70・合流
俺たちは地下通路を駆け抜けて、第5倉庫がある森に辿り着く事に成功した。
森の茂みに隠れる様に地面にあるマンホールを開けて、そこから周りを警戒しながら外へ出た。
「ここまでは、順調ね」
「敵もいなさそうだしな」
ナナとハチがため息を付きながら一息ついていた。
「まだ油断するな。敵は何処に居るかわからないんだからな」
「ロクの言う通り・・・気を抜いちゃダメ」
周りを警戒しながら、俺たちは第5倉庫へ向かった。
第5倉庫も地下通路の入口同様、茂みの中へ隠される様に地面にある。
「ん?誰か中にいる・・・」
近くに立っている木の虚のところが赤い表示になっていた。
倉庫内の電気をつけると、ここが緑から赤くなる仕組みになっていた。
「敵?」
「その可能性もあるが、他のメンバーの可能性もある」
イツの言う様に敵の可能性もあるが、むしろ他の訓練生の可能性の方が大きい。
「コールノックしてみるか?」
「そうね。ただ、相手がコールノックを覚えていればだけど」
ハチの言ったコールノックとは、訓練生全員共通で教えられるモールス信号の様なモノだ。
しかしナナの懸念している通り、このコールノックは殆んど使う事が無い。なので、相手が忘れてる可能性もあるのだ。
「考えて居てもしょうがない。一度やってみて反応が返って来たら味方、返って来ないなら敵として排除する。それでいいだろ」
「ロクの言う通りだな、忘れてる方が悪い。トウゴ以上であれば訓練中に何度か使ってるから覚えてるだろ」
「じゃあ、ノックするぞ」
全員が緊張の視線を倉庫の入口に集中させる。
コン!ココン!コン!コココン!
カン!カカカン!カンカンカン!
中から応答コールが帰って来た。
「どうやら、訓練生だったな」
「よかった~」
全員、緊張を緩めて息を吐いた。
早速入口を開けて、地下へ続く梯子を降りて行くと、中には3人の訓練生が居た。
「ロク、ハチ!それにイツとナナも一緒なの!?」
「あぁ、そっちも無事だったんだな。サン」
俺たちが降りると、3人の内一人の女の子が声を掛けて来た。彼女は三だ。
それと他に居た男女は一と二だった。俺たち同様、四を合わせた4人で行動している筈だが、ヨツの姿が見えなかった。
「ヨツは一緒じゃないのか?」
ハチが俺と同じ疑問を持ち、声を掛けると3人とも俯いた。
「ヨツは、死んだ・・・」
フタが呟いて教えてくれた。
「そうか・・・」
「クーとジュウを助けに行って、爆撃をモロに食らった」
ヨツはイチからジュウの中で一番、仲間意識が強かった。
敵の銃撃を食らったと言うなら同情の余地はなかったが、空爆の爆撃であれば不運としか言えない。
「心傷に浸るのは後でもいい。それより今は生き延びる事を考えよう」
重い空気の中、イチが一言で空気を変えた。
「イチの言う通りだな、今後の動きを考えよう。その前に、武器を揃えたい」
「そうだな、ここもいつまでも安全とは言い切れない」
話を始める前に、俺たちも武器を整える事をイチも了承してくれた。
俺たちは倉庫の奥へ行き手早く各自、武器の選定をして状態の確認と実弾の弾込めを行って再度、倉庫の入口に集合した。
「状況を確認しよう!」
木箱の上に島の地図を広げて、イチが指揮を執った。
「まず、俺たちの知っている範囲で報告する。第3武器庫は既に敵勢力に制圧されている。最初の爆発が起きた時にハチと俺の部屋の窓から確認した限りでは、西の岸壁砲台が炎上していた。近隣にある第1武器庫並びに、第3・第4船舶庫も制圧もしくは破壊されているだろう。ここに来る最中、最終試験場にも何人か敵兵が居た。排除はしたが、死体の隠ぺいまでは余裕が無かったから、既に敵勢力が再制圧していると考えていい」
「ありがとう、ロク。続いてこちらの状況だが、私とサンの部屋の窓から確認する限り、西側と同様に東側の砲台も炎上していた。近隣にある第4武器庫並びに、第5・第6・第7船舶庫も制圧もしくは破壊されている可能性が高い。ここに来る途中、第2武器庫に行こうとしたが、既に空爆により爆破されていた。教官塔も全壊、訓練生は捕虜として捕まっている可能性が高いが、教官はどうかわからない。この島は武装した人間が多すぎるからな。第2修練所を通過する時に、クーとジュウが敵の弾幕で動けなくなったところを発見しヨツが独断行動で救出しようとしたが、空爆により3人とも死亡した」
