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85・虎華

女奴隷が負けを認めた所で、俺は倒れている女奴隷に手を差し伸べた。

なんとなくだが、ここに来て攻撃をするような奴には思えなかったからだった。

しかし、予想は時には外れる。


「ん!?」


女奴隷が起き上った瞬間、唇で唇を塞がれる攻撃をされた。


「ご馳走様」


唇を離した女奴隷はいやらしく唇をペロリと舐めると、悪戯でも成功したかのように笑って来た。


「はぁ~・・・一撃貰っちまったな」

「お、おい!お前!」


俺が頭の後ろを掻きながらため息を吐くと、近くに居た騎士が声を掛けて来た。


「その女奴隷を拘束しろ!」

「は?なんで?」


さっきまで遠巻きに見ていた騎士が、なぜか偉そうに命令して来たので少しイラッとして、反抗的に聞いてしまった。


「そいつは冒険者を35者も殺害し、一般市民も多数危害を加えている!一度は奴隷に落ちる所で済んだが、今回ばかりは処刑は免れん!」

「そうなの?」

「ちょっかい出してくるから掃ったまでですわ。それに、自分を殺そうとして襲って来る者を殺して何が悪いんですの?」


騎士が言った事を本人に尋ねると、本人は悪びれた様子も無く、やれやれと言った感じで肩を竦めていた。


「だそうだ。それなら正当防衛だろ」

「平民が魔法使いを殺したのは重罪だ!」

「そうなの?」

「確かに、首にナイフを突き付けて来た男が、杖みたいのを持ってましたわね」

「知らなかったそうだぞ?」

「どんな理由があろうと、今回の件は只の奴隷身分では重要犯罪だ!」

「じゃあ、只の奴隷じゃなければいいのか?」

「あ?それはそうだ!」

「だそうだけど、君はどうする?」


騎士に一応確認して、今度は女奴隷に話を振った。


「わたくしは、死んでも構いませんわよ。今のところ、あなた以外の奴隷になるつもりもありませんし」

「ふ~ん・・・よし!じゃあ、決まりだな!?」

「「は?」」


俺が結論付けると、騎士と女奴隷は不思議そうな顔をして首を傾げていた。


「なあ、君の奴隷商ってどいつ?」

「あぁ、それなら、あそこに転がってる豚ですわ」


指差された方を見ると確かに太って、豚の様なピンクの垂れ耳が付いていた。


「ちょっと、来てくれ」

「え?ちょっ!」


女奴隷の手を握って豚(奴隷商)の元へ歩いて向かった。


「おい!豚!」

「ひぃ!」


俺が声を掛けただけで、豚(奴隷商)は体を縮こまってしまった。


「こいつ、いくらだ?」

「は、はひ!ざ、罪重5の奴隷で、30万パルでございます!」

「わかった。金貨6枚だな」


ポケットから金貨6枚を取り出すと、豚(奴隷商)に握らせた。


「支払完了。すぐに主人登録を変えろ」

「え!?ですが、この者は・・・」

「え?血を出すのが恐い?しょうがないな~、指でも腕でも切ってやるから──」

「いいい、いえ!なんでもありません!すぐに致します!」


苛立って鵺を抜こうとすると、豚が焦って自分の指に針を刺して、女奴隷の首輪に血を付けた。

俺も反対側に血を付けて、これでとりあえずは主人変更を済ませた。


「じゃあ、次行くぞ」

「え?ちょ、ちょっと!」

「おい!待て!」


俺が、女奴隷を連れて行こうとすると、先ほどの騎士が立ち塞がった。


「なんだよ。俺は今忙しいんだ」

「一般人の奴隷になったからと言って、罪は変わらん!その女を引き渡せ!」

「一般人じゃなきゃいいんだろ?」

「なに?」


俺が小馬鹿にしたように、ニヤリと笑って聞いた。


「俺が冒険者で・・・」

ボッ!ボボボボボボッ!


俺が言葉を口にした瞬間、周りに7つ程、矢の形をした照炎(フランマ)を出現させ、


「俺が魔法使いなら・・・」

パキパキパキパキパキパキパキパキパキ


次に、長さ1.5m程の氷の槍を9つ出現させた。


「どうだ?」

パリッ!バリバリバリ!


