はカイルとベルクが分担して待つ事で話しが纏まった。

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