53・そういう事の意味
今日は2話連続投稿です。
「な、なんというか・・・信じられん」
宿に戻り、みんなに俺が異世界の人間である事やこの世界に来てからの大雑把な流れを話した。
それに対して、全てを知っていた鵺以外が驚きの表情を浮かべて、エレアが信じられないと口にしていた。
「・・・しかし、一つわからない事がある」
フェンリルが少し考えた後、疑問を口にした。
「主が異世界から来た人間だと言うのはわかった。しかし、なぜ俺の存在を知っている?」
「あぁ、俺の居た世界では神話として語り継がれていたんだ」
「なるほど・・・そうなると、ますます不思議だな」
「ん?どういう事だ?」
俺がフェンリルを知っている理由を答えると、フェンリルはさらに不思議そうにしていた。
俺には最初はわからなかったが、次の言葉でハッとした。
「世界が違うのに、親父や俺の話がそちらの世界にあるのはおかしい。逆を言えば、親父や俺の話がそちらの世界にあるのに、俺がこちらの世界で存在しているのが不思議なのだ」
「そ、そう言われればそうだ・・・。だけどフェンリルと、こっちの世界に居るかわからないけど、弟が俺と同じ世界から大昔に知らない内に来ていた・・・って言うのはどうだ?」
「ふむ・・・あり得なくはない話だ。なにせ、ラグナロクの時は世界中が荒れ狂っていたからな。あとは、こちらの世界の者がそちらの世界に行って、話を広めた可能性か・・・」
「確かに、可能性は十分にありそうだな」
「まぁ今考えた所で結論など出ないのだから、それは追々ヨルにあった時に話そう。奴は、俺と同じ魔術師に封印されたから、この世界にいる事だけは確かだろう」
「な、なるほど・・・」
言われてみれば、ルーン魔法が使える時点で気付くべき事ではあった。
それに、今思えば魔法詠唱がラテン語でと言うのも不思議な話だった。
しかしフェンリルの言う様に、それは今考えても答えが出る問題でもなかった。
「すまん、主。わたしからも質問していいだろうか?」
フェンリルと話していると、エレアが手を挙げて声を掛けて来た。
「あぁ、俺に答えられる事であれば聞いてくれ」
「先ほどの話からすると、主はこの世界に来てから魔法を使える様になったという事になる」
「あぁ、その通りだ」
「という事は主が魔法を無詠唱で、しかも強力な魔法を使えるのは、人間特有と言う訳では無いのか?」
「あぁ、その通りだよ」
「や、やはりそうなのか!?」
エレアの問いに答えると、エレアは自分の問いが正しかった事に驚いていた。
「あぁ、実際にこの世界の少年に魔法を教えたからな。俺は魔法を使う上で必要なのは『正しい知識』と『魔力』と『正確なイメージ』の三つだと思っている。それさえあれば魔法は発動する」
「正しい知識とはどういう事だ?」
「世界にはいろいろな『理』が存在する。
何故、火は燃えるのか。何故、水は氷るのか。何故、風は吹くのか。
そういった『理』をまとめて科学という。その科学をしっかりと理解する事が『正しい知識』を持つという事だ」
「つまり・・・どんな魔法を使うのかを想像してその原理を理解し、魔力の操作を意識的に行えば、わたしでも主のように無詠唱で強力な魔法が使えるという事か?」
「あぁ、その通りだ」
エレアの問い掛けを再度肯定するとエレアは目を丸くして驚き、そして勢いよく土下座をする様な姿勢になって頭を下げて来た。
「あ、主!無礼で身の程を弁えていない事だとは、わかっている!だがもしも、もしも許して貰えるのであれば!わたしに、その『理』と言うのを教えて貰えないだろうか!?」
「エレア、頭を上げてくれ」
「主!わ、わたしは今まで、自分は強者だと驕っていた!だが主に負けて、わたしなどまだ弱者なのだと思い知った!今のままでは、主に仕えるに相応しい力は、わたしには無いのだ!主!どうか、わたしを鍛えて貰う事は出来ないだろうか!?」
