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78・ギコと手合せ

カン!カン!カン!カッカン!

建物の裏の扉を開けると、木剣のぶつかり合う音が聞こえて来た。


「おぉ、大分回復しているみたいだな」


ギコと猫耳の女性・アイリに目を向けると、果敢にギコへ攻撃を仕掛けるアイリの姿が見えた。対するギコは攻撃を受け流したり弾いたりするだけで、ギコからは攻撃はしていないようだった。


「ん?ミ、ミツル!帰って来てたのか!?」


しばらく二人の様子を見ていると、ギコがこちらに気付いて大声で声を掛けて来た。

それを合図に二人とも木剣を止め、こちらに歩いて来た。


「えぇ、今日戻って来たところです。その節はすみませんでした」

「いいって、恩人の危篤だったんだろ?」

「えぇ、なんとか見送る事が出来ました」

「そうだったか、よかったな・・・。そう言えば、まだお互いに挨拶はしていなかったな」


話を変える様にギコが振り返ってアイリに目を向けた。


「アイリ、こいつがお前を助けたミツルだ」

「あ!あなた様がミツル様ですか!ご挨拶が遅れて申し訳ありません!私はアイリと言います!私の命を救って頂いたという事をギコさんから聞きました!本当にありがとうございます!」


ギコが俺を紹介するとアイリは、土下座の様な格好になって礼を言って来た。


「ア、アイリさん!頭を上げて下さい!」

「いえ!わたしにとっては地獄から救って頂き、更にこの命まで助けて頂いたお方です!」

「いや。その、なんていうか・・・ギコさん」


余りの迫力にギコへ助けを求めると、ギコも困った顔をしてため息を吐いて来た。


「アイリ。ミツルは俺と一緒で他の奴等から仰々しくされるのが嫌いな奴なんだ。普通に立ってやんな」

「わ、わかりました」

「ありがとうございます。じゃあ、こちらも紹介しますね」


そう言ってみんなに視線を送ると、それぞれに自己紹介を始めた。


「鵺です!」

「シ、シンティラです。よろしくお願いします」

「エレア・ノーランだ」

「俺はフェンリルと言う」

「コロハです。よろしくお願いします」

「「え?」」


立て続けに自己紹介が終わると、ギコとアイリが揃って疑問の声を口にした。


「と、鳥と魔獣が喋った!?それにあなた、エレア・ノーランって!」

「ミツル!お前、また増えたのか!?」


アイリとギコの疑問は持って然るべき内容だった。


「あ~・・・え~っと、一つずつ答えていいですか?まずギコさんの質問ですが、訳有ってそうなりました。アイリさんの疑問ですが、鵺は魔法具で喋れます。フェンリルは召喚契約したら喋れるようになりました。あと、エレアは多分アイリさんが思い浮かんだ人物で間違いありません」


俺が説明すると、ギコはため息を吐いて困った笑みを浮かべていたが、アイリは目を丸くして口を開けていた。


「じゃ、じゃあ。あなたが『暴隊(ぼうたい)のエレア』のエレア・ノーランさん?」

「あぁ、今は(あるじ)の奴隷になったがな」

「え!奴隷!?」

「そうだ。わたしも含めて、全員主(あるじ)であるミツルの奴隷だ」

「全員!?」


エレアの説明にさらにアイリが驚いて、俺を見て来た。


「アイリ。一応行って置くが、ミツルが自分の意思で買った奴隷はシンティラだけだ。さっき、銀髪の女の子も訳有りって言って居たからな。何か事情があってミツルの奴隷になる事になったんだろう」


