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42・エレア

冒険者ギルドを出た後、ラークの店に向かった。


ラークの店に着いたのは昼過ぎで、大分お腹が空いた頃だった。


「こんにちは~、ラークさん」

「あぁ、ミツル殿!ちょっと待っていて下さい!・・・ですからその方の事は契約上、お教え出来ないんです」


ラークに声を掛けながら店に入ると、ラークは何やら接客中だった。


「そんな事は知らん!あの(かめ)が普通の魔道具じゃない事は、貴様も道具屋協会もわかっている事だろ!それを魔法ギルドに何の報告も無く売買しおって!いいから、作者を教えろ!(かめ)3つを売った翌日には(かめ)10個も売っていたんだ!この街に作者が居るんだろ!?」


店内のイスにシンティラと二人で座っていると、怒鳴っている魔女風の恰好をした明るいブラウンの長髪と狐のように先だけが白い尻尾の女性はどうやら魔法ギルドの者で、(かめ)の製作者をラークに問い詰めている様だった。


「ですから、何度言われてもお教え出来ません!それが契約なんですから!」

「そうか!なら、力ずくで教えてもらうぞ!」


そういうと、女性は入口まで歩いて行った。そしてラークへ振り向くと20cm程の木製の棒を向けた。

その瞬間、周りの空気が熱くなった。


(この女!ここで魔法を撃つ気か!?)

Ignis(イグニス) properate(プロペラテ) in(イン) manu(マヌ) mea(メア)・・・」

「チッ!この女、何考えてやがる!」


シンティラをそのままイスに座らせて置き、急いでラークの前に行き立ち塞がる様に立った。


Alba(アルバ) penetrare(ペネトラレ) hostem(ホステム)・・・」


女性が詠唱を終えるとそこには8本の炎の矢が出現していた。


Flamma(フランマ) Arrow(アロウ)!」


女性が魔法名を発すると勢いよく向かって来たが、俺は一言も発する事も無く腕を払う様に振った。

ギルド試験の時にもした『疾風刃(ガレ・ラミナ)』の完全無詠唱だ。


ブワッ・・・!

「え!?」


放ったはずの炎の矢が何も無かったかのように消えると、何が起きたかわからないと言った様に女性は唖然としていた。


「あんた、店で何やってんだ?店主が『教えられない』って言っているんだから、諦めろよ」

「き、貴様・・・今、何をした!」

「『何をした』?そんなモノ、魔法を使ったに決まってるだろ。そんな事もわからないのか?魔法使い」


小馬鹿にしたように挑発的な事を言っているモノの、殺気は女性に向けてぶつけていた。

その状況にさっきまで強気だった女性は、冷や汗を流しながら固まっていた。


動けるはずもないのだ。自分は詠唱をしなければ攻撃が出来ない。しかし目の前に居る男は全くの無言で、杖も無しに腕を振るだけで魔法が撃てる。

どう考えても自分に勝ち目はないのだ。


「貴様・・・何者だ?」

「魔法使いだよ、ただの・・・」

「魔剣使いでもありますけどね」


ずっと殺気を放っている俺の所に、いつでも対処できるように鵺がやって来た。


「な、なるほど・・・貴様が噂の魔法使いか・・・」


どうやら冒険者ギルドの噂は魔法ギルドにも伝わっている様で、イスの陰に隠れて居るシンティラを横目に見て納得していた。


「私は、魔法ギルドの任で来たのだ。私に手を上げれば、魔法ギルドを敵に回す事になるぞ?」

「はぁ~・・・」


思わずため息が出てしまう。こういう場面でケツ持ちを出してくる奴ほど、小さい奴だと相場は決まっている。


「そうか・・・じゃあ、あんたはここに来なかった。そういう事にしよう」

「なにを言って・・・」

「つまり、あんたをここで消せば済む話だろ?」

「っ!!」


冷めた目で女性を見ながら殺害予告をすると、女性の顔は驚きと恐怖の色に染まった。


「お、覚えてろ!・・・グァ!」


捨て台詞を吐いて店から出ようとするので、無詠唱の『流水(フルエンタ)』と『氷結(コンゲラート)』で女性の足を拘束した。

本当は『氷結(コンゲラート)』だけでも良かったが、そうすると女性は二度と歩けない足になってしまうのでちょっとした優しさだった。

散々な事を言っているが、今の所殺す気は全くないのだ。


「言ってるだろ?『あんたはここに来なかった』だからここから出る事も無いんだ」

「あ、あ・・・う、あ・・・あぁ・・・」


女性は恐怖の余りか言葉も発せず、涙を流しながら目を見開いて、何とか逃げようと(もが)いていた。

その姿にやり過ぎ感を覚えて殺気を緩めた所で、ラークが声を掛けて来た。


「ミツル殿、そのくらいでいいんじゃないですか?」

「はぁ~、まあラークさんがそういうのであれば・・・そうですね」

パチン! パリン!


