表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/103

75・時の力

エレアたちと久しぶりの会話を楽しんだあと、俺は森の中に居た。

何をしているのかと言うと、只々森の中を駆け抜けてるだけだが、起きたばかりの体にはそれなりに負担が掛かる行動だった。


「ふ~・・・やっぱり体が(なま)ってるな・・・」


4日も寝た状態になっていたのだから当たり前なのだろうが、それ以上に体に違和感を感じていた。

イツたちと駆け抜けた戦場。あれは夢では無く、恐らくは俺の前世の記憶だった。

全部は思い出せないが、確かにイツたちと共に戦場を駆け抜けていた。脱出出来たのは俺とイチだけだったが、イツの最期を看取(みと)った感触や抱きしめた時の体温を今でも鮮明に覚えていた。

訓練所時代の記憶と以前見た自分(ロク)の最期だけだが、記憶を取り戻した俺は今の体の動かなさ加減に呆れて来ていた。

確かに加速魔法(アクセラート)を使えばロクの時みたいに動けるが、それでも生身の状態で動かない事にもどかしさを感じていた。


「ご主じ~ん!」


しばらく体の具合を見ながら大きな岩の上でストレッチをしていると、鵺が飛んで来た。


「ご主人早過ぎですよ!っていうか、なんで今朝まで寝たきりだったのに、そんなに動けるんですか!?」

「まあ、ちょっとな。女神様からの贈り物ってやつだよ」

「早く動けるのが贈り物なんですか?」

「いや、そう言う訳じゃないが・・・なんて言えばいいかな~」

ガサガサ!


なんて説明したらいいか、頭の後ろを掻きながら考えていると森の茂みが揺れた。


「ヴオオォォォ!」

「トロルですか・・・」

「あれがトロルか」


俺と鵺が目を向けた先には、棍棒を持った緑色の肌をした2.5mはありそうな太った大男がいた。


「鵺、太刀」

「はい。ご主人、気を付けて下さい。トロルの動きは遅いですけど、攻撃自体は早いです」

「わかった。ありがとう」


太刀に変身した鵺が、低い真面目な声で忠告して来た。

俺は鵺の(つば)に親指を掛け、抜刀の体制でトロルの様子を伺って様子を見計らっていた。


トロルが愚鈍な表情のままこちらにゆっくりと近づき、恐らく棍棒の間合いに入る手前で歩みを止め、棍棒をゆっくり持ち上げて掲げた。


「来ます」

ブオォ!


鵺がポツリと警戒の言葉を発すると、トロルは今までの動きが嘘かの様に風を切る音と共に豪速で棍棒を振り下ろして来た。

俺はその振り下ろされる棍棒をしっかりと見極め、紙一重で交わし、その腕を足場にトロルへ跳んで間合いを詰めた。


「死ね」

スパッ!


一気に間合いを詰めた俺は、高速抜刀でトロルの首を刎ね飛ばして、トロルの後ろに抜けた。

今までも扱いやすいとは思っていたが、やはり鵺はいい武器だと、トロルを斬った瞬間感じていた。

ドーン・・・いう音と共に力無くトロルが倒れた。


「うん・・・やっぱり、まだ動きがわるいな」


抜刀の動きに自己反省しながら、血振りをして鵺を鞘に納めた。


カチン!

