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65・2回目のゴブリン掃討

気が付くと、木造の天井と窓には青い空が見え、頭には濡れたタオルが乗っていた。

壁には俺が着ていた服が吊るされ、自分は首元から少し切れ目が入って、紐で軽くとまったシャツを着ていた。


ガチャっ

「あ・・・」


部屋の扉が開かれ入ってきたのは、きれいな銀髪をポニーテールに結んだコロハだった。


「おはよう。コロハ・・・」

「ミツルさん!」


コロハに挨拶すると、いきなり抱き着いて来た。

一瞬びっくりしたが、昨日の夜以降の記憶が無く、正直戸惑っていた。


「昨日、婆さんを送り出した後の記憶が無いんだが・・・」

「あの後、ミツルさんは意識を無くして倒れてしまったんですよ!」


コロハは俺に抱き着きながら、心配そうに覗き込んできた。

どうやら、魔力の使い過ぎで意識を失った様だ。

しかし、あんなに泣いていたコロハに部屋まで運んで貰ったのは、自分でも情けない限りだった。


(ぬし)、起きたか。心配したぞ」

「ご主人!おはようございます!大丈夫ですか?」


声のする方を見るとフェンリルと鵺も部屋に入って来た。


「心配かけたみたいだな」

「俺たちはいいが・・・コロハが大変な事になっていたぞ」

「ちょ!ちょっと、フェンリルさん!」

「コロハが?」


フェンリルが言うには、俺が完全に意識を失った時、フェンリルも相当焦ったそうだ。

なにせ、限界を超えた量の魔力を消費していたので、命を落としても不思議ではなかったそうだ。

フェンリルが俺の様子を見て問題ない事はすぐにわかったそうだ。

しかしコロハは、一瞬でもフェンリルの焦った様子に、最悪の状況を想像してしまって大泣きして取り乱したそうだ。

その後もフェンリルから大丈夫だと聞かせても、中々俺から離れず一晩中ソワソワしていて、フェンリルが「そんなにしていたら、(ぬし)が安静に眠れない」と言われて、やっと自室に戻ったという状態だった。


「そうだったのか・・・」


話を聞いてコロハを見ると、黙って俯いていた。

どうやら相当心配をさせてしまった様だったので、頭を撫でて謝った。


「悪かったな、コロハ。心配を掛けた」

「いえ・・・その、元気になってよかったです」

「あぁ。さて、そろそろ・・・あれ?」


そろそろ起きようかと体を起こそうとした瞬間、力が抜けてまたベッドに倒れてしまった。


「み、ミツルさん!」


その様子にコロハは慌てて、体を支えてくれた。


(ぬし)は限界まで魔力を消耗したのだ。まだ、動ける訳がないだろう」

「すまんな・・・」


魔力切れなんて初めてなのでわからなかったが、フェンリルの呆れた様な口ぶりから、魔力切れの際はこれが普通なのだろう。


「今日一日は大人しくしている事だな」

「あぁ、そうだな。そうするよ」

「じゃあ私、ご飯を持って来ますね!」


そう言ってコロハは駆け足で部屋を出て行った。


「じゃあ僕たちも行きますから、ご主人はゆっくり体を休めて下さいね!」

「あぁ、わかった。ありがとうな」


そう言って鵺とフェンリルも部屋を出て行った。

みんなからも言われた通り、今日はゆっくり休むとしよう。


「きゃあ!」

ガシャン!パリン!

