7・相棒
「今日はここで最後です。」
コロハが武器屋の前で立ち止まった。
「包丁でも預けているのか?」
「いえ、私のでは無くてミツルさんの武器を買うようにお婆ちゃんが言っていました。」
「へーそうな・・・は?お、俺の?」
「はい。お婆ちゃんが男の子は武器も使えるようにって」
確かに、魔法は強力だが至近距離に入られると攻撃が難しい。
それを考えれば尤もなのだが・・・
「だけど、いいのか?俺は居候の身なんだが・・・」
「この近くはそこまで危険な魔物は居ませんが、ゴブリンやグールが出ます。やはり武器は必要だと私も思います。」
「そうか、ところでコロハの武器って何?」
「私はこれです。」
荷物を持っていたので背中を見せてくると、腰に二本の短剣が装着されていた。
この細い腕で本当に振れるのか疑わしいが見た所、柄の握りに跡が付いていた。使い慣れては居るのだろう。
「そういえば、ミツルさんって武器は何が得意なんですか?」
「前に居た所では特に無かったな、強いて言えば剣道をやっていたから刀かな?」
その会話を聞いて居たのか、ガタイのいい男が声をかけてきた。
「カタナですかい?すみませんが、カタナというのがどういった物かわかりませんので、ウチには無いかもしれないが、好きなモノ見て行って下せー。」
「あ、ガーブさん。ありがとうございます。」
「ところで話は聞いて居たが、コロハちゃん。予算はいくら位なんだい?」
「銀貨10枚程度とお婆ちゃんに言われてます」
銀貨10枚、つまり5千パルという事は2万5千円相当だ。
「5千パルか・・・それだったらここの一角に置いてあるのがそうだ」
そういって指されたのは、汚い剣や槍が無造作に挿された箱だった。
その中に1本だけ見覚えのあるシルエットが見えた。
「どうしたんですか?ミツルさん」
その姿をジッと見つめゆっくりとそれを箱から抜いた。
間違いない。刀だ。
手に取ると何故かしっくりと、何年も使っていた武器のように手になじむ。
「これにしようと思う」
「それはやめとけ!」
刀を手にすると、ガーブが慌てだした。
「ガーブさん、どうしたんですか?」
「コロハちゃんの知り合いだから言うが、その剣は片方しか刃が無くて、しかも重さも無いから使いづらい。薪すら切れない物だ!そんな物をコロハちゃんの知り合いに売ったとわかった日にゃ、ゲンチアナ様に殺されちまう!」
中世ヨーロッパの頃の剣は引き切りという手法は無く、重さと腕力で戦っていたと聞いた事がある。そうであれば、普通の剣と同じ使い方では刀は使えないだろう。
「すみません、試し切りとかさせて貰えませんか?」
「そ、そりゃかまわねぇが・・・そんな物、試し切りの丸太だって切れないと思うぜ。」
許可が出た所で店の横にある丸太を正面に、刀を鞘に入れたまま腰の位置で止める。
やろうとしているのは、抜刀術だ。
刃の状態はわからないが、居合は何度か経験があるから出来るだろうと思っていた。
その構えはこの世界に無いのだろう。コロハとガーブが不思議そうに注目してくる。
「フッ!」
強く息を吐いて抜刀したその瞬間・・・
・・・どこかの映像が流れた。
自分が人を切っていく場面。
服装は明らかに元の世界。
しかし元の世界で人を殺めた事など俺は一度もない。
一瞬の映像が消えると、丸太は真っ二つに分かれていた。
「す、すげー」
「ミ、ミツルさん!今のどうやったんですか!?」
自分でもここまで手慣れた動作は経験したことがなかった。
体が勝手に動いたと言ってもいいかもしれない。
動いた体にも驚いたが、一瞬見えた映像が気になった。
異様に生々しい映像だったが、なぜか気分が悪くなるような事はなかった。
持っている刀を見ながら考えていると、コロハが心配そうに覗き込んできた。
「ミツルさん?」
「あ、あぁ・・・なんでもない。おっさん。これが刀だ。」
「これが、刀か・・・使い方でここまで違うのか。」
「ああ、簡単には使えない物だからな・・・これ貰っていいか?」
動揺しているガーブに言うと了承してくれた。今日からこいつが相棒だ。
「キュイー」
(ん?今、鞘に刀を納めた時に鳥の鳴き声のような音が聞こえたが・・・気のせいか)
前話の「エド村」が短かったため、2話同時更新しました。次回は4・5日後になると思います。