59・2冊の魔導書
リアルが忙しすぎて更新が遅れてしまい、大変申し訳ないです。
お詫びも込めて今日中にもう一話上げようと考えてますので、許して頂けるとありがたいです。
「申し訳ないのですが、こうなってしまった以上、この2冊の本について話さなければいけなくなりました」
「え?」
俺が2冊の辞書の様な分厚い本を持ちながら、老男性に声を掛けた。
老男性はもちろんその本に書かれた内容は知らない様だ。しかし、この本だけは無害とは言えない代物だった。
1冊は『科学辞典』
この本は現代科学の事は大概載っている。
それこそ、まだ存在が確認されていない光の素粒子まで載っている本だ。
これがこの世界で翻訳され、魔法に適用されれば、強大な力を発揮するだろう。そこまで行けばそれは最早、魔導書と言っても間違いではないだろう。
そして、もう1冊は『Grimoire de Grande mage(大いなる魔導師の魔導書)』
正真正銘の古典フランス語で書かれた魔導書だ。ざっと中を見ただけでも、危険な物だとわかる。
内容は魔術書『モーセの剣』とソロモンの小さな鍵(レメゲトン)の『Theurgia Goetia』と『Grimoire of Armadel』を参考に作られた魔導書であり、歴史上最凶の魔導書と言われていた。
もっとも、この魔導書は伝説上の物とされているが、そこに書かれた内容は隕石を降らせたり、一瞬で海を凍らせたり、海を二つに割ったり、ソロモン72柱を含む多くの悪魔や天使を召喚したりと、凶悪な事この上ない内容になっている。
元魔術師の老男性が思っている通り。いや、それ以上危険な魔法書である。だが、伝説上の魔導書なので、真偽はわからないところだ。
「この2冊だけは間違いなく魔法書です。片方は真偽が確かではありませんが、もう片方は間違いなく本物です」
「その2冊が・・・」
「片方は理解するだけで、魔法の力を数倍にしてしまう理を記した『英知の書』と言えます。もう片方の真偽が確かでない本は、もしこれが本物であれば、海を割り、大陸を削る事が出来る『力の書』と言えます」
「そ、そんな事が!?」
「はい。この2冊だけは間違いなく魔法書です」
キッパリとその内容を告げると、元魔術師の老男性は考え込むように目を瞑った。
恐らくは、この2冊の本を処分するかどうかを考えているのだろう。
その悩みは長い間続き、そして元魔術師の老男性が決意の顔をして目を開いた。
どうやら、決心がついたのだと思った。しかし、その口から出た言葉は予想外のモノだった。
「ミツル様。その魔法書を受け取って頂けませんか?」
「・・・・・・は??」
一瞬、何を言っているのか理解が出来なかった。
解読し、理解した時の危険性を説明したばかりなのに、それが読める者に渡そうと言い出したのだ。
「え?えーっと・・・失礼ですが、俺の話は聞いてましたか?」
「えぇ、それを聞いた上で申し上げております」
「その理由を聞いてもいいですか?」
「一つ目は最初に貴方と話した時に悪い方では無いと感じました。二つ目の理由は、貴方がその2冊が魔導書であると私に教えた事です」
理由を聞いても今一、理解に及ばない。
「今一、わからないんですが・・・」
「フフフッ・・・一つ目の理由は何となくそう感じたからなのですが、二つ目の理由は明確です。貴方は私にその2冊が魔導書だと教えず、隠し通す事だって出来ました。なのに、危険であれば処分しようと言った私にそれを打ち明けた。貴方がもし、悪用しようと思う方であったなら隠し通そうとしたでしょう。ですが、貴方はそれをしなかった。だから、貴方なら大丈夫・・・いえ、貴方が持っているべき本たちなのだと思ったのです」
「しかし・・・」
