表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/36

第10話「2年前の話」

『師藤……確かにそう言ったのか?』

「はい、オレを知りたければそう聞けって……」


 家に帰るや否や、わたしは命さんに電話をかけた。

 ドアにもたれて息を切らしながらも、どうにかあった事をまとめて伝えられた。


 そして深刻気に話を聞いていた命さんは、『しどう』というワードが出た時、電話越しにも分かる程動揺した。


「やっぱりなにか知ってるんですね?」

『……ああ、知ってる。つっても同じ姓の奴を1人知ってるだけだが』

「知り合いですか?」

『いや、そんなんじゃない。そうだな……何処から話すか……』


 重たい声だ。

 その『しどう』という苗字にどんな意味があるか、わたしには分からない。


 でも少なくとも、あの黒づくめの男は狂ってる。

 その人が自分に関するヒントとしてわたしに教えたんだ。

 きっと碌なものじゃないんだな、という事は理解している。

 命さんの反応からしても、きっとそういう事なんだ。


「命さんが知ってる『しどう』は、今どうしてるんですか?」

『……死んだ』


 短くも衝撃的な答えが、わたしの耳に飛び込んできた。

 死んだ……?

 え、それって……。


「……聞いてもいいですか? いや、何があったのか教えてください」


 わたしは食い気味に携帯へと話しかけた。

 聞かなくちゃいけないような気がした。

 きっとブレードに関係ある事なんだ。

 そう思うと、なんだか自分も無関係じゃないように感じた。


『構わねーけど、多分長くなるぞ』

「いいです。詳しく知りたいんです」

『……分かった』


 命さんは一層声のトーンを落とし、語り始めた。

 かつて自分に起きたという、数週間の出来事を。







「…………」


 わたしは話を聞くうちに、圧倒されてか玄関に座り込んでいた。

 なんだか、物語でも聞いていたような気分だ。


「……凄い話ですね」

『現実感ねーだろ?』

「まあ、はい」


 当事者の命さんが言うように、それはあまりにも現実離れした話だった。


 事は2年前まで遡る。

 まず、命さんは元々ブレード使いじゃない普通の人だった。

 それがある日、当時連続して起こっていた事件に巻き込まれる形で、偶然ブレードを手にしたらしい。

 奇妙な連続事件なんて、まるで今の合町みたいだ。


 自分がブレード使いになった事、事件の犯人達もまたブレード使いである事。

 それを知った命さんは、なんと彼等に立ち向かう事に決めたという。

 そんな決断、わたしなら出来るだろうか?