「ご主人!すごいです!それも女神さんから貰った力なんですか!?」

「まあ、直接貰った訳じゃないけどな」

「ん?どういう事ですか?」

「じゃあ、まあ。軽く走りながら話してやるよ」


そう言ってまた、森の中を駆け抜けながら鵺へ大雑把に前世の記憶について話し始めた。

もちろん、島を脱出するあの日の事やイツとの関係は話さなかった。


「なるほど・・・それでご主人はそんなに僕を使うのが上手なんですね」

「まあ、それだけじゃないけどな。だけど、全然記憶の中にある動きが出来ていないから、これから鍛える必要があるけどな」

「きっとご主人なら、力を取り戻せます!そうしたら、どんな風に僕を使って頂けるんでしょうか。エヘヘヘ・・・今から楽しみです」

「あぁ、頑張らないとな」


鵺と会話をしながら森の中を2時間程駆け抜けてから、俺たちは家に戻った。



「ミツルさん!どこ行っていたんですか!?」


家に戻ると、コロハが大きな声を出して駆け寄って来た。


「ちょっと体を動かそうと思ってな」

「病み上がりなんですから、ジッとしてて下さい!」

「病み上がりって・・・別に病んでは居ないけど」

「4日も寝ていたら同じです!とにかく、今日明日は家に居て下さい!」

「いや、でも・・・」

「でもじゃありません!」

「・・・はい」


口答えしようとしたが、怒った母親の様な迫力を感じて黙るしか出来なかった。


「クククッ・・・まあ、今回はコロハの言う事を聞いて置く事だな。(ぬし)よ」


いつの間にかそばに居たフェンリルが笑って声を掛けて来た。


(ぬし)が森に行ったと聞いた時、コロハやエレアたちは相当心配をしていたんだ。これ以上心配を掛けたくないのなら、聞いてやった方がいいんじゃないか?」

「ふ~・・・仕方ないか」


フェンリルの言う通り、これ以上みんなに心配を掛けさせたい訳ではないので、明日のトレーニングは室内か庭でする事にした。




(あるじ)!目が覚めたばかりで森に行くなんて何を考えてる!行くなら少なくとも、わたしとかシンティラを一緒に連れて行ってくれ!」

「ご、ご主人様。あの・・・あんまり無理はしないで下さい」


部屋で着替えを済ませた後、居間に行くとエレアとシンティラにも無茶はしない様に言われてしまった。


「あぁ。わかったよ」

「エレアさん達の言う通りです!ミツルさんはまだジッとしているか、出掛ける時は誰かを連れて行って下さい!またどこかで倒れたらどうするんですか!?」

「わかったって、悪かったよ」


反省はしているが、少しだけ自分を心配してくれる者が居てくれる事に嬉しさを覚えていた。


「もう!」

「ん?何してるんだ?コロハ」


若干頬を膨らませながらも、コロハが棚の前にイスを持って行って置いた。


「え?あぁ、棚の上から調合の道具を取ろうと思って」

「俺が取ろうか?」

「大丈夫です」


そう言ってコロハは椅子を踏み台にして立ったが、こういう時のコロハは絶対にお約束をしそうで目が離せなかった。


「よっ!と、キャ!」

「やっぱり!」


棚の上から大きな箱を取ろうとしていたコロハはバランスを崩して、後ろから倒れ始めた。

俺は椅子を立って駆け寄ろうとするが、どう考えても間に合わない距離に居た。


(くそ!間に合わないか!)


そう思った次の瞬間。視界がモノトーンに変わった。

最初は気付かず、コロハに駆け寄ったところで異変に気付いた。


倒れて来るコロハの動きが異様に遅い。

遅いのはコロハだけではなく、落ちてくる箱も空中でゆっくりと降下していた。


(一体どうなっているんだ?)


疑問に思いながらも、ゆっくり倒れてくるコロハを両腕で受け止め、そこから少し離れた。

未だに落ちてくる箱はゆっくりと降下している。


(っで、この状況はどうすれば戻るんだ?)


未だにゆっくりと降下している箱を眺めていた。

冷静になって周りを見ても、立ち上がろうとするエレアや、体を縮込ませて目を瞑ろうとするシンティラの動きまでゆっくりになっていた。


(こういう場合。戻れって念じると・・・)

ガン!

「キャ!」


俺が『戻れ』と念じた瞬間、周りは普通に動き出した。


「あ、あれ?」

「え?」


腕の中に居たコロハが未だに来ない衝撃に瞑っていた目を開いた。

それと同時に瞬間移動でもしたかの様に、俺とコロハが離れた所に移動したのをエレアが驚きの表情でこちらを見ていた。


「あれ?ミ、ミツルさん!すみません!」

「あ、(あるじ)・・・今、何をしたんだ?」

「なるほど・・・これが『(とき)の力』か・・・」


コロハは倒れた自分を普通に俺が受け止めたと思って謝って来た。

しかし、その様子を傍から見ていたエレアは戸惑いの表情を浮かべていた。


「コロハ、あまり無茶をするなよ」

「あ、ありがとうございます!」


そう言って俺は腕から降ろして頭を一撫でした後、裏庭へ向かった。



(あるじ)!さっき、何をしたんだ!?」


裏庭へ出て来た俺の後を追ってエレアが声を掛けて来た。


「どうやら、時の神殿の女神に貰った力みたいだ」

「わたしには目にも止まらないスピードで動いた様に感じたが、早く動けるのが女神に貰った力なのか?」

「いや、ちょっと違うかな」


そう言って俺はさっきの感覚を思い出しながら、時間がゆっくりと流れる様に念じた。


「スローモーション・・・」


俺が小声でポツリとつぶやくと体が魔力で覆われる感覚と共に、先ほどの様に視界がモノトーンに変わった。

エレアは特に動いていた訳では無かったので、ほぼ止まって見える。


(この力、なかなか面白いな)


