60・報せ
諸事情により2話同日投稿しました!
なんていうか・・・すみませんでした!
コロハからの手紙に目を落とした瞬間、自分の目を疑ってしまった。
そこに書かれた文章の内容は、ゲンチアナの婆さんが倒れた事だった。
「ご、ご主人。どうしたんですか?」
俺があまりにも驚愕している様子に、鵺もただ事ではないと感じて居た様だった。
「鵺!ゲンチアナが倒れた!ギコさんを探せ!見つけたら『しばらく街を離れる』と伝えろ!俺は急いで、ラークさんの所に行って同じ事を伝えてくる。終わったら北門で待ち合わせだ!」
「え!?は、はい!」
「フェンリル!大きくなれば、お前の背中に全員乗せて走って貰う事は出来るか!?」
「あぁ、あと10名ぐらいは平気だが?」
「悪いが、俺たちをエド村まで乗せて欲しい!」
「お安い御用だ」
「助かる!シンティラとエレアは宿に戻って、金貨2枚分の延長代金を払って北門に来てくれ!フェンリル!悪いがシンティラとエレアを乗せて北門に来てくれ!」
「は、はい!」「わかった!」
「みんな!悪いが、急ぎで頼む!また、北門で!」
それを合図に各々走り出し、ギルドをあとにした。
そこには、今起きた状況を理解できずに呆然とするミリだけが残されていた。
「すみませんが!よろしくお願いします!」
「えぇ。わかりました。ミツル殿も気を付けて行って来て下さい」
「ありがとうございます!」
ラークに「恩人が倒れて危篤なので、しばらくそっちに行く」と言って、薬の授業をしばらく休む事を了承して貰った。
ラークの店を飛び出して北門へ加速魔法全開で向かうと、丁度各々(おのおの)が指示した事を終えた様で集まって来た。
「このまま少し森の中まで走るぞ!流石に街に出入りする者が多い時間に、街の近くで大きくなったフェンリルは目立ちすぎる!」
「わかった。しかし・・・主は早いな」
相当早い速度でフェンリルも走っているが、俺は同等かそれ以上の速度で走っていた。
しかし、フェンリルが大きくなればそれだけ歩幅が大きくなるので、そっちの方が遥かに早いだろう。
平原を走り抜け、森の入口に着いたところでフェンリルに大きくなって貰い、俺もその上に乗った。
「わるいな、フェンリル」
「なに、お安い御用だ。振り落とされない様にしっかり掴まれ。それ位じゃあ、痛くも痒くも無いからな」
「よろしく頼・・む!」
俺が返事をした瞬間、フェンリルが猛スピードで走り始めた。
街道とはいえ、そこまで大きい道ではない。そんなところを高速道路を走る車の如く駆け抜けていった。
まさにジェットコースターにでも乗っている気分だ。
一応、全員の体は魔力操作で固定されているので落ちる事は無いが、通り過ぎる風の音が凄すぎてシンティラとエレアに声を掛ける事も出来ずに居た。
走り始めて1時間程すると、丁度道のりの真ん中位まで来た。
しかしフェンリルの走る速度は落ちる気配は全くなく、まだまだ余裕と言った感じだった。
そんな時、前方からオルニス(最高時速80km程で走る恐竜の様な動物)に曳かれた馬車|(?)が来ていた。
フェンリルはスピード落とす気配が全くないので、恐らく飛び越える気なのだろう。
「○×△□!」
遠くでその馬車の者が何かを叫んだが、全く聞こえなかった。
「ご××!あ××にコ××さんが!」
風の轟音の中、鵺も何かを叫んで来たが、全く聞こえないので一瞬だけ魔力操作で周りの風を防いだ。
「ご主人!あそこにコロハさんが!」
「え?」
その瞬間、フェンリルがその馬車を飛び越す為に跳躍した。
馬車の上を通過する瞬間、下を見るとその馬車が乗せていた檻にはなぜかコロハが捕まっていたのがハッキリと見えた。
「フェンリル!止まれ!」
「お!?え?おう!」
俺の声に驚き、フェンリルが急制動を掛けると、辺りの地面や木々を抉りながら止まった。
俺はフェンリルから飛び降りて、コロハの元へ走った。何がどうなっているのかはわからないが、馬車の前へ地面を滑りながら立ち塞がる様に移動した。
「そこの車止まれ!」
「な!なんだ!?お前も盗賊か!?」
「違うが、そこに乗せてる奴。そいつはどうした」
「は!?てめーには関係ねぇだろ!」
「そうはいかないんだ。知り合いなんでね」
「チッ」
すぐにでも皆殺しにしてコロハを助けたかったが、コロハが何かしらの罪を犯したのであればちゃんとした交渉をしようと考えて居た。
しかし、その考えもすぐに男の言葉によって消え失せた。
「チッ!折角上物を捕まえたと思ったら、こんな時にこんな所でこいつを知ってる奴に会うなんてな・・・」
「・・・もう一度聞く、そこに乗せてる奴。そいつはどうした?」
「あ?森の中をフラフラ一人で歩いて居たからよ・・・保護してやったんだよ!」
「疾風刃!」
男が語尾を強く言った瞬間。仲間の男が詠唱を終えて疾風刃を放って来た。
「ウザい!」
それに対して俺が一度腕を振ると、風の刃は消えて、俺の元に届く事は無かった。
「な!消えただと!」
「お前らに聞く事はもう無くなったな・・・じゃあな」
「は?」
ドシュ!ドシュ!