「エレア、落ち着いて頭を上げてくれ・・・」
俺が再度、頭を上げる様に言うと、エレアは涙を流しながら真剣な目をしていた。
「別に、教えないとは言っていない」
「で、では!」
「あぁ、エレアは俺の奴隷なんだろ?なら、俺がエレアを強くするのは当然───おわっ!」
俺がエレアを強くするのは当然の事だと言い切る前に、エレアは俺に抱き着いて来た。
そして、涙を流しながら耳元で「ありがとう。ありがとう、主」と囁いていた。
「さて・・・シンティラは何か、俺に聞きたい事はあるか?」
「え?」
俺は抱き着いて来たエレアの頭を撫でながら、それを笑顔で見ていたシンティラに問い掛けた。
「え・・・え~っと」
「なんだ?言ってみてくれ」
「では・・・お聞きしたい事とお願いがあります!」
「いいよ。言ってみてくれ」
「ご、ご主人様は元の世界に帰られるのですか!?」
その質問に、シンティラを見ていたフェンリルはこちらに目を向け、抱き着いているエレアも顔を上げて少し離れて俺の顔を悲しそうな顔をして見て来た。
「正直、まだわからない・・・」
「ま、まだと言うのは・・・」
「まだ、帰れる方法があるかもわからない。ただ、その方法を探す旅には出る予定だ」
「そ、そうですか・・・では、お願いを言ってもいいですか?」
「なんだ?」
「私を・・・私をどこまでも連れって行って下さい!」
「わ、わたしもお願いします!」
シンティラが、俺が旅に出ると言うと、その旅に連れて行って欲しいと言ってきた。
そして、エレアも真剣な顔をして連れて行って欲しいと続けて来た。
「あ~・・・実は最初からそのつもりだったんだが、言うタイミングが無くてな・・・すまん。これに関しては俺から頼むよ。みんな、俺の旅に付いて来てくれるか?」
「「もちろんです!!」」
本当は俺から頼む予定だったので、バツが悪そうに頼むとエレアとシンティラが声を合わせて、答えてくれた。
「クククッ・・・俺はどの道、主と共にあるのだ。それに主と居ると退屈はしなさそうだ」
フェンリルは最初から付いて行く気満々だった様だった。
「みんな、よかったです!まぁ、僕はご主人が元の世界に戻る時も連れってくれるって約束しましたけどね」
「「え!?」」
このまま、この話は終わるのかと思えば、鵺がいつも通り余計な事を言って来た。
「鵺さんだけズルいです!ご主人様!私もお願いします!」
「わ、わたしもお願いする!」
「クククッ、異世界か・・・なかなか面白そうだ」
(まだ帰れるとも帰るとも決まった訳じゃないんだが・・・)
そんな事を思いながらも了承して、今後の大雑把な話をして行き、ひと段落着いたところで、遅くなった昼飯を食べに出かける事にした。
「そう言えば、部屋を借りなきゃな」
飯を食べている最中にふと、エレアの受け入れについて思い出したので言ってみた。
「主、わたしは床で寝ればいいから借りなくても大丈夫だ。シンティラだってそうしているのだろ?」
「え!?え、え~っと・・・」
部屋にはベッドが一つしかないので、エレアは俺がシンティラを床で寝させてると思って、シンティラに声を掛けた。
すると、シンティラは頬を染めて恥ずかしそうに、答えに困っていた。
「いや。シンティラもベッドで寝ているからエレアもベッドで寝てくれ」
「そうなのか!奴隷のわたしに、気を使わせてしまってすまない」
「いや、いいよ。じゃあ、帰ったら部屋を頼もう」
「よろしく頼む。シンティラ、よろしくな」
「え?え~っと・・・その~」
どうやらエレアはシンティラには別の部屋が与えられていると思い、シンティラに頼むと言っていたが、シンティラはさらに頬を染めて、答え辛そうにしていた。
「実は、今はシンティラの希望もあって一緒に寝ているんだ」
「な、な、な、な、な・・・」
俺がシンティラと一緒に寝ている事を言うと、エレアも顔を赤くして連続して同音を口にしていた。