「わかった。そうなると、寮や教官は島の南に位置しているから第1第2船舶庫も制圧されているだろう」
「現状を踏まえると、味方と合流を図って敵勢力をすべて排除する事は不可能だろう。この島から脱出するしかない」
「逃げるにしても、可能性があるのは北だけだが・・・」
「あぁ。北には設備や武器庫も無く、演習場の森が広がっているだけだ」
「状況はこの上ないネガティブだな・・・」
「なぁ、旧第8船舶庫は使えないのか?」
俺とイチでこれからの動きを考えていると、フタが挙手をして提案して来た。
「旧第8船舶庫?地雷原の先にある、今は使われてない倉庫だろ?」
「ハチの言う通り、私はそこに行った事は無いけど、そこに行って何かあるとは思えないんだけど」
俺も行った事は無いがハチとナナの言う通り、今は使われていない倉庫に何かあるとは思えないが、フタが何故そう提案したかも気になった。
「フタ。その提案の根拠を聞いてもいいか?」
「あぁ、いいぜ。あそこの倉庫は使われなくなったんじゃなくて、使えなくなったんだ」
「ん?どういう事だ?」
「実は崖の落盤でドック入り口が塞がっちまったんだ。爆破しようにも爆破の衝撃で倉庫自体も落盤で潰れかねない。だから、そのまま放置になったんだ」
「なるほど・・・それなら、中に船がある可能性が高いな」
この島は周囲すべてが切り立った崖になっている。その為、船の停泊する場所はすべて崖に掘られたドックに停泊している。
なので、入口が塞がった状態から船を陸で移動する事は不可能、必然的に中に船が取り残されている事になる。
しかし、ハチが言った様に旧第8船舶庫の周囲は地雷原が設置された演習場になっている。それは敵に制圧されていない可能性を高くもしているが、そこに行く難易度も高くしてしまっている。
「しかし、他に手はない。私は旧第8船舶庫に向かうしかないと思うが、ロクはどうだ?」
「そうだな・・・イチの言う通り、それしか無さそうだ」
「よし、決まったな。これからこの島を放棄し、旧第8船舶庫に向かう。行動はイツ・ロク・ナナ・ハチのチームと私・フタ・サンのチームで行う。基本的には一つの隊として動くが、演習場内はチーム毎で動いた方が迅速だろう。隊として動く際は、私が指揮を執る。副官はロクとする。異論はあるか?」
「それでいい」
イチの采配に俺が同意すると全員首を縦に振った。
「岩盤を爆破するための遠隔信管とプラスチック爆弾を持って行こう。確か、ジュウの私用武器にあったはずだ」
「ジュウ、そんなのまで注文出していたのか・・・そして、教官長はよくその許可を出したな・・・」
「全員到着出来る事が望ましいが、戦場では希望的観測は通用しない。全員所持しておこう」
「ゲッ!確かにプラスチック爆弾は火を点けても銃弾が当たっても爆発はしないけど・・・爆弾ってだけで気が引ける」
「そんなに言うなら、ハチのだけ信管挿して置こうか?」
「ナナ・・・マジ勘弁してくれ」
俺たちは各自プラスチック爆弾と信管を持ち、行動を開始した。
俺たちはフォーメーションを組み、南の森を抜ける為に走った。
「サン!隊列を乱すな!」
「イチ!そんな事言ったって、みんなが早すぎるんだよ!」
俺たちは演習や試験の時以上の速度で森の中を駆け抜けて行った。
「ハチ!ナナ!イツ!Assumption(想定)37!」
「「「Assumption37!OK!」」」
もうすぐ森を抜けようとした所で俺がフォーメーション指示を出すと、ハチとイツが速度を上げて前に出た。
ハチとイツが森の切れ目にある木に肩を当てて急停止し、森の外へ銃を構えた。そこにナナが飛び出した。
森の外に居た敵はそれに気付いて銃をナナに向けて構えるが、それをハチとイツで排除してく。
そして俺は少し手前から木に登りながら素早く飛び移り、高い所から飛び出して、正確に隠れて居る敵を排除した。
森と森の切れ目に着地した俺は、パイナップル型の手榴弾を敵がいる方に2つ投げた。
ドッドーーーン!
