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79・前の誓い

「こんにちは~」

「は~い!ちょっと待って下さい!」

ガタン!ゴトン!


ラークの店の正面から声を掛けながら入ると店頭には誰も居らず、奥からラークの声がした。


「お待たせし・・・ミツル殿!もう戻られてよろしいんですか!?」

「その節はどうもすみませんでした。もう大丈夫です」

「そうでしたか。まぁ、ミツル殿や皆さんが無事なら何よりです」

「ありがとうございます。その件についても報告させて頂きたいのですが、それと紹介したい者が居まして」

「は?」

「訳有って俺の奴隷になる事になった者です。コロハ」

「はい!コロハと申します」


コロハを呼ぶと俺の横に来てラークにお辞儀して挨拶をした。


「こちらはラークさん。俺が色々お世話になっている、ここの店の店主だ。ラークさん。コロハは俺の命の恩人で、色々あって俺の奴隷になる事になった薬師です」

「そうでしたか。コロハ殿、私はラークと言います。ミツル殿はそうは言いますが、お世話になっているのは私の方です。どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」


お互いに挨拶を済ませた後、俺がバールの街を出てからの期間を、ラークの奴隷であるミーナが入れてくれたお茶を飲みながら大まかに説明した。


「そうですか。では、その恩人の方は無事に見送る事が出来たのですね」

「はい。おかげさまで間に合いました」

「コロハ殿も、最期までお疲れ様でした。御辛かったでしょう」

「いえ・・・」

「まぁ先ほどもお話した通り、魔法によって特殊な方法で送り出したので、期間は開きますが、また会う事は出来ます」

「それは、何よりです」

「まぁこちらはこんな感じです。あと今後の予定ですが、先ほども話した通り今日、街に着いたばかりなので、止まっていた薬の授業は明後日からしようと思ってます」

「そうですね、少し休まれた方がいいでしょう。こちらとしては、それで問題はありません」

「とりあえず明後日とその次の日は期間が開いた事と、コロハが新たに加わったので朝の少し早い時間から昼まで身体の基礎知識を復習したいと思ってます。コロハにも以前、世話になっていた時に教えているので多分問題なく一緒に授業を受けられるでしょう」

「そうですか、わかりました。確かに期間は開きましたが、ミーナもその方が安心でしょう。実はミツル殿がバールの街を出られた後も『ミツル様が戻られた際に、すぐにでも続きを教えて頂けるように』って夜遅い時間まで何回も教えて下さった事を読み直していたんですよ」

「ラ、ラーク様!」


ミーナは俺の授業が止まってしまった後も熱心に復習していた様で、その事をラークが俺に漏らすといつも静かなミーナが少し慌てていた。


「そうでしたか。じゃあ俺もミーナの為にも、気合を入れないといけませんね」

「ミツル様まで・・・」

「ミーナさん。改めまして、私はコロハと言います。これからよろしくお願いします」

「あ!ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません!ミーナです。よろしくお願いします」


まだ慌てているのか、いつものミーナとは違って若干頬を赤くして慌ててコロハと挨拶を交わした。

もしかしたら、薬師で在りながらも同じ奴隷であるコロハに対して緊張でもしているのだろう。その内にミーナも似たような者になるのだから、慣れて行くのを待つしかないだろう。