驚いているアイリにギコが補足を入れると、驚いた顔が少し安心した表情に変わった。


「さて。え~っとコロハ・・・だったか?」

「はい」

「俺はギコって言うんだ。よろしくな」

「よろしくお願いします」

「ところで、ミツル。今、時間あるか?」

「この後、ラーク商店へ行く予定はありますが、そこまで急ぎでは無いです」

「じゃあ、一戦だけ付き合ってくれるか?」


突然、ギコから手合せの申し出をして来た。

少し考えたが、ロクの時の感覚を取り戻すのにも丁度いいと思い、その申し出を受ける事にした。


「いいですよ」

「よっしゃ!武器は木剣。魔法はありでやろうぜ!」

「あぁ、俺の武器は無しでいいですよ」

「はぁ!?おいおい・・・そんな余裕かまして大丈夫か?」


俺が素手で相手をすると言うと、ギコが鼻で笑いながら忠告して来た。


「大丈夫ですよ。それよりさっさとやりましょう」

「舐めてくれるぜ!こっちだって、特訓して強くなったんだ!余裕をかました事を後悔させてやる!」


俺とギコは20m程距離を空けて向かい合った。


「アイリ!合図を頼む!」

「は、はい!試合。始め!」

ザッ!

Ignis(イグニス) properate(プロペラテ) in(イン) manu(マヌ) mea(メア),(炎の精霊よ、我が手に集い来たれ)」


アイリが合図を出すとギコが詠唱をしながら、猛スピードで特攻して来た。

対する俺は特にギコに向かって走る事も無く、ギコが来るのを待ち受けていた。


Alba(アルバ) penetrare(ペネトラレ) hostem(ホステム)Flamma(フランマ) Arrow(アロウ)!(敵を貫け!炎射矢!)」

「ふ!甘いです!」


ギコが6本の火の矢を撃って来たところで、俺は体勢を低くして真っ直ぐ飛んで来る矢に特攻した。


「なっ!チッ!」


恐らく、ギコは火の矢で牽制(けんせい)して隙を衝こうと思ったのだろう。

しかし、俺がその矢を掻い潜って突っ込んで来たので、一瞬驚いた後、苦い顔をしてすぐさま距離を置く為に後ろに飛んだ。


Turbulenta(トゥーブレンタ) Ignis(イグニス). Iter(イテ) omne(ロマネ) ab(アブ) exciusionem(エクスクルシオネム) factam(ファクタム)!(荒ぶる炎の精霊よ。暴れ、全てを吹き飛ばせ!)」

「チッ!ギコさん、本気だな?」

Fragor(フラゴル)!(爆発!)」

ズッドーーン


ギコがバックステップを踏みながら、明らかに当てに来ている『爆発(フラゴル)』を撃って来た。

俺も瞬時に後ろに跳んでそれを回避した瞬間、俺が進もうとしていた進路の空間が爆発した。


ザザッ!

「もらったー!」


俺がバックステップで爆煙から出て急制動を掛けると、煙の中からギコが斬り掛かって来た。


「フッ」


俺は笑みを零すと、仰け反ってギコが放って来た横一線を回避し、そのままバク転して足でギコの持っていた剣の柄頭を蹴り飛ばした。


「なっ!?」

パシ! ビッ!