「コ、コロハさん!大丈夫ですか!?」


遠くで響く声と音に少し不安に感じる所もあるが、今の俺は動く事も出来ないので気にしない事にした。





翌日

朝起きると、もう魔力も回復している様で普通に動けた。

なので、日課にしている朝のアクアゴーレム2体との組手を始めていた。


俺の格闘は、基本的にテコンドウをベースにしているので、蹴りが主になっていた。

アクアゴーレムとの格闘を練習し始めてからは、拳打や投げ技も練習しているが、やはり蹴りが多くなってしまう。その為、蹴りを撃っている間に隙が多くなってしまうのだ。

それを改良する為に、流れるような動きを心掛けて攻撃に組み込んでいる。そうして出来たのが今の戦い方だが、傍から見るとカポエラに見えなくもない。


「ミツルさん・・・何してるんですか?」


そんな風に組手をしていると、コロハが声を掛けて来た。


「おはよう、コロハ」


アクアゴーレムを一度消してコロハに挨拶すると、コロハは目を丸くして驚いた顔をしていた。


「あの・・・今、水の・・・」

「あぁ。アクアゴーレムを使って格闘の練習していたんだ」

「アクアゴーレム!?それって、水属性の4段階目ですよね!?」

「あぁ、そうだな」

「本当に魔術師になられたんですね・・・」

「うん?まぁ、そうだな・・・」


感心したようにコロハは言うが、水属性の4段階目が使えたからと言って魔術師と言う訳では無いのだが・・・まぁ、説明するのも面倒なのでそのままにして置いた。


「ところで、何か用か?」

「ああ!そうでした。朝ごはんが出来たので呼ぼうと思ったら、部屋に居なかったので外かな?っと思って見に来たんです」

「そうか、ありがとう。すぐに行くよ」

「はい!」


コロハは先に家の中へ戻って行った。俺も水を浴びてから家へ戻り、久しぶりのコロハの手料理に舌鼓を打つ事にした。



コンコン!

「ん?誰だろ?」


コロハの作った朝ごはんを食べた後、コロハは食器を洗い、俺は『Grimoire(グリモアール) de() Grande(グランディ) mage(マージ)(大いなる魔導師の魔導書)』を読んでいると、ノックの音が聞こえて来た。


「はい!どなたです?」

「村長のセーマです」

ガチャ!

「おぉ!ミツルさん!戻っていらしたんですね!丁度良かった!」

「はあ・・・」


訪ねて来たのは村長のセーマだった。

俺がここに居た時から何度かゲンチアナを訪ねて来ていたので、何回か話をした事があった。


「実は、お願いがありましてね」

「はあ。まぁ、立ち話もなんですから、中にどうぞ」

「ありがとうございます」

「あれ!?村長さん!」


とりあえずセーマを中に通すと、丁度洗い物が終わったコロハが出て来た。


「あぁ、コロハさん。お邪魔します。大分、元気になられたようですね」

「え、えぇ・・・」


コロハの顔に少し影が落ちると、セーマは何か触れてはいけない事でも言ったのかと、俺の方を見て来た。


「まあ、こちらも話さなくてはいけない事があるので、詳しくは奥で話しましょう」


そう言って、とりあえずセーマを居間に通して話をする事にした。




「そうでしたか・・・ゲンチアナ様は・・・」

「はい・・・。実は前々からそうだったのですが、おばあちゃんの希望もあって村の(かた)には今まで黙っていました。すみません」

「いえ、それであれば仕方ありません。みな歳を取ればいずれはそうなります。非常に残念ですが、仕方の無い事です・・・」


3年後にはまた会えるとは言え、死んでしまった事には変わりが無い為、コロハは辛そうな顔でゲンチアナの死をセーマに伝えていた。


「それで、セーマさんはどういった用件で今日は?」

「あ、えぇ・・・こんな状況だとは露知らず大変申し訳ないのですが、ミツルさんが冒険者になったと聞いていたので、その伝手で討伐依頼をお願い出来ないかと思いまして・・・」

「討伐ですか?」

「はい。ミツルさんはこの近くに『(とき)の遺跡』と言う遺跡があるのはご存知ですか?」

「えぇ。まぁ・・・」


たしか、一度コロハに聞いた事があった。

大昔に作られたモノらしく。村の言い伝えだと、その遺跡には神を呼び出す方法が隠されていると言われている。また、石碑の文字などを読めたとしても、選ばれた者以外は何も起こらないそうだ。


「その『(とき)の遺跡』がどうかしましたか?」

「実は2・3日前から近隣にゴブリンが出る様になりまして、どうやらその遺跡にゴブリンが住み着いてしまった様なんです。そこで、ゲンチアナ様の伝手でミツルさんにゴブリン退治をお願い出来ないかと思いまして」

「なるほど・・・わかりました。引き受けましょう」

「え!?」


即答で依頼を承諾すると、コロハが驚きの声を上げた。


「み、ミツルさん!そんな、簡単に受けて大丈夫なんですか!?」

「まぁ、ゴブリンの巣を殲滅するのは初めてじゃないしな。俺一人で充分だろ」

「そんな!危険過ぎます!」

「大丈夫だって、コロハ。一応、鵺も居るし」

「鵺ちゃんだけじゃ、もし何かあった時に助けられないじゃないですか!」


個人的には、入口から電気魔法(グロム・フォークス)で殲滅していくつもりなので、むしろ鵺も要らないと思っていたのだが、どうもコロハは過度に心配してくれている様だった。


