44・お出掛け、その3
「はい!いいよー!」
「い、いきます!・・・」
ズッゴゥン・・・
翌日、俺らは朝から特訓の為に、イザックに頼んで作って貰ったサンドイッチの入ったバスケットを持って、昨日の平原に来ていた。
ここに1本だけあった的にしていた木も、今は地面ごと抉られて姿を消していた。
的にする物も近くになかったので、今は俺に向けて撃たせている。
何度か練習する内にルーン魔法だけでなく、自分自身も体内に電気を発生させていればダメージが無い事がわかった。
恐らく、雷獣族同士では電気が効かないのと同じ仕組みなのだろう。
何度か俺に向けて撃たせているが・・・
「うーん、まだ強いな・・・それに当たらない」
「す・・・すみません。はぁはぁはぁ・・・」
昼飯を食べ終えた後も練習を続け、電撃を目標に飛ばすと言う操作段階までは進むことが出来たが、10回中6回は外している。
そして、放たれる電撃も軽く敵を殺せるレベルだった。
「まぁここまで出来たんだから、焦らなくていいよ。少し休憩しよう」
「は、はい・・・」
まだ季節的には夏前あたりだが、十分日差しは強くて暑かった。
休憩は日射病対策も込めて、『土魔法』でドームを作って日陰を作り、天井部分にイズのルーンを施してあるので、中は涼しくて非常に快適空間となっていた。
「まあ、ここまで出来れば上出来だよ。明日は問題なくシンティラも依頼に連れて行けそうだしね。はい、水」
「あ、ありがとうございます・・・コクコクコク・・・プハ!」
ドームの中に入ると仰向けになって倒れたシンティラへ、『流水』でコップに注いだ水に塩とはちみつを少量混ぜたモノを渡すと起き上ってお礼を言い、喉を鳴らしながら渇きを潤した。
「う~ん・・・シンティラもキツそうだし、今日はこの辺でやめとくか」
「い、いえ!まだ!・・・まだ出来ます!」
切り上げようと言うと、シンティラが慌てて妙にやる気になっている様で継続を訴えて来たが・・・
ベシッ!
「はう!」
デコピンをお見舞いしてやった。
「やる気なのはいい事だが、自分の体調も考えろ。休憩になった瞬間、倒れたのはどこのどいつだ?」
「うぅぅ~・・・」
「別に焦る必要はないんだ。ゆっくりでいいから頑張って行こう。無理して倒れたら俺も困るしな」
「はい、わかりました・・・すみません」
「まあ、わかればそれでいい」
デコピンをしたおデコを両手で押さえながら、耳と尻尾が垂れ下がって明らかに落ち込んだ顔をして謝って来たので、頭を撫でて許してやった。
しばらく仮眠をして休んだあと、作ったドームは土に戻して街に戻った。
少し約束には早いと思ったが、とりあえず冒険者ギルドにやって来た。
約束は夕方の筈だが・・・
「お!来た来た!」
「あれ!?ギコさん!約束の時間には早くないですか?」
ギルドの中に入ると、中~上用の掲示板近くに置かれた長机と椅子の所にギコが居た。
「いや~、実は暇でよ!『早くお前らが来ねーかなー』なんて思って待ってたんだよ!」
「そうだったんで───」
「ギコさん!?暇ならもっと試験を手加減してください!」
俺の言葉を遮って声が飛んで来た。
声のする方を向くと、ギルド手続き関係の窓口に座ってるミリが睨んで来ていた。
「あ、ミリさん!こんにちは」
「こんにちは。ってそれより、ミツルさんからも言って下さいよ!」
「話からすると、また本気でやったんですか?試験・・・」
「そうです!しかも今回は始まって30秒で終わらせたんですよ!ギルド長も呆れてましたよ!」
「いいんだよ!あいつが弱かっただけなんだから!」
恐らく、ギコの試験は毎回こんな感じなのだろう。流石に俺も呆れて何も言えない。
