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47・依頼、色々完了

ペチペチ

「ギコさん!」

ペチペチ

「ギコさん!」


俺たちは森の中を探すと、30m程飛ばされたところに気持ち良さそうに伸びているギコを見つけた。


「う!っつ!・・・おう、ミツルか。イテテテテ・・・」


ギコの頬を何度も叩いて起こすと、肩に痛みを訴えて起きた。


「あの怪物はどうした」

「え~っと、なんて言えばいいんでしょうかね・・・」

「怪物とは、俺の事か?」


ギコの問いに(なん)て説明しょうか考えていると、フェンリルが声を掛けて来た。


「あ゛?ちがう!もっと巨大な奴だよ!・・・ってかそのデカい犬はなんだよ!なんで、犬が喋ってんだ!?」

「え~っと・・・まず一つづつ答えると、こいつがその怪物です」

「・・・はぁ?」

「そして、俺が主人になりました」

「は?ちょっと待て!」

「そして、言葉を喋っている理由は俺にもよくわかりません」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!頭が付いて来ない!まず、そいつがあの怪物だって言うのか?」

「えぇ、名前はフェンリルと言うんです」

「よろしくな、ギコ」

「・・・・・・」


確かに気絶していたギコは一連の出来事は知る由もないし、説明したとしても納得できるものではないのだろう。


「仕方ないな・・・」

ベキベキベキベキ!