「私は本たちが大好きです。私はどの本たちにも、存在する意味があると思っているのです。恐らく、その2冊の魔導書たちは貴方の手に渡る為に、ここにあったのでは無いかと感じました。ですから、その本たちを受け取って頂けませんか?」
老男性は2冊の魔導書を、子供でも送り出す様に優しく、そして真剣な表情で俺に託すと言って来た。
少し考えたが、俺の返答までの時間は長くは無かった。
「わかりました。お言葉に甘えて、頂戴致します」
「ありがとうございます。どうかその本たちをよろしくお願いします」
「はい。大切にします」
2冊の魔導書を受け取り、老男性と別れて魔法書庫をあとにした。
「受け取ったはいいが、なんか複雑な気持ちだな・・・ん?」
「あ!ご主じ~ん!遅いです~!」
図書館の入口を出ると、鵺が声を掛けて来た。その声に目を向けると、そこにはなぜか全員揃っていた。
「あれ?どうしたんだ?全員揃って・・・」
「ぬ、鵺さんが、お腹が空いたからご主人様を迎えに行くと言っていたので、一緒にと思って・・・」
「そういうシンティラだって、ここに来る時の歩くスピードが速かったと思うが?」
「エレアさん!エレアさんだって、ご主人様はいつ帰って来るのかと独り言を何回も言っていたじゃないですか!」
「な!それを言うなら、シンティラだって言って居ただろ!?」
今日一日で大分、シンティラとエレアが仲良くなっている様で微笑ましい限りではあった。
「主は人気者だな」
「そういうフェンリルも来てくれたんだな?」
「まぁ、宿で待っていてもよかったのだが、どこかの飯屋に行く可能性も考えて一緒に来る事にした」
「なるほどな。じゃあ、飯を食いに行くか」
「あ!ご主じ~ん!僕、お肉がいいです!」
「お前、基本的にそれしか希望出さないな」
「主、俺も肉がいいな」
「あ、主。良ければ、わたしも・・・」
「別に申し訳なさそうに言わなくてもいいよ。シンティラもそれでいいか?」
「は、はい。私もお肉がいいです」
「よし、決まったな!じゃあ、どこか飯屋を探すか!」
「主、おススメの店があるのだが!」
「お、じゃあそこに行こうか」
そう言って、エレアの案内で飯屋に向かってみんなで歩き始めた。
その間にみんなの今日の行動について聞いてみたが、シンティラとエレアは休みにも関わらず、ずっと練習をしていたそうだ。
エレアは火魔法と水魔法の無詠唱の練習。シンティラは電気の制御とエレアに出して貰ったアクアゴーレム相手に組手をしていたそうだ。
鵺とフェンリルはと言うと、森に入って適当に魔物を倒して遊んでいたそうだ。
基本的にはフェンリルが魔物で遊ぶ形になっているが、鵺もたまに滑空して翼だけ刀に変えて攻撃していたそうだ。
考えただけで、性質の悪い辻斬りだ。
飯屋に着いた後も、そんなみんなの1日を聞きながら飯を食べ、お腹いっぱいになったところで、いい具合の眠気を感じながら宿に戻り、すぐに寝る事にした。
みんな、中々に充実して過ごしていたせいもあって、すぐに轟沈していた。
俺も『Grimoire de Grande mage(大いなる魔導師の魔導書)』が本物なのかを確かめてから、寝る事にした。
翌朝、昨日の夜はいつもより早く寝てしまったので、起きると日の出の少し前だった。
そのまま二度寝しようか悩んだが、折角朝早く起きたので、ここ数日やっている朝練に向かう事にした。寝ているみんなに小声で「いってきます」と声を掛けて宿を出た後、いつもなら加速魔法で門の外へ向かっていたが、今日は時間もあるので補助なしで走って向かった。
いつも通り、街の南で魔法の練習とゴーレム相手に組手をしていた時、遠くの街道を通る数台の馬車が目に入った。
(今日はやけに馬車が多いな。何か近いうちに大きいイベントでもあるのか?)
