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95・バール、双頭竜戦3

ミツルと別れたところまでフェンリルが到着すると、そこには凄まじい光景が広がっていた。


「これはあいつの仕業か・・・」


全員の眼下には見渡す限り、魔物の死骸が広がっていた。

その中で唯一、生命活動を確認出来るモノは双頭竜のみ。


ズーン!ズーン!ズーン!


その光景に気を取られていると、双頭竜がゆっくりとこちらに向かって来た。


「チッ!皆降りろ!」


双頭竜の動きにフェンリルが気付くと、舌打ちをして焦った様に声を上げた。


「ミツルさんは!?」

「どこに居るかはわからんが、お前らが生きてるんだ!(ぬし)も生きてるだろう!」

(あるじ)・・・」

「奴が来る!」


必死でミツルの姿を探そうとコロハが見回すが、姿は見当たらない。

そうしている間にも双頭竜は近づいてくる。フェンリルはコロハ達の従属の首輪が反応していない事から、ミツルは生きているだろうと判断していたが、今は目の前の状況を最優先に考えていた。


「わたしが魔法で攻撃する!」

「待ちなさい!」


焦ったエレアが手の平を向けて魔力を集中させた瞬間、フーカがその腕を掴んで来た。


「フーカ!なぜ止める!?」

「気持ちはわかりますが、少し落ち着きなさい。あそこのこっちに向かって来ている鳥、鵺じゃありません?」

「え!?あ!」


フーカが指を差した先に目線を向けると、そこには鵺の姿があった。


「みなさ~ん!」

「鵺ちゃん!」

バサバサ!

「みなさん!何でここに!?」

「わたし達は(あるじ)が心配で!それより鵺!(あるじ)はどうした!?」

「ご主人はもうすぐ届きますよ」

「届く?」


鵺の目線の先を追うと、その先には双頭竜しか映っていなかった。


「どういう事だ!?鵺!それより早く、あいつを!」

「エレアさん!待ってください!だから、ご主人はあそこに居るんですって!」

「はぁ!?」


話している間にも双頭竜はゆっくりと鵺たちに近付いて来ていた。


「ほう・・・なるほど。そういう事だったか」

「あ!フェンリルさんは気付きましたか!?」

「ククククッ、本当に(ぬし)には驚かされる」


フェンリルだけが何かに気付いた様で、驚いた顔をした後、楽しそうに笑い始めた。


「どういう事ですか!?フェンリルさん!」

「どうやら、(ぬし)は不死の竜を退治する事に成功したようだ」

「え!?で、でも、不死の竜って目の前にまだ居るじゃないですか!」

ドーーン!


