5・2週間の成長
俺は庭先で一人、魔法の練習をしていた。
「コンゲラート!(氷結!)」
パキパキパキっという音と共に、手を向けた先の地面が3m範囲で凍った。
(よし!完全では無いけど、ほぼ無詠唱だ!)
俺がこの世界に来て2週間が経ち、結構魔法は使えるようになっていた。
婆さんの指導のお蔭か、
攻撃魔法のレベル的には7段階あるレベルの内、
火属性は3・水属性は3・風属性は2まで
使えるようになった。
婆さん曰く「3属性の内1つを3段階以上使える様になると『魔法使い』と名乗ってもいい」そうだ。
使える魔法は
火属性では
照炎(フランマ)掌に炎を出す・爆炎(フランミス)瞬時に炎を一定範囲に発生させる・炎射矢(フランマ・アロウ)炎の矢を目標に放つ。
水属性では
流水(フルエンタ)魔力に応じた量の水を出す・氷結(コンゲラート)物を凍らせる・雨天(プルリアレ)雨を3時間~5時間降らせる。
風属性では
風発(ベントゥス)扇風機程度の風を起こす・疾風刃(ガレ・ラミナ)風の刃を飛ばす。
今の所、攻撃系はこんな感じである。
治癒魔法は手当(アッロワンセ)切り傷や擦り傷を治す魔法
のみである。
そして婆さんから借りた魔法書を見てわかったが、魔法の詠唱はラテン語だった。
最初はイタリア語かドイツ語だと思っていたが、詠唱をよく聞いているとラテン語だという事はすぐにわかった。
「よし、大分使える様になったから新しいの覚えるかな・・・って言ってもこれ以上の火と風魔法は、流石に庭先でやるのは拙いな…水系の氷魔法しかないか。」
婆さんから借りた魔法書の中には入門編から上級者向けの魔法まで載っていた。
上級になるにつれて明らかに広範囲魔法になってくるのだ。
2日前に雨天(プルリアレ)をやった時はそこまで広範囲魔法だとは思わず、洗濯物を濡らしてしまってコロハに怒られてしまった。
(流石に焔旋風(フランマ・トゥーボ)とか名前的に拙過ぎだろ。トゥーボって確かほぼ竜巻規模だったよな・・・やっぱり氷槍(ファメア・グラキエ)とかだろ。)
「ミツルさ~ん!居ますか~?」
新しい魔法を覚えようかと考えていると、コロハが呼ぶ声が聞こえてきた。
「こっちにいるよ~」
「ああ、こっちに居ましたか。実はこれから村に行こうと思うのですが…」
「コロハ!危ない!」
「ふぇ?!・・・あうっ!」
こちらに話し掛けながら近づいて来たコロハの言葉を遮って言ったが・・・
遅かった。
先ほど凍らせた地面をコロハはお約束の如く踏み、感動さえ覚える程の見事なこけっぷりを披露してくれた。
「ふぇぇぇー。いたたたー。」
見事に背中を打ったようで、涙目になりながら起き上った。
「悪かったな。そこさっき魔法の練習で凍ってたんだ。」
「そういう事は言ってくださいよ~」
「いや・・・言おうと思ったんだけど、遅かったな。『手当(アッロワンセ)』」
「はうぅぅぅー」
感動を与えてくれたコロハに笑顔で言いながら、背中を打っていたので念のため手当(アッロワンセ)を掛けてやりながら背中を擦ってやる。
「ところで、なんか言いかけてなかったか?」
「う~。そうでした・・・これから村に買い物に行こうと思うので、良ければ一緒に如何でしょうかと思いまして・・・」
「村か・・・」
俺はこちらの世界に来てから一度も村に行った事が無かった。
コロハとゲンチアナが暮らすこの家は、村から離れたところに立っている。離れていると言っても徒歩で10分位の所だが、この世界の知識が無い事と特別赴く用事も無かったので自分からは行こうとしなかった。
だがあの女を探す為にも、いつまでもここに居る訳にもいかなかった。
それに、お金に関してはまだ聞いてなかったので、ついでに教えてもらおう。