 今まさに似たような状況だけど……。

 やっぱり怖いかな。

 あの男の事を思い出すだけで、体が少し震えてしまう。


 更に命さんとわたしとじゃ、決定的に違う部分がある。

 それは、独りじゃなかった事。

 命さんには仲間がいた。

 肩を並べて歩ける仲間が。

 その人達も命さんと同じく、巻き込まれるような形になったらしい。

 その全員が敵に立ち向かおうなんて……。

 凄い以外の言葉が浮かばない。


 そして数週間程の死闘の末、遂に命さん達は勝った。

 大きな怪我も負ったとの事だけど、全員が生きて勝利した。

 あの目を引く顔の傷も、その時の傷なんだとか。

 そんな死線を潜り抜けてきたのなら、昨日の戦いぶりも頷ける気がする。


 けれど、それで終わりじゃなかった。

 その犯人達のボス……『しどう』という人が、殺された。

 彼等と命さん達にブレードを与えた張本人が、突如その場に現れて……命さん達の眼の前で、何の躊躇いもなく殺した。

 その人は犯人サイドを全員殺す事を仄めかせ、全身に銃弾を受けつつ突然消えた。

 彼等がどうなったのか、命さん達は今も知らないという……。


「漫画か小説みたいです。これが現実に起きた事なんて、突飛にも程があります」

『だな。でも全部本当の事だ』

「分かってますよ。あなたを疑ったりしません」


 わたしは少し笑いながら、携帯を握る手を強め た。

 これは作り話じゃない。

 命さんが経験した、本当の話だ。

 事情を知らない人が内容だけ聞けば、そう思わないだろう。

 でもわたしには分かる。

 この人の心を知ってるから。

 本気でわたしの方に手を伸ばしてくれた、あの真摯な気持ち。

 それが、電話越しに聞こえる声から伝わってきた。


「わたしは命さんを信じてます」

『……ありがとよ。なんか照れるな』

「命さんがこの町に来た理由、なんとなく分かりましたよ。ここで起きてる事件に、なにか思うところがあったんですね?」


 数秒の間が空く。

 顔は見えないけど、多分命さんは真剣な顔をしてるんだと思う。


『ああ。例の変死事件、ひょっとしてと思ったんだが……本当に当たりだったらしい』

「…………」

『あの時と似たような事が起きてるんじゃないかって、嫌な予感が的中しちまったわけだ。やれやれ……』


 こんな確証のない事に。

 そもそも自分とはほとんど無関係と言ってもいいのに。

 聞き流してもおかしくないし、誰も責めないのに。

 それでもこの人は、合町にやって来た。


「凄いですね……」

『……凄くねーよ。そうしなくちゃいけないって事を、俺は自分で分かってんだ』

「どういう意味ですか?」

『気にすんな、大した事じゃねーよ』


 大した事じゃない、か。

 機会があれば、聞いてみたい気もする。


『にしても、師藤か……。ブレード絡みってのは、最悪の場合として考えてたけど』

「やっぱり良くない事ですか」

『最悪以上かもしれない。何よりヤバイのは、その師藤がブレード使いを好きに生み出せるって事だ』


 最悪以上……。

 わたしはふと、点と点が繋がったように考えが浮かんだ。


「あの人、命さんの事を知ってる風でしたよ。もしかして、その2年前の事も知ってるんじゃ!」

『多分そうだろうな。でないと説明がつかない』


 たくさんの複雑なものが絡み合ってる。

 2年前、命さん達にブレードを与えた人。

 それに、今この合町でブレード使いを増やすあの男。

 この2人には、なにか繋がりがあるって事?

 ブレード使いを増やして何をするつもりなのだろう。

 それに『しどう』という人達。

 一体何者なんだろう……。


「話してくれてありがとうございます」

『いいって。お前も無事でよかった』

「はは。それじゃあまた」

『おう、またな』


 そう言いあった後、通話は切られた。

 なんだか『またな』という言葉が嬉しくて、少しにやけてしまう。


 それは置いといて。

 どうやらこの町で起こるかもしれない事は、予想以上に大規模なのかもしれない。

 わたしだけの事だと思っていたこの能力……。

 もっと色々、命さんも知らない何かがあるんだろうか。


 わたしには、出来る事はないんだろうか。


「うーん……」


 戦う?

 ほんの昨日まで、自分の能力すら碌に扱えなかったわたしが?

 想像がつかなすぎる。

 どうすればいいんだろう?


 あ……。

 そう言えばあんまん食べちゃわないと。

 無我夢中で走ってたせいで、形は崩れちゃったけど。

 とりあえず食べて、ゆっくり考えよう。







 翌朝。

 わたしはあくびをしながら通学路を歩いていた。


 どうやらわたしはあれこれ考えるのは得意じゃないみたいだ。

 考え込んで寝付けなかった上に、方針なんか全く決まっていない。

 お陰で重い瞼をなんとか持ち上げながら、こうして登校している。


 そりゃあわたしだって、役に立つ事ならやってみたい。

 こんな能力でも誰かの為に活かせるのなら、わたしはやってみたい。


 でも、まだ完全に扱えてるってわけでもない。

 今は抑えられてるけど、何かの拍子に暴走なんてしたら……。

 それにあの『しどう』という男。

 この事に関わるという事は、あの男とも戦うという事。

 想像しただけで身震いがする。


「はあー、どうしよう……」

「なにが?」


 なにがって、そんなの決まってるよ。

 これからブレードにどう関わっていくか——


「……わあっ⁉︎」


 わたしは思わずその場から飛び退いた。

 そして勢いあまり、後頭部を電柱に思い切りぶつけてしまった。


「いぅっ!」


 わたしは強打した部分を抑えながら、その場に蹲る。

 どうしよう、また涙出てきた……。


「そ……そんなに驚かなくても。大丈夫?」


 見上げると、驚きと呆れが混じった表情の伊代ちゃんが立っていた。


「ゴメン……考え事してた…………」

「そう……。なんにしても、もう少し周りに気を配った方がいいわよ? でないとあんたの身が持たない気がする」


 伊代ちゃんはため息混じりにそう言う。

 うう……おっしゃる通りで。

 というかよく見ると、ここって昨日もわたしが顔ぶつけた所だ。

 妙な因果関係を感じる。


「考え事ね……。重要な事?」

「え? まあ、それなりに……?」

「……私にどうこう出来るか分からないけど、相談してくれてもいいのよ?」

「!……ありがとう」


 差し出された手を取りながら立ち上がる。

 相談か……。

 なんか友達っぽくていいな。


「でも大丈夫! これはわたしが決めるものだか ら」


 わたしは小さくガッツポーズを取りながらそう 言った。

 伊代ちゃんはそれに対して小さく笑う。


「そう。ならいいんだけど。それでも悩むようならなんでも言って」

「うん! ありがとう」


 心なしか、気分が軽くなった気がする。

 わたしは伊代ちゃんと並んで歩き、ひとまず学校へと向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