「勝負ありです」


バク転する時に蹴り飛ばした剣を掴み、俺がギコの首元に当てて試合終了を宣言した。

対するギコは何が起こったのかと、少し放心状態になっていた。


「・・・あ、あぁ。負けだ」

「フー・・・」


ギコが負けを認めた所で剣を下すのと同時に息を吐いて緊張を解いた。


「まさか、あのタイミングで避けるとは思わなかったぜ」

「こっちこそ、本気で『爆発(フラゴル)』を撃って来た時は驚きましたよ」


俺と一緒に緊張が解けたギコが、困った様に笑いながらさっきの戦いの感想を言って来た。


「って言うか、ミツル!お前!魔法も使わなかっただろ!」

「あ、わかりました?」

「てめぇー!絶対その内に吠え面掻かせてやるからな!」

「ハハハッ!」

「ギコさん!ミツル様!」


俺とギコが話していると、アイリが俺たちの名前を呼びながら走って来た。

そちらに目を向けると、その後ろからみんなも小走りでこちらに向かって来ていた。


「ギコさん!ミツル様!共にお怪我はありませんか!?」

「大丈夫だ、アイリ。俺もミツルも怪我はしてないぜ。だが、丸腰の奴に無傷で勝たれたのには、俺のプライドが傷付いたがな・・・」


ギコがこちらを横目で睨みながら、言って来た言葉に俺は誤魔化すように笑う事しか出来なかった。


「ご主人ご主人!また一段と強くなりましたね!あ!それとも、もう力を取り戻せたんですか!?」


みんなより一足先に飛んで来た鵺が肩に止まって、興奮状態で質問して来た。


「いや、まだまだだな」

「力?ミツル、どういう事だ?」


鵺と俺の会話にギコが反応して来た。

まあ正直に話したところで信じられないかもしれないが、そのくらいはギコたちなら話しても大丈夫だろうと思っていた。


「ミツルさん!すごいですね!どうやったらそんなに動けるんですか!?」

「流石、(あるじ)だ」

「ご、ご主人様!凄すぎます!」


丁度残りのメンバーも来た事なので、丁度いい機会だろう。


「実は、俺がここまで動けるのには理由があるんだ」

「理由、ですか?」

「ミツル、なんだ?さっきから、どういう事だ?」

「実は、特殊魔法を習得した時に前世の記憶が、少しだけ甦ったんですよ」

「「はぁ!?」」「「「えぇ!?」」」

「クックックック・・・やはり(ぬし)は面白いな」


みんなが一斉に驚きの声を口にする中、フェンリルだけが面白そうに笑っていた。


「ミ、ミツル。それが本当だとして、それがどうして動ける様になった原因になるんだよ」

「それが、前世では特殊訓練を小さい頃から叩き込まれていて、格闘から武器の使い方まで一通り使える様にされていたんです。それも一流の戦闘員として」

「それで、(あるじ)はそんなに動ける様になったと言うのか?」

「そのあとはみんなが知っている様に、走ったり体を動かしたりして感覚とか、筋力を戻した結果だな」

「そう言えば、ミツルさん。家の庭でトレーニングをされてましたね」

「まあ、まだまだ完全に戻った訳じゃないけどね」

「はぁ!?ミ、ミツル!完全に戻ったら、今よりもっと強いって事か!?」

「え?まぁ、1.5倍位は動けますね」


ギコの疑問にちょっと控えめに答えたが、全員が目を丸くして驚いていた。


「ご、ご主人様・・・やっぱり凄過ぎます」

「あぁ・・・。わたしはどんなに魔法が強くなっても、(あるじ)には勝てる気がしない」

「俺もミツルに勝てる気がしなくなって来た・・・」

「ミツル様・・・強すぎます」


みんなが若干怯え気味に驚いているが、これで時間の操作が出来る様になったと言ったらもっと収拾がつかなくなるだろうと思いながら、俺は後頭部を掻いて気まずそうにしていた。


「そういや、そうなるとシンティラの訓練はミツルがするのか?」

「え?」

「ほら、お前らが出掛ける前まで俺がシンティラに教えていたあれだよ」

「あぁ」


ギコに言われるまでスッカリ忘れていたが、エドの村に行く前までシンティラはギコに格闘の基本を教わっていた。確かに俺が教えてもいいところだが・・・


「その件は、引き続きギコさんにお願い出来ればと思ってます」

「はぁ?また、どうして」

「ギコさんが途中まで教えて下さった格闘です。そこで横槍が入ってしまっては、基本が振れてしまいますから」

「なるほどな・・・まあ、俺も途中でやめるって言うのも収まりが悪いからな!こっちからもよろしく頼む!」

「お願いします」

「ギ、ギコさん!また、お願いします!」

「あぁ、よろしくな!」


俺がギコに頭を下げると、シンティラも一緒に頭を下げて来た。


「っで?いつから始めるんだ?」

「そうですね・・・明後日からはどうですか?」

「いいぜ。じゃあ前と同じ位に東の平原でいいんだな?」

「お願いします」

「わかった、じゃあ明後日な」

「はい。じゃあすみませんが、俺たちはまだ用事があるので今日はこれで」

「おう!じゃあな!」


俺たちは明後日からの特訓の約束をしてギコたちと別れ、ラーク商会へと向かった。

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