「なんだと!ではシンティラは主に毎晩、寵愛を受けていると言うのか!?」
「可愛がると言う点では合ってるが、その言葉だと色々と恥ずかしいから大きい声で言うな」
「す、すまん」
「別にそういう事をする為に一緒に寝ている訳じゃない」
「では、シンティラはまだ『そういう事』に至ってないのか?」
「い、いえ!・・・その・・・『そういう事』もして頂きました」
なぜか、エレアが執拗に聞いて来て、シンティラにも話を振ると、恥ずかしそうに『そういう事』について認めた。
「な、なんと!ではわたしも、心してお相手をしなくてはいけないな!」
「いや・・・必要事項でもないし、それにそれも本人の意思を無視してしようとは考えてないから・・・」
「あ、あの・・・ご主人様」
俺は別にそういう行為は嫌いじゃない、むしろ大歓迎ではあるが、相手の気持ちも考えずに強要するのは間違っていると思っている。なので、奴隷だからといってエレアやシンティラにも強要するつもりは無い事を言うと、シンティラが口を開いた。
「ご主人様は別の世界から来たのであれば、知らないかもしれませんが・・・その、異性の奴隷から・・・その、言うのは・・・」
「ん?・・・なんだ?」
何かシンティラが俺に教えてくれようとしていたが、最後につれて顔が赤くなり声が小さくなって行った。
最後の方は聞き取れない程小さくなってしまったので、聞き返すとエレアが代わりに答えてくれた。
「主。異性、特に女性の奴隷から主人にそういう行為の申し出をしてそれに答えるという事は、生涯の忠誠を誓い、それを絶対の信頼の上で承諾した事になる」
「え!?そうなのか!?」
「・・・」コクン
俺が驚くと、シンティラは顔を俯けたまま首を縦に振って肯定した。
(確かに知らなかったとは言え、そんな重大な事をシンティラは決断して迫って来た。そして俺はそれに答えたのは事実だし、男としては「やっぱり無し」は無いだろうな・・・)
「なるほどね・・・まあ、その辺の事を知らなくて悪かった」
シンティラの頭に手を乗せると、ビクッとシンティラの体が震えた。
「だが、俺がシンティラの気持ちに答えたのは紛れもない事実だ。シンティラ、改めてこれからもよろしく頼むよ」
「は・・・はい!」
再度、行為の意味を理解して言葉を掛けてやると、シンティラは驚いたような顔を上げて、すぐに満面の笑みで返事をして来た。
「そ、それでだな・・・主」
「ん?」
シンティラの頭を撫でていると、エレアが頬を染めながら声を掛けて来た。
「わ、わたしも、その・・・」
今の話の流れからすれば、エレアの言いたい事はわかった。
しかし、エレアが奴隷になってまだ1日も経っていないという事もあるので、そういう色々な意味が含まれているのであれば、容易に受け入れるのは責任感が足りない様な気がしていた。
「エレア。言いたい事はわかったが、何も急ぐ必要はない。シンティラだってすぐにそうなった訳じゃないんだ。しばらくして、落ち着いた時に気持ちが変わらなければ、その時に返答しよう」
「あ、あぁ。よろしく頼む」
とりあえず食事中に話す話ではなかったが、一先ずは保留となった。
「う~ん・・・結局、部屋をどうするかが決まってないがそれぞれの希望を聞いてもいいか?」
当初の議題であった『部屋をどうするか』の話に戻し、俺では結論が出せそうもなかったので、それぞれ希望を聞いてみる事にした。
「私は、ご主人様とがいいです!」
「わ、わたしも主と同じ部屋でお願いしたい!」
二人とも即答で同室希望だった。そうなると、しばらくはシンティラを抱けなくなるが、それも仕方ないだろう。
「わかった・・・じゃあ、宿に戻ったら部屋の移動をイザックさんに頼もう」
話をしていたせいで大分長い昼食になってしまったが、部屋割りについては決まったので、宿に戻って荷物を3者部屋に移して、4日分の全員の宿代で銀貨32枚を一緒に支払っといた。