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71・消耗

今回はたくさん人が死にます。苦手な方はスルーして下さい。

「どうした?今のは一体?」


俺とハチが戸惑っていると、イチが近くに寄って声を掛けて来た。


「化学レーザーが目の前に張ってある」

「なんだと!?」

「このまま進むのは危険だ。恐らく、これ以上近づくだけでも目に影響が出る」

「しかし、どうする?」

「レーザー装置を解除するしかないが、問題はどっちの方向から撃っているかがわからない」

「と、とにかく、レーザーの位置と直線だけでもわからないのか?」

「それも無理だ。化学レーザーは高出力だから砂や粉を投げても、レーザーに当たった瞬間に粉塵爆発を起こす」

「それじゃあ!ここから後退するしかないのか!?」


ハチの言う様に後退しか今のところ手がない。現状はお手上げ状態なのだ。

しばらく3人で後退するか、解決法を探すか考えていると、イツが近くにやって来た。


「3人・・・こっちに向かっている。恐らく敵・・・」


イツが小声で俺たちに敵の接近を知らせて来た。

俺たちに伝えた後に顔を向けた先に目を向けると、3人の敵兵が懐中電灯で辺りを照らし、長い木の枝で周りを探りながらこちらに近づいていた。

3人とも地面を気にしていて俺たちの存在には気付いて居ないようだった。


ナナが一瞬で銃を構えたが、手信号で発砲を止めた。

俺たちは静かに銃口を敵に向けたまま、ゆっくりその動きを見つめていた。

3人の兵士がそのまま真っ直ぐ進めば、問題のレーザーが通っているエリアの地面を通過するからだ。


そのまま兵士が通過出来れば地面は安全。通過できなかった場合、兵士の体のどちらから損傷するかで、装置の方向がわかるからだ。


俺たち全員に緊張が走る。

さっきまで動かしていた体を止めたせいか、汗が急激に垂れてくる。


先頭を歩く敵が俺たちの下を通過し、問題のエリアまであと数歩で到達する。


残り5歩。


敵はこのトラップ地獄の森に過剰なまでに警戒しているようだ。


残り4歩。


中々進まない。無駄な事をしていないでさっさと行けと言いたくなってくる。


残り3歩・・・残り2歩。


そこで、先頭の敵兵がいきなり立ち止まった。

俺たちはトリガーに指を掛け、警戒する。

後ろの二人に振り向いて何やら話し、先頭を交代した様だった。


先頭が交代し、レーザーエリアまで2歩・・・残り1歩。

そして・・・・・・0!


兵士たちに何も起こらず、そのまま3人は進んでいく。

エリアに入ってから30歩。何も起こらない。


どうやら、地上の安全が確認出来た。

用が済んだのなら、進行の邪魔になる敵兵には消えて貰おう。


手信号で狙撃の成績がいい、俺とハチとイチで誰がどの敵を撃つか決め、フタがカウントする。


「3・2・1」

ッパーーーン!