「ミツル殿。今日、この後は何かご予定は?」

「いえ、特にありませんが?」

「よろしければ、夕食でもご一緒にどうですか?」

「あ!そう言えばご主人!僕たち、朝にご飯を食べてから何も食べてないです!」


そう言われてみれば、今日の朝から何も食べて居ない事に気付いた。

気付かない俺もわるかったが、みんなも一言位言ってくれてもよかったと思ってみんなに目を向けると、みんなもそう言えばと言う顔で笑みを浮かべていた。

しかも言われて気づくと、強烈な空腹感が襲って来た。


「そうですね。お言葉に甘えさせて頂いてもいいですか?」

「もちろんです。今のお話から言うと、こちらでご用意するより店に行った方が良さそうですね」

「すみません」

「いえいえ、大丈夫です。この2軒隣りの店にある個室であれば、ミーナ達も一緒に入れますし」

「じゃあ、そこに行きましょう」

「わかりました。ミーナ。私とミツル殿とみなさんで先に店に行って居るから、ジーニとアーベで店を閉めたらおいで」

「わかりました」

「じゃあ、早速行きましょう」

「ミーナさん。よろしければ、お手伝い致します」

「コロハ様!そんな、お気になさらないで下さい!これは私たちの仕事ですので!」

「ミツルさん。私は手伝ってから向かってもいいですか?」


コロハがミーナ達を手伝うと言い始めた。まあ、村では殆んど奴隷とは関わらなかったので、普通の人として接しているのであろう。

今の状態であれば、コロハも奴隷なのだから恐らく問題は無いのだろうが、一応聞いてみた方がいいだろう。


「ラークさんが良ければ、別にいいが・・・」

「そんな!薬師様であるコロハ殿にそのような事!」

「それならば、私は既にミツルさんの奴隷ですので、薬師は関係ないのでは?」

「それは・・・その、そうですが」

「ラークさんに不都合で無ければ、手伝わせてやって下さい。コロハとしてはそうしたいみたいですから」

「わかりました・・・じゃあ、お願いしましょうか。そうなると、私たちだけで行く訳にもいかなくなりましたね」

「みんなでやれば早いですよ」

「ご、ご主人様!私もお手伝いします!」

「あぁ、ありがとう」

(あるじ)が動くのであればわたしがやる」

「じゃあ、みんなでさっさとやっちゃいましょう」


通常はミーナ達で片付ける所を俺たちも加わった為、閉店作業は瞬殺で終わった。

そして、みんなで店に移動して飯を食べ終わって宿に帰る頃には、寝るのに丁度いい時間になって居た。




「なんだか、久しぶりに一人になった気がするな・・・」


俺は一人ベッドの上に横になって、ふと呟いていた。

自分だけの部屋。ここはこの街に来て最初に借りた部屋でもあり、シンティラが最初に来た部屋でもあった。

鵺は女性部屋でコロハと話すと言って向こうの部屋に居るし、フェンリルは疲れて寝てしまったシンティラがフェンリルにしがみ付いていたので、離れる事は出来ないようだった。

したがって、今は俺以外誰も居ない部屋で一人で寝っころがっていた。


「いきなり静かになると、寂しいモンだな・・・。ちょっと、寝る前にグリモアールでも読もうかな・・・」

コンコン!

