83・エレアの特訓
遅くなって申し訳ないです!
お詫びと言ってはなんですが、2話同日更新します。
「さて、次はエレアの番だ!」
「う、うむ。よろしく頼む」
先程、ケイトが広域魔法を撃って、魔力切れで倒れてしまったのを見たせいか、エレアの表情は固まってしまっていた。
「いや、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。エレアの場合は魔力もあるし、いつも使っている魔法に手を加えるだけだから」
「う、うむ」
そうは言っても、やはり緊張は消えない様ではあったが、このまま待っていても先に進まないので、ため息をついて説明を進める事にした。
「今回やって貰うのは『焔旋風(Flamma Turbo)』の強化をして貰おうと思っている。仕組みとしては、酸素を増やせばより熱くなり、燃料となる魔力を増やせば大きくなる。ただし、純粋にそれだけをしても魔力を無駄に使ってしまうだけだ。そこで、簡単にだけど『風の理』について説明しておこうと思う」
「か、風の理?」
「うん。実は火と風はすごく相性が良くもあり、悪くもある」
「それはどういう事だ?」
「そうだな・・・例えば、風が起これば火に酸素が送られて火は大きくなる。これはなんとなくわかる?」
「あぁ、それはわかる」
「だけど、風は火を消してしまうんだ」
「た、確かにローソクは息を吹けば消えるな」
「そういう事。つまり、その火の大きさに見合った風を送れば火は大きくなるが、それを超えてしまうと逆に火を消してしまうんだ」
「なるほど」
「そして、風と言うのは空気の物質が動いて起こる現象だ」
「それが酸素という事か?」
「いい線はいってるけど、酸素だけじゃない。実は俺たちの周りには酸素以外にも飛んでいるモノがある」
「飛んでいるモノ・・・あ!水か!」
「お!よく気付いたね。それも飛んでいる。それ以外にも薬の授業で出て来た二酸化炭素も入っているが、大半を占めているのは窒素という物だ」
「窒素?大半ってどのくらいなんだ?」
「10の内8が窒素で出来ている」
「ほとんどじゃないか!」
「そのとおり。つまり、酸素は残りの部分しかない状態で火を燃やしたり、生物が生きるのに使ったりしている。ちなみに、俺が使う風魔法はこの酸素と窒素を魔力で操作して使っている」
「そうだったのか。主の魔法の仕組みを聞いていると、妖精の存在が居るかどうかも怪しくなってくるな」
エレアが顎に手を当てながら俯いたが、全く持ってそのとおりだ。
個人的には悪魔や天使(例えばザフキエル)が居る以上は妖精も存在しているかも知れないが、今の俺たちにそれを知る事は出来ない。
「まあ、妖精が居ないとは言えないけど、実際に妖精を見た事が無いから何とも言えないな。まあ否定せずに「どこかに居るだろう」ぐらいに思っておけばいいんじゃないか?」
「ふむ」
「とりあえず話を続けるぞ」
「うむ」
「なぜ俺が風の話をしたかというと、『焔旋風(Flamma Turbo)』には『風の理』が絶対に必要なんだ」
「ん?」
風の基本原理については大雑把に話したが、竜巻や旋風についてはまだ話していない為、エレアは「ワケがわからない」と言う風に首を傾げていた。毛並みは白くないが、こういう仕草はたまにかわいいと思ってしまう。
「Flamma TurboのTurboは旋風という意味だが、そもそもエレアは旋風ってどんなモノかわかるか?」
「旋風・・・旋風といえば砂がグルグル俟っている、あれか?」
