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89・製作

その後、いつものように薬師の授業を終えてからラークのところでご飯をご馳走になり、ケイトと合流して午後の特訓に向かった。

ケイトとエレアには昨日教えた魔法をひたすら繰り返して感覚を掴んで貰う事にしていた。これは自分の時の経験やエレアに教えていた時にわかった事だが、やはり繰り返し同じ魔法を使っているとイメージが正確になっていき、魔力の消費も効率的が良くなって始めよりも抑えられるようだった。

その間、俺はと言うと・・・


「は!」カン!

「コロハ、動きに無駄が多いぞ!そこはそんなに大きく振らない!」

「はい!」カン!ゴッ!カツ!カン!

「アイリ、踏み込みが足らない!両手剣なのに全然重さがないぞ!」

「わ、わかりました!」カン!ゴッ!カン!カン!


コロハとアイリの手合わせを見ていてわかった弱点を指摘しながら、二人同時に相手をしていた。


「ほら。打ち込む瞬間だけ柄を握り締めて力を入れる!」

「「はい!」」

「アイリ。力任せに振ると!」カーッ!

「あ!」


アイリが力任せに木剣を振って来たので剣を当てて軌道を逸らすと、アイリがバランスを崩して倒れてしまった。


「剣は力任せに振ればいいと言うモノじゃない!だけど、しっかり剣を握らないと!」カカカッ!

「え!?あ!」


相手の剣に自分の剣を絡み付ける様に回して掬い上げると、コロハの手から木剣が飛んでしまった。

コロハは木剣を離してしまった瞬間に驚いて固まって隙を作ってしまい、俺に木剣を首に寸止めされてしまった。


「こうやって巻き上げられてしまう。常に一定の力で握って、攻撃の瞬間だけ力を入れる事が重要だ」


手合わせしながらの講義が終わると、コロハとアイリは頷きながらも無言でその場に座り込んでしまった。


「ちょっと休憩しようか」

「「は・・・はい」」


俺が休憩を提案すると、二人とも息も絶え絶えに返事を返して倒れてしまった。

そのまま炎天下の下に放っておくと熱中症になってしまう恐れがある為、土魔法で二人に影を作ってやった後に、俺は別の方向に目を向けた。


「ギコさん・・・フーカに完全に遊ばれているな」


目を向けた先では、ギコがただ立っているフーカに対して全力で突っ込んでいた。

先程までシンティラの特訓をしていたギコだが、シンティラの休憩がてらフーカに手合わせを申し込んだようだった。

しかし、単純なスピードとパワーはフーカの方が何倍も上なので、ギコは果敢に特攻するが、攻撃はすべてフーカの持っている木製の短剣で防がれていた。

確かに格闘や剣術、魔法を使った合同技はギコの一番の武器ではあるが、俺からしてみれば格闘や剣術はまだまだ無駄が多いモノだった。


「くそ!全然通じねぇ!」


フーカに遊ばれてギコは相当苛立っている様だった。


「それでギルドランク(ミドル)Ⅰなんて、よくなれましたわね」

「くそ!」


フーカが微笑みながらギコを挑発するように言っていたが、そうやってバカにしたり、からかったりするから問題が起きてその犯罪歴の元になっている様な気がしてならなかった。


「威勢がいいな、フーカ。じゃあ、俺ともやろうか」

「え!?あ、その・・・あ、主様」


俺が近づいて手合せの提案をすると、さっきまでギコを見下していたフーカの顔が固まってしまった。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。魔法は使わないし、手加減はするから」

「でも、木剣は使うんですのよね?」

「当たり前だろ?使わなきゃ特訓にならないだろ?それとも素手で本気でやって欲しいか?」

「・・・・・・木剣でお願いしますわ」


一瞬フーカは、俺の素手の本気か武器を使った手加減かで考えたが、武器を使って手加減する方を選んだ。まあ、素手でもそんなに本気を出す気は余りないが、余裕が無いと手加減が難しいので、そっちを選んでくれて、俺としてもホッとしていた。


「さて、どこからでも掛かって来ていいよ」

「ホント、その余裕が鼻に付きますわね!」ドン!