「ん?」


机に向かってグリモアールを開いたところで、ノックが聞こえて来た。


(あるじ)。話があるのだが、ちょっといいか?」

「あぁ、エレアか。今開ける」

ガチャ。


扉を開けると、そこにはエレアが立って居た。


「夜にすまない」

「いや。それより、どうしたんだ?エレア」

「実は話したい事があってな」

「そうか。とりあえず、立ち話もアレだから座って話をしよう」

「すまない」


薄暗い廊下ではわからなかったが、部屋に入ってベッドに腰を掛けたエレアの顔は、明かりに照らされて緊張しているのか頬が赤くなっているのがわかった。

そして、いつも降ろしている明るいブロンドの髪を後ろでまとめているせいか、イチとそっくりだった事もあり、見詰めてしまっていた。


「あ、(あるじ)。そう、見詰めないでくれ」

「あぁ、すまない。それで、どうしたんだ?」

「あ、(あるじ)。わたしが寝食を(あるじ)と共にし始めた頃を覚えているだろうか」

「最初?」

「あぁ、わたしが(あるじ)に生涯を捧げてから、もう20日になろうとしている」

「あぁ、もうそんなになるのか」

(あるじ)が、わたしに言った事。あれはまだ、覚えているか?」

「エレアに言った事?言った事・・・ん~」


正直、ここ半月は色々な事があり過ぎてあまり覚えていなかった。それにここ半月だけじゃなく、ロクの頃の記憶も戻って来ていた事もそれに拍車を掛けていた。

しかし、エレアの頬を染めて真剣な表情を見る限り、何となく察しがついた。そして、精一杯自分の記憶を辿って、やっと思い出す事に成功した。


「たしか・・・『しばらくして、落ち着いた時に気持ちが変わらなければ、その時に返答しよう』だったか?」

「あぁ。覚えていてくれたんだな・・・。(あるじ)。その上で、改めて(あるじ)にお願いしたい」


そう言うとエレアが隣に座っている俺に体を向けて、頭を下げて来た。


(あるじ)。わたしは決闘に敗れた時に生涯を(あるじ)に誓った。そして今は命だけでは無く、心も体も(あるじ)に捧げたいと心から願っている」

「あれから、気持ちに変化は無かったのか?」

「いや、変化はした。共に行動して益々、(あるじ)にすべてを捧げたいと思った。(あるじ)。今一度、誓わせてくれないだろうか?」


そう言ってエレアはベッドから降りると、床に片膝を付く体勢で頭を下げて来た。


「わたし、エレア・ノーランはミツルへ、この心身を捧げる従属となる事を誓う」


誓いを言い終わったエレアはそのまま頭を下げたまま返答を待っていた。俺はそっと近づき、エレアの頬に手を当てて上を向かせて優しく口付けをした。


「許す」


一度唇を離して誓いへの返答をすると、今度はエレアの方から抱き着いて唇を強く押し当てて来た。


(あるじ)。わたしの全てを奪ってくれ・・・」


俺はエレアを優しくベッドに倒して、やさしく、そして遠慮なく全てを貰い受けた。





ポス、ポス、ポス・・・

「ん?」


体の上に感じるやわらかい感触と奇妙な音に目が覚めると、すでに窓の外は明るくなっていた。そして、仰向けになった俺の上にはエレアが幸せそうな顔をして寝ていた。

その後ろでは、奇妙な音の原因であるエレアの尻尾が右へ左へとベッドへ倒れて音を出していた。


「はぁ~・・・(また、やってしまった)」


状況を把握すると、思わずタメ息が出てしまった。

どうやら俺の愛情表現は大分過剰なようで、昨日の夜の事を思うとやり過ぎた感を感じていた。

今の俺とエレアはシーツも掛けていない、一糸纏わない状態で体を重ねていた。そして、シンティラやコロハの時と同じく、部屋中にはニオイが充満していて、ベッドの上も中々に酷い状態だった。


「ん・・・」

「お?起きたか?エレア」

「うん、(あるじ)・・・おはよう」

「あぁ、おはよう」

「ん、ん・・・」


起きたエレアに挨拶をした後、おはようのキスにしては情熱的な口付けを交わした。


「エレア。ちょっと色々酷い事になっているから、一回退いてくれるか?」

「ん~・・・ダ~メッ」


いい加減、起き上ろうとするがエレアが上に乗っかったままでは起き上る事が出来ないのでエレアに退くように言ったが、エレアは俺の胸元に顔を擦り付けた状態で拒否して来た。

一瞬言葉使いから誰だか疑いたくなるが、俺の上に居るのは間違いなくエレアだ。

昨日の夜にわかった事なのだが、いつもは男みたいな言葉使いをしているエレアだが、こういう状況になると性格も口調も変わってしまう様だった。


「いや、ダメじゃなくてさ・・・」

「えぇ~。もうちょっと♪・・・えい!」

「うわ!」


エレアが体を少し浮かせて俺の上に再度体重を乗っけて来た。


「えへへ」

「『えへへ』じゃないよ。まったく・・・」

「あっ!」


俺も満更ではないので、もう一度エレアが寝るまで可愛がる事にした。


エレアが再度寝入った時に思ったのだが、絶対に周りに色々聞こえ居るだろう。まあ、シンティラの時も恐らくはそうだっただろうが、冷静になってから考えると何とも恥ずかしさが襲って来た。

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