最後に女奴隷を掴んでる手とは逆の手に電気(グロム)を発生させた。


「あ、あぁあぁああぁ」


騎士はその光景に腰を抜かし、その場に尻餅をついてしまった。

それもその筈、魔法使いと名乗れる3段階目の魔法の火と水を同時に無詠唱で出現させ、しかも特殊魔法まで発生させた。

この事だけで、俺は魔法使いと名乗ってはいるが、騎士の前に居る者は逆らってはいけないとされる、魔術師である事は誰が見ても明らかだった。


「さて、わかって貰えたようなので失礼するよ。行こう」

「あ!ちょっと!あなた、一体何者なの!?」

「ん?只の魔法使いだよ」

「あなたが只の魔法使いな筈は、ってちょっと!そんなに引っ張らないで下さいません!?」


そう言いながら、俺達は足早にその場を離れて、冒険者ギルドに向かった。




「ミリさ~ん。居る~?」

「ちょっと!わたくしの話がまだ終わってませんわ!」


女奴隷が何か言おうとしているが、殆んど無視して冒険者ギルドに入って行った。

ここに来る途中に何度か手を振り払われそうになったが、その度に女奴隷の方が地面に倒れてしまっていた。

今は若干諦めている様で、手を引かれるままに着いて来ては居るが、大人しくは無かった。


「あ。ミツル・・・さん!?その女性って!!」

「あれ?ミリさんの知り合いでしたか?」


俺が入口からミリの居るカウンターに声を掛けながら向かうと、ミリはすぐに俺に気付いたが、その直後に驚愕の表情に変わってしまった。


「そんな訳無いじゃないですか!その方は冒険者を32者、魔法使いを3者も殺している重罪者です!今日の奴隷市で売買される筈の方がどうしてここに居るんですか!?」


俺が女奴隷を連れてカウンターに近づくと、ミリはカウンターに隠れながらも大声で質問して来た。


「あぁ、それは勿論」

「も、もちろん?」

「俺が買ったからですよ」

「ええええぇぇぇええぇ!!!」


前にも思ったがミリは驚き過ぎだし、声が大きくてうるさかった。その大きな声はギルド中に響いてしまっていた。


「ミリさん、声デカいですって」

「ミミミミミ、ミルツさん!」

「いや、俺はミツルですって」

「ミツルさん!いくらあなたでも危険過ぎます!」

「大丈夫ですって」

「そんな超A級危険者を自分の元に置くなんて!何考えてるんですか!?」

「なんか君、酷い言われ方してるぞ?」

「いえ。どう見ても(あるじ)(さま)の事を言っていると思いますが?」


ミリが女奴隷に対してドンドン言って来るので話を振ってみたが、呆れたように返されてしまった。


「まあ、大丈夫ですよ。さっき戦ってみたけど、なんとかなりそうですし」

「はぁ。なんとかなりそうって・・・わたくしを赤子の様に相手して置いて、よく言いますわ」


俺が言った言葉が皮肉に聞こえたのか、女奴隷は呆れた顔をしてため息を吐いて来た。

別に皮肉で言っているつもりはなかったが、実際のところは1割も力を出していないのは事実でもあった。


「まあ、なんとかなるので大丈夫ですよ。それよりも、早速登録をお願いします」

「はぁ・・・本当にミツルさんって一体何なんですか?まぁいいですよ。これも仕事です」

「すみませんね」


俺が笑いながら登録を依頼すると、ミリが諦めたようなため息を吐いて、書類を取りに行った。


「じゃあ、記入をお願いします。あと、まさかとは思いますが、今回もネックレスチェーンを付ける気ですか?」


戻って来たミリが書類を差しだして来ると、なぜかジト目で睨まれてしまった。


「え?えぇ~っと、何か問題でもありますか?」

「大有りです。こんな危険犯罪者を手綱無しで放し飼いにされては困りますからね」

「あぁ、その辺は大丈夫だと思いますよ?」

「はぁ・・・私は受付なのでもう何も言いませんが、忠告はしましたからね?」

「ありがとうございます。さて、え~っと・・・あ」


ミリからの忠告に礼を言ってから、書類を記入しようとした瞬間、俺は手を止めて頭に手を当てて考え込んでしまった。

スッカリ忘れていたが、奴隷商が「罪重5の奴隷」と言っていたのを思い出した。


罪重と言うのは、その者が奴隷に落とされた原因となる罪の重さで、その段階は1~5まである。奴隷は罪重の段階によって剥奪されるモノと最低奴隷期間が決まっている。その中でも一番重い罪、罪重5は

財産、身体権、家族、名前、身分復帰の権利が剥奪される。奴隷期間は無期限。

つまり、一生奴隷が義務付けられている奴隷だ。


そして、俺が手を止めた原因はその中の一つ、名前の剥奪だった。

名前が無いという事は今現在、彼女には書類に記入すべきモノが無いという事でもあった。


「え~っと・・・君、名前無いんだっけ?」

「えぇ、ありませんわね」

「なんか、希望とかある?」

「いいえ、ありませんわ」

「・・・・・・あぁ、そう」


困った。シンティラの時は電気があったからそれに関連付けて、色んな国の言葉を思い浮かべたが、彼女の特徴はその力を活かした戦闘力。

色々と考えてみるが、どれもこれも女性に付ける名前にはなりそうになかった。


「う~ん・・・どうしようかな~」

「適当でいいですわよ、そんなの」

「いや。俺が個人的に適当にしたくない」


当の本人は名前には無頓着の様だったが、これから呼び続ける名前なのだから適当にはしたくなかった。

しかし、中々思い付く事が出来ないので、一度西洋的なところから外れるとしよう。

第一印象としては、確かに危険なイメージがあった。

尚且つ、ネコ科という事で、すぐに思い付くのは虎だった。

だけど、虎をそのまま女性に付けるのも何か変だ。


(虎、タイガー・・・いや手乗りじゃないし違う。ティガ―、ティグリス・・・ユーフラテス。いや、それも違う。ホランイ、フー・・・フー?フーっていいな。でも、そのままだと、ペットっぽいな。フータ?いや、あれはレッサーパンダだ。フーコ?いや、木彫りの星は持っていない。フー、フー、フー・・・)