「そうだね。あれは風が渦を巻いて起こる現象だ。現象の条件には何通りかあるけど、今回は空気が円を描きながら上へ向かっていくイメージでやれば大丈夫だ。まずは火の魔法は無しでやってみよう。俺がやるから、風の流れとどんな現象が起こるかしっかり見ていてね」
とにかく、百聞は一見にしかず。早速、魔力操作でケイトが先ほど凍らせた周囲の空気を円状に動かし始めた。
風が動き始めると、凍った草がパキパキと音を鳴らして揺れ始めた。
次第に風が強くなっていき、周囲の空気がその中心に集まり始めた。
「エレア。ここまでの状態はなんとなくわかるか?」
「あぁ、向こうで次第に風が加速している。それに、そこに吸い込まれるように周りの風も集まっている感じがする」
「そこまでわかってるなら、上出来だ」
そう言いながら、次第に風を上方向に伸ばして行く。先ほど、ケイトが地面を凍結させた為に上昇気流が置きにくくなっているが、俺の場合はそれぐらいが丁度良かった。
下手に上昇気流が起きてしまうと巨大な竜巻が出来てしまい、俺でもそれを制御できる自信が無かったからだ。
実際に自分で焔旋風を起こした時は凄く焦った。
次第に凍りついた草を巻き上げ、さらに地面を抉って旋風は大きくなっていった。
「こんなモンかな?」
「す、すごい・・・」
あっと言う間に直径30m程の竜巻が出来上がり、エレアはその光景に口を開いていた。
「エレア。今のこの状態はどうなっているかわかるか?」
「物凄い勢いで周囲の風を飲み込んでいる・・・それに、草や土が上に行っている?」
「正解だ。風は只吹くだけより、回転と同時に上へ上がる様にすると威力が増す。これが旋風の原理だ」
フヒォーー!
説明が終われば、いつまでも魔法を出している必要はないので腕を振って風を散らし、竜巻を消した。
「さて、今度はエレアだ」
「え?」
「『え?』じゃないよ。早速今の旋風をイメージして焔旋風を起こしてみて」
「いや、主。いきなり言われても・・・」
「大丈夫だって、エレアは空気とは何か、火が燃えるには何が必要かがもうわかっているんだから、出来るって!」
少し強引ではあるが、今までの予想では、正確なイメージと知識があるのだから、出来ると確信はしていた。
「わ、わかったが・・・出来なくてもガッカリしないでくれよ?」
「大丈夫だって!」
「じゃあ、いくぞ・・・『Turbulenta Ignis.───』」
「ストップ!ストップ!」
エレアが普通に詠唱を始めようとしていたので、急いで止めた。
「あ、主。どうして止める?」
「前にも言ったけど、『理』は知るだけで強力になるモノなんだから、感覚もわからない内に詠唱なんてしたら大変な事になる。それにエレアはそもそも焔旋風を使った事があるんだから尚更だ」
「そ、そうは言っても」
「大丈夫だから」
俺が大丈夫と言うがエレアには自信が無い様で、不安げな顔をしていた。
「フー・・・しょうがない」
ここは初心に戻る感じで、初めて無詠唱を成功させた時の方法で使わせる事にした。
「いいか、エレア。一度目を閉じて深呼吸して」
「あ、あぁ。スー・・・ハー」
「いいか、じゃあそのまま両手を前に出して掌を前に向けて」
エレアの呼吸なども見ながら、一つ一つの動作を丁寧に進めていく。
「じゃあ、遠く。なるべく遠くに照炎を出してみよう」
「あぁ・・・」
ボッ!
エレアが返事をするとすぐに100m先に大きめの炎が出現した。
無詠唱の魔法を教えてから毎日練習していただけあって、照炎を出すぐらいはもうお手の物になっていた。
「よし、いい感じ。じゃあ、そのままそれをもう少し大きくしてみようか」
「あ、あぁ・・・」
ボゥッ!!
