72・別離
更新出来ずに本当に申し訳ありませんでした!
言い訳を聞いて頂けるなら、インターネットが突如使えなくなり、更新できませんでした!
言い訳ですね。ハイ、スミマセン。
お詫びと言ってはなんですが、2話同時に更新します。
ハチがもう二度と目を覚まさないナナを抱きしめながら泣いて、最期の別れをしている間、俺たち他のメンバーは周囲を警戒していた。
ハチの希望で、この建物の部屋にあるベッドにナナを寝かせる事にした。
俺は涙を流しながらも辺りを警戒した。とっくの昔に涙は枯れて居るモノだと思ったが、今日だけで涙を流したのは2回目になった。
「待たせたな・・・」
しばらくすると、ハチが上の階にナナを寝かせて降りて来た。
「もう、いいのか?」
「ああ・・・先を急がないとな」
ハチに確認を取ると、俺の肩を軽く叩いて答えて来た。
その首にはハチ自身の訓練生プレートとナナのプレートが下げられていた。
俺たちは廃墟のエリアを抜けて、再び森の中へと入って行った。
再度木の上を移動して、目的の旧第8船舶庫を目指して進んだ。
そして、とうとう旧第8船舶庫の手前にある開けた場所まで辿り着いた。
しかし、俺たちは森から出る事が出来なかった。
「チッ!ここまで来て、これかよ・・・」
フタが舌打ちをして呟いた。
目線の先、遠くには旧第8船舶庫の建物とその手前にある地雷が無数に埋められている砂漠の様な砂場が広がっていた。
そして、そのさらに手前には敵兵の小隊が居た。
「数は15か。多いな・・・」
「一人3人排除すれば・・・問題ない」
「イツ。そうは言うが、一人3人はキツイぞ?」
「プラスチック爆弾をハンマー投げみたいにして投げるのはどうだ?」
「ハチ。真面目に考えろ」
「これでも真面目に言ったつもりなんだが・・・」
「Assumption(想定)・・・28」
色々考えているとイツが呟く様に提案して来た。
Assumption(想定)とは、俺たち4人で色々な状況を想定して、それぞれが決まった行動をする事で効率的に目的を達成する。
イツが提案して来たAssumption(想定)28は本来、市街地で使うフォーメーションだった。
「それはどういうモノなんだ?」
Assumption(想定)は俺たち4人しか把握していないので、イチが疑問を投げかけて来た。
「あぁ。Assumption28は、本来は市街地における対多人数用の作戦だ。二組に分かれて敵の集団を挟撃する方法だから、今回にも使えると思うぜ」
「イツとハチの言う通り、今回の対多人数で一番有効な手段だと思う」
「それで、それはどういった作戦なんだ?」
「まず、二組に分かれて敵を挟み込む位置に着く。その後、片方の組が手榴弾を爆破させて気を引く。その隙に後ろから敵を仕留める方法だ。これは爆破を起こす事で、敵が物陰に隠れて密集したところをがら空きの後ろから叩く方法でもある」
「ロクの言う通り・・・今回は相手が隠れる所は無いけど・・・注意を引いて不意を衝くなら・・・一番いい」
「そうだな・・・それで行こう」
イチの決定で話がまとまった。
いつも4人で行動していた通り、俺とイツが注意を引き付ける組になった。ハチはスナイパーライフルで攻撃し、少し脇にずれた所からいつもナナが担当していたアサルトライフルで攻撃する役はイチとフタが担当する事になった。
「じゃあ時計で合わせよう。今2時32分だから、2時50分丁度に作戦開始にしよう」
「わかった」
全員の腕時計の秒針を合わせ、ぞれぞれの攻撃ポイントに向かって走り出した。
俺とイツは2時43分には予定配置の木の上に到着していた。
俺たちが木の上に居るのは、遮蔽物がない状態では味方の流れ弾が当たる可能性があるからだった。
木の上に到着した俺らは、少し時間があるので弾の残り段数を確認したり、装備の確認を行っていた。
「ロク・・・」
「どうした?イツ」
「ここから出たら・・・どうするの?」
「うーん・・・考えてないな、家族も戻る場所も無いからな。イツはどうするつもりだ?」
「私も・・・考えてない」
「そうか」
「しばらく・・・ロクと一緒に居てもいい?」
イツの言葉で作業をしている手が止まってしまった。
「あ、あぁ・・・いいけど」
「ありがとう・・・」
お礼を言ったイツは少し嬉しそうに微笑んでいたのを見て、俺の心拍が反応して早くなったのがわかった。
縁起が悪いから黙っている事にしたが、俺はこの島から出たらイツに気持ちを伝えようと密かに決心した。
「もうすぐだな・・・」
「うん」
二人で時計を確認すると、作戦開始まであと1分30秒だった。
1秒1秒がやけに長く感じていた。そして、時間が来た。
「5・4・3・2・1・開始!」
ピンッ!