「行ってみようかな?・・・
それに、買い物って言ってたよな?ついでに、この世界のお金についても教えてくれるか?」
「わかりました!じゃあ、早速行きましょう!」
(村か・・・一体どういうところなんだろう。きっとコロハ達みたいな獣人がいるんだろうな。)
家を出るとのどかな風景が道の左右に見えた。
都心で育った俺にはこういった風景の故郷は無いが、不思議と懐かしさを感じながらコロハと村へ歩いていた。
「のどかでいいところだな…」
「ええ、自然に恵まれたいいところです。そういえばミツルさんの住んでいたところは、どういったところだったんですか?」
「見渡す限り建物が建っている、自然がないところだったな。」
「じゃあ結構栄えている所で、賑わっていたんですね。」
何となしに話を進めながら歩いていくと、コロハたちの家とは別方向の森の方へ歩く4人集団が目に入った。
「コロハ…あいつらどこへ向かうんだ?」
「え?あぁ、あの人たちは時の遺跡に行くんだと思います。」
「時の遺跡?」
「えぇ、大昔に作られたモノらしいです。村の言い伝えだと、その遺跡には神様を呼び出す方法が隠されていると言われてます。」
「ふーん。でも、そんな気軽に行けるところにそんなモノがあっていいのかね・・・」
「それが、奥にある石碑の文字はわかっても呼び出せないそうなんです。言い伝えでは選ばれた者以外は何も起こらないそうです。」
「なるほどね・・・」
「あ!でも、ミツルさんだったらイケるんじゃないですか?!」
(・・・どっから、その可能性が出てくるんだ・・・)
「なんでまた・・・」
「だってミツルさん、攻撃魔法の3種類共!しかも、無詠唱で使えるんですよ!きっと素質があるんですよ!」
「素質ね~・・・」
言葉では言わないが、正直コロハに褒められて嬉しかった。
しかし、自分の思っている無詠唱は名も告げずに行う事だったので、そう呟いて頬を掻いて苦笑いしていた。
「そういえば、婆さんって魔法使いなのか?」
ふっと思い、掛けたその問いにコロハが固まった。
「えっと・・・なんていうか・・・その・・・」
(おや?何か拙い事聞いたか?)
「え~っと、まぁ、ミツルさんなら大丈夫だと思いますが、他の人に言っちゃダメですよ?」
「わかった・・・」
「お婆ちゃんは・・・魔術師なんですよ。」
「・・・ん?魔法使いと魔術師って違うのか?」
「あ~、え~っと・・・魔術師っていうのは特殊魔法が使える人の事を言うんです」
(え~っと、確か特殊魔法って召喚とかレアな魔法だったよな?)
「婆さんは何か召喚したり出来るのか?」
「はい。私も一回しか見た事無いんですけど、何匹か魔獣を召喚出来るみたいです。」
「へ~、婆さんすごいんだな・・・でもなんでそれを言っちゃいけないんだ?」
「そんな事が知れたら、こうやって平凡に暮らすなんて出来ないじゃないですか。」
コロハ苦笑いしながら言うが、確かにそんな力が有ったら権力者やらが寄って来そうだ。
この2週間で知識だけであればこの世界の事が大分わかった。
この世界は基本的に身分があり、上から王族・貴族・騎士・役人・平民・奴隷と分けられている。貴族の中にも爵位があるらしいが興味がなかった為忘れた。
そんな世界で実力があり、尚且つ誰の下にも付いていない奴がいたなら利用されるに決まっている。魔法を教えてもらった時にも元素(属性)の考え方が中世ヨーロッパで止まっていると感じていたが、この世界全部がそうらしい。
村に着くまでコロハと話をしていると、村の入口でいきなりコロハが前に出て両手を広げて振り返った。
「ようこそ!ここがエド村です!」
次回更新も3・4日後ぐらいになると思います。