完全にタイミングを合わせ、銃声は一回しか鳴らなかった。

しかし、見事に3人全員の頭を打ちぬく事に成功した。


「よし!」

「よかった、地上は大丈夫そうだな」

「ここから30歩の地上はな」

「十分だ。しばらくは地上を行くか?」

「いや、夜に明かりも無しでトラップ地獄を行くのは、自殺を志願している様なモノだ。上で行く」

「わかった」


俺とイチで話して、敵兵の死体迄は地面、その後はまた木の上を移動する事にした。

地面は月明りも届かず、何処にトラップがあるかわからない。

通常の演習をする昼間なら僅かな痕跡からトラップの位置を割り出すが、夜ではそれも出来ないからだ。

確かに先程のレーザーは予想外だったが、そうそうレーザー装置なんて電源を取る関係で森に持ち込めない。恐らくさっきのはまだ森の序盤だったからだろう。

しかし、気が抜けないのは変わりは無い。さらに気を引き締めて、再度俺たちは旧第8船舶庫へ移動を開始した。




「うわー・・・こりゃ、ひどい・・・」


ハチが目の前に広がる参上に苦い顔をした。

真夜中の森の中を満月が照らし、辺りは意外とよく見えていた。その光に照らされていたのは無数の死体の数々だった。

遠目から見ただけで、大体の死因はわかる。


「パラシュート訓練も受けてないのか・・・全員首吊ってるか、下のトラップで即死しているわ」


ナナが痛いものを見るような目をして呟いた。

よく見ると死んでいる兵士は俺たちと変わらないか、少し若いぐらいの子供だった。


「相手の国も人員不足なんだろ・・・」

「ここで止まっていてもしょうがない、ドンドン先に行くぞ!」


地獄絵図を眺めていると、イチが足を進めるように声を掛けて来た。


「あぁ、そうだな。今は先を急ごう。ぶら下がっている奴で、生きてる奴が居るかもしれない。周囲にも気を付けて進もう」

パーン!パーン!パーン!パーン!


全員に気を付けるように促した瞬間、4発の銃声が響いた。


ターン!ターン!ターン!

「ぐあぁぁ!」

ドサ!ヒュン!ドス!

「ガアァァァ!」


すぐさま、発砲光をした方向に反撃をすると、何かが落ちてトラップに掛かった音がした。


「みんな、大丈夫か!?ハチ!」

「あぁ!俺とナナ、それにイツも無事だ!」

「イチの方はどうだ!?」

「私も無事だ。フタとサンはどうだ?・・・フタ?サン?」


応答が無いので、全員が二人が居た方向に目を向けた。しかし、二人の姿は木の上には無く、辺りを見回すと地面にその姿を見つけた。


「聞こえているなら返事ぐらい・・・どうした?」


慎重に地面に降りてイチが声を掛けながら二人に近付くと、フタがサンを抱えたまま動かない事に気付いた。


「イチ・・・ごめんね。フタは無事だよ・・・」

「サン・・・どうした?」

「へへへ・・・油断、しちゃた」


雲の加減で薄暗くて見えなかったが、雲が退いて月明かりが二人を照らした。

そこで俺たちは状況がわかった。


サンが被弾した。


「サン!大丈夫なのか!?」


二人の下に駆け寄って状況を見ると、サンの脇腹が内部から弾けたように損傷していた。


「ダムダム弾か・・・」

「うん・・・こんな状態なんだけど・・・もう、痛みも感じないんだ・・・」


状態を見てハチが呟くと、サンが若干笑いながら答えた。

ダムダム弾とは、弾頭に特殊な加工をして体に被弾した瞬間に弾頭が分裂したり、変形する事によって、通常弾以上の損傷を与える弾の事だ。

サンの体に当たった弾は内部で分裂し、内側から散弾を撃ったかの様になってしまったのだ。


「あ~あ・・・島の外で暮らすの、楽しみにしてたんだけどな・・・」

「・・・生まれ変わったら、出来るだろ・・・」

「そうだね・・・でも、ロクがそんな事言うなんて・・・なんか意外だな・・・」

「そうか?」

「うん・・・」


サンと最期の会話をしている最中も、辺りの地面は赤く染まって行った。


「みんな・・・がんばって、ね・・・」


サンはそれだけ言い残して余りにも呆気(あっけ)無く、全員と別れの言葉を交わす事も出来ずに死んだ。

俺たちに「がんばって」とだけ言い残して、笑いながら静かに息を引き取った。

フタとイチは静かに涙を流していた。俺たちは他者の死に慣れすぎてしまっていたと思っていたが、そうではなかった様だった。

平気ではなかった。俺はどうする事も出来ない、締め付けられる様な痛みを胸の辺りに感じて苦しくなっていた。

周りの面々を見ると、同じように顔をしかめて俯いて泣いていた。


「先を、急ごう・・・」


イツが苦しそうに一言搾り出すと、俺たちはサンの首から提げている番号と血液型が入った訓練生プレートと爆薬などの武器を取って、近くの木により掛けた。


「ヨツとクー、それにジュウによろしく言っといてくれ・・・」


それだけ言い残し、俺たちはサンを置いて再度走り始めた。



俺たちはサンと別れてから、無言で進んだ。途中で敵兵の姿も発見したが、問題無く排除した。それは激昂(げっこう)する事もなく、アリでも踏み潰すかの様に感情も無く行っていった。