ドーーーン!
タタタタタタタタ!
ダダダダダダダ!
俺が投げた手榴弾が爆発したのを合図に、俺とイツは敵に向かってアサルトライフルをフルオートで発砲を開始した。
敵もそれに反応して、荷物などに隠れる様にして打ち返して来た。
そして、敵の向こう側から『ターン!・・・ターン!』と言うスナイパーライフルの音と共にアサルトライフルの連射音がこちらにも聞こえて来た。
予定通り、敵は突然の挟撃に混乱していた。そのチャンスを使って俺とイツも、グレネードランチャーを撃ったりして着実に敵の数を減らして行った。
しばらく、殆んど一方的な銃撃戦が行われて居たが、ついに敵からの銃撃が無くなった。
「まだ・・・居るかな・・・」
「居るだろうな・・・」
グレネードランチャーや多量の弾を撃ち込んだせいで、土煙で敵の様子がわからなかった。
「ん?」
しばらく様子を見ていると、土煙の中で何かが動いたのが見えた。
警戒して銃を構えると突然『バシューン!』という音と共に、敵からの攻撃が飛んで来た。
「ゲッ!ロケットランチャーかよ!」
ダダダダダダダダ!
ッドーーーーン!
すぐさま、飛んで来るロケットに向けて発砲して、途中で爆発させた。
遅れて遠くの方でも、爆発音が聞こえて来た。
「向こうも・・・撃たれたみたいね」
「あぁ、まあ大丈夫だろ・・・」
向こうには成績トップのイチが居るので、特に心配はしていなかった。
相手がロケットランチャーを持っているとわかったので、容赦無くグレネードランチャーを敵に向けて叩き込んで行った。
手持ちのグレネードランチャーの弾が無くなる頃には、敵が居た場所は跡形も無くなっていた。
いくつも打ち込んでいる時に、相手のロケットランチャーや手榴弾などの擲弾へ誘爆したのか、こちらが攻撃した以上に爆発していた。
「よし!若干やり過ぎた感は否めないが、生きてる奴は居ないだろ」
「そうね・・・」
俺たちは木を降りて、警戒しつつも敵の居た所へ向かった。
「俺たちでやっといて言うのも変だが・・・酷いな」
敵が居た所に行くと辺りの地面は抉れていて、色々な残骸だけが飛び散っていた。
そこで少し待っていたが、なぜか一向にイチたちがこちらに来る気配が無かった。
「イチたち・・・遅い」
「なにかあったのかな?」
俺とイツは不審に思い、イチたちが居た所へ行く事にした。
歩いている最中も出て来る気配が無く、俺もイツも嫌な予感が脳裏に浮かんだ。
次第に俺たちは早歩きになり、気付けば走り始めていた。
「イチ!どうした!」
俺たちが到着すると、イチが木の根元に座り込んでいた。
俺はイチが被弾したのかと思い両肩を掴むと、その顔は泣き顔でグシャグシャになっていた。
「おい!どうした!ハチ!フタ!」
俺が状況を把握しようと顔を上げて二人の名前を呼ぶと、ハチが涙を流しながら立って居た。
「フタが・・・死んだ」
ハチが呟く様に告げて来たのはフタの死だった。
状況をハチから聞くと、原因はこちらにも撃たれたロケットランチャーだった。
しかし、こちらに撃たれたロケットはただの弾頭では無く、RPG(対戦車ロケット)だった。RPGは対戦車用のロケットランチャーで、仕組みとしては戦車の装甲破って、戦車内部で爆発する様になっている。