コロハが訳が分からないとフェンリルへと話している間に、双頭竜はすぐ近くまで来ていた。

フェンリルはゆっくりと双頭竜へと近づいて行った。


「双頭竜よ。言葉はわかるか?」

「あぁ、不思議とわかるぜ」


フェンリルが双頭竜に向かって声を掛けると、双頭竜も言葉で返して来た。


「フッ・・・クククククッ・・・ハハハハハ!」

「フ、フーカさん!?」


その様子を見て、フーカも気付いた様に腹を抱えて笑い始めた。


「ま、まさか・・・ククククッ!あり得ませんわ!いえ、実際にそうなっているのだから、そうなのでしょうが・・・アハハハハハ!」

「ちょ、ちょっと!フーカ!どういう事だ!?」


一頻り笑うと、フーカは眼に浮かべた涙を拭いて、呼吸を整える為に大きく深呼吸してエレアの問いに目を向けて来た。


「フー・・・。あまりにもありえない事が起こったので、つい笑ってしまいましたわ!」

「どういう事なんだ?フェンリルも余裕そうだし、一体何が何だか・・・」

「お二方共、フェンリルが言葉を喋れる理由は覚えてらして?」


フーカが突然、フェンリルの事を引き合いに出して来たので、コロハとエレアは一瞬キョトンとしてしまった。


「え、えぇ。ミツルさんから聞いてます。確か、召喚獣にしたら言葉が通じる様になったと・・・まさか!」

「え?本当か?」

「えぇ。恐らくそのまさかですわ」


全員が状況を理解して改めて双頭竜に目を向けると、その頭の上には倒れたミツルの姿があった。


「フー・・・我が(ぬし)はまた無茶をしたようだな」

「オレに勝ったんだ。無理もないと思うぜ」


フェンリルが呆れたようにため息を吐くと、それに対して双頭竜が苦笑いしたかの様な声で答えて来た。


「おぬしは召喚獣契約をしたのだな。俺はフェンリル。我が(ぬし)、ミツルの召喚獣だ。」

「あぁ。オレの真名は別だが、ミツルはリンドと俺の事を呼んだ。それが今の名前だぜ」

「そうか。ところでリンド。我が(ぬし)は無事か?」

「あぁ。魔力を使い果たして気を失っているだけだ。3日も休めば回復するはずだぜ」

「そうか。ところで、おぬしは体を小さくする事は出来るのか?」

「いや、出来ない。だから、印の中に入って寝る事にするぜ」

「そうか」

「あぁ、じゃあ後は任せたぜ」


淡白なやり取りだけをフェンリルに返すと、リンドは頭の上からフェンリルの背中に静かにミツルを渡し、ミツルの首筋へと吸い込まれていった。


「まったく・・・こんな無茶苦茶な存在は親父以来だ」


背中で寝ているミツルに対して独り言を言うと、フェンリルはみんなの元へとゆっくり戻って行った。






「ん・・・あれ?ここは・・・宿の部屋か」 


体に感じる重さに目が覚めると、外は夕方になっていた。


「起きたか・・・(ぬし)よ」


声に目を向けると、フェンリルが座っていた。


「あぁ。俺が生きていて、宿に寝てるって事は・・・成功したんだな」

(ぬし)は無茶をしすぎだ。不死竜を召喚獣にしようなど、無謀にも程がある」


相当無茶をしたのか腕すら動かない状態のだが生きてる事を再認識すると、フェンリルがこちらを睨みながら苦言を言ってきた。


「フェンリルがそんな事を言うなんて珍しいな・・・。怒ってるか?」

「いや、半ば呆れてる。皆がどれ程心配していた事か・・・」

「すまないな・・・」

「謝るなら、そいつ()にも後で謝っておけ」

「そいつ()?」


俺が疑問を問い掛けると、フェンリルが俺に掛っているシーツを引っ張ってずらしてきた。すると、中でシンティラとコロハが俺に張り付く様にして寝ていた。通りで腕が動かない訳だ。


「そいつ()、それにエレアとフーカもお前の事を心配して、南の原に戻ったのだ」

「そうだったか・・・」

(ぬし)は孤独ではないのだ。残される者の事を少しは考えて欲しいものだな」

「気を付けるよ・・・」


フェンリルと話し始めてから少ししかしていないが。突然、また眠気が襲ってきた。


「フェンリル・・・すまないが、また眠る」

「あぁ、本来なら3日は眠っていてもおかしくない程魔力を使い切ったのだ。それが昨日の今日で目が覚めただけ、(ぬし)の魔力回復は異常だ。今はゆっくり休むといい」

「ありがとう・・・」


再度、俺は眠気に誘われるままに目を閉じた。




バールの街から東へ600km程離れた所にある大きな街、首都フランミル。その中央に(そび)え立つ城の中の一室に一通の報告書が届いていた。


「すまん、ワシの聞き違いかもしれん。もう一度報告をして貰ってもいいか?」


大広間の一番奥、高さ3mほどの階段の上にある玉座に座る男・コウグ国王が驚愕に目を丸くしていた。


「あ、改めて申し上げます!5日前バールの街へ大規模なスタンピードが襲いました!魔物の数およそ5000以上!しかし、全ての魔物の殲滅に成功しました。被害状況!冒険者から重軽傷者30名!近隣村民から死者180名が出てます!」


もう一度報告を聞いても、内容は変わらなかった。

ランアウェイでも死者が200名程度出る事はよくある。しかしスタンピード、それも通常の数倍の規模でその被害数は異常過ぎる。確かにバールの街には冒険者ギルドも魔法ギルドもあり、名の知られた腕の立つ者もいくらかいる。その者達の活躍には非常に喜ばしいが、それだけではいくらなんでも無理があり過ぎる。なにか裏がある筈だと容易に覚る事が出来た。


「事の顛末を詳しく話せ」

「は!5日前の未明!バールの街より南50km地点にて大規模なスタンピードを確認!近くにあったクギの村が消失!村人およそ180名が死亡!その後もスタンピードはバールへ進行!同日、2時半(どきはん)(7時半位)!早馬にてバールに報告があり!緊急避難命令により、3時半(どきはん)(10時半位)!全街民が街を出ました!同刻!バールの南からスタンピードを目視にて確認!」


報告の内容はここで既に異常だった。報告にあった死者が既にこの時点で出ているのだ。つまりバールでは死者が出ていない事を意味している。

しかも、非難を始めたタイミングもおかしい。そのタイミングでは街民が追いつかれてしまう。避難が遅すぎる。


「その後!城壁から閃光を確認したのち、冒険者達よりスタンピードに攻撃を開始!」


ここは普通だ。城壁からの閃光と言うのが気になるが、恐らくは魔法使いが魔法を施行したのだろう。

魔法使いでは無く冒険者というのが引っ掛かるが、魔法が使える者でも魔法ギルドに属していない者はよく居る。

しかし、次の報告で思考が止まった。


「初撃者!4名!」

「・・・は?」


今。確かに、目の前の報告に来た兵は、はっきりと最初に攻撃をしたのは4名だと言った。


「おい!今なんと言った!4名だと!?」

「は、はい!魔法ギルド員はすべて避難しており、冒険者ギルドも街民の誘導しておりました!当初の迎撃は2名の冒険者と奴隷2名です!」

「な!なんだと!?魔法ギルドは何をしている!いや、それより!その者達は名の通った者なのか!?」

「その内1名は名の知られた魔法使い!通り名は『暴隊(ぼうたい)のエレア』です!」

「なるほど・・・」


暴隊(ぼうたい)のエレア』と言えば、首都フランミルでも名を聞くほどの実力の持ち主だ。何故かはわからないが、その『暴隊(ぼうたい)のエレア』が自分の奴隷と一緒に迎撃したのだろう。