ラークももういいと言うので、指を鳴らして足を拘束していた氷を砕いて水も残さず消した。


「おい、あんた。次は無いから覚えて置けよ?こちらに何か被害が出た時は殺しに行くから、下手な事はしない方がいい。わかったな?」


そういうと女性は怯えながらも首を何度も縦に振って、もう行っていいと言うとダッシュで店から出て行った。




「本当にミツル殿は恐い方ですね・・・」

「は?」


怯えていたシンティラを膝の上に乗せて(なだ)めていると、ラークが呆れたように言って来た。


「あの『暴隊のエレア』をあんなに怯えさせるなんて、流石魔術師と言うべきでしょうかね。クククッ・・・」

「『ぼうたい』って言うのは?」

「彼女の二つ名ですよ。『暴隊のエレア』は水の4段階目アクアゴーレムと火の4段階目火の龍を呼び出す魔法が使えます。ゴーレムと火の龍と火の矢と氷の槍。その脅威は既に冒険者ギルドのバタリオン(大隊)レベルです。彼女は確か冒険者ギルドランクは(ハイ)Ⅳ、魔法ギルドランクは(ハイ)だったはずです。その方があそこまで怯えるとは、ククククッ・・・」


さっきまで威圧的に尋問じみた事をされていたせいか、いい気味だと言うかの様に笑っていた。


「しかし、よかったのですか?ミツル殿」

「なにがです?」

「『暴隊のエレア』といえば、有名な好戦家と聞いてます。特に男性に対しては容赦がないと・・・確実に目を付けられましたよ。ミツル殿」


好戦家とは厄介そうではあるが、その心配はあまりしていなかった。


「あそこまで脅したんですから、大丈夫だと思いますよ」

「だといいのですがね・・・。まあミツル殿であれば挑まれても大丈夫でしょう」

「だといいですね」


ラークは俺の事を無敵の何かと勘違いしているのか、笑いながら言って来た。

正直、俺はなるべく他者を傷つけたくはないので、そうならない事を祈りつつ苦笑いを返した。


「それはそうと・・・その子がこの間の子ですね?」


ラークが俺の膝の上で、頭を撫でられて嬉しそうにしているシンティラに目を向けてきた。


「えぇそうです。シンティラ、あいさつして」

「は、はい!シ、シンティラと申します!よ、よろしくお願いします!」


あいさつを促すと、シンティラは俺の膝の上から降りて、緊張の為か言葉を詰まらせながらもお辞儀してあいさつをした。

昨日の朝からの他者への怯え様からすれば、格段の進歩といえるのでいい傾向ではあった。


「よろしくお願いします、シンティラ殿。私はラークと言います。市場で見た時はどうなるかと思いましたが・・・クククッ!いいご主人に貰われてよかったですね」

「はい!」


自己紹介の後、俺をチラリと見て少し笑って俺に貰われた事をよかったとシンティラに言った。

その言葉にシンティラは満面の笑みで元気よく肯定していた。


「そういえばラークさん。昼はもう食べましたか?よければ一緒にどうかと思いまして」

「それはそれは、丁度よかった。実はこれから食べに行こうと思っていたのです。2件隣の店なんかどうです?」

「じゃあ、そこに行きましょう」



少しアクシデントはあったが、3名と1匹で店の並びにある飯処へ向かった。


店内は昼のピークを過ぎているため客は(まば)らになっていた。


「そういえば、なんであんなにあの女性は必死だったんですか?ギルドの任と言っていましたが、それだけじゃない気がするんですが・・・」

「ククククッ・・・」


注文をした後、俺がふと感じた疑問を口にするとラークがなぜか笑い始めた。


「今、なんかおかしいこと言いましたか?確かにあの(かめ)は特殊だとは思いますが、魔法ギルドなら独自で調べそうだと思うんですが・・・」

「いえいえ、なかなかいい所に気が付くと思いましてね。確かにあの甕自体は特殊で、魔法ギルドも調べているようです。っと言うより調べたからこそ、私の店に来たのです」

「どういう事ですか?」

「今回、私の店にエレア殿が来た時『甕の製作者』ではなく『甕に使った文字の使用者』を探していると言っていました」

「文字!?あれが文字だと魔法ギルドは知っているんですか!?」


甕に使ったルーンは「ハガル」と言うHとNの中間みたいな文字と「イス」と言うほぼIの形の文字だった。

パッと見はただの傷にしか見えないこれらを、この世界の魔法ギルドは文字だと知っているのだ。


