4・魔法について
昼飯を食べている最中に、コロハが居ない事に気づいた。
「そういえば、あの犬っコロはどうした?」
「犬ッコロと言うなら、儂もかの?」
「・・・コロハはどうした?」
「今は、村の診療に行っておるよ」
どうやら、婆さんもコロハも薬師として、村の支えとなっているらしい。
話を聞く限りコロハは、婆さんには及ばないが薬師としての腕前は相当熟練しているらしい。
(しかし、治療魔法があるなら、薬師が必要なのだろうか?)
「お主、治療魔法は皆使えると思っておるのかね?」
「…なぜ、俺の感想がわかる。」
「そもそも、治療魔法自体は使える者が少ないんじゃよ。」
なるほど、治療魔法自体が一般的でないなら、一般療法がある事に頷ける。
元の世界でいうなら、咳や喉の炎症にはカリンが効く。体温を上げるなら生姜湯がいい事はテレビでもやっていた。
「なるほど・・・その辺も飯の後に聞いていいか?」
「もちろん、話すつもりじゃ」
俺たちは飯を食べ終え、座学に入った。
「まずは、この世界には大きく分けて3つの魔法がある。
攻撃魔法。治療魔法。特殊魔法じゃ。
その中で魔法陣を使った筆記魔法と詠唱魔法・無詠唱とある。」
「特殊魔法っていうのはなんだ?」
「ふむ、召喚魔法や希少魔法がその部類になるじゃろ。
スケアサティは使える者が極端に少ない。
それと、個人の能力で使える魔法は違う。
攻撃魔法でも火・風・水があるが、人によって使えない種類がある。
治療魔法や特殊魔法もそうじゃ。
治療魔法は他人や自分の体に魔力の流して操作し、体の治癒や破損部分の再生をする。
そして、特殊魔法は想像すら難しい現象を引き起こす。」
(なるほど…つまり向きや不向きがあるのか)
「しかし、人間はそのすべてを使えたと言われておる。
魔法で一番重要なのは顕現させるイメージじゃ。
人間はそれに長けておったらしい。聞くところによると一人で国を一つ、消してしまった事もあるという。」
イメージ・・・自分には得意な事だが、この世界の住人には難しいのだろうか?
そう考えると、自分はこの世界に向いていると思えてきた。
「なるほど・・・っと言うことは、イメージが出来れば全ての魔法は出来るという事か?」
「いいや、全てでは無い。魔法の種類によっては魔法陣が必要になる。魔法陣は威力の高い魔法、高等魔法に使われる。
イメージで何とかなるのは限度があるじゃろう。伝説では人間の中にすべて無詠唱で使えたという話もあるが、とても考えられん。」
(なるほど…想像し難いものは、魔法陣が必要なのか。)
つまり想像しにくい物だけであって、想像出来れば何とかなる場合もあるって事のようだ。
しかし、ここで気になる事がある。
「例えば、俺の世界では魔法は一般的には存在せず、殆んどが科学の中で生活していたんだが・・・」
「カグク?魔法が一切無い?」
「・・・ん?どういう事だ?さっき『この世界の人間でない俺に使えるかわからないが・・・』って言っていたが、異世界から来た人間や科学を知らないのか?」
「カガクと言うものは知らないが、異世界から来た人間は知っておる。儂の婆さんがそうじゃった・・・。しかし、元の世界にも魔法があったそうだが、婆さんは一切使えなかったそうでな。それで薬師を始めたと聞いておる。」
(なるほど、つまり婆さんのそのまた婆さんは元々、科学の無い世界から来たのか・・・)
「ところで魔法が無いというのは興味深いのう。煮炊きとかの火はどうするんじゃ?」
「ああ、前の世界の火はガス・・・可燃性の気体や液体に火をつけて使っていた」
「可燃性の気体・・・そんなものが存在するんじゃな。
・・・ますます興味深いのう。可燃性という事は種火があるじゃろう。それはどうするんじゃ?」
「種火?いや石を削ったり、電気を起こして火花を散らして引火させるんだよ。」
「石を削るのは火石を使うんじゃね?しかしデンキとはなんじゃ?」
「婆さん・・・。なんでもかんでも聞かずに、自分で想像するって事をしたらどうだ?」
「そんな物を想像できないから聞いておる。」
半ば面倒臭そうに言うと、婆さんから気になる言葉が出てきた。
(ん?ちょっと待て、全てが全て想像出来ないなんて事はあり得ない筈だ。)
つまり、話を聞くとこういう事である。
婆さんは頭の回る方ではあるが、この世界の住人は想像という事が苦手のようである。自分の感覚で感じたり、経験したものからしか、想定が出来ないらしい。
「・・・電気というのは、ごく小規模の雷のような物だ。
そういった物を起こす道具が俺の世界にはある。
この世界に科学が無いのなら作る事は難しいだろう」
「なるほどのー。カガクと言うのは物質か何かかい?」
「いや、科学と言うのはモノの理を応用した学問だ。
例えば・・・雨は何故降るのか、雨を降らせる雲はどうやってできるか。
そういった物の仕組みを研究する。」
「雨が降るのは精霊が降らせるんじゃろ?」
「あ~・・・、この世界ではそうかもしれないが、俺の世界では水蒸気が冷やされて雲が出来て、その量が限界を超えると水が降ってくるんだよ。」
「スイジョウキ?なんじゃスイジョウキと言うのは。」
なるほど、科学が無い世界というのはこういう事か。
なにか不思議な事などが起こると全て精霊や神がやった事だと結論付けてしまう。
よって理を理解しようとしないし、想像も出来なくなってしまうのだ。
それからコロハが帰って来るまで、科学の話をしながらこの世界の大雑把な状況を教わった。
10話位までは3・4日ぐらいで更新していきます。