「え?・・・な!?」


「仕方ない」と呟いたフェンリルはその体を、周りの草木をへし折りながら本来の巨体に戻した。


「これで、信じる気になったか?ギコ」

「あ・・・」


目の前で超大型の犬から、先ほど恐怖を抱くほどの超巨大な怪物に変貌した。

その事にギコは只々、口と目を大きく開けて言葉を発せずに驚いていた。


「まあ、こんな巨大だといろいろと不便なので、小さくなって貰ってます」


俺がそう言うとまた、フェンリルは元の超大型犬程の大きさに戻った。


「はぁ~・・・もうお前の事で多少の事では驚かないと思って居たが・・・一気にそれを振り切ったぜ」


ギコは考えても無駄とばかりに盛大なため息をついた後、愚痴をこぼしていた。


「それはそうと、ギコ。先ほどは済まなかった」

「あ?いいって!・・・俺も何も考えずに攻撃しちまったからな」


フェンリルが先ほどギコを吹っ飛ばしたこと謝ると、不要とばかりに手を振りながら答えていた。


「まあ、改めて!知ってるだろうが、俺はギコって言うんだ!」

「あぁ、俺はフェンリルだ。ミツルの召喚獣になったからよろしくな」

「え!?」


フェンリルが召喚獣なったと言って驚いたのは、ギコでは無く俺だった。


「召喚獣って、フェンリルが!?」

(ぬし)よ。(ぬし)の肩と俺の肩に印が入っただろう。召喚獣以外何があるんだ?」

「あ・・・いや、召喚魔法は勉強中だったから知らなかった」

「まあ、契約が初めてなら仕方ないモノなのかもな」


召喚魔法はまだゲンチアナの本を読み始めたばかりで、詳しいやり方は知らなかったのだ。


「まあ、追々覚えていけば問題ないだろう。恐らくはヨルの奴もまだ封印されているか、どこかでほっつき歩いてるだろう」

「え!?弟も封印されてるの!?」


まあ考えてみれば、可能性としては無くはない話ではあった。伝説の犬・フェンリルが封印されているのだから、伝説の大蛇・ヨルムンガンドも存在するのだ。


「あぁ、まあその時は俺が話を通すけどな」

「あ、あぁ・・・よろしく」


兄であるフェンリルを味方に付けているのだから心強い事この上ないが、その2匹を従える俺がその後、平穏に暮らせるかが不安でしょうがなかった。



俺たちは一度洞窟に戻り、入口はまた柵で塞いだ。

こうすれば魔物が来ても襲われえる心配が無いので、全員で眠れる。


ギコの肩に手当魔法(アッロワンセ)を掛けて治療をした後、ドームの中で寝る事にした。

その時フェンリルが寄りかかっていいと言うので、言葉に甘えると何とも言い難い柔らかさの毛並みに包まれた。

これは結構くせになるかも知れない。





翌朝。

俺たちは洞窟を出て街への帰路に着いた。


朝起きた時に、シンティラがフェンリルに怯えるのでは無いかと思ったが、意外とそんな事は無く、移動中もフェンリルの背中に乗って楽しそうにしていた。


街道沿いに止めた馬車と馬も、無事その場所にあった。


そして荷台にゴブリンの巣で救った女性とシンティラ・フェンリル・鵺、御者台に俺とギコが座り、長閑(のどか)な風景を横目に街までのんびり帰って行った。


救った女性だが一応意識はあるモノの、目が虚ろになっていて声を掛けても返事が無かった。まあ2週間も凌辱(りょうじょく)し続けられれば、無理もない事だった。





「あ!ギコさん!ミツルさんも!お帰りなさい!」


街に入って一度ギコが暮らして居るアパートに女性を寝かせた後、ギルドに向かった。中に入るとミリがこちらに気付き、大きな声であいさつをして来た。


「おう!終わったぜ!」


そう言ってギコはギルド証と何かをミリの居るカウンターに置いた。


「ん?ギコさん、それなんです?」


ギコがカウンターの上に置いたのは小振りの剣の様な石だった。


「あ?あぁ、そうか。お前は倒れてたから説明していなかったな。これはゴブリンのリーダーだけが持ってる剣だ。この剣を持って帰って来た事が、巣を掃討した証拠になるんだ」