「それはそうと!シンティラの特訓とやらはどうだった!?」
ギコが椅子から跳ねるように立ち上がると、期待に満ちた目で俺たちに聞いて来た。
「まぁ、何とか連れて行っても問題は無い・・・と言った所ですかね」
「お!マジか!?やるな、シンティラ!頑張ったんだな!」
結果を報告すると、ギコはシンティラを褒めているのだろう。少々乱暴にシンティラの頭を撫でて来た。
シンティラも小さく「はう・・・」と声が漏れていたが、褒められて嬉しいのかハニカミながら特に逃げようとせず撫でられていた。
「まあ、そういう訳で明日はよろしくお願いします」
「おう!よろしくな!じゃあ、明日の日の出に街の南門で待ち合わせな!」
「わかりました」
「じゃあ、ミリ!これ、俺とミツルで受けるからな!シンティラも明日よろしくな!」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「おう!」
待ち合わせが決まったところでギコと別れ、明日は早いという事もあって早めに宿に戻った。
「あ!ミツルさん、シンティラさん、お帰りなさい!」
宿に戻ると入口のカウンターに居たイザックが声を掛けてくれた。
「イザックさん。ただいま戻りました」
「た、ただいまです」
「イザックさん!僕もちゃんといますよ!」
「すみません、ヌエさんもお帰りなさい」
「イザックさん、帰って来て早々で慌ただしいのですが・・・もう一つ部屋を借りたいのですけどいいですか?」
「え?えぇ、いいですが・・・」
「え!?」
部屋を別に借りたいと言うと、シンティラが驚きの声を上げてこちらを見た。
「ご主人様!どうしてですか!?」
「ん?あぁ、シンティラも年頃の女の子だろ?だから、部屋を分けた方がいいと思って───」
「そんな事無いです!ご主人様と別の部屋なんていやです!なにかダメなところがあるなら、直すので言って下さい!お願いします!どうか一緒の部屋に居させてください!」
俺としては良かれと思って部屋を別にしようと思ったのだが、シンティラは涙を流しながら縋る様に服を掴んで訴えてきた。
シンティラ本人がここまで一人部屋を嫌がるとは思って居らず正直驚いたが、本人がそこまで同室を望むのであれば仕方ないと諦めるしか無さそうだった。
「シンティラ、わるかった。別にお前にダメなところがあるとか、嫌いになった訳じゃない。シンティラが同じ部屋でもいいと言うのであればそうするが、本当にいいのか?」
「はい!お願いします!」
確認するようにシンティラに尋ねると、涙を流してまでお願いされてしまった。
「すみません、イザックさん。今のところ、部屋は一つで良さそうです」
「そうですか・・・しかし、シングルでは狭くないですか?」
「えぇ、少しそう思って提案したんですが・・・こう泣き付かれてしまうと無理に押し通すのも可愛そうなんで・・・」
「はぁ~、ミツルさんは本当にシンティラさんに甘いですね」
「ハハハッ・・・否定できないですね」
「わかりました。ではツ・・・ダブルの部屋に変更しましょう」
「すみません。ありがとうございます」
一度部屋に戻り、カバンが無いので荷物などをシーツに包んで部屋を出た。
そして一つ上の4階の部屋に行き、カギを受け取って荷物を置いた。
ベッドに腰を掛けて一息着くと、とある事に気付いた。
「ん?あれ?ベッドが一つしかないぞ?」
「え?ご主人もしかして、故意じゃなかったんですか?」
「は?どういう・・・あ!」
鵺に言われてその意味を理解した。
大きいベッドが一つはダブル。ベッドが二つあるのはツインだ。
(イザックさん、故意的にこうしたな?)