しばらく腕を組みながら、うんうん唸っていると、いい感じに閃いた。


(フーカ?フーカってよくないか?まあ、色々なところで出て来そうな名前だけど、少なくともここら辺では使われない音だし・・・)

「よし!決まった!」

「主様、そんなに悩まなくても・・・」

「いや、フーカの名前は適当に付けたくないし、それにこれからも呼ぶんだから適当なんて嫌だしね」

「・・・・・・主様?今のフーカって言うのは?」

「え?あ!あぁ、ゴメン。あまりにもしっくり来すぎてそのまま使っちゃったな」


折角決まった名前を、もっと「命名!」みたいな感じで言いたかったが、つい自然に呼んでしまった。

まあ、ここまで来たらしょうがないが、それでも気を取り直すつもりで、咳払いを一つして改めて彼女に向き直った。


「ゴホン!・・・じゃあ、改めて。『フーカ』それが君の新しい名前だ」

「フーカ・・・」

「あぁ、気に入ってくれるとぅわ!」

「嬉しいですわ、主様」


俺が言葉を言い終わる前に思いっきり抱き着かれて耳元で言われたお礼は、顔こそ見えないが、気に入って貰えた事がわかるような声だった。


「気に入って貰えてよかった。ところでさっきから気になっていたが、その『(あるじ)(さま)』って言うのは?」

「当然ですわ。わたくしの主人なのですから主様とお呼びするのは」

「一応、俺にはミツルって名前があるんだが」

「ミツル様と言うのですね。よろしくお願いしますわ。主様」

「・・・あぁ、もうそれでいいや」


俺の呼ばれ方とフーカの名前が決まったところでさっさと書類に記入する事にした。

この後、ラークの店に行ったり、ヨウウの店に行かなくてはいけないので、ゆっくりもしてられないのだ。


名前 ミツル・ウオマ

年齢 25

地位称位(ちいしょうい)(身分のランク) 魔法使い

得意魔法 水系魔法

武器 片刃剣

所有奴隷 

・シンティラ 雷獣族 16歳

・エレア・ノーラン 狐族 21歳

・コロハ 銀狼族 18歳

・フーカ 黒豹族 19歳

・  ・  ・  ・


「では、登録料500パルと・・・チェーン110パルで610パルです」


会計金額を言って来たミリの目は相変わらず、俺を責めるような目をして来ていた。


「・・・銀貨1枚と銅貨11枚でお願いします」

「わかりました。冒険者奴隷のギルド証とネックレスチェーンです!」

「ミリさん。なんか怒ってます?」

「怒ってません!」


ミリの言い方がきついので聞いてはみたが、頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。


「そ、そうですか・・・とりあえず、はい」

「なんですの?これ」

「冒険者奴隷のギルド証とそれを携帯するためのチェーンだ」

「それが、なんですの?」

「奴隷用のギルド証は一種、奴隷身分の免罪符的な物だ。主人である俺の冒険者ランクに応じてある程度の権限が与えられる。ある程度だが平民への武力行使が認められているが、その責任は主人である俺にあるから、俺の許可が無い場合は手を出すなよ。ただし、攻撃を受けた場合はその限りじゃないからな」

「はぁ?」


奴隷用のギルド証について俺から説明すると、フーカが(いぶか)しげに眉をひそめた。


(あるじ)(さま)はわたくしがしてきた事をわかってないんですの?」

「いや?わかってるつもりだ。それに、なんとなくだがフーカは大丈夫な気がするしな」

「全く・・・わたくしが自分で言うのもあれですが、信じられませんわ」

「まぁ、ある程度こっちが信じなかったら、フーカも俺の事信じられないだろ」

「!!・・・本当に何を考えてますの?」


俺自身の考えだが、奴隷であっても俺について来てくれる者を虐げるような事は余りしたくなかった。

この世界ではそんな考えは非常識なのか、俺が笑いながら意図を伝えるとフーカは一瞬目を丸くして驚いたあと、顔を背けてタメ息交じりに信じられないと言った風に言われてしまった。


「とりあえずは、これからよろしくな。それと、まだ行かなきゃいけないところがあるから、ちょっと急ぐぞ」

「ちょ、ちょっと!」

「じゃあ、ミリさん。また!」

「ミツルさん!本当に気を付けて下さいよ!」

「わかってます!」


再びフーカの手を引っ張り、ミリに挨拶をしながら次の行き先に行く為にギルドを出たが、外は既に暗くなり始めてしまっていた。

更新が遅れてすみません!

色々問題が発生しまして・・・。いや、言い訳ですね。すみません。

次回も遅くなります。目標としては2週間後です。本当にすみません。

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