俺が挑発すると、それに反応したフーカが一気に間合いを詰めて来た。

その蹴り出した足の衝撃は地面を小さく抉り、その威力の凄まじさが見て取れた。


「はぁぁああ!」


どうやら、フーカの方は本気で()りに来ているようで、凄まじい速さで木剣を横薙ぎに振って来た。


「そんな大振りじゃあ当たらないぞ」

「じゃあ、これならどうです!?」


再度剣を持った腕を右に引いて、思いっ切り振って来た。


「だから・・・お!」


右から来たのは持ってる筈の木剣を持っていない、右手の拳だった。

続け様に左からも拳打が迫ってきた。動きにフェイントなどがないまっすぐな攻撃だが、凄まじく早い連撃なので、こちらも捌くので必死になってしまう。フーカの攻撃は速さも恐ろしいが、一番の警戒すべきはそのパワーだ。まともに拳を受け止めれば、間違い無く俺の手は骨折する。流れるように拳を横から軌道を変えるようにして捌くしかないが、俺は片手に木剣を持ったままなので、片手でフーカの攻撃を捌くのはギリギリと言った所だった。


「その片手の剣を放されては如何ですの?」

「いやいや、フーカがしっぽで持ってる剣を放したら俺も放すよ」

「バレてましたのね」


俺が木剣を放さなかったのは、フーカがさっきまで持っていたはずの木剣が地面にも落ちていなければ手にも持っていなかった為だった。


「まぁわかったところで変わりませんわ!」

「うお!」


フーカが開き直って回し蹴りをしてきたので普通に避けたが、蹴りの勢いで背中がこちらに向いた瞬間、しっぽに持った木剣が斬り付けて来た。


「便利だな」

「えぇ。そういえば、主様はないんですの?」

「あぁ。そんな剣を持てる程の長いしっぽは無いんでな」

「それはかわいそうですわね!」


言葉を言い終わるが先か、動くのが先かという状態でフーカの猛攻撃が再開された。

拳と蹴りに加えてしっぽに持っている剣の攻撃というのは中々厄介ではあった。普通に2人相手にするよりも連携が取れている分、こちらも先程までの余裕が少し減って来た。

とは言っても、まだまだ俺の余裕の在庫は多量に残っているが、このままではあまり訓練になっていない気がするので、長く続ける気はなかった。


「面白い攻撃だが、無駄が多すぎだな」パシ!

「え!?みゃ!」


フーカが出して来た右の拳を横から掴み、それを捻ると同時に足払いをしてうつ伏せに倒した。素早く後ろに回って左手を膝で抑え込んで拘束し、しっぽをもう片手で掴んで完全に動きを縛った。

そして、しっぽを掴んだ時にフーカの喋り方からは想像出来ない声が聞こえた。


「フーカの動きには無駄が多すぎる。だからこうやって簡単に拘束されてしまう」

「フッ!・・・ん!・・・みゃん!・・・にゃ!」

「しっぽで攻撃するのは面白い方法だけど、しっぽをこっちに向ける動作が出来てしまうから、どうしてもその他の動きが疎かになってしまって攻撃も大振りになってしまう」

「フンッ!・・・にゃ!・・・あ、主様・・・く!」

「どうした?フーカ」


俺がフーカの動きを説明しながらしっぽの根元を揉んだり擦ったりしていると、フーカは抵抗する力も無く、顔を赤くしてグッタリとしてしまっていた。


「あ、主様・・・わたくしの負けですわ。で、ですからそれ以上はっ!」


俺がこの世界に来てコロハに救われた時、目覚めた俺はコロハのしっぽの根元部分を触って濡れた布を投げつけられた事があった。そして、みんなと夜寝る様になってわかった事は、獣人の女性はしっぽの根元が弱いという事だった。

先程から、フーカを組み伏せながらそこをずっと触っているのだが、コロハやシンティラ、エレアと比べても格段にフーカはそこが弱い様だ。

そしてその反応が面白くてずっと弄っていたが、フーカが息を荒くして涙目で許しを懇願して来た。流石にこれ以上は可哀想かと拘束を解くが、そのままフーカは立つ事も出来ずに倒れたままになっていた。


「すまん。やり過ぎたな」

「ひどい方ですわね・・・主様は・・・」


俺が謝ると、フーカが息も絶え絶えに文句を言って来たが、なぜかその顔は少し嬉しそうでもあった。


その後、久しぶりにギコと手合せをしながら動きを指摘し、それが終わるとシンティラの相手(電撃あり)をして、今日の特訓を終えた。


夕方、昨日決めていたフーカの武器を買いに武器屋へ来たのだが・・・


「どれも、ダメですわね・・・これも」バキンッ!