そんな事を思いながら、練習を続けていた。
しかし、その答えは街に戻ってすぐにわかった。
辺りには鉄格子かついた馬車や檻状になっている馬車が沢山居て、中には獣人が入っていた。
「チッ!そうか、もうすぐシンティラを買って半月・・・明日は、月に2回の奴隷市だったか」
この光景を見るのは2回目だが、やはり気分のいいモノではなかった。
折角の気持ちいい朝だったのに、一気に気分を悪くされた俺は舌打ちを一つして宿へ足早に帰った。
「っという事で今日1日中、俺は街の外に行きます」
「主。唐突に言われても、何の事だ?」
宿に戻って、みんなと食事をしている時に、唐突に今日の予定を言うとエレアから的確なツッコミが入って来た。
「わるい、色々抜けてたな。明日は奴隷市が開かれるのだが、正直俺はその雰囲気が好きじゃない。なので、街の外に出かけようと思う。鵺とフェンリルは悪いが一緒に来てくれ」
「わかりました!」「わかった」
「ご、ご主人様。私も一緒に行っていいですか!?」
「いいよ。シンティラも色々と思い出しちゃうかもしれないしね。一緒に行こうか。エレアはどうする?」
「もちろん、主と一緒に行く!」
「わかった。じゃあ、何か簡単な討伐が無いかギルドに行って見てから出発しようか」
今日の予定が決まったところで朝飯を終えて、早速出掛ける準備をしてギルドに向かう事にした。
「ご主人、その本なんです?」
ギルドに向かう途中、鵺がいつもは持っていない俺の持っている本に気付いて聞いて来た。
「あぁ、これか。これは昨日図書館に行った時に、色々あってな。俺が引き取る事になった魔導書だ」
「ま、魔導書だと!?」
俺の回答に逸早く反応したのはエレアだった。
「あ、主!今、魔法書では無く魔導書と言ったか!?」
「あぁ、魔法書なんて優しい物じゃないからな。魔導書であってるだろ」
俺が軽く答えると、エレアは信じられない物を見る様に目を丸くしていた。
昨日の夜寝る前に、この『Grimoire de Grande mage』が本物なのかを調べていた。
伝説では「耐刃・耐衝撃・耐魔法・耐熱・耐水の処理がされている為、その本に損傷を与える事は出来ない」とされていた。
試しに、本の端に蝋燭の火を近づけてみたが、燃えるどころか焦げてもいなかった。
次に本の1ページを破り取ろうとしたが、それもビクともしない。加速魔法を使っても変わらない程の強さだった。
この事だけで、もう十分本物だという証明になった。
詳しい内容も気になったが、疲れているという事もあって、本物であるとわかった時点で、昨日は寝る事にした。恐らく読み始めてしまえば、きっと朝まで読んでいた事だろう。
「そ、それはそんなに強力な魔法が書かれているのか?」
「あぁ。だけど、詳しい内容はまだ見ていないからな。何かいい討伐依頼が無かったら、森でゆっくり読もうかと思ってな」
「そ、そうなのか。そ、それはわたしにも使えるのか?」
「う~ん・・・無理じゃない?」
「そ・・そうなのか・・・」
エレアには使えない事を話すと、目に見えて落ち込んでしまった。
俺も適当に言った訳ではなく、ちゃんとそれには理由があった。
『Grimoire de Grande mage(大いなる魔導師の魔導書)』は、魔術書『モーセの剣』とソロモンの小さな鍵(レメゲトン)の『Theurgia Goetia』と『Grimoire of Armadel』を参考に作られた魔導書と言われている。
しかし、あくまで3冊のグリモワールを1冊にまとめた物だ。つまり、基本知識については触れていない。
この本を使う為には、それらの知識を持った上で使用しないと術は成功しない。
実際のところ、俺自身もちゃんと使えるかはわからない所だ。
「まあ、みんなにも使えそうな魔法があったら教えるから」
「わかった。主・・・約束だからな?」
エレアは何故か若干上目使いのジト目で見て来た。
「あぁ。約束だ」
少し、そんなエレアも可愛いと思ってしまい。若干笑いながら約束して、軽く頭を撫でてやった。
「あ!ミツルさん」
「こんにちは、ミリさん」
ギルドの掲示板の所へ向かうと、ミリがこちらに気付いて声を掛けて来た。
「ちょうどよかった。実は昨日、ミツルさん宛てに手紙が届いたんですよ」
「て、手紙ですか・・・」
ここで受け取る手紙は3回目だったが、正直あまりいいイメージが無かった。
「今度はどなたからでしょうか?」
「実は差出元が書いていないんですよ」
「は?」
「ミツル様宛てとしか書かれて居ませんでして・・・」
「どこから来たとかもわからないんですか?」
「確か、この街から4日程北に行ったところにある、エドの村から来たとか言ってましたね」
「ご主人!それって!」
「あぁ、間違いないだろう」
差出元が書かれていないので警戒してしまったが、エド村からの手紙と言えば心当たりは一つしかなかった。
警戒する事は無いとわかると、ため息をついて手紙を受け取った。
「まったく・・・。ゲンチアナの婆さんがそんな事をするとは思えないから、きっとコロハだろう」
封筒の口を切り、中の手紙に目を落とした。
その瞬間、自分の目を疑ってしまった。
そこに書かれた文章の内容は・・・
ゲンチアナの婆さんが倒れた事だった。