俺は小走りするようにエレアの背後に回って、そこで再度『戻れ』と念じた。


「あ、あれ!?(あるじ)!?」


突然俺が視界から姿を消したように見えたエレアは慌てて首を振って左右を見渡していた。


「エレア」

「ヒャ!あ、(あるじ)!?いつの間に!?」


後ろから首筋を突っついて声を掛けると、エレアは案の定驚きながら振り向いて来た。


「うん。これ、面白いな♪」


この力はまさにチートと呼べる能力だった。恐らく、万物の法則を無視した部類に入る恐ろしい力なのだろうが、今はこの能力が楽しくてしょうがなかった。


「色々試してみよう。エレア」

「な、なんだ?(あるじ)

「ちょっと、手を出して」

「ん?」


俺の要求に首を傾げながら、エレアが手を出してきたので、その手を握って手を繋いだ。


「ヒャ!あ、(あるじ)!なにを」

「ちょっと試したい事があって・・・ってそんな、別に変な事しないから」


エレアと手を繋ぐとエレアが体を一瞬強張らせたので顔を見てみると、顔から湯気が出そうなほど頬を真っ赤にしていた。


「どうしたの?エレア」

「い、いや!なんでもない!わたし、(あるじ)と手を・・・その・・・」


よく考えれば今までに2回程、抱擁と言う名のタックルは食らっていたが、改めてエレアにこうやって触れるのは初めてだったかもしてない。

なんだかんだで言葉遣いは少し男っぽいが、こうやってたまに見せる女の子らしさに俺は可愛らしさを感じながらもいじわるしたくなる衝動を擽られていた。


「エレア・・・緊張してるの?」

「べ、別に!緊張なんか!」

「エレアは可愛いな」

「な!あ、(あるじ)!なにを!」


繋いだ手を引いてエレアを抱き寄せると、エレアは耳まで赤くなっていた。

エレアで・・・エレアと遊んでいるのも楽しくはあるが、これ以上遊んでいると自分の理性が危ないので実験を進める事にした。


「さて、そろそろ実験を始めるか」

「じ、実験!?あ、(あるじ)!実験ってわたしで何を!?」

「こわくない、こわくない。大丈夫だから」

「この状況でそれは逆に安心出来ない!」


若干いじわる気味にエレアの頭を撫でながら、再度時間がゆっくりと流れる様に念じた。


「スローモーション・・・」


再度俺が小声でポツリとつぶやくと、体を魔力で覆われる感覚と共に先ほどの様に視界がモノトーンに変わった。

しかし、一つだけ先ほどとは違う所があった。


(あるじ)!?これは!?」


モノトーンの世界の中で、抱き寄せて手を繋いでいる俺とエレアだけが色彩を持っていた。


「なるほど・・・魔法を発動する時に他者と触れてると、その者にも効果が出るのか」

(あるじ)!色が!周りの色が!」


俺が実験の結果について考えていると、エレアが騒ぎ出した。


「エレア。大丈夫、落ち着けって。俺の魔法だよ」

「あ、(あるじ)の!?これはどうなっているんだ!?」

「まあ、実際に見た方が解り易いだろ」

「どういう事だ?」


そう言ってエレアの手を引きながら、俺は今の窓の外へ向かった。


「家の中を見てみな?」

「中?・・・な!?」


中を覗いたエレアが目を丸くして驚きの声を上げた。

窓から中を覗くとそこには、よく注意して見ないと止まってるとも見えるほどゆっくり動くコロハとシンティラ、フェンリルが居た。

鵺の姿を探すと丁度飛んでいたところなのか、居間の入口から飛んで出ようとした所でゆっくりになっていた。


「あ、(あるじ)!?これは!?」

「これが時の神殿に居た女神に貰った力『時の力』だ」


そう言いながらエレアの手を放して、俺は少しエレアから離れてみた。


「世界の動きが遅くなるなんて信じられない・・・あの神殿はこのままにしておいては危険なんじゃないか?」

「まあ、あの神殿に行けば誰でも女神を呼べる訳ではないが、他者には隠して置いた方がいいだろ」

「しかし、こんな力を(あるじ)が持ったとなれば、もう主に勝てる者は居ないだろうな」

「確かに、卑怯すぎる力だな」


すこし会話をして様子を見ていたが、俺から離れたエレアは、未だに魔法の効果を受け続けていた。


「じゃあ、そろそろ戻そうかな」


そう言いながら『戻れ』と念じると、視界の景色に色彩が戻って来た。

色彩が戻った瞬間、エレアの効果が残ってしまうのではないかと心配したが、そんな事は無く、一緒に効果は無くなっていた。


まだまだ試したい事は多いが、最高にチートな力を手に入れた俺は、魔法を覚え始めた頃のワクワク感を感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