照炎を大きくする事も全く問題なくクリアした。
「じゃあ、炎はそのままにして。ゆっくりでいいから、炎の周りの酸素と水と窒素を回転させていこう」
「うむ・・・」
エレアが返事を返すと、炎の燃え方が変わり始めた。炎は右へ左へと揺れて、次第に炎の真ん中あたりが徐々に上へ伸び始めていた。
「そうそう、その調子。もうちょっと早くしてみようか」
俺が次の指示を出すと集中しているせいか、返事を返さずに無言で首を縦に振った。
次第に周りの空気が集まって行き既に炎は高さ10m幅5m程になっていた。
大分、風の渦も大きくなって来たので、恐らくはちょっとやそっとじゃ、もう消せないレベルになって来ていた。
「いい感じ。いい感じ。じゃあ、もっと加速して、俺が見せた旋風が炎を纏っているイメージしてみて」
「もっと、早く・・・もっと、早く」
エレアが呟きながら目をギュッと瞑ると、炎の渦は急激に大きくなり、高さ100m以上、幅が20m程まで成長した。
今回は炎の熱で空気が上昇する為、俺がしたように風でわざわざ上昇気流を出さなくても竜巻は問題なく発生した。
「さて、エレア。もういいよ。目を開けてごらん」
「ん・・・え!?」
エレアが目を開けてみると、さっきまで凍りついていた大地は、凄まじい唸り声を上げて燃え上がる炎の竜巻によって焼け野原になっていた。
「あ、ああ主!」
「よくやった、エレア。成功だ」
「あぁ、ありがとう・・・じゃなくて!これ、どうすればいいんだ!?」
俺が成功した事を褒めるが、エレアは自分が出してしまった魔法をどう制御すればいいのかわからず、戸惑っていた。
「え?普通に消せばいいだろ?」
「そうは言っても!既に魔力は使っていないのに大きくなっている!」
エレアの言う通り。周囲はさっきまで極寒の大地だったところに炎の竜巻が出現したせいで、竜巻は勝手に大きくなり始めていた。
「そんなに慌てなくてもいいよ・・・」
「で、でも!主!」
「仕方ないな・・・」
エレアが若干涙目になって来たので、俺は手を竜巻に向けて呟く様に魔法名のみの無詠唱で消す事にした。
「Fragor(爆発)」
ヒュッ・・・ドーーーン!!!
「ヒャ!」
焔旋風の中心に爆発を発生させたので、一瞬竜巻の中心辺りが圧縮され、直後に凄まじい爆音と共に竜巻は霧散した。
「こういう時は風の流れを阻害すれば消える。これは相手が撃って来た魔法を相殺する時にも使えるから、慌てずに対処すれば大丈夫だ」
「わ、わかった」
「じゃあ、次の項目ね」
「ま、まだ何かやるのか!?」
「え?うん」
次の魔法を教えようとしたら、エレアが驚いた後、その場に座り込んでしまった。
「ちょ、ちょっと休ませてくれ・・・」
改めてエレアを見てみると汗でびっしょりになっていた。
「・・・そうだな。すまん、すこし休もうか」
こういう時、自分は魔力量が多い為に、教えている相手の魔力が消耗している事に気付けずに居たので、もう少し相手を見ながら特訓をしようと、自分の中で少し反省していた。
それから少しエレアとケイトを休憩させる為に先ほど作った日陰に連れて行き、飲み物が入った水筒(水に塩と砂糖を一摘みずつ入れた物)を渡して、その間にギコたちの格闘組みを見に行った。
遠目からだが、シンティラは大分ギコとの組手が出来る様になっていた。あれなら、ゴブリン位なら何とか相手に出来そうだ。
もう一方のコロハはと言うと、アイリと木刀で稽古していた。
「あいつ、あんなに動けたんだな・・・」
普段はそんな感じがしないが、下Ⅱのアイリに退けは取っていなかった。
ただし、アイリもそうだがコロハも大分無駄な動きが多いせいで、二人とも伸び悩んでいる様ではあった。
「今度、二人に剣でも教えようかな・・・」
そんな独り言を残して、俺はエレアとケイトの休憩している日陰に向かった。
今度の授業は酸素を増やして火を高温にする授業だから、恐らくはそんなにキツく無いだろうと思いながら、エレアの授業を再開する事にした。