しばらく進むと、身の前に廃墟の建物が14軒ほど並んでいる所に出た。

ここは市街戦の演習を行う時に使うエリアだった。


「ここは毎回Troops(トゥループス)エリアだ。トラップは無いと思うが、注意して進もう」


イチが言った様に、ここは毎回兵士(トゥループス)エリアなので基本的にはトラップが無い。

ただし、演習同様に敵兵が潜んでいる可能性も多いので慎重に進むのが得策だ。


木の上から周囲を警戒して、俺だけ先に建物の影へと走って行った。

周辺や建物の中を覗くように確認し安全を確認すると、手信号で合図を送ってみんなを呼んだ。


「ロク、ここからは固まって動くよりも別れた方がいい」

「わかった。ナナ、ハチは俺と一緒に、フタ、イツはイチと一緒に行動しよう」

「わかった・・・ロク、気をつけて」

「それは、お互い様だ。イチ。イツを頼んだ」

「わかった。よろしくな、イツ」

「ええ・・・よろしく、イチ」


俺たちは二手に別れて行動を開始した。

固まっていても狙い撃ちにされる上に、死角が多く出来てしまうからだ。

その為、お互いの位置が確認出来る範囲で離れて行動した方が、こういった市街地戦では有効になる。


身を低くし、耳を澄ませながら進んでいく。

聞こえるのは自分の息とメンバーの動く音・・・その中に微かに違う音が聞こえた。


「近くに敵が居る・・・」


小声でハチとナナに伝え、手信号でイチ達にも伝えた。


息を殺して進むと、路地に座り込んでいる敵兵を4人確認した。その内2人は、足に怪我を負っている様だった。

迷う必要はない。銃を構えて狙いを定め、トリガーを引いた。


ターン!タンタンタンタンタン!

ダダダダダダダダダ!

パーン!パーン!パーン! 


狙いを定めた内、二人は仕留めたが残り二人を逃してしまった為、銃撃戦が始まった。


「気を付けろよ!相手の弾はダムダム弾だ!跳弾(ちょうだん)すると炸裂するぞ!」


俺は味方に大声で注意を促しながら、攻撃を続けた。


ターン!ターン!ターン!

パーン!パーン!パーン!

ダダダダ!ダダダダダダ!


ターン!


銃撃戦の終わりを強調するかの様な銃声が響き、俺たちは全員無事に生き残る事が出来た。

最後の一人を仕留め終わった瞬間だった。

さっきまでの銃声の嵐は嘘のように静まり、静寂が辺りを支配していた。


しばらく様子を見る為にジッとしていたが、特に変化は訪れなかった。


「様子を見てくるわ」

「やめろ!」

パーン!ターン!


ハチの注意を聞かず、ナナが痺れを切らして瓦礫の影から出ようとした瞬間、銃声が鳴り響いた。

透かさず俺は、ナナを撃った敵の頭を打ち抜いた。


「ナナ!ナナ!」


ハチの声に急いで、そちらに駆け付けた。


「おい、ナナ!何やってるん、っ!」


ナナの状態を見た俺は言葉を詰まらせた。ナナの首が3分の1持って行かれていた。


「おい!ナナ!ナナ!」

「ハ、チ・・・」


ナナは口から血を流し、目から涙を流しながら、ハチの頬にそっと手を伸ばした。


「おい!ナナ!ナナ!死ぬな!ナナ!」

「ハ、チ・・・ハ・・・チ・・・・・・愛、して・・・る」

「おい・・・おい!ナナ!ナナ!ナナァァァァアアア!」


最期にハチへ気持ちを伝えたナナは力尽きてしまった。

ハチはナナの名前を何度も、何度も叫びながら冷たくなっていくナナの体を強く抱き締めていた。

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