最大の特徴は、爆薬と一緒に金属片が入っている為、爆発後の殺傷力が高い事だ。
イチがアサルトライフルで迎撃したが、爆発した破片がフタに被弾したそうだ。
フタは既に息を引き取っており、その顔は少し笑っている様にも見えた。
再度イチに目を向けると、フタとサンの訓練生プレートを握り締めながら震えて泣いていた。
俺たちはイチが落ち着くのを待ち、空が明るくなった頃、再び旧第8船舶庫へ足を向けた。
「ロク・・・。ここの地雷原は、来た事があるか?」
「ああ、イチは無いのか?」
「私は初めてなんだ・・・」
俺に聞いて来たイチは声に覇気が無く、まだモチベーションが下がったままだった。
だが今はここを通過して、早く島を脱出する必要があった。
「ここの地雷原の手前は対戦車地雷。奥にはPROMが埋まっているから、そこまで難しい地雷原じゃない」
対戦車地雷は基本的には人間の重量では爆発しない。ただしそれも、中心点を踏めばの話で、少しでもずれた所を踏むとテコの原理で負荷が掛かって起爆する。
しかし、ここの地雷原は粒子の細かい砂地で出来ている為、対戦車地雷の様な大きい地雷が埋まっている場合は雨などで、そこの部分だけ不自然に窪んで居たりする。
そして、奥の対人地雷のPROMは、地雷の頭から刺の様な棒が5本飛び出して地面から出ている。
どちらも、辺りが明るくなった今は注意して進めば問題なく通れる。
「じゃあこれから、よく注意して進もう」
俺が大雑把に特徴と注意点を確認しながら説明を終えて注意を促すと、それぞれに気を引き締めて頷いた。
俺を先頭にゆっくりと砂地に足を踏み入れ、数歩後ろからイチ・イツ・ハチの順で俺の足跡のみを踏む様に続いた。
地面を注意深く見定めて、1歩1歩進めていく。
そして100m程進むと、地面から黒いトゲが出ているエリアに到達した。
ここからは対人地雷のPROMがあるエリアになる。
PROMは頭から出ている刺の様なモノに物が触れると、爆弾が地中から高さ1.2mの空中へ飛び出して炸裂する。
俺たちが距離を開けて歩いているのは、この地雷が万が一作動しても他の奴を巻き込まない為だった。
集中しながらも歩みを進めて行った。
目的の旧第8船舶庫まであと少しなだけに、気持ちが焦ってくる。
そして・・・
「よっし!着いた!」
俺は地雷原を渡り切った。
「生きた心地がしなかったな」
問題なくイチも渡り切り、胸を撫で下ろしていた。
「さて、あと二人・・・!」
残りの二人を見た瞬間、凍りついてしまった。二人は足元に意識を集中させていて気付いてないが、後ろの森から敵の人影が出て来た。
このままでは二人とも撃たれる。
それを回避するには一つしか方法がない。
「イツ!ハチ!後ろから敵だ!構わず走れ!」
俺が叫ぶと、一瞬で状況を把握したのか、二人とも構わず走り出した。
PROMの特性上、作動してから爆発までにはわずかに時間がある。非常に危険だが爆発するそのわずかな間に走り抜ければ強行突破は可能である。
ただし、爆弾の破片が飛んで来るので無傷ではない。
二人が走り出すと、足元から次々と地雷が空中へと飛び出した。
それと同時に敵もこちらに向けて発砲をして来たようだった。
俺たちは走って旧第8船舶庫に飛び込んで、外の様子を覗いた。