つまりこの世界にはルーンが存在し、意味や法則・ルーン魔法を理解・施行出来ているかはわからないが研究をしている者がいるという事だ。

俺が一番驚いたのはルーンが存在している事そのものだった。


ルーン文字は現在のスウェーデン・ノルウェー・デンマークを中心に西ヨーロッパにいた、ゲルマン人がゲルマン諸語の表記に用いた古い文字体系であり、音素文字の一種だ。文字として確立した時期は不明であるが、確認されている最初期のルーン文字の石碑は2世紀か3世紀頃であり、一説には紀元前3世紀頃から使われていた文字だとも言われている。のちにラテン文字に取って代わられて使用されなくなったが、スウェーデン・ノルウェー・デンマーク近隣では中世後期まで用いられた。一部の地域ではルーンの知識は初期近代まで民間に残存していたそうだ。


そうなるとこの世界にはゲルマン民族の文明、または北欧神秘術が存在していた事となる。

そもそも、この世界に来てルーン魔法という魔術の一種が使えている時点で気付くべきではあった。


元来魔法とは、妖精や精霊・自然・幽霊・悪魔に魔力で働きかけて『奇跡』を起こすモノである。

詠唱で体内の魔力の流れを作り、近くに居る精霊という存在に働きかけて、施行するのが魔法である。万能に見える魔法には制約が多い。

一つは精霊と言う存在に魔力を与えて施行するので、魔力消費が多い事だ。

二つ目は、自然現象に魔力干渉して現象を起こすので、極度に自然摂理を捻じ曲げる様な事は出来ない。

三つ目は、相性があることだ。精霊に魔力を渡したり自然の中の気に干渉する上で、その気質に全く合わない場合は魔法を施行することは出来ない。


しかし魔術はそんな事はない。

世界にはルールがあり、水を冷やせば固体化し、熱せれば気体になる。火は酸素を必要とし、酸素がなくなれば消える。その世界にある科学というルールを理解し、自分の持つ魔力や魔法陣などで組み替えたり、書き換えたりして結果を起こす。それが魔術だ。

なので科学というルールは存在するが、その気と力が有れば自然摂理を捻じ曲げる事も可能になる。


ルーン魔法が『魔術の一種』とあったが、ルーン魔法は正確には『魔術』なのだ。

ルーン魔法は太古の先人たちが自然の摂理の中に、信仰と言う力を使って組み込んだモノだ。コンピューターで言えば、先人たちは自然のシステムにハッキングして、ルーン文字と言うキーワードで発動するバグを作ったのだ。

信仰の力を使い科学とは別と認識されがちなのでルーン『魔法』と言われるが、やっている事は魔術である。


つまりゲルマン民族の文明、または北欧神秘術を使う先人がこの世界にいた証拠となるのだ。しかし、この世界には科学は存在していない。

なぜそうなったのか疑問だが、ここで考えて居ても答えは見つからなそうだったので話を進める事にした。


「えぇ、実は最近なんですが南の森に石碑が見つかりまして、その石碑に書かれている文字があの(かめ)に書かれた文字と似ているそうなんです」

「なるほど、それでルーン文字を魔法ギルドが知っていた訳ですか」

「ルーン文字?」

「えぇ、あの甕や鵺の魔石に使われている文字の事です。私の世界にお伽話のように伝えられている、(いにしえ)の魔術文字です」

「なるほど・・・ミツルさんの世界に在ったモノがこちらにも在ると言うのは、非常に興味深いですね」

「そうですね。もしかしたら古い歴史書に載っている人が残したモノかもしれませんね」

「まあ、そう考えるのが一番有力そうですね・・・そうなるとその人は、何を封じ込めたんでしょうねぇ・・・お!料理が来たみたいですね・・・」


テーブルに料理が運ばれて来た時、ラークが気になる事を言った。


「封じ込めた?っと言う事は何かの封印の石碑だったんですか?」

「えぇ、しかし封印の魔力は感知出来たけど、あとの事は何もわかっていないそうですよ」

「そうなんですか、っと言うかラークさん詳しいですね」

「え?えぇ、商人ですから噂や情報には敏感なんですよ」


ラークが魔法ギルドに所属している訳でも無いのに、やけに詳しいので聞くとラークは肩を竦めて言って来た。


「へぇ、そんなもんですか」

「そうですね。例えば・・・一昨日の昼ごろに長さ5m太さ50cm程の特大な氷の槍が塀の外に放たれていたり、昨日の朝、とある魔法使いが泊まっている宿の3階から叫び声と一緒に(まばゆ)い光が発せられて居たとか・・・」