「「え?」」
俺が別れの言葉を贈ると突然、地面から土で出来た極太の槍が男たちの胸を貫いた。
男たちは自分の身になにが起こったのか理解出来ず、只々自分に刺さった物を見ていた。
「死ね」
「・・・・!!!」
最後のトドメとして疾風刃で首を飛ばした。
声を出す事も無く首が飛んだ男たちの体はビクビクと数回動くと、力無く活動を停止した。
「コロハ!」
檻に駆け寄ると、コロハは檻の中でグッタリと倒れていた。
急いで疾風刃で檻を壊して中に入り、コロハに検査魔法を掛けて容体を診た。
どうやら薬で眠らされているだけで、その他に酷い事はされていないようだった。
「よかった・・・」
「ご主人!コロハさんは!?」
遅れてやって来た鵺が声を掛けて来た。
「大丈夫だ」
「そうでしたか、こっちも問題なく終わりました」
「こっち?」
確かに鵺が来るまでに時間があったと思い、フェンリル達の方を見るとそこには、盗賊御一行様の骸が転がっていた。
どうやら、この人攫い達は盗賊に追われている最中だったようだ。
「主!大丈夫でしたか!?」
「ああ、問題ない」
「しかし、なぜ・・・主!」
エレアが何か言おうとした瞬間、言葉の途中で驚いたように叫んだ。
「その方、従属の首輪が付いてる!早く主人変更を!」
「え?」
「従属の首輪は登録されている主人が死ぬと、しばらくして絞まる様になっている!」
「マジか!」
エレアの言葉を理解した瞬間、急いで男たちの死体へ駆け寄った。
どちらが登録されているのかはわからないので、それぞれの血を中指と人差し指に付け、自分の親指を傷つけて血を出した。
再びコロハに駆け寄り、首輪に人差し指と親指の血を付けて様子を見た。
こいつの血で合って居れば何も起きない筈だった。
しかし突然首輪が光だし、徐々に小さくなり始めた。
「主!もう片方を!」
「わかってる!」
急いで中指と親指の血を首輪に付けた。
すると首輪の発光は収まり、小さくなり始めていた輪も元の大きさに戻り始めていた。
「フー・・・まったく、心臓に悪いな・・・エレア、ありがとう」
「いや、助かってよかった」
「そ、その方は助かったのですか?」
気を抜いてその場に座ると、シンティラが心配そうに声を掛けて来た。
「ああ、大丈夫だ。それにしても、どうしてこうなったんだ?」
「おそらく、こいつらは違法奴隷商なのだろう。そこらで女子供を攫い、無理矢理従属の首輪を付けて売り飛ばす奴らだ」
「そうか、コロハが短剣の鞘も持っていない所からすると、武器を持たずに薬草を取りに森へ入ったのだろう。まったく・・・不用心にも程がある」
若干呆れながらも、横で寝ているコロハの髪を撫でながら見つめた。
「主、これからどうする?」
「そうだな、まずはエドの村に向かうのが先決だ。コロハからの手紙では、もう相当酷くなっているらしい」
「わかった。すぐに向かおう」
コロハを背負い、しっかりと落ちない様に俺の体に結び付けて、再びフェンリルの背中に乗ってゲンチアナの元へ急いだ。
再び走り出してから1時間半程で、ゲンチアナの居る家に着いた。
外見は半月前と何も変わらない様子だったが、今は懐かしく感じている余裕はなかった。
「婆さん!居るか!?」
急いで家に入り、ゲンチアナの部屋へ急いだ。
部屋の扉を開けると、ベッドに大分痩せたゲンチアナが寝ていた。
「婆さん!」
「なんじゃ、騒々しいのー」
俺が呼び掛けると、若干笑いながら目を開けて文句を言って来た。
「コロハからの手紙を見た!今、診てやるから!」
「ミツル。少し落ち着きなさい」
「だけど!」
「儂を診ても無駄じゃよ」
「そんなの!」
「儂を誰だと思っている。自分の体の事位はわかる」
「クッ・・・」
それ以上、言葉を出す事が出来なかった。
コロハの手紙で大体の容体は知っていたからだ。
手紙には書き殴った様な字で、こう書かれていたのだ。
『おばあちゃんが倒れちゃった。
ミツルさんが街に行く頃から咳は有ったけど、日に日に悪くなって行って、
お婆ちゃんは「ただの風邪」だと言っていたけど、乾いた様な嫌な感じの咳をしていたんです。
そうしたら昨日、全身に痛みを訴え初めて、起き上る事も出来なくなってしまって、
そこで初めておばあちゃんの体に魔力を通して診たら、体のあっちこっちに変な塊があったんです。
それは呼吸する所にも在って、それが原因だとはわかったけど、わたしにはどうする事も出来ない。
ミツルさん 助けて』
この内容だけで十分だった。
手紙を受け取った時には、わかっていた。
「婆さん・・・」
「なんじゃ?」
「いつからこうなるとわかっていた?」
「さてね・・・咳が出始めた頃だったかのー」
「なんでその時に言わなかった!」
思わず怒鳴ってしまった。しかし、その様子にゲンチアナは掠れた落ち着いた声で、普通に返してきた。
「フッ・・・お主ならわかっておろう。その時にはもう手遅れじゃった」
「それは!それは・・・」
ゲンチアナの言う通りだった。その病気は、半月で急激に悪化するモノではない。
つまり、その時には既に手遅れになっているのだ。
「ミツルや・・・もし、お主がこの病を知っているなら、教えてくれないかの?儂のこの病はなんと言うんじゃ?」
「・・・・・・」
気付けば俺の視界はボヤケて、頬を水が止め処なく流れていた。
それでも、拳を握り締めて婆さんの病名を口にした。
「──悪性肉腫瘍、全身に転移している・・・末期のガンだ」