「へぇ~」

「お前もギルド証をだしな。今回の成績が記録されるから」

「あ、はい。わかりました」


そう言ってギルド証をミリに渡し、しばらくすると返って来た。見た目的には何も変化が無いが、きっと何か内部に記憶されているモノなのだろう。


「そうだ。あと、ミリ。この間『南の街道に出る大型犬の討伐』ってあっただろ」

「えぇ、ありましたね」

「あれ、ミツルが単独で成功させちまったから、その報酬も頼む」

「はぁ?」


ギコの申し出にミリが眼を点にして固まった。


「え!?あの討伐は昨日も被害者が出て、(ミドル)Ⅰのチーム依頼で報酬が金貨14枚になったんですが、お一人で成功したんですか!?」

「フェンリル・・・昨日、ギコ以外にも吹っ飛ばしたの?」

「あぁ、無視していたら魔法やら弓やらで攻撃して来たから、尻尾でまとめて飛ばしてやった。面白いように飛んで行ったぞ!フッフッフッフッ!」


フェンリルに聞くとどうやら本当らしい。しかもあの巨体の尻尾で吹っ飛ばされたら、間違いなく無事ではないだろう。


「あぁ、だが討伐証拠を渡せないんだがどうすればいい?」

「討伐した討伐部位が無いんですか?」

「いや、そうじゃないんだ・・・なんて言えばいいのかなぁ~。俺もこんな事初めてだから、説明出来ねぇんだよな・・・」


ギコがある程度話を進めてくれていたようだが、途中から説明に困ってしまっている様だった。

なので一度フェンリルに右肩の召喚印に入って貰い、俺が引き継ぐ事にした。


「ギコさん、ありがとうございます。あとは俺が説明しますよ」

「お、おう。悪いな」

「いえ、こちらこそミリさんに話して頂いてありがとうございます。・・・さて、実は今回の『南の街道に出る大型犬』ですが、率直に言うと討伐では無く召喚獣にしたんです」

「え!?召喚獣にした!?」


魔物を召喚獣にしたと言うと、ミリは座っている椅子を倒して立ち上がり、ギルドのホール中に声を響かせた。

そのせいで、ざわざわと声と共に視線がこちらに集中し始めた。


「お、おい!ミリ!声がでかい!」

「そりゃ!声も大きくなりますよ!だって魔物を──モゴッ!」


ギコが声が大きいと注意したにも関わらず、声の音量を下げずに再度口に出そうとしていたので、思わず口を手で塞いでしまった。


「ちょっと、ミリさん?裏でお話してもいいですか?」


俺が笑顔のまま少し手に力を入れて提案すると、ミリは細かく首を縦に振って了承してくれた。

手を放した後、ギルドの登録試験で来たギルド裏の広場まで通された。


「ミリさん・・・声が大きいですって!俺はまだのんびりしたいんですから、あまり大っぴらにしたくないんです」

「す、すみません・・・それにしても本当なんですか?召喚獣にしたって」

「それは儂も興味があるの~」

「「「「!!!!」」」」


いきなりの声に全員でそちらに向けると、ギルド長のブルホンがいた。


「ギ、ギルド長!?なぜ、ここに!?」

「なに、ホールに居たら面白い単語が耳に入っての、声のする方を見ればお前さん方が眼に入ったんでな。気になって付いて来たんじゃ・・・。ところで良ければ早速、ミツルの召喚獣を見せてはくれんかの?」

「え?えぇ、いいですが・・・念の為、建物側に来て下さい」


そう言って全員を建物の傍に移動させたあと、俺は広場に向かって立った。


「フェンリル!出ておいで!」


フェンリルを呼ぶと、右肩の印から黒いモノが前方に伸びて来た。そのモノは急速に大きくなり、高さ20m程の巨大な犬となって姿を現した。

今回この大きさなのは、これ以上大きいと広場に入りきらないからである。


「はわわっわわわわ!」

「ほ~・・・こいつは・・・デカいの~・・・」


フェンリルの姿にミリはよくわからない声を上げて怯え、ブルホンは冷や汗を流しながら驚いていた。


「まあ本来はもっと大きいんですが、敷地から出てしまうので今回はこのぐらいです。普段はもっと小さくして、一緒に行動する予定です・・・。フェンリル!小さくなってくれるか!?」

「わかった」


そう言うとフェンリルは行動しやすい超大型犬程の大きさになった。


「ギ、ギルド長。この犬に掛かっていた討伐依頼なんですが・・・ど、どうすればいいですか?」

「うむ~・・・そうじゃな~、まあ間違いなく犬自体も確認できたし、討伐報酬を出して問題なかろう」

「わかりました。ではギコさん、ミツルさん。今回の報酬、合わせて金貨20枚をお支払しますので、受付カウンターまでお願いします」


話がまとまったところで報酬金を受け取る為に、ミリと一緒にギルド手続きのカウンターに向かった。


「あ!ミリ!丁度良かった!あんた、ミツルさんって魔法使いと仲良かったよね!?」


受付カウンターに行くと、隣の依頼受付担当の女の子が声を掛けて来た。


「俺が魔法使いのミツルですが、何か?」

「あ!まさにタイミングが良かった!実はあなた宛てに手紙が来たのよ!」

「手紙?」


手紙と聞いた瞬間コロハかゲンチアナ、もしくはカーム達が思い浮かんだ。むしろ、俺宛の手紙なんてその人たちくらいしか思い浮かばなかった。しかし、その手紙は全く違う所から送られて来た。


「お、おい!これ、魔法ギルドの封筒じゃねぇか!」


手紙の封筒を見た瞬間、ギコが驚きの声で教えてくれた。


「魔法ギルド?なんで俺宛に・・・あ!」


裏の差出人を見た瞬間、封筒の中身を見ないで捨てたくなった。

間違いなく、面倒事だとわかってしまったのだ。



宛て 魔法使い兼魔剣使い ミツル殿

        差出 魔法使い エレア・ノーラン

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