「『暴隊(ぼうたい)のエレア』とその奴隷。それと協力者だけで迎え撃ったのか?」

「いえ!そうではありません!」

「ん?どういう事だ?」

「『暴隊(ぼうたい)のエレア』はなんらかの理由により1ヶ月半程前、自らの意思である者の奴隷になっています!」

「な!なんだと!?その者は何者だ!」

「名はミツル・ウオマ!通り名はまだありませんが!常駐騎士の話によりますと、魔剣使いでもあり、無詠唱で魔法を使う魔術師と言われております!」


正直、開いた口が塞がらなかった。

暴隊(ぼうたい)のエレア』をも奴隷に従えたその者は、この国でも数人しかいない魔剣使いで、尚且つ魔術師、それも無詠唱で魔法を使うレベルの冒険者だという。しかし、それだけでは終わらなかった。


「ほ、報告を続けよ」

「は!初撃はケイト、ミツル・ウオマ、エレア・ノーラン、シンティラの4名による遠距離攻撃です!」

「待て!そのケイトとシンティラとは何者だ?」

「は!シンティラと言う者に関しては不明です!しかしケイトという者に関してであれば、調べによりますと、半月前に起きたゲンノーの街を襲ったスタンピード、約200の魔物の内半数以上を単独で殲滅しています!」

「通り名はないのか?」

「は!1ヶ月程前に冒険者ギルドへ登録してますので、未だ通り名はありません!その者の話によりますと『バールに師が居る』とだけわかってます!」


普通に考えてその無謀な状況に一緒に居るとなると、そのミツルという者が師である事は明確だ。


「その4名で大多数を撃退したのか・・・」

「お、恐れながら!大多数を撃滅したのはミツル・ウオマが使用した広域魔法によるモノです!」

「こ!広域魔法だと!?」


この国で広域魔法を使える者は8名のみだ。いずれも準備に時間が掛かり、魔力も相当無くなってしまうので、そんな少人数の中で使う事は余りない。それを初撃で撃ったのだ。余程の考え無しか化け物でない限りはそんな事はしない。


「ミツル・ウオマが使用した広域魔法により魔物の半数以上は撃滅!その後、街付近まで到達した魔物は2名と1匹によって食い止められました!」

「1匹?」

「は!その2名もミツル・ウオマの奴隷であり、また1匹はミツル・ウオマの召喚獣との事!」

「召喚獣だと!」


報告から出て来る話は既に伝説の域となっていた。魔法を無詠唱で撃つ上、広域魔法と召喚獣。ここまで揃えば、この国でも1人しかいない魔導師と言っても過言ではない。


「その者は魔導師だったのか!?」

「いえ!魔法ギルドに所属しておりませんので、魔導師と名乗りはしていない様です!しかし!実力は魔導師と言っても過言ではありません!最終的にはその者、単独でスタンピードを撃滅しましたので!」

「なんだと・・・?そんな馬鹿な事が・・・詳しく話せ!」

「は!」


その後に聞いた報告は、状況からすれば国最大の危機と言っていい事件だった。

スタンピードの規模は5000。その中には小竜(3m程のドラゴン)やトロルやサイクロプス、マンティコアまで居たそうだ。冒険者の依頼ランクで(ミドル)のスクワッド(隊)か(ハイ)のチームが相手をする敵が何百と押し寄せて来ていた。

それにトドメを差すかの様に現れた双頭の不死竜。その双頭竜は南方にある火山帯で目撃されたと以前の報告で聞いた記憶があった。

恐らくはそいつが北に上がって来た為、他の魔物が逃げて今回のスタンピードが起きたのだろう。当たり前だが、双頭の不死竜が来た時点で冒険者ギルドも撤退した。

しかし、その場に残った者が1名。それがミツル・ウオマであった。

その後の詳細は不明だが、報告によると、その上空に嵐が巻き起こり、そこからとてつもない光の柱が立ったという目撃証言があったという。

恐らくはその者が何らかの強力な広域魔法を使ったに違いない。

その後、双頭の不死竜の目撃証言や辺りから逃走した痕跡が無い事から、ミツル・ウオマの攻撃によって消滅したとの話で、全ての報告が終わった。


「命を下す!此度(こたび)のスタンピードの件について報酬を出す!ミツル・ウオマとその奴隷、協力者ケイトを城へ召喚せよ!」

「は!」

今更ながら、ラノベの勉強を始めました。

少し書き方を変えたんですが・・・どうですかね?

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