フーカが強度を試すために剣を持って力を入れると、剣は無残にも折れたり曲がったりしてしまった。もうかれこれ店主が「切れ味や重さは二の次で丈夫な奴」と言って出して来た剣を買ったそばから4本もへし折っていた。

その姿を俺と店主は口を空けて見る事しか出来ていなかった。



「う~ん・・・まさかフーカの力がこれ程とは・・・それに鉄製の剣がなかったとは思わなかった・・・」


フーカの武器を買いに来て初めて知ったが、この世界には鉄の武器がなかった。

正確には存在はするが純度が極めて低く、銅剣よりも硬いという程度だった。

鉄は無い代わりにダマスカス鋼やオリハルコンは存在しているようだが、それも相当の貴族しか持てないほどの高価な物だった。


「しょうがない。フーカの武器は俺が作るか」

「主様がですの?」


金属の精製自体はやったことがなかったが、磁器の甕を作った時にアルミニウムの量を調整したりしていたので、何とかなるだろうと思っていた。


「とりあえず武器は俺が作ってくる。その間に、みんなで服を買って来てくれ」

「わかりました」

「じゃあ、これで服を買い終わったら西門に来てくれ」

「わかった」


エレアに金貨1枚を渡して、俺たちは二手に分かれた。




「さて、始めますか!」


俺は西門の外に出てすぐのところに来ていた。

初めはコロハを見学に連れて来ようかと思ったが、まだ水魔法の授業も途中なので今回は俺だけでする事にした。


フーカの力から考えると、重さの心配はそこまでしなくても大丈夫だろうが、問題は強度だ。確かに鉄は硬いイメージではあるが、実は曲がったり錆びたところから折れる事がある。それより硬い金属となるとチタン合金が鉄の2倍、クロムモリブデンクロモリが鉄の3倍の硬さとなっている。それより硬い物だと、俺の知る限りではタングステン鋼が一番硬い金属だ。


タングステン自体は原子番号74の元素で、融点は 約3380℃、沸点は約5560℃と融点沸点共に鉄の約2倍の温度を要する金属で、非常に加工がしづらい。それに比重も鉄の2倍以上ある為、同じ大きさでも鉄より非常に使い勝手が悪い。しかもその硬度から刃を研ぐ事も出来ない。


今回はクロモリ鋼とタングステン鋼で大剣を作ろうと考えていた。

まず、クロモリだが鉄にクロムとモリブデンを添加して作られる。地面に両手を付け、静かに目を閉じ、イメージする。

とにかくまずは素材を集める事から想像する。その辺は苦労する事無く集める事が出来、目の前には黒く固まった球が出現した。

次に精製だが・・・


「あっつ!」


完全に混ぜ込む為にはどうしても溶かす必要があるので、魔力を集中させてやってみたが、2mほど離れているのも関わらず、すごい熱気が襲ってきた。

それもそのはずだ。モリブテンの融点は約2630℃、クロムや鉄の融点より遥かに高い。

それを溶かした後、それを浮かせたまま形を整えていく。

イメージはデッカイ包丁の様に切れ味が良く、簡単には力に負けないようにしていく。


しばらく目を閉じていたが、完成の感覚に目を開いて見てみた。

すると、そこには1.7m程の大きな剣が一振り出来上がっていた。


「さて・・・なんかオレンジの髪をした高校生が持っている物に似ていなくも無いが、とりあえずどうかな。よ!っと・・・あれ?」


とりあえず出来上がった剣を持ち上げてみようとしてみたものの、持ち上がる気配がしなかった。


「ふるぁ!」ゴン!


思いっきり踏ん張って力を入れてみると、一瞬だけ浮いたが、すぐに地面にめり込んでしまった。


「ハァ・・・ハァ・・・。ダメだな、こりゃ。しょうがない」


最近ではあまり使う事が無くなってきた加速魔法(アクセラート)を使って、再度持ち上げる事にした。


「よっと!フー・・・補助を使ってこれか」


なんとか持てはしたが、正直これで戦闘をしようとはとても思えなかった。


「さて、と」ドーーン!「もう一丁作るか」


クロモリの大剣を地面に置いて、次に作るのはタングステン鋼だが、これもまた融点3380℃と温度が高い。

夕方になって少し涼しくなったとは言え、真冬だったとしても相当暑くなる程の熱気を想像するだけで少し嫌になってくる。

しかし、フーカの戦闘力は非常に高くて美人なので、しっかりとした武器を与えたいと考えていた。

ご指摘があって修正しました。

修正前

もうかれこれ店主が「切れ味や重さは二の次で丈夫な奴」と言って出して来た剣を4本もへし折っていた。

修正後

もうかれこれ店主が「切れ味や重さは二の次で丈夫な奴」と言って出して来た剣を買ったそばから4本もへし折っていた。

その姿を俺と店主は口を空けて見る事しか出来ていなかった。


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