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五話「素直根暗です」


 学園には寮が完備されているが、家が近い者は申請さえ出せば自宅から通学できる。

 クリスティーナも自宅通学者の一人で、郊外の教会から学校に通っているという事を顧問から聞きだしたミタマとかばねはさっそくアポなし家庭訪問をする事にした。


「けっこう遠いな! クリスちゃん、家にいるかなあ?」

「まさかいきなり訪問するなんて行動力があるというか無謀というか……」

 教会はニュータウンの外れにある小高い山の上にあった。

 長い坂道を登った先の、街を一望できる位置にある古い建築物。敷地面積もそれなりにあり、なかなか立派なつくりだ。周囲は森林公園に囲まれ、静かな佇まいを見せている。


 門扉から教会の敷地内を覗いてみる。

「なんか騒ぐと怒られそうな雰囲気だよ……ミタマちゃんにとってはアウェイなのでは……」

「かばねちゃん、得意のサンバ踊ってきてよ。この中で」

「得意でもなんでもないし踊らないよ……そもそも意図がわからないよ」

「かばねちゃんがサンバで敵を陽動している間にクリスちゃんに接触してくる」

「普通に入ろうよ……普通にしていれば敵なんていないよ……」

「よし! じゃあ行くよ」


 あっさりと踏み込むミタマにかばねが慌てて続く。

「ごめんくださーい! クリスちゃんいますかー!」

 ちょうど中庭に修道女姿のシスターらしき人がいたので声をかけてみる。

 二十代半ばほどのシスターらしき人物は、にっこりと微笑みながら答えてくれた。

「クリス様はボランティアにでかけておられますわ。学校のお友だちかしら」

「うん、そう。クリスちゃんと遊びにきました」

「あらあら……めずらしいわね。学校のお友だちがいらっしゃるなんて。でもごめんなさいね。クリス様は明日の早朝にならないと戻られないと思いますわ。東南アジアの貧しい国へ奉仕活動にお出かけになっているの」


 シスターのお姉さんは少し申し訳なさそうに言う。

「東南アジア……って部活後に? 明日の学校はどうするの?」

「学校にもちゃんと登校されますわ。これがクリス様の日課なのです。毎日のように貧しい国や恵まれない方のために身を粉にして働いていらっしゃるの。休日は貧しい地域の子ども達に勉強を教えたり、支援物資を配ったり、一緒に遊んだり……紛争地域に赴いて人々の荒んだ心を癒すために楽曲を奉じたり……各国の大使や現地の特派員と政情や人々の生活について話し合われたり……睡眠や学校の宿題は飛行機の中で済まされます。諸国の言葉を覚え、歌の練習をし、子ども達と遊ぶ玩具を作り……クリス様は分刻みのスケジュールで生活されていますわ。毎日休みなく」

「……クリスちゃんってドMなの?」

「どえむ? それは何でしょう?」


 シスターのお姉さんは本当に何かわからないといった顔で不思議そうに訊ねる。

「えっとね、苦痛を気持ちいいと感じるへんた……むぐ」

「いえ! クリスさん、素晴らしいお方ですね……!」

 とっさにかばねがミタマの口をおさえて言い繕う。

 クリスを褒められ、シスターのお姉さんは満面の笑顔を浮かべた。


「そうなのです。クリス様は本当に素晴らしいお方。まさに現代の聖女ですわ。私達に対してもいつも心配りを忘れず、優しい笑顔で接してくださいます。クリス様自身の信者が全国に一千万人はいると言われております。今も絶賛拡大中です」

「写真集でも出せばぼろ儲けできそうだね」

「クリス様のご奉仕は全て無償ですわ。見返りを一切求めず人々の幸せを純粋に願っておられるのです。あのように素晴らしい方、他に存在しませんわ」

「むむ……!」

「あ、やばい……ミタマちゃんの対抗心に火がつきそうになっている」

 ミタマ達の様子には気付かず、シスターのお姉さんはうっとりとした表情でクリスの素晴らしさについて滔々と語る。


「……あ、長々とひきとめてごめんなさいね。そういうわけでクリス様は今はいらっしゃらないのです。学校では仲良くしてあげてくださいね」

 そういうとお姉さんはにっこりと微笑んで教会の中に入っていってしまった。


「むぅ……! なんかクリスちゃんがすごいという事はわかった。でもまだあたしの方が勝ってるよね?」

「えっ! どの辺が勝ってると思うの……一ミリも勝ってる要素見つからないよ……むしろそう思えるミタマちゃんの精神構造が心配になるレベルだよ」

「かばねちゃんってツンデレだよね。本心言っちゃいなよ!」

「ツンデレじゃないよ……素直根暗だよ……さっきから全部本心だよ……ルックスも学力も運動神経も社会的評価もカリスマ性もありとあらゆる面で完敗だよ……ここまで突き抜けてるともはや嫉妬すらされないレベルなんじゃないかな……? わたしはダメすぎて嫉妬なんてする機会はないけど……」

「あたしも嫉妬なんてしないよ。今は僅差で負けてるかもしれないけど一年後は立場が逆転してるかもしれないし」

「ミタマちゃん……悲しいけど、根拠がないと誰もそれをポジティブとは認めてくれないんだよ……勘違いって言われるの……」

「いいじゃん言わせておけば。それにちゃんと探せばクリスちゃんに勝ってるとこあるって! 例えば……胸の無さとか!」

「それって勝ってるの……?」

「場所によっては無いほうが評価される! つまりそこに行けばあたしはクリスちゃんにスタイルで勝っているといえるの!」

「うう……なんか哀しいね……」

「かばねちゃんだって胸の大きさだけならクリスちゃんに勝ってるんじゃない? すごいじゃん! あのクリスちゃんに勝ってるんだよ!」

「サイズだけならそうかもしれないけど……全体の凹凸だったり身長とのバランスでいえば完全に負けてるよ……わたし安産型だし……」

「いいの! それにかばねちゃん、髪の長さでもクリスちゃんに勝ってるよ! すごい!」

「無理やりすぎていたたまれない気持ちに……」

「でもさ、勝った気になって無駄な争いしなくていいならそれも一つの平和的解決だよね」

「う……まあ、そう……なのかな?」

「ビーチバレーでならガチで争うけどね!」


 ミタマはにやりと笑うと、すっきりした顔で踵を返し教会を後にする。

 元気よく歩いていく後ろ姿を、かばねは小走りで追いかけた。


「うん。ミタマちゃんのそういう前向きさ、わたしやっぱり好きかも」

「あ、ほらツンデレ」

「素直根暗です」


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