「はぁ・・・イザックさんに言って変えて貰おうか」
「え!?」
さっきまで嬉しそうにしていたシンティラが部屋を変えると言った瞬間、解り易いほど残念そうに落ち込んだ。
「・・・・・・あ~、もう!わかったからそんな顔するな!もう部屋は変えない!シンティラとこれからも一緒に寝る!これでいいか!?」
「はい!」
もう諦めて自棄になると、シンティラは嬉しそうに返事をして来た。
俺の理性は何処まで持つのだろうか、非常に不安だ・・・
翌朝、街の南門でギコと合流して南の森のゴブリンの巣へ向かった。
「『ゴブリンは集団で行動して、ど』ど、ど~・・・」
「洞窟」
「あ、『洞窟などに巣を作る。数は10~300の集団が多く、しょ』しょうべつ?」
「性別はオス」
「はい、『性別はオスしか存在しない。繁殖は別しゅ・・・種族?』」
「あってるよ」
「『別種族のメスを攫って交配して繁殖する。しかし、ゴブリンはせい?』性的?」
「性的欲求が強く」
「『性的欲求が強く、交配過程で別種族のメスが命を落とす事もある。行動は夜行性の為、昼間は寝ている』」
「うん。大分文字も読めるようになったな!」
「えへへっ」
南の森のゴブリンの巣へ向かう途中の馬車の上で、時間があったのでシンティラの読む練習をしていた。
シンティラは今までいた環境のせいか、読み書きが全く出来ない訳では無いが、苦手な様だった。
なのでイザックに頼んで貸して貰った『優しい魔物図鑑』という大して種類が載っていない本を読ませていた。
早朝に街を出てから、既に昼過ぎを回っていた。
今はゴブリンの巣の近くまで馬車で行くため、南の森の街道を進んでいた。
「よし、馬車を止めて歩いて行くぞ!」
しばらくすると、ギコが馬車を止めて声を掛けて来た。
「依頼書ですと『南の街道の森に赤い布を目印として結んである』って書いてありますね」
「ああ。話だとこの辺から森の中を見れば見つかるらしいんだが・・・」
「ご主人!ありましたよ!」
俺とギコで目印を探していると、森の中から鵺の声がした。
そちらに目を向けると確かに枝に赤い布が結んであり、その奥の方にもまた布が結ばれた木が見えた。
「お!さすがだな」
「当然です!」
「うーん。言葉がわかる鳥が居ると、やっぱり便利そうだよな」
俺と鵺のやり取りを見て、ギコが羨ましそうに呟いて来た。
「まあ、その相手によるんじゃないですか?」
「っというと?」
「あいつは確かに優秀な相棒ですが・・・たまにと言うか結構、囀る様に口が軽くて余計な事を言ってくるのが、難点ですね・・・」
「なるほど、クククッ・・・」
俺が鵺の不満を呆れたように言うと、ギコはクスクスと笑い出した。
しばらく森の中を歩いていると、目の前に洞窟の入り口が見えて来た。洞窟は入口から地下に下るような坂が伸びていた。
「さて!ようやくついた訳だが、どうやって行こうか?」
「中に攫われた者が居ないのであれば、問答無用で魔法を撃てば問題ないのですが・・・」
「そうだな・・・一応ここ1週間で攫われた報告はなかったが、念の為注意はした方がいいだろ」
「じゃあ適当に切り刻んで、問題無さそうなら魔法で数を減らしていく感じですかね」
「おう!お前の本気見せてもらうぜ!」
妙にギコのやる気度が高いと思ったら、試験では本気を出さなかった俺のレベルを見るのも目的の様だった。
「それなりに頑張りますよ・・・。鵺、小太刀二刀」
「はい!」
「シンティラは魔力を少し貯めて電撃をいつでも撃てる状況にして、俺の後ろに着いて来て」
「はい!」
「お!?準備完了か?」
「えぇ」
「じゃあ、暴れますかね!」
ギコが気合を入れて洞窟の中に行くとそれに続いて俺たちも洞窟へ入って行った。