「ブフッ!ゲホゲホ・・・」


ラークが意地悪そうに笑いながら言った言葉に思わず、食べている物を吹き出しそうになってしまった。


「よ、よくご存じで・・・」

「まあ、商人ですから」


意外と俺の思っているより、ラークはとんでもない奴に思えて来た。


昼飯を食べ終えた頃、今日ラークの所に来た用件を思い出した。


「そういえば、今日ラークさんの所に来たのはシンティラの紹介と、もう一つ聞きたい事があったんです」

「はいはい、何でしょうか?」

「ラークさんの所で薬って扱えますか?」

「えぇ、薬草ならたまに扱ってますが」

「実は冒険者としてももちろん活動する予定ですが、資金を貯めて旅に出る為にも何か販売しようと思っているんです」

「なるほど、それで薬草の売買を任せて頂けるわけですか?」

「いえ薬草では無く、調合した常備薬的な物を販売出来ないかと思いまして」


この世界では治療魔法師や薬師は町村長より地位が高く、しかも数が少ない事もあって薬は高いのだ。

そんな状況では貧民はおろか、平民でさえ手が出せない。そうなれば初期の治療は遅れ、どうしようも無くなる所まで放置されてしまう。

そうならない為にも、安価ですぐに治せる常備薬を置くことは大切なのだ。


「調合済みの薬ですか・・・そうなると、なかなか価格設定などが難しいですね」

「価格はそこまで高くない様にしたいです。あまり高くては一般に売れませんから」

「そうですか。薬草の相場は大体100gで4000~7000パルです。一般的に薬師に頼むと最低でも30000パル銀貨60枚は必要になります」

「なるほど・・・出来れば10000パル以下で抑えられればと思ってます」

「え!?いやいや!それは難しいと思いますよ!薬草代を引いて、それを二人で分けたら殆んど利益がありません!」

「そこは大丈夫です。取れる薬草は私が調達しますので、足らない分をお願いします」

「まあ、そういう事であれば大丈夫でしょうが・・・」

「あと、ラークさんの所に居る・・・え~っと、ミーナさんでしたっけ?」

「はい、ミーナがどうしましたか?」

「彼女に簡単な薬の調合を教えたいのですが、大丈夫でしょうか?」

「な!」


薬の作り方を奴隷に教える事を提案すると、ラークは驚いて席を立ちあがった。

いきなり席を立ったので、隣に座っていたシンティラが驚いていたが、心配ないと頭を撫でてやった。


「ミツル殿!いいのですか!?」

「えぇ。本当はラークさんにお教えしようかと思ったのですが、なかなか忙しそうですので、彼女なら少しは時間があるのでは無いかと思ったんです。どうでしょうか?」

「是非ともお願いします!・・・し、しかし、なぜそんな事を?」

「ちょっとした偽善心ですよ。安く薬が手に入る環境があれば、命を落とす者や可能性が低くなります。そして自分が旅に出た後も、調合する者が居れば薬の販売を継続出来ると思いました」

「そうですか・・・ククククッ・・・やはりミツル殿は凄いお方だ」


ラークは楽しそうに笑いながら呟いていた。


「じゃあ、細かい話は後日しましょう」

「わかりましたが・・・ミツル殿はこの後何か予定が?」

「えぇ、シンティラはまだ力の制御が出来ていないので、今日明日はその特訓です。明後日はまだ未定ですが、一応ギコさんと依頼を受ける予定です」

「そうですか、わかりました。では後日お待ちしております。シンティラ殿も頑張って下さい」

「はい。ありがとうございます」


ラークの応援の言葉に、シンティラは少し恥ずかしそうに笑顔でお礼を言っていた。

やはり、シンティラは可愛い。

さて!一週間、毎日更新してみました!

いや~、なんていうか・・・・・・キツかった・・・

という訳で、もう少しペースを落とそうかなと思ってます。

まぁ、それも気まぐれですが・・・

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