8・鵺 (ヌエ)
家に帰る頃には、空がすでに太陽が落ちかけた夕日で染まっていた。
帰るとすぐにゲンチアナに礼を言って、刀を見せた。
「ほう、武器が決まったかい。」
「ああ、ありがとう」
「なに、折角助けたのに、すぐに死なれても困るからの。ところで武器を見せてもらってもいいかの?」
「ああ、これだ」
ゲンチアナが刀を受け取ると険しい表情に変わった。
「ふむ・・・ミツル、これを持って何か感じたかい?」
「いや、特に何も変わった事はなかった。むしろ持った瞬間、手に馴染んでいたが・・・何か問題があるのか?」
「こやつ・・・魔剣じゃよ」
「ま、魔剣って、お婆ちゃん!これ大丈夫なの?」
コロハが顔を青くして驚いた表情で聞いて来た。
「まあ、問題は無かろう。わしが使うなら話は別じゃがな」
そういって刀を渡して来た。
「婆さんが使うと問題があるのか?」
「そうさね。手に取っただけでピリピリとして来た。使おうと抜けば危険じゃろう。」
「魔剣と言っていたが実際どういった物なんだ?」
「そうさな・・・夕飯の後に教えてやろうかの」
ゲンチアナに聞くと夕飯を食べてから説明してくれるという事なので、まずは夕飯を食べる事にした。
夕食後に魔剣についてゲンチアナに教わった。
魔剣
通常の剣と違い人の手で作られる事はなく、発生する武器である。
しかし原因や場所などは不明で、数も多くない。
剣の特性に因るが、多くの魔剣は魔力を送り込むと特殊な効果を生む。
魔剣は強力な武器ではあるが誰でも使える訳ではなく、武器が人を選ぶ。
また選ばれなかった人が無理に使おうとすれば、その者に襲い掛かり命を奪う事もあるという。
ただし、持ち主を選ぶ訳でもなく、拒否反応が無いまま使っている最中に人の命を奪う剣『妖剣』と言う物も魔剣の中にはあるそうだ。
そういった『妖剣』は血を好み、争いを招くと言われているらしい。
・・・・・・
「魔剣ねー・・・」
さっき聞いた魔剣の説明を思い出しながら、寝床に横になり、刀を眺めていた。
「俺はお前に選ばれたって事でいいのかね?」
(まあ、刀に話し掛けてもしょうがないか、まだ動物とかの姿をしているなら違うだろうが・・・)
そう考えながら眠気に誘われるままに、眠りに落ちた。
「キュエ~!」
何かの鳴き声が聞こえたと共に頭を何かが突っついて来た。
「・・・ん?朝か。」
寝ぼけ眼で窓を見ると、明るくなっていた。
「キュエ~!」(おはようございます)
「ん?」
「キュイ?」(何か?)
起きると目の前に黒くてでかい鷲の様な鳥が居た。
しかも聞こえる鳴き声は鳥だが、意味が解る。
鳥は驚いている俺に首を傾げていた。
「お前・・・どこから入って来たんだ?」
「クュイーキュキョキキュイ!」(昨日、ご主人と来ました!)
翼を振りながら鳴いてくる。やはり意味が解る。
「昨日?」
「キュイ!キュイキュキュキュウイキューウイ!」(はい!昨日、僕をご主人が見つけてくれたんです!)
よく考えるとこいつの声は村で聞いた覚えがあった、刀を納めた時に聞いた声だ。
「もしかして・・・お前昨日買った、刀か?」
「キュイ!」(はい!)
やはりこいつは昨日買った刀のようだ。
いろいろ疑問がありすぎて何から聞けばいいのか考えるが、頭が現実に追いついて来ない。
「とりあえず、聞きたい事は山程あるが・・・まず名前を聞いていいか?」
「キュ~イ?ク~キュイ、クーキュイキュイ!」(名前?えーっと、付けてもらった事が無いので、付けて下さい!)
「・・・そうか、無いのか。う~ん。名前ね~」
今まで中二病じみた名前が付いた武器をゲームなどでは使っていたが、実際の武器、しかも意思を持っている奴に付けるとなると難しい。
「とりあえず、何が出来るか聞いていいか?」
「キュ~・・・キュ~イ!」(そうですね~・・・空が飛べます!)
「いや・・・まぁ鳥だからな」
「キュ~・・・クーキュ~クィ!」(あとは~・・・見えなく出来ます!)
「ん?見えなく出来るっていうのは、姿を消せるって事か?」
「キュ!キュックェキュキュー!」(いえ!切った相手の目が見えなくなるんです。)
なるほど、切り付けた相手の視界を奪うのか・・・
視界を奪うって言うと、妖怪で夜雀って居たが、どう考えても雀の大きさじゃない。
(夜にする鳥・・・夜・・・鳥・・・夜鳥・・・
鵺・・・?
鵺は正確には鳥じゃなかった気がするが、良くわからないモノって意味でもいいか。)
「じゃあ、『ヌエ』ってどうだ?」
「っ!キュイ!キュキェ!」(はい!ヌエです!)
とりあえず名前が決まったが、そのあとコロハが呼びに来るまでヌエに対して質問攻めにしてやった。
しかしコロハが来ると、今度は俺が質問攻めに遭う事になった。
こうして、魔刀『鵺』が相棒になった。