爆発と共に土煙が上がり、素早く全員が演習場の森へと移った。
「Yeah!Good Jooob!」
「ハチ!お前こそ、正確な射撃だったぞ!」
「あたりまえだ!やれば、俺だって出来るんだぜ!」
「フー・・・お前ら、遊びじゃないんだぞ」
俺とハチが演習の時のノリでやっていると、イチがため息を付いて来た。
「これであっちには私たちの存在がわかったけど、大丈夫なの?」
「サン、大丈夫だ。明日予定していた訓練、覚えているか?」
「え?」
確かに通常ならサンの言う通り、俺たちは追っかけられ始めるが、フタの言う通り今日だけは普通じゃない。
「明日?確か・・・・・・あ!って!それ私たちも危ないじゃん!」
そう、明日の訓練の為にこの森は今夜から明日に掛けて、危険な森になっている。それは・・・
「そうだ、この先はトラップだらけの地獄の森だ」
明日に予定していた訓練は、この演習の森の中にある800余りのトラップ(掛かれば致命傷または即死)をすべて撤去する訓練だった。
各エリアをそれぞれの教官が担当し、何処に何のトラップがあるかは仕掛けた本人にしかわからない。
つまり、森全体のトラップを把握している者は居ないのだ。
「面倒だが木の上を移動しよう!基本的には地上にしかトラップは無いはずだ!」
「ロク!そう言って3ヶ月前のトラップ地獄の時、でっかいモーニングスター(鉄球にトゲが付いた物)が横から迫って来たぞ!」
「あれは伊吹教官のトラップだろ?あの人、トラップ自体を変なところに作るのが好きだったんだよな・・・先々月引退して島から出たから安心しろ」
俺たちは木に飛び上り、枝から枝へ素早く移動していく。こう見ると子供の頃に見た絵本の忍者みたいだった。
「ぐぁあぁぁぁあぁ!」
「ぎゃああああぁぁぁ!」
しばらく進んでいくと後ろから、悲痛な叫び声が聞こえて来た。
「敵はトラップに気付かず突っ込んでいる様だな」
「ヒヤー!わたし達が通った下に何があったんだろ・・・」
イチは「愚かだな」と言う様に失笑していたが、サンは顔を青くしていた。
「っ!全員止まれ!」
俺が一番前を進んでいると、前方に嫌な予感がして全員に号を飛ばした。
「どうした?ロク」
「・・・嫌な予感がする。今、前方が微かに光った」
「ん?何も見えないが?」
ハチには何も見えていないようだったが、俺には確かに見えた。
パンっ!
「ゲッ!」
慎重に目を凝らしていると、前の方に飛んでいた蛾いきなり弾けた。
「まさか、な・・・。溶接用レーザーじゃないだろうな?」
「いや、そのまさかだろ・・・もしかしたら化学レーザーかもな」
「ありえねーよ!演習のトラップでそんな高出力レーザー今まで聞いた事ねーよ!」
「ここの教官は変態ばかりだからな・・・」
化学レーザとは、ミサイルなどを打ち落とす時に使うレーザー兵器だ。そんなモノが人に当たれば只では済まない。
俺たちはここで足を止めざるを得なかった。