敵はこちらに向かって走りながら発砲している様で、カンカンと建物に弾が当たる音が響いていた。
「イツ、ハチ。大丈夫か?」
「私は・・・ちょっと腕に掠った」
見るとイツの二の腕から血が滲んでいた。ただし、見る限りでは傷は浅いようだった。
「ハチ、お前はどうだ?・・・ハチ?」
壁にもたれたハチに声を掛けるが応答が無かった。
「おい。ハチ、大丈夫か?」
ぴちゃ
「え?」
ハチに近づき、ハチの体に触ろうと片手を地面に付いた瞬間、生暖かいモノが手に触れた。
見てみると、それは血だった。
「おい!ハチ!しっかりしろ!」
慌ててハチの体を手前に引っ張り背中を見てみると、そこには5発も被弾していた。
傷は大きく、ダムダム弾特有のモノだった。
「ハハハッ・・・最後の最後でしくじったぜ」
「しっかりしろ!ハチ!」
「ロク・・・俺にだってわかる。もう俺は助からない・・・」
「なに言ってんだ!ハチ!」
「おいおい・・・いつもの冷静なロクが、取り乱してんじゃねーよ・・・らしくねーな」
「バカな事言うな!」
「へへへ・・・」
「ハチ・・・あんた、私を庇ったでしょ・・・」
イツが横から怒った顔をしながら声を掛けて来た。
「あ・・・ばれてた?」
「『ばれてた?』じゃない・・・私を庇わなければ、ハチは無事だった筈」
「へへへ・・・お前にはロクが居るからな・・・」
「バカ・・・ホントにあんた・・・バカね」
「へへへ・・・」
イツは睨みつけるようにしてハチに怒っていたが、その目からは涙が多量に流れていた。
「ハチ・・・」
「イチか・・・頼みがあるんだけどいいか?」
「なに?」
「ロクとイツを頼むよ」
「わかった・・・私からも頼んでいい?」
「・・・なんだ?」
「フタに会ったら、一言も無く死んだバカを殴っといて」
「へへへ・・・任せておけ・・・」
俺たちと話している間も、ハチの体からは多量の血が失われていった。
「ロク・・・」
「・・・なんだ?」
俺は既に、涙でハチの顔もぼやけていた。ハチに呼ばれて鼻声になりながらも答えた。
「お前が相棒で、よかった・・・」
「それはこっちのセリフだ・・・」
「結構・・・訓練所の生活・・・楽しかったぜ」
「あぁ・・・お前のおかげだ」
「へへへ・・・俺は先に向こうで、ナナと暮らしてるぜ・・・」
「あぁ・・・よろしく言って置いてくれ・・・」
「あぁ・・・わかった・・・」
ハチは薄く開けていた目を閉じて、微笑んだ。
そして・・・
「あぁ・・・疲れたな・・・・・・」
ハチはいつものように「疲れたな」と呟くと、そのまま笑いながら逝った。
「おい、ハチ?・・・おい!おい!ハチ!ハチ!」
泣きながらハチの体を強く揺さぶるが、ハチは二度と目を開ける事は無かった。
「ロク!敵がすぐそこまで来ている!」
イチの声で我に返ると、外から地雷の爆発音が響いていた。
「ハチの命・・・無駄にしちゃダメ・・・」
「・・・わかった」
イツの言葉に強く頷いて、俺はハチの首に掛かっているハチとナナの訓練生プレートを自分の首から下げて立ち上がった。
その場を離れようとしたが、最後に微笑みながら眠る相棒に向けて別離の言葉を送って走り出した。
「じゃあな・・・相棒。また会おう・・・」