「わかったよ・・・じゃあ、エレアとシンティラも連れて行くから、それでいいだろ?」

「絶対!絶対に気を付けて下さいね!」

「わかったって・・・」

「絶対ですよ!」

「あ~!もう、わかったから!心配し過ぎだって!」


心配してくれるのは嬉しいが、どうやらゲンチアナがヘルに連れられてから、過度な心配性になってしまったようだ。


「とりあえず、今日中に討伐して来ます」

「よろしくお願いします」


しっかりと依頼を承諾するとセーマはお礼を言って帰って行った。





「わるいな、付き合わせちゃって」

「いや、私たちは(あるじ)の奴隷なのだから気にする事は無い」

「♪~~」


俺は準備を終えたあと、エレアたちが泊まる宿に行って、ゴブリン討伐の経緯を話した。

宿の部屋に行くとエレアとシンティラからタックルと言う名の抱擁(ほうよう)を食らい、宿の壁を凹ませると言う事故は起こったが、いつも通り元気な二人を見て俺も少し嬉しかった。


今は宿を出て『(とき)の遺跡』に向かっている最中なのだが、シンティラは俺の腕を嬉しそうにくっ付いていたままだった。


ガサッ

「お?早速か」


村長のセーマに詳しい場所を聞いた『(とき)の遺跡』を目指して森の中へ入ると、早速ゴブリンに遭遇した。


「森の中だから、俺が相手をしよう。鵺、太刀だ」

「はいは~い!」

カチャッ

「あれ?」


太刀に変身した鵺を持った瞬間、妙な違和感を感じた。

違和感と言うより、前よりも持った時の感触がしっくりくると言った感じだった。


嫌な感じではないのでそのままゴブリンを斬り捨てると、その感覚がハッキリとわかった。

ゴブリン2匹の胴体を真っ二つにしたのだが、骨を斬った感じも無くバターでも切っている様に抵抗が無かったのだ。


「ご主人すごいです!前にも増して、さらに腕を上げましたね!」

(あるじ)は剣も使えるのか・・・しかも、今のは早かった・・・」

「ご主人様、すごいです!」


三者から歓声が上がったが、俺は一人疑問に感じていた。

アクアゴーレム相手に練習してはいたが、それだけでこうも上達するモノだろうか。

それよりも持った時に感じたフィット感は、何かが明らかに違っていた。


ガサガサッ


そんな事を考えていると、またもやゴブリンが4匹も現れた。


「まあ、考えた所でしょうがないか・・・」

「ご主人、何か言いました?」

「いや、なんでもない」


考える事は後回しにして、今は目の前のゴブリンを倒す事に気持ちを切り替えた。


ガサガサッ!

「「ギィイイィィ!」」


俺は前を警戒し過ぎて、俺たちの後ろから2体のゴブリンが襲って来た事に気付くのが遅れてしまった。


「・・・Famea(ファメア) glaciei(グラキエ)(氷槍)」


ボソッとエレアが呟いた瞬間。一瞬で出現した4本の氷の槍が、ゴブリン達を貫いた。


「い、いつの間に『氷槍(ファメア・グラキエ)』まで無詠唱出来る様になったんだ?」

「フフフ・・・わたしだって、遊んでいる訳では無いからな。練習していた」


エレアがいつの間にか「氷槍(ファメア・グラキエ)」の無詠唱まで習得していた事に驚くと、得意げに言って来た。


「あぁ、だが・・・」

「「「「ギィイイィィ!」」」」


俺が言葉を言い掛けた瞬間、周りから挟み込む様にゴブリンが4匹出て来た。

俺が透かさず腕を振り完全無詠唱で8本の『氷槍(ファメア・グラキエ)』を出して、ゴブリン達を貫いた。


「もっと慣れれば、これぐらいは出来る様になる」

「は、早い・・・」


エレアが驚くのも無理はない。

エレアの『氷槍(ファメア・グラキエ)』も出現から攻撃までが相当早いが、俺の魔法は出現しながら攻撃しているのに近い。なので、殆んど出現したか確認出来る前に、気付けば氷の槍が敵に刺さっていると言った状況だった。


「ムッ・・・そのウチ、(あるじ)と同じ位の魔法が撃てるようになる」

「あぁ、期待している」


俺が大人げなく実力差を見せると、エレアは面白くなさそうに反論して来た。

エレアはなんだかんだ言って、努力家で負けず嫌いなところがあるので、こうやって褒めながらも刺激するとドンドン強くなっていく様だ。

俺が期待していると言うと、エレアは少し恥ずかしそうに顔を背けていた。

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